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壁の向こうの美少女との気楽な関係  作者: 七三八


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第11話 すり合わせと仮説

 メンバーは聞いてた話と全く違ったものの、行き先は変わらず映画館らしい。

 高校の最寄り駅から電車に乗り、映画館があるターミナル駅へ向かう。

 

 改めて、なんだこの俺以外濃すぎるメンバーは……と車窓を眺めながら途方に暮れていると、ふいに水無月が口を開いた。


「そういえば、宝生くんとは初めましてかな?」

「え! そうなの!?」

「そうだね。直接話すのはこれが初めて……え、自己紹介いる?」

「いや、いいでしょ。お互い認知はしてただろうし」


 そんな、校内の有名人同士ならではの会話に挟まれ、余計に俺の場違い感が身に沁みてくる。


「藤咲くんは入学式の日以来だね」

「ああ。俺ともほとんど初対面みたいなもんだけどな」


 しれっと釘を刺してきた水無月に合わせてそう答える。

 今回の件で最も重要なのは、水無月との関係について宝生と姫野に知られずにやり過ごすこと。

 宝生は言わずもがな揶揄《からか》いのネタにしてくるだろうし、姫野は顔が広いうえに純粋なのでうっかり口を滑らせる可能性が高い。


「それは言いすぎでしょ。あの日は何か頼み事をされたって聞いてるけど?」


 宝生がそうツッコむと、水無月が一瞬こちらを見やる。なんでコイツらにソレを話してるんだよ、そんな視線だ。


「頼み事といっても、クラス分けを確認してもらっただけだよ。ほら、私って背小さいから、人混みの中だと全然見えなくてさ」

「へぇ」

 

 特に動揺することなく説明してくれた水無月に感謝しつつ、俺は内心ため息をつく。

 全く、貴重な休日になんでこうも気を張らなきゃならんのか……。




 映画館は駅直結の大型商業施設内にあるため、電車を降りて五分も歩かないうちに目的地に辿り着いた。


「とりあえずポップコーンとジュース買う?」

「そうだね~……っと、その前に、あたしちょっとお手洗い行ってくるね」

「あ、じゃあ僕も」

「……おっけー。じゃ、私たちは先に並んでおくよ。あ、なんなら二人の分も一緒に買っとこっか?」

「え、じゃあお願い! あたしは——」

「いや、流石に悪いよ。僕たちは後で行くから気にしないで」

「え? ちょっ、結斗──」


 宝生に引っ張られながら連れていかれる姫野の後ろ姿を眺めながら、水無月は呆れたようにため息をついた。


「なんというか……本当に仲良いんだね、あの二人」

「普段の様子からは想像もつかないな」


 宝生が女子に対してああいう適当な対応をするのは珍しい。学校で女子に言い寄られた時は、基本的には柔和な外面でもっと丁寧に接している。


 館内の売店は、休日の昼間ということもあり、かなり長蛇の列となっていた。やっぱり、アイツらの分も一緒に買っておいてやった方が良かった気がする。

 人の多さに鬱屈《うっくつ》とした気分になりつつも、俺たちは列の最後尾に並ぶ。


「で、どう思う? 今回の件について」

「少なくとも、俺たちを誘った経緯についてはブラフだろうな」

「ま、そうだよねぇ」


 宝生が俺を、姫野が水無月を最も仲の良い相手として連れてきたという言い分自体は、それほどおかしい話でもない。

 問題なのは、俺と水無月の両方ともその話を聞かされていなかったこと。特に宝生に関しては、『ボッチ映画が嫌だから』なんてくだらない誘い文句からして、俺を騙す気満々だっただろう。


「宝生が確信犯なのは確定として、問題は姫野か」

「んー……夕奈の場合、マジでドジって忘れてた可能性も否定できないからなぁ」


 水無月さん、友達相手とはいえ、少し辛辣すぎやしませんかね……。


「……そういえば藤咲くん、いつの間に夕奈からあだ名で呼ばれるようになったの?」

「ん? あー、部活終わりに少し話す機会があってな。あだ名呼びの理由は俺にも分からん」

「あーそっか、二人ともバスケ部だっけ」


 姫野夕奈。俺は彼女について水無月ほどよくは知らない。

 クラスの中心人物で、根っからの陽の者。水無月琴里の友人であり、宝生結斗の幼馴染。女子バスケ部に所属している。こんなところだろうか。

 こう見ると間接的な接点こそ多いが、直接的な接点はそれこそ先週話したときくらいしか……。

 

『うーん、かなかなならことりんと仲良くなれそうだと思うんだけどなー』


「──あ」


 ふと先週の記憶が頭によぎり、思わず声がこぼれる。

 

「え、なに?」

「……もし今回の件について探るなら、姫野の方を問い詰めた方がいいかもしれん」

「え?……まあ確かに、夕奈の方がボロ出しやすそうではあるけど……」

「それもあるが……もしかすると、今回の話の発端は姫野の方かもしれない」

「……マジで?」


 俺ならば水無月と仲良くなれそうだと、姫野はそう言っていた。

 とはいえ、彼女が俺と水無月の仲を取り持つような真似をするかと言われれば、それは違うだろう。彼女は水無月が男子と距離を置きたがっていることを察していた。


 だが、もしも姫野が俺の前でこぼしたそんな本音を、宝生の前でも同じようにこぼしていたとしたら、話は変わってくる。

 

 お互いに一番仲の良い相手を誘って遊ぶ、ね。全く、よくできたブラフだこと。

 

「一応聞くけど、理由は?」

「言えない、というかお前には言いにくい」

「それ絶対夕奈と話した時なんかあったじゃん……まあいいや、私の方からそれとなく探ってみる」

「悪いな。助かる」


 毎度ながら、水無月のこういう時に深追いしてこないところには本当に助けられている。

 そうして作戦会議を終えたところで、ようやく列の進みが早くなってきた。

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