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第9話 夏風邪。

7月に入ると、お茶会のメンバーはあちこち避暑に出かけたり、領地に戻ったりするので、しばらくは集まらない。

ユリアーネは今までは避暑を兼ねて領地の屋敷に戻っていたが、そうするとランドルフが鉱山事務所にこもって出てこなくなる。めんどうくさい。


使用人たちには順繰りに夏季休暇を取らせて、ユリアーネは今年は帰らずに、ラーラを屋敷に招待して遊ぼうとたくらんでいた。夏用の可愛らしいワンピースも買ってある。お泊り用のパジャマも用意してある。部屋も用意した。


鼻歌交じりで、いつものようにフローラの休日に合わせて病院に向かう。

院長先生に寄付という鼻薬をかがせ、医局の皆さんには焼き菓子を差し入れる。

いそいそといつもフローラとラーラがピクニックシートを広げている林の陰に向かう。


(あら?)


いつもなら私の姿を見て駆け寄ってきてくれるラーラの姿がない。

あの親子は無駄なお金を使わなくても済むように、さまざまな工夫をしてここで遊んでいるはずなのに…。


(おでかけ…かしら?)


そうも思ったが、なんだかそわそわする。

ユリアーネはラーラに聞いていた寮の二階の部屋に行ってみることにして、付いてきた侍女を階下に残してそろそろと階段を上った。

「ラーラちゃん?」

一番端っこの部屋だと聞いていたので、ノックしながら名前を読んでみる。

「おばあちゃま?」

ドアを開けると、ラーラちゃんがタライに汲んだ水でタオルをびちゃびちゃにしているところだった。

「おばあちゃま、あのね、ママが、おきなくて。おねつがあるの」

「まあ!たいへん!」

フローラに駆け寄ると、息が荒い。かなり熱が出ているようだった。

階下に待たせた侍女に御者を呼んできてもらって、毛布でくるんで馬車まで運んでもらう。医局によって事情を話して、ラーラちゃんごとうちで預かることにした。


「もう大丈夫よ。心配したね、ラーラちゃん。ご飯は食べたの?」

「まだ。ママがおきなかったから」

「そう…じゃあ、おばあちゃまの家についたらご飯食べましょうね」

「ママは?ママもたべてないよ?」

ラーラちゃんを思わず抱きしめて、頭を撫でる。

「うん。ママはねお熱が下がったら食べるからね」


用意した客間に運んで、主治医を呼ぶ。

「夏風邪に過労と夏バテですね。少し脱水になっていますので、レモネードに少し塩を入れて飲ませて下さい。3日も寝たら治ると思いますよ」

変な病気じゃなくてよかった。フローラに侍女を一人付けて、ラーラちゃんと食堂に向かう。


「ママはね、3日寝ると治るって。3日、おばあちゃまと待ちましょう?」

「うん」

「まずはご飯を食べましょうね」


ラウラちゃんと手をつないで食堂に入ると、夫がもう席についていた。いつも休日のお昼はお出かけすることの多いユリアーネは全く持って失念していた。しかたなく、さりげなく紹介してみた。


「あなた。私のお友達のラウラちゃんよ。ラウラちゃん、こちらおばあちゃまの旦那様よ」

「はじめまして、ラウラです」

ラーラちゃんはスカートをつまんで、ちゃんとご挨拶ができた。すごいわ!

夫は…不思議そうな目でラウラちゃんを見ていたが、

「ああ。席に着きなさい」

とだけ言った。


子供用の椅子がなく、執事がクッションを重ねてくれて、ひょいっとラウラちゃんを持ち上げて座らせてくれた。

「ありがとう、ございます」

ちゃんとお礼も言えるのね。お母様がちゃんと躾けているのね。思わず目を細めてその光景を眺めた。


食前のお祈りもして、きちんとフォークもナイフも上手に使いこなしてラウラちゃんがご飯を食べる。お腹が空いていたんだろう、大人と同じ量をぺろりと食べた。

ナプキンで口を拭いていた夫の視線を感じる。


「ユリアーネ、後で私の執務室に来なさい」


…ですよね…。


「はい。ラウラちゃんがお昼寝したら伺いますわ」





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