■番外編.冥王のさいなん ※【冥王視点】
<騎士イシハラの館.領地の小川>
小川の向こうの景色に大きい屋敷のような風景を見やる。
ふむ、あれがどうやらイシハラの家らしいな。随分と時間がかかったものだ。
それもこれも従者が勝手にオルスを離れたせいであろう。
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「ひっひっひっ……冥王様。わたくし目は一度冥界に戻りますぞ……少々調べておく事があります故……くれぐれも気をつけて行動してくだされ……」
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「あのバカ者めが、従者たる者が主人を置き去りにするやつがあるか」
わらわは一人、そう呟く。
まぁオルスなぞにわらわの身を脅かすような危険があるわけあるまい。目的地が見えた今、もうわらわ一人で充分であろう。
「ふぅ」
しかし、やはり術を使うのには苦労する。
いや、こちらでは現在『技術』とかいう名で統一されておるのだったな。職業に就き、修練に励めば会得できる『技術』か……職業の神め。言い得て妙な名をつけよって。
わらわは小川に足を浸け、『技術』を試行する。
【冥王技術『七変化』】
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・冥王の生態技術。自身のイメージする実在するものの姿形、能力値、技術などを完全にコピーする。
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わらわの身体は温かな蒸気に包まれ、次第にその形を変化させていく。
この術はありとあらゆるイメージのものに身体を自在に変化させるものじゃ。そしてそのイメージ通りの術を扱えるものなんじゃが……わらわの個人情報を確認したところ、どうやらこの世界において未確認の種族なるものには変化できないらしい。
(なにが『七変化』じゃ……本来ならば7億はゆうにくだらない細やかな変化をする術だというに。たったの七通りしか変化の選択肢がないとは)
「まぁ良い、イシハラの懐に潜るための単なる変装じゃしの。とりあえずこれは……妖の狐の王の姿じゃったか? その姿少し借りるぞ」
わらわの身体はみるみると縮んで、その変化を完了させた。
見た目は年端もいかぬ童女の姿……しかし、内には幾千年と生きたその知識やら妖の技術とやらが内包されておる。
とりあえずはこれで威圧感はなくなったであろう、元の姿のわらわは美貌なれど……多少威嚇をしているような印象を与えかねんからの。
この可愛らしい丸っこい姿ならば取り入るのは容易であろうて。
<ギャアァァァァァァァァァァァァァッ!!!>
「ん?」
小川の向こうから醜悪な叫びが聞こえる。
人の形をしておるが背丈は低く、醜い餓鬼の鳴き声のようじゃ。徒党を組んでわらわの方へ向かってきおる。
ふむ、あれが魔物か………妖の知識によると、『小鬼』とかいう種族じゃな。
これまで魔物はわらわを畏れてか姿を現さなかったくせに……いきなり襲いかかってくるとは何事か。
そうか……なるほど、姿を童女に変化させたから格好の標的と見なされたという事か。
まったく……低俗な魔物にはこの狐少女に宿る力が読めぬらしいの。
【狐の王技術『通力.自然災害』】
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・狐の王のみが使える【通力】といわれる不可思議な生態技術。自然に存在する災害を自在に引き起こす。
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<ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?>
わらわが川に手をかざすと、たちまちに川はうねり氾濫し始める。
ふむ、申し分なく妖狐の力は使えるようじゃ。
氾濫し、渦巻く川に足を掬われた小鬼達は醜い奇声をあげて為す術なく流されていく。ふふ、矜が乗ってきたぞ。更に妖狐の技術とやらを試してみようとするか。
「きゃぁぁぁぁぁぁあっ!?」
「!!」
何処からか小鬼とは違う、女の叫び声がした。
(いかん。調子に乗って油断しておった、他に人がおったとは。わらわの術に巻き込んでしまったか?)
わらわが周囲を見渡し叫び声の主を確認しようとした矢先、その叫び声の主はわらわの視界に飛び込んできた。
「危ない! とわたしは強く感じます! 川が暴れています! そちらのお方! 早くこちらへ!」
川の浅瀬付近にいたわらわに岸から飛び込んできた碧髪の女がしがみついて引っ張ってきおった。何じゃこやつは。
もしかして川の氾濫にわらわが呑み込まれそうだと、わらわを助けようとしておるのか?
「きゃぁぁぁぁぁぁあっ!? 流れが強いですっ!! ごぼっ!?」
碧髪の女は川の暴走に流されそうになりながらも、必死にわらわにしがみついておる。
と、いうかわらわにしがみついたまま動けなくなっているようじゃ。何しに来おったんじゃこやつは。
(……仕方ないのぅ、助けてやるとしようか)
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「ごぼっ!? げほっ! はぁっ……はぁっ……はぁっ…」
「大丈夫か?」
わらわは碧髪の女を岸に上げた。
小鬼達は全て下流に流されたようじゃ。技術を止め、小川も沈静化した。
辺りには川のせせらぎの音が静かに流れてゆく。
「はぁっ……はぁっ……申し訳なく思います……助けようとして……逆にわたしが助けてもらうなんて……」
まったくじゃ。
まぁ、川を暴走させたのはわらわじゃし……この女が本当に善意で動いた事は見てわかったからの……それを見捨てるほどに腐ってはおらん。
「はぁ……はぁ……子供がお一人で何故こんなところにいるのか不思議に感じます……あなたは一体……お名前は?」
「……え、えーっと………プルート……」
「プルート様ですね、わたしはエメラルド、と申しますと思います。何故こんなところに一人でいたのか疑問に思います」
「わらわは……………えーっと…………そう! 冒険者なのじゃ! 疲れたから小川で遊んでいただけじゃ! だから気にせんで良い!」
わらわは今女児の姿じゃ、下手に迷子か何かと勘違いされて保護などされるのを避けねば。イシハラに会う前に悪目立ちするわけにはいかんし、自由に動けなくなるからの。
妖の知識があって良かった、冒険者という職業ならば一人で外を歩いておっても不思議ではあるまい。
「冒険者……………」
「そ、そうじゃ! 嘘ではないぞ!? こう見えて魔物達と渡り合うすべを持ち合わせておるのじゃ! だから気にするでない!」
「……………」
エメラルドと名乗る女は何か考え込んでおる。
(くっ、やはり女児の姿では無理があるか? 致し方ない……気は進まぬが……始末するしかないか……幸い、他に人の姿は見えぬ……邪魔される前に……)
「凄いですっ! とわたしは強く感じざるを得ません!! そのお歳で既に自由を手に入れておられるのですねっ!? 羨望の感情を抑える事ができなく思いますっ!! プルート様! わたしに色々なお話を聞かせて頂きたく感じますっ!!」
何じゃこの女!?
碧髪の女はキラキラした眼差しでしつこく言い寄ってきおった。
「な、ならぬ! わらわは用事があるのじゃ! 貴様にかまっておる暇は」
「プルート様! わたしは強くなりたいのですっ! 技術も扱ってみたく思っています!! あるお方のお力になりたい、と強く感じているのですっ!!」
「じゃ……じゃから」
「それにはまず就職や資格を取得する事から始めたいのです!! わたしの適性である『探求家』という職の特性から学ぼうと思っているのですがまず何から始めたらよろしいのでしょうか!?」
この女、人の話をまったく聞こうともせん!! しかも純粋無垢なる純真な好奇心のみで向かってきおる!?
(わ、わらわはこういったタイプに弱いのじゃ! 誰か助けてくれ!)




