第7話 5月。
いつものお茶会は、ようやく王太子殿下の婚約者が内定…まあ、貴族院も通ったし、決定?した話題でもちきりだった。
「やっぱりマルグリット様でしたわね!」
「そうそう、クリスティン様は事故にあわれて、辞退されたんでしょう?」
「ルイーザ様は…ねえ…」
***
ユリアーネがいつもの退屈なお茶会から帰ると、屋敷がざわついている。
「ああ、奥様!お客様がお待ちです」
「え?来客の予定はなかったわよね?」
「それが…いつまでも待ちますと…その…」
執事長の歯切れが悪い。
(あらあらあら…とうとう腹をくくってフローラが来たのかしら?)
あの子はいつもすっぴんだし、恰好が地味だから…平民に間違われちゃったのかしらね?
執事長に案内されて、応接室に出向く。
(…ラウラちゃんも来たのかしら?)
ワクワクしながらユリアーネが部屋に入ると…
「お待ちしておりましたわ、お義母様!」
真っ赤な派手なデイドレスに、ツインテールのご令嬢が、私を待っていた。
(お義母様ですって???)
困り顔の侍女が控えている。
「気が利かないわね、お茶を替えて頂戴。お義母様には私が持ってきた手作りの焼き菓子をお出しして!!」
「……」
「まあ、お義母様、お座りになって」
立ち上がりもせずにニコニコしたご令嬢が…ルイーザ嬢が私に席を勧めている。
お茶を替えていた侍女が私に救いを求める目を向ける。隣に立った執事長を思わず睨みつけてしまった。相手はこんなのでも侯爵家の御令嬢。無下にもできない。
「今日のクッキーは上手に焼けましたの。召し上がれ!遠慮なさらず、どうぞ、お義母様!」
座る気にもなれず…しかし、ただ立っているわけにもいかず…仕方なく座った私は…
「今日は、どういったご用件で?」
と切り出してみた。
「あら、ほら、私とこちらのご子息との婚約が保留になっておりましたでしょう?この度、どうしても参加してほしいと王室から乞われて参加しておりました王太子殿下の婚約者候補からようやく解き放たれたものですから。うふふっ。私は最初から、こちらの婚約話をお受けするつもりでしたのに、父上から王室からの要請だから参加だけでもしてくれと頼まれてたんですの」
「……」
「うちの父上も、エグモント伯爵家なら格も高くていいんじゃないかと言っておりますわ」
そういうことか。
そもそも、うちのランドルフとは一度お茶を飲んだだけですよね?婚約のこ、の字も出る前に、さっさと殿下の婚約者候補に名乗りを上げて…そうか…ダメだったから舞い戻ってきたわけね…。さて、どうしよう。
顔色一つ変えずにユリアーネはお茶を飲むと、
「まあ、それは残念でしたわ。ルイーザ様に脈が無いと思い込んだうちの愚息が、もう結婚相手を決めてしまいましたの」
「え?」
「正式にはこの9月には婚約、いえ、結婚…になるかと。おほほほほっ。お気遣いいただいてありがとうございます」
「え…まあ…そんなこと…聞いてないわ!」
ようやく立ち上がったルイーザ様が、顔を真っ赤にして怒っている。
(あなたが怒ってもねえ…)
「そうなんです。うちの愚息はほとんど領地にこもっているものですから…噂にも上りませんわよね」
ふんっ、と鼻息を一つついて、ご令嬢にあるまじき歩幅でずんずんとルイーザ様がお帰りになる。執事長がそっとドアを開けて、侍女は彼女が持ってきた紙袋を手渡している。
「ルイーザ様は…ねえ…」
お茶会でその名が上がるたびに、みんな言葉を濁していた訳がようやくわかったわ。
あの方をランドルフの嫁にしなくて、本当に良かった。
ユリアーネは過去に自分の蒔いた種が発芽しなかったことに胸をなでおろした。




