■番外編.セーフ・T・シューズ その④ ※シューズ視点
「……………………警備兵……?」
アタシは鉱山防衛の人員としてある技術者達の名を挙げた。
その言葉に、総司令官も軍の兵士さんも、お姉ちゃんさえも一瞬言葉を失っていた。
少しの間静寂に包まれた室内は、それが起爆剤とでもなったかのように嘲笑の渦に覆われた。
「警備兵!? 単なる村人と差して変わらぬあの職業か!? ワハハハ!! なるほど!! 奴らに防衛を任せると!! これはいい! どうやら神童の眼は確かなようだ!!」
「……警備兵……確か回避術や斥候術を有した職業でマルクスの家が技術研究の対象としてストレア大国にも認可させたっていう……シューズ、彼らの技術を学んだのね?」
「うん、マルクス君から聞かされたよー」
アタシとお姉ちゃんは嘲笑する軍の兵士達を無視して警備兵のおじさん達と出会った事を話した。
マルクス君も警備兵になったってことは上手く隠しながら。
「…………そう、私は警備兵という職業に馴染みがなかったからわからないけど……あなたは魔物から鉱山を防衛できるだけの技術が彼らにはあるとそう思っているのね?」
「うん、勿論攻撃手の役は必要だけどそれはアタシが何とかするよー。だから配置はアタシ達だけで大丈夫だよー」
「……わかったわ。総司令官、皆さま、シューズはこれまでにも平民職の技術を遣い作戦を遂行させた実績があります。ここはシューズにお任せ頂いて宜しいでしょうか? どちらにせよ、鉱山に割く人手がないのであれば失うものは何も無いかと。もしもシューズの懸念が的中してるようであれば奇利であると……そうお考え頂いて」
「ワハハハ!! 構わんぞ! できるものならやってもらおう! 我々の助力は期待せん事だ!」
お姉ちゃんの助勢もあって警備兵は軍事作戦の一員として組み込まれる事になったんだ。
意外にも反対すると思っていた軍部はあっさりと了承してくれた、たぶん失っても痛くもない人手だから、とか、これを機に警備兵っていう職業を国から排除しようとしてたんだろうなとか、守護貴族の名の失墜を狙っている、とか幼いながらになんとなく軍部のそんな思惑を感じてはいたけど……おじさん達が頑張っているのを知ってたからそうはならない、そうさせない自信がアタシにはあった。
とにかく、アタシはその戦いの成果でおじさん達が少しは報われればいいかなって思ってた。
警備兵という職業が有名になって、頼る人が増えて、仲良くなってどんな職業の人でも関係なく友達になれればそれが一番だって。
そうすれば国もきっと良くなって、新しい魔王軍だって倒せるんだって……そう思ってた。
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《警備兵ギルド》
「ぼ……僕達が……王国軍の依頼でラティス鉱山の警備を……!?」
アタシはマルクス君と警備兵のおじさん達に会議で言った事をありのままに伝えた。
その後正式に警備兵による鉱山の防衛任務が決定して各所に通達され、僅かだけど支援金と防衛予算が組み込まれた事も。
お姉ちゃんが取り計らってくれたみたい、守護貴族セーフ家の名前はやっぱり絶大で……加えてノイシュルーツ家の後援もあって【ラティス鉱山防衛作戦】は警備兵への依頼として受注されたんだ。
「……マジかよ……俺達が……魔王軍と戦う……?」
「しかも軍からの依頼で……」
おじさん達とマルクス君は凄く驚いていて……喜びであるのか、畏れであるのか、はたまたどちらでもないのかよくわからない表情をしてざわついてたっけ。
「うん、アタシが魔物は倒すからおじさん達には魔物を引き付ける役をやってほしいんだー。配置や作戦はアタシが考えてあるからおじさん達は魔物の生態を見極めるための時間稼ぎとして徹底的に防御に努めてくれればいいよー」
「「「………」」」
おじさん達はアタシの言葉に反応しなかった。
もしかしたら勝手に決めちゃった事に怒ってるのかと思っておじさん達に謝ろうとした時、それをマルクス君が遮った。
「みんな、初めての魔物退治に迷う気持ちが出るのは当然だと思う。けど、これは警備兵に任されたれっきとした『仕事』だ。シューズ君やセーフ家がその力があると判断して託してくれた期待だ、だったら僕達はまずその期待に応えなきゃならない。シューズ君は決して無茶や無謀な事はさせない、僕達にならばそれができると思ったから提言してくれたんだ」
「………マルクス坊……」
「勿論、無理強いはしない。みんなが力不足だと自分で思うのなら辞退しても構わない……けど机上で語る理想に近づくには危険でも前に進まなくちゃならない……【警備兵】を少しでも多くの人に認めてもらって……僕はいずれアラン様のようになりたい。この夢を理想で終わらせたくはないんだ。だからやるよ、喩え一人でも」
「………………………はっ! 貴族の坊ちゃんにそこまで言わせて俺達が逃げるわけにはいかねぇだろうが! おいみんな!! 一旗揚げてのしあがる絶好のチャンスじゃねーか!! やろうぜ!! 俺達ぁ国を守る【警備兵】なんだ!!」
マルクスに感化されたのか、おじさん達はそう言って一斉に歓声を挙げた。
こうして、【ラティス鉱山防衛作戦】は実行される事になったんだ。
アタシはその時、何を思ってたっけ。
きっと少し嬉しかったはず、アタシが平民職って呼ばれて蔑まれてるみんなを少しでも助ける事ができたって。
これが職業差別を無くす第一歩になるかもしれないって、12歳だったアタシは楽観的に、本当にどうしようもなく短絡的で、浅慮で、単線的にそう考えてたっけ。
それが全ての間違いだった事も知らずに。




