第16話 幼馴染たちの思惑①
事の発端は、幼馴染のそんな一言だった。
「ねえねえ、かな……藤咲くんってどんな人?」
駅前のカフェでいつものように夕奈と駄弁っていた僕は、その質問を頭の中で反芻する。
「一言で言うなら、ギャップの塊かな」
「ギャップ?」
「そう。大人しそうなのに話してみると割と饒舌に喋るし、見るからに細いのに実は体育会系だし……あとは、素っ気ないかと思えば意外と情に厚いし。とにかく、知れば知るほど印象が変わってくるよ」
僕が割と真面目にそう答えると、夕奈はふむふむと考え込むそぶりを見せる。相変わらずそういうそぶりが似合わない。
「で、なんで急にそんな事を?」
「ちょうど昨日、部活終わりに初めて話したんだ」
「そういえばアイツ、バスケ部って言ってたっけ……」
「そうそう! それで、いつも結斗と仲良さそうにしてるし、ちょっと気になって」
へぇ……藤咲の奴、夕奈と話したんだ。どんな会話が起こったのか全然想像がつかないな。
何も入れていないホットコーヒーを口に含み、ふぅと息を吐く。
「それで、どんなこと話したの?」
「えーっとね……同じクラスにバスケ部全然いないよねーって話とか、男バスと女バスって関わり薄いよねーって話とか……」
至って普通の内容だ。まあ、この二人の共通の話題はそれくらいか。
「あと、ことりんと仲良いのかってのも聞いたよ」
「……ことりんって確か、水無月さんだっけ?」
「うん」
なんだ、面白そうな話題あるじゃん。僕はテーブルに肘を置いて身を乗り出す。
「あの二人、入学式の日に一緒に教室に来てたんだよ。覚えてる?」
「それはもちろん」
僕が藤咲に話しかけようとしたきっかけだしね。
「今思い返すと、ことりんが男子と仲良さそうに話してたの、あの時くらいなんだよねー」
「水無月さん、滅茶苦茶ガードが固いって男子の中で噂になってるけど、実際そうなの?」
「ガードが固いっていうか、授業のグループワークとかでは男子と普通に話してるんだけど……うーん、なんて言えばいいのかな」
「プライベートには踏み込ませない、みたいな?」
「あ、それそれ! そんな感じ」
なるほどね、僕と似たような感じってわけだ。夕奈以外の異性の相手をするときは、よくそういう立ち回りをする。
「それで気になって聞いてみたんだけど……あの日はたまたま頼みごとをされただけらしくて」
「うん。それは僕も聞いたよ」
「その後は一回も話してないから、仲良くはないって言ってた」
「へぇ……」
夕奈は期待外れといった表情でコーヒーを口に含むと、すぐに口から放してテーブルに戻し、無言でスティックシュガーを追加した。僕が観測しただけでも、すでに四回目の追加だ。
初めからたくさん入れればいいのに、少しでも苦いコーヒーを飲めるようになりたいからか、チビチビと甘みを足していくらしい。
夕奈の口から発された情報は、おおむね僕の持っているものとズレがない。藤咲が水無月さんと話している姿を見たのは、あの日が最後だ。
でも、ちょっと引っ掛かる部分はある。
いくら水無月さんが男子と壁があるからといっても、いくら藤咲が女子に積極的に話しかけないタイプでも、高校に入学して最初に会話を交わした相手と、それ以降一言も話さないなんて本当に有り得る?
「でも、あの時は仲良さそうに見えたけどなぁ……」
「なら、試してみる?」
「試すって?」
「二人を同じ場所に呼んでみるんだよ。僕たちも含めて四人で遊びに誘うなりしてさ」
「えー……それ、ことりん絶対断ると思うよ」
「普通に誘えばね。例えば……僕たちが偶にはグループで遊んでみたくなって、お互いに仲の良い相手を選んで誘った、みたいに後から説明すればいい」
「つまり騙すってことじゃん……」
「伝えるのを忘れてただけだから、嘘はついてないよ」
「うわぁ……」
いや、ガチ引きしないでよ。僕がこういう性格なのは散々分かってるくせに。
「わざとだってバレたらことりん怒るだろうなぁ」
「でも、気になるんでしょ?」
「そうだけど……ことりんが本当に嫌がるならやりたくない」
ほんと、そういうところは真面目だよねぇ。
夕奈から聞いた話の限り、水無月さんはその場合でも怒ったりせず上手くやり過ごしてくれそうだけど。
「じゃあ、藤咲と実際に話してみてどう思った? 水無月さんが嫌がるようなことをするタイプに見える?」
「それは……見えないけど」
僕から見ても、アイツほど安全な男子はそういないと思う。アレは異性への興味が全く無いタイプではなく、異性を一人の人間として見ているタイプだ。しかも多分、本人にその自覚はない。
「……もしバレたら、全部結斗のせいってことにするから」
「おっけー。決まりだね」
こうして、僕らの些細な好奇心から始まった一つの企てが動き出した。




