第10話「魔女」
処刑の日は、よく晴れていた。
村の広場に、これまで見たことがないほどの人が集まっていた。近隣の村からも、噂を聞きつけた者たちがやってきていた。誰もが、「魔女」を一目見ようとしていた。
エレナは、荷馬車の荷台に乗せられ、広場まで運ばれた。両手は縛られていたが、俯くことはなかった。
人垣の中に、一人の少年がいた。
トーマス。あの高熱から回復した、粉屋の隣に住む男の子だった。母親に手を引かれ、遠くから見ているだけのつもりだった。だが、荷馬車が広場の中央に近づいたとき、少年は母親の手を振りほどいた。
「トーマス!」
母親の声を背に、少年は人混みを縫って走った。兵士がすぐに前へ出て、少年を止めた。
それでも、トーマスは叫んだ。
「エレナ!」
エレナは、その声の方を見た。
少年の顔を見つけると、彼女の口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「本当に、魔女なの?」
周りの大人たちが、少年を黙らせようとした。だが、エレナは小さく首を振り、彼らを制した。
少し、考えるような間があった。
「そうだったら、よかったのにね」
「どうして?」
エレナは、処刑台に目をやった。それから、もう一度、少年を見た。
「魔女だったら――こんなところには、いないよ」
少年には、その意味が、すぐには分からなかった。それでいい、とエレナは思った。分かるのは、もっと先でいい。
兵士が、エレナを台の方へと促した。
鐘が鳴った。
母親が、トーマスの目を、両手で覆った。
それでも少年は、指の隙間から、最後までエレナの姿を追い続けていた。
第10話 完




