side story1.ムセンとシューズ ※ムセン視点
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「「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」
私達はシュヴァルトハイムの港町に向かっています。ぴぃさんが引く荷車で道中にある山岳を横断している私とツリーさんは荷物にしがみつきながら叫びます。
ツリーさんの木を操る技術で木でできた荷車の一部を身体に巻き付けなんとか固定されていますが、それでもこの速さは全然大丈夫ではありません。
「鳥さんっ! もう少しスピードを落としてくださいまし! 崖道でこのスピードは危ないですわっ!」
「ぴぃっ! 大丈夫だっぴ! このくらいじゃないとシューズ様に追い付けないっぴよ! 御主人様には頼まれたっぴよ! ぴぃはその期待に応えるっぴよ! 」
ツリーさんの必死な叫びもぴぃさんには届きません。
(……でもっ、確かに早くしないとシューズさんには追い付けませんっ! イシハラさん達も魔物相手にきっと頑張って戦っています! このくらいの事でへこたれるわけにはいかないです!)
すると、ガタンと大きな音を立てて荷車内が激しく揺れます。そののちに私達は宙を漂うような……浮遊感を体に感じました。
それは気のせいではありませんでした、外の景色を見ると……荷車自体が宙に浮いていました。
「ぴぃっ! 近道だっぴ! 崖から直接下に降りるっぴよ!」
「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」
私達は再び叫びます。
ぴぃさんはあろう事か私達ごと崖から跳躍していました。
やはり全然大丈夫ではありません。
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「ぴぃっ!! 海が見えたっぴ!! もう港町はすぐそこだっぴ!」
私とツリーさんはぴぃさんの引く荷車に揺らされ続ける事、約一日で目的地にたどり着きました。
これもひとえにぴぃさんのおかげです、本来であれば魔物や賊に行く手を阻まれたり山を登ったりしなければならない行程を全て省略してただ真っ直ぐに突き進んでくれたからです。
道中、魔物達はぴぃさんの素早さについてこれませんでしたし、崖なんかも飛び降りて近道しましたし(無事に着地できたのはツリーさんの『木の技術』のおかげです)、ぴぃさんがいなければ色々な障害に阻まれていた事でしょう、ありがとうございますぴぃさん。
ただ、私とツリーさんは既に満身創痍ですけど。
「はぁ……はぁ……よ……ようやく着きましたよ……ツリーさん……」
「………」
ツリーさんは横になったまま動きません。
私も私で回復技術を使ってなんとか動けますが目の前がフラフラしてまるでお酒に酔ったみたいです……。
私はツリーさんを回復して肩を担ぎながら町に入ります。
ここでシューズさんの情報が掴めればいいのですが……。
「……いえ、なんとしても掴んでみせます! イシハラさんとの約束ですから! イシハラさんとの……」
私はイシハラさんとの別れ際にした事を思い出します。
「……えへ、えへへへへ……そんなっ……あんなことまでっ……えへへへへへへ……」
「ム……ムセンアイコムっ!……何をふらふら小躍りしてますのっ……わたくしまで揺れてるんですのよっ……! んぷっ……!」
「ご……ごめんなさいっ……」
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《港町ボウソウハントウ 酒場『カツウラコミナト』》
私は人がよく集まっていた酒場に足を踏み入れます。
ツリーさんは歩いているうちに元気を取り戻したようで途中から優雅に町を歩いていました、酒場にも堂々とした態度で入っていきます。
ぴぃさんはさすがにあのサイズでは入れませんので『形態変化』で小さくなって私の頭にとまっています。
酒場には昼日中にも関わらず、多くの方々が団らんしたり騒いでいました。
「真っ昼間からやかましいですわね……」
「ツリーさん……お願いですからケンカはやめてくださいね?」
「わかっていますわよ、そんな向こう見ずではありませんことよ。イシハラナツイじゃないんですから」
そう言うとツリーさんは店の中で一番騒いでいる大柄で屈強そうな男性達の席に悠然と歩いて行き、剣を抜きました。
「見るからに知能が低そうなあなた方如きにわたくしが声をかける事を誇りに思いながら答える権利を差し上げますわ、守護貴族セーフ・T・シューズという少女をこの国で見かけませんでしたこと? 即座に答えなければ首を跳ねますわ」
矢継ぎ早にそう言ってツリーさんは男性の首に剣を突き立てました。
この人は私の言った事を聞いていなかったのでしょうか?
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「まったく、やはり見るからに何の役にも立たない愚図でしたわ。何にも情報を持っていないばかりかわたくしに歯向かうなんて恥知らずもいいとこですわね」
ツリーさんは剣を鞘に収めました。
男性達は無惨に散り倒れ、店はケンカによって半壊してしまい、囃し立てたり怖がって行く末を見守っていたお客さんや店員の方々もいなくなってしまいました。
ツリーさんには傷一つありません、流石選ばれた騎士と言いたいところですが、この人がイシハラさんのことを向こう見ずと非難する権利は無いと私は思いました。
「ぴぃっ!! ツリー様はお強いっぴ! 木を操作するだけじゃなくって産み出す事もできるっぴね!!」
「ふふふ、騎士として、令嬢としての当然たる嗜みですわ」
ぴぃさんとツリーさんははしゃいでいます。
私は思います、駄目ですこの人達……私がなんとかしないと、と。
【ムセン・アイコム技術『キュアライト』】
私はボロボロになってしまった男性達を治療します。
すると、倒れたテーブルの裏側から突然声をかけられました。
「……な……なぁお嬢さん……シューズっていうお嬢ちゃんを探しているのか……?」
どうやら隠れていたお客さんがまだいたみたいです。
その方達は物売りのような格好をしているみたいですが……シューズさんの名前を訪ねてくるということは何か知っているのでしょうか?
私はすぐに聞き返します。
「はい! シューズさんのことを何か知っていらっしゃるのですか!? 教えてください!!」
「…………その温かな光……変な格好……もしかして君の名前はムセン・アイコムちゃん……かい?」
「え!? は……はい。何故私の名を……?」
物売りみたいなおじさんは私の名前を口にしました、そして変な格好と。
もしかしたら私は『変な格好の異界人』として悪い意味でオルスで有名になってしまったのでしょうか、と悲観しましたが……どうやら違ったみたいです。
「……シューズちゃんが話してくれたのさ……『初めて出来た友達』として君の名前を……わたしは行商人でね。ウルベリオン王都からこの港町まで仕事に来たのだが……その道中乗せて欲しいと頼まれたんだよ。あまり事情は聞かなかったし話すつもりもなかったようだが……それでも君の名はよく口にしていたよ」
「そ、そうなんですか!? それで!? シューズさんは今どちらに!?」
「ここに着いてからは見ていないが……何やら思いつめた表情をしていたのが気になってね……心配していたんだ。だが、友達が来てくれたのならもう大丈夫かな」
「……はい! もちろんですっ!!」
「だが、ここに来たということはきっと海を渡る気だろう……今は繁忙の季で海の魔物が荒れているから渡航船の便は少ない、急いだ方がいいかもしれないよ」
「わかりました! ありがとうございます!!」
私は行商人のおじさんにお礼を言ってツリーさんとぴぃさんと共に港へ向かいます。
「わたくしはこうなる事を予測してたんですのよ! さぁ! 居場所が掴めたのですから急ぎますわよ!」
「ぴぃっ!! ムセン様ツリー様乗るっぴ! 港まですぐに行くっぴよ!!」
ぴぃさんは再び巨体になり私達に背に直接乗るように促します。
町中を走行するのは法律的に問題がありそうですが……その手のことを守るべきで職業であるツリーさんはもう既に乗っていました。
「なにをしてるんですのムセンアイコム! 行きますわよ!」
「いいんですか!? ~~~っ……!! 町の方達ごめんなさいっ!!」
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《ボウソウハントウ 港》
私達はぴぃさんに乗り、ものの数秒で港に着く事ができました。
ぴぃさんの爆走で町の露店の商品などが風に舞っていたりしていましたが本当にごめんなさい!
港には大きな帆船が何隻か並び、町の漁師さんや船員さんなどの人で賑わっていました。
海平線の煌めきや空の蒼さも相まってとても壮大な景観でしたがそれに感極まっている場合ではありません。
私は船を見回しながら叫びます。
「シューズさんっ!! どこにいるんですかっ!!? シューズさんっ!!」
………必死な私の叫びは海が発する波の音に掻き消されます。
ただでさえ人で賑わう港町では私の声は船までは届きません。
「ぴぃっ!! ぴぃに任せるっぴ!!」
【中級精霊 フエドリ技術『響半』】
「ぴぃ!! そばにいる人の声をぴぃの音技術に乗せて響かせる技術だっぴ!! 今なら船上にだってムセン様の声が届くっぴ!」
「ぴぃさんっ……ありがとうございますっ!! シューズさんっ!!どこかにいらっしゃるんでしたら返事してくださいっ!!!」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ…………ンッ!!
まるで洞窟の中のような反響音が私の叫びと共に辺りに木霊します。
周囲の人々は突然の響音に耳を塞いで一斉に私達の方に注目します。
そんな中、私は視界端に映る異変に気づきました。
まるで、周囲の景色を切り取り……一秒前の景色と現在の景色の間違い探しをするかのように。
まるで、『周囲の異変をすぐに察知』したかのように。
船上の甲板から顔を覗かせた、よく見知った顔が視界端に映った事を瞬時に察知できました。
私はこれが何なのかすぐに理解しました、ずっと一緒にいたあの人が当たり前のように使っていた『技術』っ……!!
(これが……イシハラさんが見ていた世界だったんですねっ……!)
【警備兵ムセン・アイコム技術『周囲確認術LV1』】
そして、その『技術』を私と同時に修得した船上から顔を覗かせたあの人も、すぐに私を視界に捉えて私と同時に叫びました。
「シューズさんっ!!!」「……ムセンちゃんっ!」




