■番外編.魔王と冥王 ※【冥王】視点
<騎士イシハラの館>
「着きました! プルート様! こちらがわたしの……こ……婚約者である方の館でございます」
わらわはエメラルドに連れられ、館にやってきた。
エメラルドは自分で言って恥ずかしかったのか頬を桃色に染めて照れているようじゃ。
(まさか……この女がイシハラの婚約者であったとは……偶然とは数奇なるものか)
まぁ良い、ともかくとしてこれでイシハラに接触できるというもの。
「エメラルド様、あまりお一人で外を出歩かぬようお願いしたでち。あなたに何かあってはお館様も気が休まらないでち」
「セバス様……非常に申し訳なく感じます……ナツイ様達が気がかりで…いてもたってもいられなくて……つい、外へ……」
「違いまち、執事が天職セバスちゃんでち。……エメラルド様はお館様達がどちらへ向かったのがご存知なのでちか?」
「……アイコム様からお聞きしました。恐らくナツイ様はシューズ様の行方を探すために追いかけるであろう、と。わたしもそう思っております、ナツイ様は必ずシューズ様の元へ向かう、と。……わたしは足手まといになる、と感じて着いて行きたい気持ちを抑え……こちらに残ったのです」
「……左様でございまちか。ところでそちらのお方は? 迷子でちか?」
執事服を着た、今の自分の姿とさして変わらぬように見える幼女にそう言われ少しカチンとくる。
オルスではこのような幼子まで職に就いてるというのか。
「えっと……こちらはプルート様です。このお歳で冒険者をしてらっしゃるんです! わたしはプルート様に技術の指南をして頂きたくて……ナツイ様の手助けに向かえるように強くなりたい、と強く感じているのですっ!! プルート様を客人として館に迎えてもよろしいでしょうか!?」
「ダメでち。素性の知れぬ者をこの館に入れるわけにはいきませんでち。無論、エメラルド様の身を危険にさらす事もでち。お引き取り願いまち」
むぅ、ちびっこいのに中々できた執事じゃの。イシハラは恵まれた環境におるようじゃ。
しかし、話を推察するに今現在はこの館にはおらぬようじゃな。だったらわらわもここに用はない。
「ぅぅ……ごめんなさい、と強く思います……プルート様……」
「気にするでない、元々貴様が話を聞かずに強引に連れてきただけであろう……わらわは所用があるのじゃ。これで失礼するぞ」
「では! 一緒に王都に向かうのはいかがでしょう!? 若しくはわたしの国へご案内致します! そちらで技術指南を行いましょう!」
「話を聞かぬか!! わらわはそんな事してる暇は……やめんか! グイグイ来て顔を近づけるでない!!」
「エメラルド様、凄く迷惑がってるように見えるでち。わかりまちたでち、客人として客室と中庭なら使用の許可を出すでち。アキ・ハバラにもてなすよう伝えておきますでち」
「いや、何故そうなる!? わらわは用があると言っておる!」
「それではお構いできませんがおくつろぎくださいでち」
そう言って幼子の執事は館に入ってしまった。
(何故こうなるのじゃ! あの執事……面倒なエメラルドの相手をわらわに押し付けただけではないのか!?)
「プルート様! 早速技術修得の指南をご教授願いたい、と強く感じますっ!! あ……あれ? プルート様! どちらへ行かれるのですか!?」
わらわはエメラルドの言葉を無視して庭園を抜け、館を早足で離れようとする。イシハラがおらんのにこの場所におる必要はない。あの女からはとてつもなく面倒な波動を感じる。
さっさと姿を消すとしよ………
「!!」
【狐の王技術『九尾の鉄壁』】
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・狐の王のみが使える生態技術。尻尾で防御することでどんな攻撃でも防ぐことができる。
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「きゃあっ!?」
突如、門の入口の方から館に向け特大の炎が迫ってきおった。
入口から館までの直線通路を全て呑み込むほどの炎、わらわは咄嗟に狐の『技術』を行使し炎を防ぐ。後ろにいたエメラルドが叫びをあげてうずくまっておる。
出現した九つの巨大な狐の尾は炎を完全に遮断し、わらわ達と館を守った。炎は段々と勢いを衰えさせる、どうやら庭の草木を焼くだけで済んだようじゃ。
(ふむ、まさか侵入者撃退の罠というわけでもあるまい。明らかに敵意をもって館かわらわを攻撃しておる者がおるな、何者じゃ?)
わらわは門入口から悠然と歩いてきよる人物に目をやる。
輝く金色の髪を左右で結った小娘……姿格好を見るに単なる冒険者やレンジャーの類いに思えるが……今の攻撃の質は明らかに資格や就職で得られる技術の域を越えておる。
それともわらわが知らぬ間にたかが人間如きがここまでの技術を繰り出せるようになったのであろうか?
侵入者は悪びれもせず、何事もなかったかのように……まるでごく普通の客人のように声をあげた。
「もーしー? イシハラいるー? 会いに来てやったわよー? 姿見せなさーい?」
「……不作法な客人じゃな、エメラルド。あれもイシハラの知り合いかの?」
「わ……わかりません……しかし、あのような子は王都でお見かけした事はないように思います……」
エメラルドの言葉を聞いて、わらわは襲撃者の元へ歩み寄る。
襲撃者もこちらに歩み寄っていたため、わらわとの接触寸前の距離に至るまで時間は有さなかった。
童女と小娘は対峙する。
「アンタ誰? イシハラの知り合い? イシハラに会わせて」
「残念ながら領主は留守にしておるようじゃぞ? そもそもがイシハラは不躾な輩を嫌うからの、いたら門前払いを喰らうじゃろうな」
「誰か知らないけどアンタの意見なんて聞いてないわ、面倒ね。もういいわ、そこをどきなさい」
「要約せんとわからんか? すぐにここから消え去れと言うておる」
周囲の空気が張り詰め軋むほどに、わらわも襲撃者も潜在させた覇気を互いににぶつけ合う。
「プルート様っ! そ……そちらの方もどなたかは存じませんが……ケンカはお止めください、と強く感じますっ!」
エメラルドが叫ぶ。
まったく……これが単なるケンカに見えるのじゃろうか?
まぁ今はわらわは童女の姿じゃし、この只ならぬ襲撃者も一見すると女児にしか見えんから仕方あるまいて。
しかし、わらわの予感が警告しておる。
このケンカ、両者ただでは済まんの。
「まったく……何故故にわらわがこんな事せにゃならんのじゃ……バカ者め、まぁ良い。これもお主に会うための試練という事か。待っておれよ──」
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