第10話 定められた偶然?
「は……?」
土曜日の午後二時、大きなオブジェのある駅前の広場。
そこに着くや否や、いち早く俺の姿を見つけた宝生が手招きしているのが目に入る。ここまではいい。
問題は、アイツの隣にもう一つの人影があること。
「お、かなかなだ! おはよう!」
……なんで姫野がここにいる?
──事の発端は、三日前の昼休みだった。
『藤咲さ、今週の土曜日って空いてる?』
『土曜?……午後なら空いてるが、どうした急に?』
『なら丁度いいね。ちょっと見たい映画があってさ。暇なら付き合ってよ』
『えぇ……一人じゃ見れんのか』
『やだよ。ボッチ映画とか寂しすぎでしょ』
正直、この時点で何か裏があるのではないかという疑念が頭の片隅にはあった。
あの宝生が「一緒に映画を見に行こう」と率直に誘うのではなく、一人映画が寂しいから理屈をこねて俺を連れ出そうとしたこと。
そもそも、宝生はコミュ力こそ高いが人と群れるタイプではなく、一人映画を苦に感じるタイプとも思えないこと。
『ほら、僕らも大分仲良くなってきたことだし、そろそろ学校外でも遊ぼうよ』
『まあ、別にいいけどよ』
しかし、友達とプライベートで遊ぶという甘美な響きに負け、俺はその疑念を放置してしまったのだ──
「てかそもそも、お前らどういう組み合わせだよ」
状況からして、姫野がここにいる要因は間違いなく宝生。しかし、この二人は学校で話しているところも見たことが無いし、どういう繋がりなのかが分からない。
「あれ、言ってなかったっけ? 僕と夕奈が幼馴染だって」
いや聞いてねえよ。しれっと衝撃の事実を開示すんな。
にしても、幼馴染ねぇ……美男美女の幼馴染なんて創作の中だけの存在だと思っていたが、案外身近なところに存在していたらしい。
ここに姫野がいる時点で、コイツが俺を誘った口実がブラフだったことは確定。そんなに見たい映画があるのなら、幼馴染で仲の良い姫野だけを誘えばいい話だ。
「で、仲良し幼馴染の休日デートに、なんで俺が貴重な土曜の午後を費やしてまで付き添わなならんのだ」
「まあまあ、落ち着きなよ藤咲。あと、別にデートじゃない」
「うんうん。結斗とデートとかありえないし、そこんとこ勘違いしないでね? かなかな」
ああなるほど……君たち、そういう感じね。お互いにコイツだけは絶対にないとか言っておきながら、最終的にくっついてるタイプのテンプレ幼馴染だろ。
なんて頭の中で冗談を言いながら、一旦冷静になる。色々と聞きたいことはあるが、それはあとでじっくり問い詰めよう。
「それで、結局俺が呼ばれた理由は?」
「行ったじゃん。映画を見に行くんだよ」
「この三人でか? 意味分からん」
「三人で、ではないね。まだ全員揃ってないし」
「はあ?」
他にも誰か来るのかよ。コイツらが仲の良い幼馴染なことから察するに、絶対ソイツも俺と同じく巻き込まれた側だろ。
「おっと、噂をすればだね」
宝生が俺の背後を見ながらそう呟いたので、後ろを振り返ると、そこにいたのは──
「えっと……どういう状況かな? これは」
白のブラウスに、黒のロングスカート。
トレードマークのポニーテールは、いつものゴムではなくシュシュで1つに纏められている。
そんな、全体的に普段よりも清楚で大人びた雰囲気を纏った彼女は、その蒼眼を細めながら姫野を見据えた。
「偶然……では無さそうだね。夕奈、説明」
「は、はい」
その端的な一言には、有無を言わせぬ圧があった。
隣人、水無月琴里。どうやら、彼女がもう一人の被害者のようだ。
「──ふーん。要するに、宝生くんと夕奈がそれぞれ一番仲の良い相手を連れてこようって話になって、結果、私と藤咲くんが呼ばれたと」
「まあ、大体そんな感じ」
水無月の圧にタジタジな姫野の代わりに宝生がした説明によると、もともと、宝生と姫野は定期的にこうして一緒に外出するくらい仲の良い幼馴染らしい。学校では一切そんな素振りは見せていないため、当然水無月もそのことは初耳だったとのこと。
で、たまには二人ではなくもっと大人数で遊びたいという姫野の要望に対し、お互いに最も仲の良い相手を誘ってグループで遊ぼうと宝生が提案。そして、宝生が俺を、姫野が水無月をそれぞれ選んだ結果、この異色の面子が完成したという。
「まあ、別に良いけどさ。そういうのは事前に言ってくれないと」
「ごめん、普通に忘れてた!」
「はぁ……次は無いからね」
「夕奈はそういうところあるからねぇ」
「おい、何しれっと自分を棚に上げてんだよ、宝生。俺も聞いてないんだが?」
「……ごめん、普通に忘れてた!」
「馬鹿言うな。お前は絶対確信犯だろ」
「別に、僕と藤咲だけだなんて一言も言ってないし」
いやお前、ボッチ映画が嫌だから俺を誘ったって言ってただろ。文脈的に俺以外に誰もいないと考えるのが普通だよな?
なんにせよ、この場で口を開く気はないらしい。とはいえ、何か腹に抱えているものがあるのは確かだ。
「はぁ……まあいい」
「良かった。ムカついて帰るとか言い出したらどうしようかと」
「こうしてわざわざ集まったのに悪いだろ」
てか、怒らせる自覚あったってことは、やっぱり確信犯じゃねぇか……。
内心でもう一度ため息をつきつつ、俺は先に動き出した一行の後を追うのだった。




