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壁の向こうの美少女との気楽な関係  作者: 七三八


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第4話 変わった先輩

 入学式を終えて教室に戻り、川瀬先生からいくつかの連絡事項が伝えられた後、今日はこれで解散となった。

 号令が終わるなり、そそくさと席を立ちあがり目的の場所に向かおうとするが、その前に前の席の宝生に呼び止められる。


「藤咲さ、良かったらこの後一緒に部活見て回らない?」

「え?……あー、どうするかな……」

「え何その微妙な反応」

「いや、もう入る部活は決めてて、丁度今からその仮入部に行くつもりだったんだ」

「あーなるほどね」


 そう、俺はこれからとある部活の仮入部に参加するつもりだった。

 コミュ力に乏しい俺が人並みに交友関係を築くにはどうすればいいかと、以前父さんに相談したことがある。

 その時の助言が、何でも良いからコミュニティに所属しろ、というものだった。

 なんでも、同じ趣味や知識を共有できる相手の方が仲良くなりやすいだろうとのこと。確かにその通りだ。


「なら仕方ないか……」

「悪いな」


 


 

 正面の玄関から体育館に入ると、入学式の片付けは終わっているようで、バスケ部らしき先輩方がすでにシューティングを始めていた。

 二面あるうちのもう一方のことでは、これまた女バスらしき方々が練習の準備をしている。


 先輩らしき人が声をかけてくれた。


「お、もしかして新入生?」

「はい」

「そうかそうか! 来てくれてありがとう。何でも自由に見ていってくれ。なんなら今から練習に参加してくれても構わない」

「そのつもりです。ウェアもシューズも持ってきたので」


 初日なので見学のみの可能性もあったが、ワンチャン参加できるかもと思って用意してきて正解だった。


「それは助かるな。ウチは人数がそれほど多くないんだ……っと、自己紹介がまだだったな。俺は部長の本橋(もとはし)だ。よろしく」

「一年の藤咲です。お察しの通り、もうほぼ入部を決めてる感じですね」

「それは嬉しい話だね。まだ入部届けは出せないけど、全然毎日来てくれて構わないよ。といっても、そんなに頻繁に活動はないんだけど」

「そうなんですか?」


 強豪校でなくとも、大抵のバスケ部は週に五、六日は活動があるものだと思っていのだが。


「ウチの高校は体育館が一つしかないからね。男女バスケ部、女子バレー部、バドミントン部……あとはフットサル部あたりと分けて使うと、せいぜい週四日くらいが限界なんだ」

「なるほど」


 公立校ならではの問題か。それならば仕方ない。


 案内された更衣室でテキパキと着替えを済ませる。こう見えて、実はかなり心が躍ってたりする。

 体育館でバスケをするのは、恐らく中学の体育の授業以来。ストリートではボチボチやっていたが、室外と室内では色々と勝手が違うのだ。


 とりあえず自由にしてて構わないと部長から言われたので、軽く関節のストレッチだけ済ませてから余っているボールを借りてアップがてら適当にドリブルをつく。


 ふむ、ゴムボールと室内ボールでの感覚の違いがあるものの、ドリブルに関してはストリートの時とそこまで変わらない。問題はシュートか。


 初めに、しっかりボールをセットした状態からのショットを何本か放つ。

 感覚が徐々に掴めてきたら、今度はボールを床にバウンドさせ、キャッチしてからのシュート。その次はドリブルからのプルアップ。ドリブルのバリエーションも徐々に増やしていく。


 うんうん、シュートも久しぶりの割には悪くない。ただ、ボールの感覚もあってかドリブルからのプルアップは確率がガクりと落ちてるな。


「藤咲、そろそろ練習始めるから」

「あ、はい」


 そう俺を呼んだ部長について行き、先輩方がいるところに集合すると、部長に自己紹介を促される。

 さて、初対面の印象は重要だが、気取りすぎるのも良くない。ここは無難に行こう。


「一年の藤咲です。まだ仮入部ですが、よろしくお願いします」


 そう言うと、パチパチと拍手が鳴った。端的な自己紹介だが、仮入部員ならこんなものだろう。

 そして、どうやら今日練習に参加する新入生は俺だけらしい。見学席で見ている生徒は何人かいるが。


「さて、では練習を始めようか。あ、藤咲には広田(ひろた)がメニュー教えてやってくれ」

「えぇ、俺かよ。てか、コイツまだ仮入なんだろ?」


 部長の命令に対し、広田(ひろた)と呼ばれた先輩は面倒臭そうにそう言い返した。

 背は俺とそこまで変わらないが、体躯は俺よりも一回り大きい。目付きも鋭く、一見するとヤンキーにも見えなくもない風貌だ。


「でも彼、すでにほぼ入部決めてるらしいし」

「へぇ……ならいいか」


 仕方ねぇ、とどうにか納得した様子の先輩がこちらに近寄ってくる。


「よう新人、俺は二年の広田だ。ポジションはパワーフォワード」

「はい、よろしくお願いします……ん?」


 そんな何気ない自己紹介だったが、その中に1つ引っかかる部分があった。


「あの……もしかして部長も二年生だったりします?」

「いや? 本橋は三年だぜ」

「……なるほど」


 つまり、先ほどの部長は後輩からタメ口をきかれていたのに眉一つ動かさなかったということだ。

 ここの部活は上下関係が緩いのか……とも思ったが、周囲の様子を見る限り広田先輩が特殊なのだろう。普通に敬語が飛び交っている。

 準備体操中もずっと考え込んでいると、そんな俺の様子を見て察した先輩がサラッと事情を述べた。


「留年したんだよ、俺は。だから本当は今の三年とタメだ」

「……マジすか」


 考えうる可能性の一つではあったが、まさか本当にそうだとは思わなかった。

 留年。高専や大学では決して珍しい話じゃないが、公立高校、それも真面目な生徒の多い進学校では中々聞かない言葉だ。

 

「言っとくけど、学力不足で進級できなかったわけじゃねーからな? 入学直後に事故に遭ったせいで出席日数が足んなくなったんだよ」

「それはまた不幸な……その、つかぬ事を聞きますけど、後遺症とかは……」

「それに関しては心配には及ばねーよ。ま、もし入院してた期間もちゃんとトレーニング出来てたら、今頃俺がこの部活で最強だっただろうけどな!」


 ニカッと歯を見せながら笑う広田先輩は、素でこんなキャラなのか、はたまたそう取り繕っているのか。どちらにせよ、本人が心配に及ばないと言っている以上、これ以上触れるのはよそう。


 体操の次はランニング、フットワーク、さらにはランメニューと如何にもバスケ部らしい練習が続く。強豪校ほどではないにしても、その熱量の質は中々のものだ。

 その豪胆な性格に反して、広田先輩のメニューの説明は丁寧で分かりやすかった。それに加えミニバスでの経験もあるので、内容の理解に関しては問題ない。


「ふぅ……」


 ただ、やはり体力的にはキツい。ついていけないほどではないにしても、ここまで息を切らすのは久しぶりだ。

 スクエアパス、スリーメンといった練習も、定番ながら中々に走力を要する。しかも、遅れると周りに迷惑をかけるのでサボることも出来ない。

 そんな練習を運動不足の体に鞭打ってなんとか乗り切ると、ようやく対人練習が始まった。

 一対一。チームプレーの経験が薄い俺にとっては、相対的に得意分野になる。


 まずはディフェンス。広田先輩は俺に背を向ける形でボールを受けると、ドリブルをつきながらゴリゴリと背中で俺を押し込んでくる。

 

「んぐっ……!」


 もともとのフィジカルに加え、疲労もあってどんどん押し込まれていく。この人、本当に一時期寝たきりだったのかよ。

 俺の上体が仰け反った瞬間、先輩はすぐさまターンしてゴール下からシュートを決めた。


「ヒョロそうに見えて意外に粘るじゃねーか、藤咲」

「立ってるだけで精一杯ですよ」


 なんとか倒れずに済んだのは、上背による体重と鍛えていた頃の貯金のお陰だろう。

 仕方ない。フィジカル強化は今後の課題として、切り替えてオフェンスだ。


 ボールを持つ俺の前に先輩が立ちはだかる。

 悪いが、ヘトヘトだとしてもインサイドプレイヤー相手に外での勝負で負ける気はしない。


 一つシュートフェイクを入れてからの左ドライブ。大したスピードもないため、先輩は難なく付いてくる。

 構わず強引にゴールに向かい、体がコンタクトしたタイミングですぐにステップバック。そのままシュート体勢に入る……後ろへ下がるように飛びながら。


「っ……!」


 フェイダウェイ。ボールはブロックに跳ぶ先輩の手の上を通過し、その後ネットを揺らした。


「クッソ、体勢崩れてるくせによくそんな綺麗なフォームで打てるな」

「どうも。まあこれは得意技なんで」


 その後も、外対中の構図は変わらないまま一対一が続く。

 そうなると当然、不利なのは俺の方。いくら外が得意分野とはいえ、ゴール下とアウトサイドではそもそも確率が違う。

 時折スリーも織り交ぜることで善戦するも、恐らく総得点では俺の負けだった。


「確かにシュートは上手え。けどまだまだだな」

「体力とフィジカルさえ戻せばすぐに先輩にも勝ちますよ」

「はっ、言うじゃねーか」


 俺がそう強気に出ると、広田先輩もまた好戦的な笑みを浮かべた。

 ここまで一緒に練習してきて分かった。彼に対しては変に下手に出るより、強く当たって競い合う方が良い。


 それから三対三、三対三と人数を増やした対人練習も行ったが、依然として課題は明確だった。技術は通用するが、フィジカルとスタミナが足りない。

 ここ一年ぐらいは割とのんびり過ごしてきたが、良い機会だ。久々に鍛え直すことにしよう。

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