ミクロサイズの死闘
アカリの体は小学生並みにまで縮んでいた。シルバはそのまま踵を返すと、アカリのことを気に掛ける様子もなく、廊下の窓ガラスを開けた。どうやらそこから逃げるつもりらしい。
「ちょっと、待ちなさいよ」
「あんたが悪いんだからね。あたしの役目はジンを殺すことだけだった。それこそがあの方が望んでいたことであり、あたしの望んでいたこと」
「あの方って、一体誰?」
アカリの質問をシルバは鼻で笑っていた。
「答える義務はないけど、たまには良いでしょう。あの方と言うのは、誰にだって一人はいる、心の支えってやつよ。あのお方の名はギース・ブラッドという。銀色の髪に、白い肌、切れ長の碧眼に、どこか他者を安心させる魅力を持った人よ。あの方はあたしにとって支えであり、毎日の学校も仕事も、あのお方がいるからこそ頑張れた。なのに、ここで教師をしているジンとかいう男は、あのお方を殺した。あたしから奪ったのよ。だからこそ復讐を誓った」
シルバは眼を充血させて言うと、そのまま外に飛び出してしまった。アカリはその後を追い掛けようとしたが、すでに蟻と同じ大きさまで縮んだ彼女に、その術は無かった。
「まずいわね。この大きさじゃ、教室に入るのも一苦労よ」
アカリは一時間目終了のチャイム音を聞いた。最悪なタイミングである。先程までは授業中で生徒達は教室の中にいたが、休み時間になれば、多数の生徒が廊下を行き交うことだろう。そんな中にいたら、きっと自分の体も蟻同然に踏み潰されてしまう。アカリは想像しただけで鳥肌を覚えていた。
「ああ、やばい」
廊下に生徒達の群れが一斉に飛び出して来た。小さいせいかその雑踏は、牛の群れが走っているようにも見えた。ひとまず、廊下の端にある窪みに入って隠れたアカリは、キョロキョロと周りの様子を伺っていた。
「あ、ラッキー」
廊下にはパメラとミルがおり、二人で話しながらこちらに向かって歩いて来ていた。
「二人ともー」
いくら叫んでも、蟻サイズのアカリの声が届くはずもない。仕方なく、彼女は窪みから出て、パメラの上履きの上に飛び乗って、そのまま足首を木のように登って行った。
「はあ・・・・はあ・・・・」
パメラの足首に爪を突き立てて、少しずつ上を目指して行く。
「ううー、もうすぐ膝小僧よ」
アカリはパメラの膝小僧にまで到達すると、不運なことに、そのまま手を滑らせて床の上に落ちてしまった。しかも、そうこうしている間にも、さらに身長が縮んでしまった。




