第6話 目を引く三人組
お馴染みのチャイムが昼休みの到来を告げるのを聞きながら、俺は欠伸を嚙み殺す。
眠い。夜の睡眠時間はしっかりと確保しているのだが、この時間帯はどうしても眠気に襲われてしまう。
入学式から一週間が経過し、初日と比べて生徒同士が打ち解けて賑やかになった教室内を、最後尾の席に座りながら眺める。
複数人でつるんでいる奴らの顔ぶれが変わらなくなってきており、いわゆるグループというのが形成され始めているのだとしみじみ実感した。
そういえば、中学の頃はああいう連中を弱者が群れているだけだって冷笑してたっけか。今思えば、協調性の欠片も無かった俺の方が遥かに社会的弱者だったというのに。
そんな風に過去を懐かしんでいると、前の席の住人がガーッと音を鳴らしながら机を動かし、俺の机に向かい合うようにくっつけた。
「ふぅ、やっと終わった。さて、お昼にしようか」
宝生結斗。コイツとは長い付き合いになりそうだとは言ったが、まさかここまで俺につるんでくるとは思ってもみなかった。
「前から思ってたけど、他の奴と飯食ったりしないのか?」
「え?……それを言うなら、藤咲だって僕以外とお昼食べてないじゃん」
「そりゃ他に相手がいないからな。お前にはいるだろ」
初日以来、宝生はこれでもかというほど俺に絡んでくるが、なにも他の奴と全くコミュニケーションを取っていないわけではない。
にもかかわらず、昼休みは毎回俺のところにやってくる。
「藤咲だっているでしょ。ほら、水無月さんとか」
「お前、まだそれ擦るのかよ」
「ははっ」
一応言っておくと、あの日以降学校では水無月と大した会話はしていない。
初日の朝に目立ってしまったのでお互いにしばらく関わるのを控えようという暗黙の了解がなんとなく存在しているのもあるが、それ以上に水無月のクラスにおける立ち位置が大きな理由だ。
クラスにいくつかあるグループの中でも一際目を引く、窓際の最後尾付近で机をくっつけて昼食をとりながら談笑している三人組。
「前から思ったけど、みっちゃんって結構食べるよね」
そう、女子にとっては少々デリケートな話題に躊躇なく触れたのは姫野夕奈。
肩の上らへんまで伸ばした亜麻色の髪に、クリッとした目。その可愛らしい顔立ちは小動物のような雰囲気を感じさせる。
その明るく純粋な性格と誰にでも分け隔てなく接するコミュニケーション能力から、男子だけでなく女子からの支持も集めており、すでにクラスの中心人物と言っても過言じゃない。
「そうですか? これくらい普通だと思いますけど」
それに対し、特に気にした様子もなくサラッとそう答えたのが米原美月。姫野がみっちゃんというあだ名で呼んだのは彼女のことだ。
背中まで伸ばしたストレートの黒髪に、少し幼げながらも整った顔立ち。
その品のある所作と振る舞いはまさに良家のお嬢様といった感じだが、噂によると彼女自身は一般家庭の生まれらしい。
「いや多いよ。その細身な体にどうやったらそんなに入るのか不思議なくらい」
そして、そう呆れ顔でツッコんだのが、例の水無月琴里。
肩に届くほどの長さの黒髪を高い位置で結んでおり、その容姿は姫野ほど派手ではないが、米原ほど堅くはないといったところ。
性格に関しても、元気溌剌な姫野と落ち着いた米原の間をとったような感じで、表面上は誰に対してもフランクに接するがガードは人一倍硬い……らしい。すでにアタックした男がいるという事実に驚きだ。
そんな、クラスどころか学年でもトップクラスの美少女三人の集まったグループは、すでに教室内でも高嶺の花のような扱いをされている。
彼女らが個別で他の生徒と話すことはあっても、あの三人が集まっている時は何人たりとも近寄れない雰囲気というか、暗黙の了解のようなものが生まれるのだ。
「まあ、あの中には割って入れないよね。僕でも厳しい」
「お前でもか」
「いや、僕のことをなんだと思ってるのさ……まあそりゃ、無理なことはないけど、進んで話しかけに行きたくはないよね。ただでさえ男子達からよく思われてないんだから」
「そりゃ自業自得だろ。女誑し」
「別に誑してるつもりはないよ。ただ顔に群がってくるだけで」
「出たよ腹黒」
宝生は人当たりが良く、中身はともかく表面上だけを見れば顔の良い優男なので、それはもう女子にモテる。
先週からつるんでいる中で、直接的なアプローチこそ見てないものの、コイツに熱い視線を向けている女子を何人も見てきた。
「毎日藤咲とお昼食べてるのもそれが理由だよ。自分のことを良く思ってない人達とご飯食べても不味くなるだけだから」
「なら女子と食べるのは?」
「さっきも言ったけど、僕にその気はないから、変に勘違いされても困るんだよ」
「罪な男だな」
「とんだ冤罪だね」
口ではそう言ったものの、コイツもモテる男なりに気を遣っているところはあるんだなぁと、内心では少し感心している。
そんなところで軽口を叩き合うのは一旦中断し、持ってきた弁当を食べ進める。
ふと何気なく、例の三人組の方に視線を向けるが、姫野と米原は勿論、水無月とも目が合うことは無い。
彼女たちがああして集まっているのも、宝生が要らない勘違いを生まないために気を遣っているのと実は同じなのかもしれない……いや、流石に考えすぎか。
まあそのお陰で、初日に俺と水無月が一緒に登校してきたことは、ただ俺を揶揄いたいだけの宝生以外、誰一人として覚えていないだろう。
この状況だと、俺と彼女が隣人だとバレることもまあ無さそうだ。少なくとも、学校でボロを出すことはない。
別に、学校で彼女と話せないことに不満を抱くことは無い。
そもそもそんなことを思うほど身の程知らずでは無いし、水無月は学校ではガードを固めるような立ち回りをしているのだから、隣人として程よい距離感で関わるくらいが互いにとっても丁度良いだろう。
そう方針を再確認し、新しく手に入れた平穏を俺は噛み締めるのだった。




