第10話 ユリアーネの目論見。
「それで。あの女の子は誰だね?」
「私が王立病院に入院したときのお世話をしてくれていた看護助手のお子さんですわ。入院中にお友達になったんですの。今日遊びに行ったら、その看護助手の子が熱を出して寝込んでいるところを偶然に見つけてしまって」
私の執務室のソファーに座ったユリアーネは平静を装ってはいるが、目が泳いでいる。私の妻は噓をつくのが下手だ。
病院で?病人を見つけて?連れて帰ってきたというのか?
そもそも妻が…腰が痛いと大騒ぎして王立病院に入院までした理由がわからない。その上…あの…私にそっくりな子供。なにを考えているんだろう?
「ユリアーネ、私は…お前以外の女と閨を共にしたことはない」
分かりやすくそう言うと、ユリアーネはぎょっとした顔で私を見つめた。
…やっぱり、そうなのか。私は疑われているのか?
私はどうも、女性が苦手だった。元々話すのも苦手だ。何を話していいのかわからずに、見合いの席ではいつもお相手と沈黙の時間を過ごした。たまにお出かけしましょうと誘ってくれた女性もいたが、宝飾品店に連れ込まれたりしてうんざりした。それで…嫁を貰うタイミングを逃して25歳になっていた。
久しぶりに出た舞踏会で、デビューしたてのユリアーネに会った。こいつは…わかりやすかった。私といても退屈もせずにずっと一人で話しているし、語尾には必ず、あなたが好きです、と言うセリフが付いていた。
食事に行っても観劇に行ってもピクニックに行っても…こいつは良くしゃべった。
少々、正直に口に出し過ぎて危ういところもあったけど…そんなところも込で、可愛らしいと思った。
「私を…浮気するような夫だと思ったか?」
「え…」
驚いた顔から…動揺した顔に変わって…今は真っ赤になっているユリアーネの百面相を眺める。
「ち、ち、ち…違います!何でそうなるんですか!あなたを疑ったことなどありませんわ!」
「じゃあ、なんだ?」
「……その…看護補助の子を私の侍女にしようと思っていまして」
さりげなく私から視線を外してユリアーネが言う。半分は…嘘だな。
「ふーん。でもあの女の子は、私にそっくりじゃないか」
髪色も、瞳の色も…。
「…そうとも言いますね」
「?もう少し…わかりやすく言ってくれないか?」
「あの子は、ま…」
「ま?」
「…私たちの、孫、なんです!多分…」
「……」
ユリアーネが洗いざらい話した内容に驚く。
「だって…ランドルフがとんでもない性悪女に騙されてるんだと思っていたんですもの」
それで、本人を見定めに入院までしたわけか。そして…気に入ったわけだな。
「それで、なぜ侍女なんだ?お相手はどんな事情かは知らないが子爵令嬢なんだろう?」
「だって…私がしたこと…そんなこと言ったら、ランドルフが怒って、ラウラちゃんと会わせてくれなくなっちゃうでしょ!」
「……」
…なるほど。ユリアーネはたまたま知り合った子を、たまたま気にいって、たまたま侍女に雇って、あら偶然!この子がランドルフが探していた子だったのね!という筋書きにするつもりなのか。
「ふむ。それで?多分、っていうのは何だ?」
「え…ええ。ランドルフが探している人の年齢と微妙に合わないから、別人の可能性もあるかなあ、と。その場合もちゃんと侍女にしますし、私、ラウラちゃんの後見人になりたいんです」
「ふむ。それで?そのお嬢さんの名前は?」
「ウッツ子爵家のフロレンティーナ嬢。愛称は、フローラ、ですわ」




