■番外編.セーフ・T・シューズ その③ ※シューズ視点
~3年前 《ストレア王都城下町.『警備協会』》~
「何でぇ何でぇ!! マルクスの坊やが少女趣味に走っちまったかと思ったぜ!! なぁみんな!?」
「や、やだなぁ……この子は幼なじみの妹ですよ……」
「おっ!! 幼なじみっていやぁよく話に出てくるネットとかいうマルクス坊の想い人だったな!! んじゃあそこの嬢ちゃんに似てるってわけだ!! 思った通りべっぴんじゃねえかオイ!! 賭けぁ俺の勝ちだな!」
「ね……ネットはそんなんじゃないですよぉ……」
マルクス君に連れられて入ったギルドでは不思議な光景でいっぱいだった。
貧民区の入口辺りに居を構えたその建物は風が強く吹いただけでも壊れてしまいそうな感じで、当時のアタシはそれが人の住む家だと理解するのに時間がかかった。
ましてやそれがギルドだなんて思わなかったし、そこにいた人達がマルクス君のお友達だっていうのも驚いたし、何もかもが不思議だった。
「ねー、マルクス君。このおじさん達だれなの?」
「【警備兵】さ、ストレア王都周辺にある各町村の農民の人達やこの王都で建築業や採掘業をして働いてる人達もいるんだ」
「がっはは、つまりぁ奴隷たちってはっきり言やぁいいじゃねぇか」
「ぼ……僕はそんな認識をしているつもりは……」
「わあってるよ! まったく……つくづく変わった貴族様だなマルクス坊は」
話を聞いてみると、他の職業と警備兵とで掛け持ちして働いている人がいたり、無職で行く当てが無いからやってる人がいたり、奴隷扱いが嫌で逃げ出して来た人がいたりと様々な理由で集まった皆が寄り合って出来たギルドみたいだった。
認可させたのはマルクス君の家、ノイシュルーツ家。
職業差別の根深いこの国で認められた初の警備協会。
いくらかの支援を受けてノイシュルーツ家は人種種族立場に関係なく同志を募った、そして集まったのがこのおじさん達。
そう、まだこの当時は警備兵になるのに試験みたいなものはなくて誰でもなる事ができたんだ。
色々な観点から三年間で試験による選抜制度が出来上がったんだけど、それまでは来る者を拒まない受け皿のような場所だったんだ。
「マルクス君はおじさん達とお友達なのー?」
「あぁ、そうだぜお嬢ちゃん。マルクス坊はそこらのお高い貴族様と違って俺達みたいな底辺にも分け隔てなく接してくれるいい奴さ、最初にここに訪れた時ぁ何かの冗談かと思ってたけどな」
「僕は【アラン・ピンカー】様の伝記を本で読んでから警備兵の技術に興味を持ってね。すぐに警備協会に入りたいと思ったんだ、幸いにもノイシュルーツの家柄からか家族の理解も得られたからね。司祭や老人達を説得するのに時間を要したけど……おかげで警備協会をストレア大国に設置認可させるに至ったよ」
「え? ていう事は……」
「そう、僕は【貴族】であり今や【警備兵】さ。職業神様の加護を受けたんだ」
マルクス君は誇らしそうにそう言った。
それを聞いても当時のアタシには「そうなんだー」くらいの感想しか出なかった。
勿論、貴族でありながら平民職っていわれる職業に就いた人なんて聞いた事なかったからマルクス君の事がほんの少し心配にはなったけど……お姉ちゃんにバレたら喧嘩になっちゃうんじゃないかって。
マルクス君も同じ事を考えていたようでアタシに言ったんだ。
「シューズ君、皆にはこの事はまだ話さないで欲しい。特にネットにはまだ黙っていて欲しいんだ……いずれわかってくれる日が来るって信じてはいるけど……今は理解を得られないだろうからね」
マルクス君は家族以外の誰にもこの事を話してはいなかった。
だからその事を知っていたのは、警備協会の人達と就職儀を行った教会の司祭達とアタシだけだった。
「うん、わかったー」
アタシはマルクス君の頼みを了承して誰にも話さなかった。
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それからはマルクス君と一緒に隠れて何度か警備協会に行った。
警備兵の皆は普通の人達でアタシにも良くしてくれてすぐに仲良くなった。
アタシが貴族だからって媚びるわけでもなく、まるで普通の家族の親戚のおじさんみたいな感じで接してくれたんだ。
おじさん達は色々話してくれた。
初めは苦しい現状を脱したくて警備協会に入ったけどマルクス君から【アラン・ピンカー】の逸話を聞いてから少しでも人々を守る力になりたくて技術を磨いている事、警備協会に任される仕事は街の下水道の害虫駆除や街の掃除とかの雑務しかないけどいずれ魔物退治ができるくらいに警備兵の名を大きくしたいって事、そして拾ってくれたノイシュルーツ家やマルクス君に恩返ししたいって事。
おじさん達は照れたみたいに笑いながら毎日そう言ってた。
マルクス君も皆と笑い合いながら何度もここへ通っては日夜、警備兵の技術を磨いてた。
アタシはアタシでそうやって色んな技術を学びながらもお姉ちゃんと一緒に戦地へと赴いていた。
役職に就いたとされている魔物が軍を率いてイルムンストレア各地に出没する度にセーフ家は魔王軍を跳ね返した。
アタシもネットお姉ちゃんを通じて軍部中枢に戦略を提案し、地の利や技術の応用で魔物達を二戦、三戦と撃退するに至った。
時にはアタシ自身が魔物と戦う事もあった。
四種の【属性技術検定】を二級まで取得したから魔物との戦いも何てことはなかった。
そんな事もあってか、周りはアタシを『神童』って崇めて一個小隊を率いさせて戦場の要所を任せられるまでになった。
今考えると12歳の女の子に小隊長を務めさせるって軍も結構な無茶をするなーって感じだけど……それくらい、アタシは名実共に守護貴族【セーフ家】としての一員となって国の防衛に努めてた。
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《ストレア大国.『ストレア王都軍事中央施設司令部』》
「ーーって事だからそこには防衛技術に特化した配置をするべきだと思うよー」
「シューズ、『ですからそこには~~……するべきだと思います』」
「えー……はーい、お姉ちゃん」
そんなある日、いつものように軍の司令部で魔王軍に対する会議をする事になってアタシはネットお姉ちゃんと王国防衛軍のみんなと打ち合わせしていた。
「……はっ! ここは言語教育の学院かね?! 学院初等部に通わせて言語を学ばせてきてはどうかね?」
「……ジャックルソー総司令官、大変失礼致しました。以降お時間はとらせませんのでお許しください。しかし、いつまでも言葉遣いの件で会議の進行を妨げられてはそちらの方が時間の無駄になると思われますが?」
防衛軍総司令官の人はアタシの言葉遣いが気にいらなかったみたいで会議で発言するたびに庇ってくれていたネットお姉ちゃんと言い争いになっていた。
「それで? シューズ、どうしてそう思ったの?」
「うん、最近の出現率の傾向からこの鉱山付近には攻撃型の魔物が多く見られる気がするんだー。きっと魔王軍は他を囮にして鉱山の占拠を狙ってる、だからまずは徹底的な防衛するんだよー」
「……鉱山を? あそこは『聖職石』の他には目立った産物はないはずだけど……何故魔物がそんなものを……?」
「うーん、それはわからないんだけど……」
「魔物が鉱石を狙う!? 馬鹿も休み休み言ってほしいものだな! そんな統計はない! 第一、そんな場所に割く防衛予算も人員もありはしない!」
「うん、それはわかってるよー。だからアタシに行かせてほしいんだー。今回は軍の兵士さんはいらないよー、防衛技術に特化した人達がいるから」
アタシはその技術者達の名を挙げる、【警備兵】のおじさん達を。




