エピローグ
真祖赤姫。最後に吸血鬼にして、世界の敵。未だ世界は赤姫の目的を知らず、怨嗟に従い彼女の打倒を目標に掲げる。赤姫自身も戦いを望み、終わることなく続く。
終わりは見えない。赤姫にすら終わりがあるのかも分からない。赤姫を知る一人は、それでいいのだと思っている。歪な形ではあるが、それで世界が続くなら、これもまた一つの形なのかもしれない。
いつか、いずれ、赤姫が誰かに殺されるまで、彼女の地獄は続くのだろう。それが彼女が選んだ道だから。その時まで、アスカも支え続けるだけだ。
「ん……。甘すぎる。ケーキだからって甘ければいいってものじゃないと思う」
ある日、自宅で焼いたケーキを持ってレヴィアの家を訪ねたアスカ。そのケーキを食べたレヴィアの感想がこれだった。
「いやいや、これぐらいがちょうどいいよ。甘いは正義だ!」
「アスカ、お子ちゃまなんだね」
「失礼な! 否定はしないけど!」
「そんなんだから、いい男が見つからないんだよ。嘆かわしい」
「う、うるさいな! 私だっていい人の一人ぐらい……!」
「いるの?」
「いないよばか!」
いつもの軽口。いつものやり取り。お互いに少し怒ったりもするが、それも含めて、いつものことだ。
アスカが魔大陸で暮らし始めて、百年が経った。今でもアスカはあの町の一町人ではあるのだが、何故か扱いが町長の相談役になっている。長く居座った結果、自然とそうなってしまった。特に責任は求められず助言だけ求められるだけなので、まあ別にいいかと放置している。
アスカがレヴィアの家を訪ねるのは週に一回だ。レヴィアも必ずその日は家にいるようにしてくれている。また、逆にレヴィアが遊びに来ることもあり、その時は町を案内していた。その度に町の人が緊張しているので申し訳なく思うが、最近ではレヴィアに対する憎悪も薄まってきているので良い傾向だと思っている。
まったく、と頬を膨らませるアスカと、ごめんと笑いながら謝るレヴィア。二人でケーキを食べ終えて、ジュースを飲んで一息つく。
「それで、アスカ。来週、やるけど。どうするの?」
何を、なんてレヴィアは言わない。アスカもそれが何を指しているのか、知っているためだ。
つまりは、襲撃。どこかの町を壊滅させる。いつものことだ。アスカの表情が一瞬だけ硬くなり、レヴィアは心配そうに眉尻を下げた。
「残る?」
「ううん……。行く」
レヴィアが悲しむので、アスカは手を出さない。けれども、せめて彼女の罪を少しでも背負うために、アスカも必ず同行するようにしている。彼女がすることを、全て、見ている。ただの自己満足だし見殺しというのは申し訳ないと思うが、実際に行っているレヴィアの方がもっと苦しいはずだ。だから、せめて、見守ることぐらいはしていこうと思う。
レヴィアを見る。ジュースを飲んでほっとしているレヴィアは見た目相応の少女に見えて、アスカは思わず笑ってしまった。
・・・・・
また来週、と手を振って、魔方陣で帰っていくアスカを見送って、レヴィアは小さく欠伸をした。最近は少しだけ心に余裕が生まれている。これもきっと、アスカのおかげだろう。だがそれでも罪悪感が薄まるわけでもなければ、自分の罪が消えるわけでもない。
付き合わせているアスカに悪いとは思うが、アスカがそう望んでくれたから、いつか殺されるその時まで、一緒にいたいと思う。
家具を片付けて、ベッドに横になる。
定期的な、二人だけの茶会。地獄の中、少しだけある平穏。レヴィアはそれを噛みしめる。
ほんの少しだけ、両親が残してくれた想いを思い出して。
今日のアスカの様子を思い出しながら、レヴィアはわずかな幸福に淡く微笑んだ。
了
壁|w・)これにて完結、なのです。最後が短くて申し訳ないです。
女神は放置なの、と言われるかもしれませんが、予定通りなのです。
というのもこれは、あくまでアスカとレヴィアの友情の物語ですから。
二人はちゃんと再会して、友情を確かめました。それでいいのです。
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
少しでも暇つぶし程度になっていれば、私としては十分満足です。
今回は気ままに妄想の赴くまま書きたいことが書けました。満足。
以上です。よければ最後に感想などいただけると嬉しいですよー。
ではでは、またどこかで。
ああ、ちなみに。
夕方あたりに活動報告を更新します。
ぶった切った女神様の部分をこっそり投下します。
興味があれば、そちらもどうぞ。ただし救いも何もありゃしませんよ、と。




