第12話 煽り合いと探り
無事にジュースとポップコーンを買い終えた俺たちは、最初にいた場所へ戻ったものの、そこに宝生と姫野の姿は無かった。
「あれ? まだ戻ってきてない?」
「アイツらも買いに行ったんじゃないか?」
「かね」
俺たちは買うまでにかれこれ十分以上は並んだし、流石にまだトイレが済んでいないなんてことはないはずだ。
アイツらがどこにいるか確認出来ないくらいには、館内は人でごった返している。
座れそうなスペースももちろん全て埋まっており、俺たちは仕方なく近くの壁に寄っかかることにした。
しばらくスマホをポチポチと弄っていた水無月が、ふと顔を上げる。
「あの二人、やっぱり買いに行ったみたい。終わったらこっち戻ってくるらしいから、しばらく待機してろって」
「了解」
どうやら、姫野とチャットで連絡を取っていた模様。決して、気まずいからスマホに目を落としていたわけではない……と思いたい。
「藤咲くんはホラー映画とかイケる口?」
水無月が突然そんな話題を振ってきたのは、今回俺たちの見る映画が最近話題のホラー作品だからだ。
ちなみに、提案者は宝生。ブラフだらけな宝生の話の中で唯一、見たい映画がある、というところだけは本当だったらしい。
「ホラーな……見たことないが、まあ大丈夫なんじゃねぇの」
「お、これは綺麗なフラグ」
「やかましい。そういうお前はどうなんだよ?」
「……まあ、得意では無いかなぁ」
「へぇ、意外だな」
いつもケロッとしているので、何かを怖がっている様子はイマイチ想像がつかない。
「心臓に悪い系のヤツが苦手なんだよね。ああいうのって、来るって分かっててもビックリするじゃん」
「なるほどな。なら、肝試しとかは平気なタイプか」
「そうだね。人が脅かしてくるのは勘弁だけど」
普段から簡単なことでは動じない水無月がホラーシーンに思わずぎょっとする姿は、正直かなり気になる。今日の楽しみが一つ増えたな。
「いやー、楽しみだねぇ。あの藤咲くんが絶叫してる様子を見るの」
……どうやら、向こうも同じことを考えていたらしい。これは、ちょっとした意地の張り合いが始まりそうだ。
「そりゃ悪いな。多分期待には添えん」
「ふっ、果たしてその余裕がいつまでもつかな?」
そんな風に煽り合っていると、「あ! いたいた!」と、大きく朗らかな声が耳に届いた。
そんな喧騒の中でもよく響く声の主は、手を振りながらこちらに向かってくる姫野。その後ろには、二人分のポップコーンとジュースを乗せたトレイを運びながら飄々と歩く宝生。
「おまたせ~!」
「おかえり。意外と早かったね」
「そう? めっちゃ混んでて時間かかっちゃったけど」
「私たちもさっき戻ってきたばっかりだし、そんなに待ってないよ」
女子同士でそんなやり取りが交わされる中、宝生がこちらに寄ってきて、俺にだけ聞こえるような声量でボソッと言った。
「上手くやれてるようで何よりだよ」
「別に……元々それなりに良好だっつーの。しばらく話してなかっただけで」
「はは、そっかそっか」
まったく、自分から敢えて分断するように動いた癖によく言いやがる。
「ちょっと早いけど、このまま立ちっぱなしだと疲れちゃうし、もうシアター入っちゃわない?」
そんな姫野の提案に全員が賛同し、俺たちはその場から移動し始めた。
前方で仲睦まじげに話している女子二人の少し後ろを、俺と宝生が並んで追うような形。
……さて、こっちはこっちで少し探ってみますかね。
「なあ」
「なに?」
「なんでこんなだましうちみたいな真似をしたんだ?」
「え? だって藤咲、女子がいるって言ったら来なさそうじゃん」
……それは否定出来ない。ごもっともだ。
だが先ほどと違い、意図的に教えなかったという事実は認めた。
「はぁ……次からは素直に教えてくれ。それだけで断ったりはしないから」
「お、言ったね? 言質取ったよ」
どうせ、コイツは今後も何かとつけて俺のことを巻き込んでくる。それは最早仕方ないので、せめて今回のような不意打ちを避けよう。
「一番仲が良い人を誘うって話、発案者は姫野か?」
あくまで、コイツが説明した理由がブラフでないという体でそう尋ねる。
「そうだよ。酷いよねぇ、こんなの僕と二人で遊ぶのに飽きたって言ってるようなものじゃんか」
「幼馴染なら、そりゃ飽きもくるだろ」
「藤咲までそんなこと言うんだ。凹むなぁ」
宝生は分かりやすく肩を落とす素振りを見せる。
……読めない。本気でそう思っているのか、思ってもないことを適当に言っているのか。発案者が姫野であるという話ですら、その真偽は不明だ。
とはいえ、収穫は決してゼロじゃない。あとで姫野の反応を水無月から聞いて擦り合わせよう。
シアターへ入っていく小さな背中に期待の視線を向けつつ、俺は「ドンマイ」と宝生に追い打ちをかけるのだった。




