百二十.便利は不便
「はぁ……はぁ……はぁ……ナツイにゃん……こんな事してる場合じゃニャいよ……早く魔女のところに行こうよ……」
ひとしきり猫相手に遊んだ俺はそろそろ進む事にする。
ふむ、別に猫を好きなわけでも嫌いなわけでもないが異世界であまり見かけない地球にいた動物と触れ合うのは悪くないものだ、と思ったり思わなかったりした。
「でもこの仕掛けをどうするかニャ……魔女の技術なんだろうけどこれじゃあ延々と同じところをグルグルするだけニャ……」
「いや、大体わかった」
これと同じような空間を見た事があるからな。
確か『あの時』は機械音が鳴っていた。
魔法技術によりできた空間にも関わらず現実的な音だったのでよく覚えている、あれと同じ原理だろう。
【一流警備兵+異界アイテム『スマートフォン』技術】
俺はマップを起動する。
この近辺のどっかにあるはずだが、そう簡単には見つけさせてくれそうにはないか。
なんか見つけられそうな技術とか持ってないかな、と俺はステータス画面を開く。
「ナツイにゃん何やってるニャ?」
猫娘は俺の肩に顔を乗せ、覗きこんでくる。
まるで本当に猫のように慣れ馴れしいやつだ。
「ん、ステータスニャね……さっきフレンド登録してもらったから見えるニャ♪ ふむふむ…………にゃ? ナツイにゃん……何で【実務経験ポイント】溜まってるのに全然使ってニャいニャ?」
「面倒だから」
猫娘は人の個人情報を覗き見たうえに目ざとくある項目を見つけて指摘してきた。
そう、どうでも良かったので気にせず放っておいたがどうやら警備兵に就職してから『技術』を使う度に溜まっていく数字と棒グラフ的なものが技術項目画面に現れていた。
興味ないがたぶん『技術』のレベルを上げるのに必要な経験値ポイントとかどうせそんなんだろ。
「いやいや……勿体ニャいニャよ……技術レベルを上げれば技術はより便利で使い易く強くニャるのに……滅茶苦茶溜まってるけど数字はどれくらいニャ?」
「9999」
「最上限溜まってるニャ!? それを技術に割り振ればもっと強くなれるニャよ!?」
興味ない、俺はストリートファイターじゃないんだ。
俺より強いやつに会いにいく、わけがないだろう。絶対に拒否する。
「でもそれで技術をレベルアップさせればもっと楽できるんじゃニャいかニャ?」
なるほど、この面倒さを我慢すればこの先面倒さが軽減されるわけか。
そこまでいうならやってみるか、俺は今使っている『異界マップ』を押してポイントを全部使った。
「ニャあっ!? 一つにいきなり全部使うニャ!? もっとこうバランス良く割り振りニャよう!?」
だからそれが面倒なんだと言っているだろうに。
すると、アナウンス的なものがステータス画面に流れる。
------------------------------------------
・スマートフォン技術『異界マップ』のレベルがMAXになりました。
『異界マップ』は『異界マップver99.99』に強化されました!
------------------------------------------
【『異界マップver99.99』】
なんか強化されたというマップ技術を適当に使ってみる。
するとこれまで平面状に表示されていた地図は3D状になり、俺が見ている風景と同じ景色が視界端に映るようになった。
更には(景色を透過)と念じると壁が透けて表示されその先にある部屋までもがリアルタイムで映し出されるようになったり(上空から)と念じると上から見下ろせるようになったりマップに表示されている道具とかの名称が表示されていたりなんか色々できるようになったけどよりややこしくなった。
ふむ、『便利は不便』というやつだ。
俺はイライラした。
しかし、そのおかげか目的のものは見つかった。
壁の中に不自然な機械と石みたいなものが埋め込まれている、あれがこの空間を創り出している原因のものだな。
視界端のマップにはそれは【粋・技物】などと表示されているが名前などどうでも良かった俺はライトセイバーをそれに突き刺した。
ガガガガカッ……ピーーーーーーッ………
機械と石は真っ二つに割れて煙と故障音を出して停止したようだ。
景色は歪み、遺跡内部の景色だったものは徐々に変化していく。
やはり、これは『マフィンフィールド』だったようだな。
あの時はルメットが魔女の技術を模倣して、その強大な技術によって空間が壊れたんだったな。
あれと似た感じがしたからなんとなくそう考えていたがやはり正解だったようだ。
「アフィンフィールド……考えもしニャかったニャ……」
「元々これも魔女の技術だったんだろう、それを真似て属性技術者達が同じようなものを道具にして作ったとかそんなんだろどうせ」
俺は機械に埋め込まれていた割れた石を3Dマップの方で見てみる、『聖職石』というアイテムらしい。
この『聖職石』とやらも随所で名前を聞くがどうでも良かったので考えるのをやめた。
【……ぶつぶつ……お兄さん、ちょっと厄介っぽい……仕方なさげ……招待する……ぶつぶつ……】
「ん?」
なんかどこからか女の声が聞こえるがボソボソブツブツ小声でよく聞きとれない。
その瞬間、木星の表面みたいな気持ち悪い歪んでいた周りの空間は瞬時に吹雪みたいな空間に変化する。
豪雪と氷の嵐だが寒さは感じない、きっとこれも魔女の創った疑似空間だからだろう。
これはただの映像に過ぎないというわけだ。
「ちがっ、違うニャ!! ガチガチ……本当に寒いニャよ!? ナツイにゃんが無神経だからニャにも感じてニャいだけでしょ!!」
違った、猫娘は寒がっていた。
どうやら本当に空間を寒い場所に変化させたようだ。
「死んじゃうっ!! うちは寒いの苦手ニャ! ナツイにゃん抱っこしてニャ!!」
そう言って猫娘は俺に張り付いてきた。
そして何も喋らなくなった、軽いし別にいいけどただでさえ吹雪で何も見えないのに邪魔だ。
【……ぶつぶつ……これも……効いてなさげ……なにこの人……まぁいいや……今、解除するね……ぶつぶつ……】
なんかさっきの声の主が呟いているが、吹雪で何も聞こえない。
すると徐々に吹雪は止み、周囲の景色が段々と見えてくる。
「ぶつぶつ……ようこそ……わた、私は……魔女のドライ……ドラッ……まって……久しぶりに声出したから……うまく声が出せない……ちょっと待って……」
「めっちゃわかる、わかった」
吹雪が止み、見えてきた景色は暗い室内、そしてそこにあった布団から姿を現したのは銀色のボサボサ髪で顔を隠し、身の丈より長い魔女特有の黒いローブを引きずりながら眠そうに怠そうに寝転がった魔女だった。
今までの情報と現状見たものを整理して纏めると、どう考えてもこの魔女はただの引きこもりだ。




