第17話 幼馴染たちの思惑②
あれから日は進んで、次の土曜日。
僕たちは無事に二人を引き合わせることに成功し、映画館に到着した。
「とりあえずポップコーンとジュース買う?」
「そうだね~……っと、その前に、あたしちょっとお手洗い行ってくるね」
「あ、じゃあ僕も」
「……おっけー。じゃ、私たちは先に並んでおくよ。あ、なんなら二人の分も一緒に買っとこっか?」
「え、じゃあお願い! あたしは──」
「いや、流石に悪いよ。僕たちは後で行くから気にしないで」
「え? ちょっ、結斗──」
わーわーと喚く夕奈を引きずりながらその場を離れ、トイレの入り口が見えてきたところで手を放す。
「ちょっと! 今のは流石に露骨すぎるよ!」
「多少強引にでも二人きりにしないと何も分からないでしょ」
それに、藤咲には僕が何かを企んでいることはバレているだろうし、水無月さんもすでに感づいていてもおかしくない。今更取り繕っても無駄なだけだ。
ひとまず先の用であるお手洗いを済ませ、入り口で再び夕奈と合流する。
「さて、二人を探そうか」
人混みに紛れつつ、二人が向かったであろう売店エリアに慎重に接近。
少し視界が開けて売店が見えてきたところで、近くの柱の裏に寄っ掛かりつつ、陰から二人の姿を探す。
「お、いた」
「どこどこ?」
「一番右の列」
売店の列に並んでいる二人は、お互いに無言というわけでもなく、何やら会話を交わしている。
流石にこの距離から内容は聞こえない。
「普通に話してるね……どう? 友達の夕奈から見て」
「気のせいかもしれないけど、なんか……いつもより気楽そう?」
「なるほどね」
根拠は無いけど、夕奈のこういう感覚的な観察眼は意外とあてになる。
「良かったじゃん。夕奈の予想通り仲良くやれてるみたいで」
そう言うと、夕奈はほっと胸をなでおろした。つくづく、水無月さんに懐いてるなぁ。
二人が買い物を終えて戻っていったので、僕たちもしばらく列に並んで自分の分のポップコーンとジュースを買ってから後を追う。
最初に別れた場所に戻ると、再び二人の姿を捉えた。いまだに二人は何か言葉を交わしているが、先ほどとは違ってその顔には笑みが浮かんでいる。
……確かに、夕奈の言う通りかもしれない。僕たちと話していた時よりも表情が自然と言うか、どこか気を緩めているように見える。
「あ! いたいた! おまたせ~!」
夕奈が大きな声でそう呼びかけたせいで、二人はこちらに気付き、会話を中断してしまう。もう少し観察していたかったけど、自然に合流できたし今回ばかりは許そう。
夕奈には仲良くやれてるみたいだといったけど、実際の僕の見解は違う。
以前から小さな違和感を感じていた、藤咲と水無月さんの関係。その間には、僕たちすら知らない何かがあるのではないか。
そんな疑念が、僕の中で更に深まりつつあった。
「今日は楽しかったよ。また誘うから」
「じゃ、二人ともバイバイ! また学校で!」
藤咲と水無月さんに別れを告げてから電車を降りて、夕奈と二人で家路を辿る。
僕と夕奈の家は近い。流石にフィクションの幼馴染のように隣ではないけど、歩いて数分の距離だ。
「ねぇ」
「……何?」
「さっきの、僕と噂されても気にしないって話、あれ本気?」
「はあ?」
何言ってんだコイツ、といった表情で眉間に皺を寄せる夕奈。
「本気に決まってるじゃん。逆になんで嘘だと思ったの?」
「いや、あの二人の前だから見栄張っただけなのかなって」
「……はぁ」
なんだよその呆れたようなため息は。夕奈に呆れられるとか死ぬほど不覚なんだけど。
「……ずっと勘違いしてたよ。あんな提案されたら普通、僕と噂されるのが嫌だったんだなって思うじゃん」
「いや、あれは元はと言えば結斗が……」
「僕が?」
「……いや、なんでもない」
いや、そこまで言ってやめないでよ。気になるじゃんか。
訝しむような視線を向けると、夕奈はぷいっとそっぽを向いた。どうやら話してくれる気はないらしい。
何が言いたかったのか、さっぱり見当がつかない。僕には全然心当たりがないけど、夕奈があの提案をした原因は僕にあったのかな?
僕達は幼馴染だから、互いのことはよく知っている。けれど、相手の考えていることが全て分かるわけではない。
「周りがどうとか気にしないならさ──」
だから、自分の考えていることをちゃんと言葉にする必要がある。
「──僕は、また夕奈と学校でも話したいけどなぁ」
僕がそう発露すると、夕奈は目を大きく見開いた。
自分で言うのもなんだけど、僕が人に本音を漏らすだなんて、とんだ出血大サービスだ。
「気持ち悪いよ? 結斗が素直とか」
「ははっ、たまには夕奈を見習ってもいいと思ってね」
いや、学校での夕奈はまだしも、僕といるときの夕奈は言うほど素直じゃないか。
「で、夕奈はどうしたい?」
「さあ、どうだろうね」
「いや何それ」
「結斗の真似」
「……我ながらウザイな僕」
自分が本音を伝えたのに相手には曖昧な言葉で濁されるのって、思ってたよりモヤモヤするな。
「まあでも」
「ん?」
「学校でもかなかなとかことりんと今日みたいに話せたら楽しそうだよね」
「……ふっ」
「何その笑い?」
「別に」
それ、遠回しに僕の存在も肯定してるよね、なんて言ったら夕奈はまた意地を張るだろうから、あえて何も言わないでおく。
まあ、夕奈にしては上手い誤魔化し方だったかもね。僕の影響かな。
それにしても、藤咲と水無月さんか。
僕と夕奈が学校でも関わるようになれば、あの二人も自然と巻き込むことができる。そうすればいずれ、あの二人の裏にある何かの正体が見えてくるかもしれない。
ほんと、面白いことが尽きないね。




