ジンとアカリ
次の日の朝、アカリはパジャマ姿のまま廊下を走っていた。
「ぎにゃあああ。やばいやばい」
初日から寝坊とは中々に危険な行動である。ピンク色の可愛いパジャマ姿のアカリは、そのまま仁と正面で激突した。最も、ジンの方が遥かに背が高いので、激突し眼を回したのは彼女だけだったが。
「おい、危ねーな。焦り過ぎだ」
「だってえええ、酷いんですよ。アイツら、同じ部屋なのに起こしてくれないんだもん」
「その様子だと、早くも学園生活に慣れたって感じだな」
「いえいえ、慣れてませんよ。今だって元の世界に帰りたいんですから」
アカリは言いながら項垂れた。アカリの中では、まだこの世界での出来事は夢の中での話だった。とてもじゃないが、現実には思えない。だから妙に悲壮感が無いのは、これを現実と見ていないからなのだと言える。
「ところでせんせ・・・・」
アカリが言い掛けると、突然ジンは血相を変えて、アカリを思い切り突き飛ばした。
「ちょっと・・・・」
「馬鹿、危ない。伏せろ・・・・」
ジンが倒れたアカリを庇うように、前に出た。すると遠くからリンゴが飛んで来て、ジンの肩にぶつかり、彼の体が衝撃で半回転した。
「ごふ・・・・」
「ちょっと、先生」
「くそ、油断した。こっちに来い・・・・」
ジンはアカリの右腕を掴むと、そのまま目の前の半開きのドアの中に入った。そこは男子トイレの中だった。
「ちょっとおおお。先生ったら、こんな所でまずいですよ」
事態を呑み込めないアカリは、勝手に頬を赤らめてパニックに陥っている。
「最悪だ。右肩の骨が砕けたかも知れん」
「大げさですよ。たかがリンゴで・・・・」
「お前は個室に入って隠れていろ。事情は話せないが、俺は元々命を狙われている身だ」
「え、どういうこと?」
「だから話せない」
ジンは額に脂汗を浮かび上がらせながら、壁に手を突いた。素人目で見ても、彼の右肩は不自然に下がっており、かなりのダメージを追っていることが予想できた。
「話して下さい。このままじゃ私だって・・・・」
「ああ、危ないな。ならば、少しだけ話してやる。今から20年近く前になるが、俺はある男を殺したんだ。そいつはあまりにも邪悪で、この世に生きていてはいけない存在だった。だから俺が殺した。しかし、奴には一方で、人を引き付ける魅力があった。多くの罪人や悪党が奴を信仰していた。そんな神みたいな奴を殺した俺は、こうやって、いつも狙われているのさ。名前も声も知らない奴らからな」
ジンは話し終えると、ドアの前に顔を近付けて、ガラスから外の様子を除こうとした。
「やっぱり見えねーな。しっかし、ついにこの学園にまで、俺を殺そうとする奴が現れるなんて、何処から嗅ぎつけて来たんだか」
このまま隠れていても危険なだけだ。ジンは意を決してドアを蹴破って外に出た。
「はあ・・・・はあ・・・・」
すでに一時間目が始まっているだけあって、生徒達は廊下にはいない。しかし唯一一人だけ、廊下の真ん中で異様な雰囲気を放った一人の生徒がいた。
「お前か?」
「ふふ、ご名答」
そこにいたのは、昨日の夜にアカリ達の部屋を訪れたツバキだった。彼女は手にリンゴを持っており、それを一口かじった。
「その様子だと、お前は能力者だな。どこでその力を手に入れた?」
「あはは、答える必要ないし」
「ギースという男を知っているのか?」
「知らないよ。私はただ、あんたを殺せば、赤点を見逃してくれるって言うから、従っているだけ」
「その口ぶりだと、犯人は学園関係者か」
「知らない」
ツバキは冷酷に言い放つと、ジンの顔面目掛けてリンゴを投げつけて来た。




