かつての因縁
ジンの顔面目掛けてリンゴが飛んで来た。彼は両手を十字に組んで顔の前に置くと、それを防いだ。
「ぐううう」
ジンの太い手首がグニャリと曲がり、彼は半回転しながら床に倒れた。
「ごふ・・・・」
「あはは、案外ちょろいじゃん。これで赤点免れるなら、いくらでもやってやるのに」
ジンは笑っているツバキをよそに立ち上がると、拳を握りしめて、中腰の姿勢になった。
「初めに警告しておくぜ。俺に能力を使わせるな」
「はあ、何格好付けているんだか」
ツバキがやれやれと両手を上に挙げたその時だった。
ブワッと大きく風が吹いた。それはあまりにも早く、一瞬の出来事だった。
「え?」
ツバキが一瞬たじろいだその刹那、ジンはツバキの目の前におり、彼女の顔面に強烈な右ストレートを放った。
「ごふ・・・・」
ツバキの体が後方に吹き飛ぶと、そのまま扉を突き破って部屋の中に消えてしまった。
「久しぶりに闘ったが。案外俺も行けるな」
ジンは砕けた右肩を押さえながら言った。彼の背後にはアカリがおり、その闘いぶりを見ていた。
「驚かして悪かったな。俺のことは気にするな」
「気にするなって、そんなの無理です。何なんですか。話して下さいよ」
「話す必要は・・・・」
ジンはアカリの方を振り向くと、彼女の背後に立っている人影を見て、表情を強張らせた。
「な、お前だったのか・・・・」
ジンはアカリを庇おうと前に出ると、人影も同じく前に出た。
「先生?」
「ボケッとするな」
ジンはアカリを突き飛ばしてトイレの中に閉じ込めると、自身は人影と対峙していた。
「ちょっと、先生」
アカリは必死にドアを叩くが、ジンは開けてくれない。そうこうしているうちに、トイレの外は静まり返っていた。
「嘘でしょ?」
アカリはゆっくりとトイレから出た。床には血痕がいくつも残っていたが、ジンは何処にもいなかった。彼は何処へ消えたのか、今の彼女には想像もつかないだろう。
「何処よ。先生」
アカリは両手で口の横に置いて叫んだ。
「あははは、ここよ。ここ」
アカリの肩にちょこんと手が置かれた。振り返ると、そこには金髪に褐色の肌をした女子生徒が立っていた。
「あ、あなたは?」
「私の名はシルバ。あんたの先生はあたしが小さくした」
「小さくって、どういうことよ」
「こういうことよ」
シルバの右手に小槌が出現した。彼女はそれを握り締めると、それでアカリの顔を横殴りにした。
「げほ・・・・」
アカリは後ろに倒れ込むと、叩かれた右の頬を手で擦った。
「痛くないわよ。ちっとも」
「あはは、痛みは無いのよ。でもね、自分の体を見てみなさい」
アカリは自分の体を鏡で確認した。すると、確実に130センチは超えていたであろう身長が、いつの間にか、小学生並みの身長に早変わりしていた。
「ちょ、嘘でしょ」
「あの男からは聞いていないみたいね。人間の脳にはまだまだ未知の部分が一杯あるの。今見せたのが、あたしの脳に眠る才能。その名もストレンジハンマー。この木槌で殴られてしまった者は、一定時間ごとに、身長が半分ずつ縮んで行く。それも無限にね」
シルバが木槌を手放すと、木槌はそのまま消失してしまった。