side story3.ムセンとシューズ その③ ※ムセン視点
「………し……シューズさんが……死罪……?? 何故ですか!? 一体どういう事ですかっ!?」
私はシューズさんの実姉、ネットさんがあまりに冷たく言い放ったその言葉の意味がわからずに説明を促します。
しかし、ネットさんはそんな私の言葉が耳に届いていないかのように、まるで私の存在など無いかのようにこちらを向かずにツリーさんと『だけ』会話を交わします。
「事情は把握されておりませんか? 妹が大変ご迷惑をおかけしたようですが……もう妹の身柄の所有権は私達にあるのです。お手数をおかけしたお詫びはまた後日させて頂きますのでこの場はお引き取り願えませんか?」
「……一体どういう事ですの? わたくしが把握している内情ではセーフ・T・シューズは貴女達守護貴族から縁切りされ追放処分を受けウルベリオンに流れ着いたと聞いていますのよ?」
「……どうやら妹は何も説明してはいないようですね……大変失礼致しました。では簡易的にですが……説明させて頂きます」
あくまで物腰を低く、本当に申し訳なさそうにネットさんはツリーさんに対して応じています。
そこには皮肉めいた念など一切内包しているようには見えません、ネットさんはツリーさんに対しては本当に丁寧に、真摯に語っているようでした。
そう、ツリーさんに対してだけは。
「妹は三年前……軍の命令である任務に就きました。ちょうど新魔王軍が猛威を振るい始めた頃です、新設した魔王軍は我が国の領土であった『とある鉱山』を狙い占拠を目論んでいました。それにいち早く気付いた妹は【警備兵】と呼ばれている下等職を率いて防衛任務に当たりました」
淡々と、過去に起きたことを話し始めたネットさん。
私がウテンさんから聞いたシューズさんの過去のお話と違わぬ物語を語り始めます。
「聞き及んでいますわ、【ラティス鉱山防衛作戦】……その顛末も」
「……ええ、結果だけを言いますと【大敗戦】。その作戦で貴族でありながら警備兵などに固執した私の幼なじみは死亡。その理由はーー」
そうです、聞いた話ではシューズさんの理解者であった【マルクス】さんという方は防衛作戦の失敗により死亡してしまった。
そして、マルクスさんの所属していた警備協会は解体されシューズさんは全ての責任を負わされ縁切り、国外追放を余儀なくされたとウテンさんから聞いていました。
しかし、ネットさんが次に紡いだ言葉は私の聞いた物語と違っていました。
「ーー【警備兵】達による裏切り。防衛作戦の任に就いた警備兵達は魔王軍の恐ろしさを知るや否やマルクスを魔王軍に差し出し……自分たちは命乞いをして逃げ出した。妹による指示で」
「……………え?」
一瞬、ネットさんが何を言っているのか理解できませんでした。
警備兵たちが……逃げ出した?
それを……シューズさんが指示した?
「……そして、妹はそのまま逃げました。国を渡り、親和の王とされるウルベリオン王の下へ。当然、私達は体裁上仕方なく妹を守護貴族から除名破門したのちに身柄引渡しを要求しましたが……思想の違いが顕著に見られるウルベリオン王や教皇は妹をウルベリオン国へ受け入れて要求を拒否しました。つまり……妹はこちらへ『亡命』したのです」
シューズさんは……亡命してこの国へやってきた?
聞いた話とネットさんの話の齟齬に混乱してしまい何も言葉が出てきませんでした。
ツリーさんとネットさんの話し合いは続きます。
「しかし先日、ようやくウルベリオン王から引渡しに応じるというご連絡を頂きました。ですから妹の身柄の所有権は私達にあるという事です、ご納得頂けましたか?」
「……陛下が……? 嘘を仰らないでもらいたいですわ、陛下が自国の民を引渡すような真似をするはずがありませんもの」
「どうやら妹が自らウルベリオン王のもとへ出向いて話をつけたようですよ? 何故急にそのような真似をするに致ったかは不明ですが」
「……自ら?」
「……あ……」
確かに、私達が王都の滞在中にシューズさんは何度も行方を眩ませていました。
シューズさんはあの時から帰化する準備を進めていた?
「失礼ですが、納得頂けましたらそちらの方々に船から離れるように言って頂けますか? 私の陰の方にも警戒を解除するよう伝えますので」
ネットさんはツリーさんに私達に退くように伝えてほしい、と私達にも聞こえるように言います。
どうやら、ネットさんは私達の事を既に調べあげているみたいです。
一切私やウテンさんに目もくれず、話そうともしない事がその証左です。
「(ムセン・アイコム、こうなってくるともう私達が介入するのは不可能に近い)」
「(………)」
ウテンさんが背中合わせで小声で私に言います。
確かに、ネットさんの言葉が真実であるならば私達に出来る事は制限されてきます。
いつかツリーさんが馬車で言った事が着々と現実味を帯びていきます。
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『そうなった時、貴方がたは国を敵に回してまでセーフ家三女を救うのか、と聞いているのですわ。最悪……ウルベリオンとイルムンストレアはその火種により関係悪化……戦争になる事だってありえるのですわよ?』
『だったら……私達は全力でシューズさんの味方になります。たとえ……それで誰を敵に回しても……私達はシューズさんの味方でいます』
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勿論、あの時の言葉に嘘はありません。
しかし、今、この場で事を構えてしまえば……間違いなくツリーさんやウテンさん、この町の方々に火の粉が降り注ぎます。
私の行動一つで、国すらも巻き込んでしまいます。
(……イシハラさん、力を……勇気を貸してください)
私は唇を指で触ります、イシハラさんに頂いた力。
それを今使わないで、いつ使うと云うのでしょうか。
(……私一人だけなら……全ての罪を私に向ければ何とかなるかもしれません。そうすれば……ツリーさんやウテンさん達は関係なくなります)
私は心の中でお礼を言います、ツリーさんぴぃさん、ここまでありがとうございました。ウテンさん、助けて頂いてありがとうございました。
そして、私は光線銃に手をかけます。
「……気に入りませんわね、まったく不快ですわ」
その時、ツリーさんが不機嫌そうに何かを言いました。
そして、柄と鞘に手をかけます。
「『妹』『ご友人』『そちらの方々』……貴女の妹は『警備兵』であり名は『セーフ・T・シューズ』、そちらにいるのはわたくしの友人であり『警備兵』である『ムセン・アイコム』……貴女が平民職を蔑んでいるのはよくわかりましたが……目の前にいる人間や実の妹に対し人称で呼称するもんじゃありませんことよ?」
ツリーさんは笑顔でそう言ったのちネットさんを睨み付けて、華麗に、悠然に、燦然と翡翠の剣を抜いてネットさんに向けました。
「……貴女は、もう少し賢い方かと思っていましたが……どうやら違ったようですね」
「ええ、無礼な人間に見せる賢さなど持ち合わせていませんの。さぁ、わたくしの友人のムセンアイコムとセーフ・T・シューズに話し合いの場を設けて貰いますわよ。拒否権は与えませんわ」
「……拒否したらどうしますか?」
「わたくしの樹剣の肥やしになるだけですわ」
ネットさんはツリーさんのその言葉を受け、静かに微笑み、懐から見た事もない武器のような物を取り出します。
言葉を交わさずとも、それは……開戦の合図となりました。




