第五話:その朝
あの日、駅前の騒がしいファーストフード店で、ソラナと名乗る無表情な女から一枚の紙片を受け取ってから、数日の時間が経過した。
俺は、その数日間をただ自室のベッドの上で過ごしていた。外に出ることはおろか、窓の外の景色を見ることすらしていなかった。朝が来て、夜が来る。その当たり前の反復が、俺にとってはひどく苦痛だった。時間が進むということは、若菜ユイが死んだという事実が、過去のものとして固定されていくということに他ならないからだ。
部屋の中の空気は停滞し、埃が静かに床へと降り積もっていく。
台所の水切りカゴの中には、あの黄色の花柄のマグカップが伏せられたまま放置されている。表面の水分はとうに蒸発し、乾ききったまま動くことはない。窓際の鉢植えは、茶色く変色した葉が力なく垂れ下がっている。彼女がこの部屋に持ち込んだ騒がしさの痕跡は、今や残酷なまでに静かな喪失の象徴として、俺の視界を塞いでいた。
俺は、その状況に対して何の対処もしなかった。
食事をまともに摂ることもなく、空腹を感じれば水道の蛇口から直接水を飲んで胃をごまかした。食事すら、今の俺には無意味な作業に思えた。俺の肉体はまだ生きているが、俺の精神はすでに彼女がトラックに轢かれたあの夜から、全てが終わっているのだ。
ソラナが提示した提案は、常識的に考えれば狂気の沙汰である。
難治性の精神疾患の治療に向けた臨床試験。脳の現実検討を司る見当識の部位を物理的に切断し、その際に薬剤投与と微小な電極による電気刺激を加える。それによって脳の代行機能を、脳が最も望む現実へと誘導し、それを固定させる。
ただの人体実験だ。しかも、正規の機関を通さない未承認の非合法な手術。俺は医学生でも研究者でもない、ただの高校生だが、それがどれほど危険な行為であるかは容易に理解できる。手術が失敗すれば、俺は重度の障害を負うか、最悪の場合は命を落とすだろう。仮に成功したとしても、再構築された現実が俺の望むものになるという保証はどこにもない。
普通なら、そんな紙片は破り捨てて警察に通報するのが当然の行動だ。
しかし、俺はその紙片をスマートフォンのケースの裏に挟み、一日に何度も取り出しては指定された日時と場所を確認していた。
俺の理性がどれほど警告を発しようとも、俺の感情はすでにその手術を受けるという結論に達していた。
なぜなら、俺が現在認識しているこの現実に、もう何の価値も存在しないからだ。若菜のいない世界で、何十年もこの虚無感を抱えたまま生きていくくらいなら、いっそ狂ってしまった方がマシだ。
たとえそれが、脳の化学物質の反応が生み出した都合のいい幻覚であろうと、俺自身の自己防衛のための欺瞞であろうと構わない。もし、万に一つの可能性で、またあの騒がしい声を聞くことができるなら。
俺は、ただその不確定な現象に賭けることを選んだ。
指定された日の朝。
俺はのろのろとベッドから起き上がり、クローゼットから適当な衣服を引っ張り出した。数日ぶりに着替える服は、ひどく冷たく感じた。
身だしなみを整えることもなく、ただ財布とスマートフォンだけをポケットに入れる。
玄関へ向かい、あのスニーカーに足を入れる。若菜と一緒にスーパーへ行き、安いもやしを買った日に履いていたものだ。
ドアを開けると、冷たい外気が俺の顔に当たった。
空は相変わらず分厚い雲に覆われており、太陽の位置すら確認できない。俺は階段を下り、駅へと向かう道を歩き始めた。
周囲の景色は、あの日から何も変わっていない。
道路を走る車のエンジン音。すれ違う人々の足音。どこからか聞こえてくる犬の鳴き声。彼らは皆、この世界が明日も当然のように続くことを信じて疑っていない。彼らにとっての現実は、確固たる土台の上に成り立っている揺るぎないものだ。
俺は彼らを冷めた視線で見ながら、歩き続けた。
ほんの少し前まで、俺も彼らと同じ側にいたのだ。無意味な人間関係を嫌悪しながらも、若菜が隣にいるという日常を当たり前のものとして受け入れていた。だが、その日常はあっけなく破壊された。交通事故という、誰の意志も介在しない無機質な確率によって。
駅に到着し、自動改札を抜けてホームに立つ。
電車が到着し、俺は無言のまま車両に乗り込んだ。
車内は、昼前の時間帯特有の緩やかな空気が流れていた。制服を着た高校生のグループが、スマートフォンの画面を覗き込みながら声を上げて笑っている。仕事中の営業マンらしき男が、吊り革に掴まりながら目を閉じている。
俺はドアの近くに立ち、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。
この電車に乗って移動しているという事実すら、今の俺には現実感がない。俺の身体は確かにここに存在しているが、俺の意識はすでにここにはない。俺はただ、物理的な調整を受けるための実験動物として、自らを指定された場所へ輸送しているに過ぎない。
やがて、電車は目的の駅に到着した。
俺は車両を降り、改札を抜けて駅の外に出た。
◇
指定された医科大学は、駅から徒歩で十分ほどの場所にあった。
広大な敷地を持つその施設は、医療関係者の育成と最先端の研究を行うための拠点となっている。正門の前には、大学名が刻まれた立派な石碑が設置されていた。
門をくぐり、キャンパス内に入る。
周囲には、様々な目的を持った人間が行き交っていた。白衣を着用し、何やら専門的な用語を交えながら歩く学生たち。分厚い専門書を抱えた私服の若者。どこかの施設に向かう清掃員。
ここは、命を救い、医療の限界を押し広げるための場所だ。彼らの行動はすべて、人間がより長く、健康に生きるための目的のために最適化されている。
だが、俺がこれから行うことは、それとは真逆の行為だ。
俺は自らの現実認識を破壊し、逃避するための手術を受けようとしている。彼らの崇高な目的とは対極にある、極めて自己中心的で破滅的な行為。
俺は紙片に書かれた案内図に従い、キャンパスの奥へと進んでいった。
目的地は、一般の患者を受け入れる大学病院の病棟ではなく、研究施設の集まる区画にあった。周囲の建物の外観は、実用性のみを追求した無機質なコンクリート造りのものが多くなる。行き交う人間の数も減り、静けさが増していく。
俺は、指定された研究棟の建物の前に到着した。
自動ドアを通ってロビーに入ると、そこには消毒液の匂いと、空調の低い稼働音だけが存在していた。
受付には誰もおらず、設置された長椅子に座っている人間の姿もない。
俺はロビーの中央で立ち止まり、周囲を見渡した。
「待っていた」
不意に、横の通路から声が掛かった。
抑揚のない、感情の抜け落ちた声。
視線を向けると、そこにはソラナが立っていた。
彼女はファーストフード店で会った時とは違い、体に合致した白衣を身にまとっていた。その姿は、この大学のキャンパス内を歩いていても何ら違和感のない、ごく一般的な研究者や医師のものだった。
彼女は俺の前に歩み寄り、立ち止まった。
「あなたが本当にここに来るとは、一つの可能性として推測していたが、実際に観測されたことで事実となった」
「お前のその回りくどい言い回しは、どうにかならないのか」
俺が呆れたように言うと、彼女は表情を全く変えずに答えた。
「言語による情報伝達は正確性が求められる。感情的な装飾は誤解を招く要因となる」
「そうかよ。で、本当にここで俺の頭を開けるのか。どう見ても普通の大学の研究施設にしか見えないが」
俺の問いに対し、ソラナは自身の首から下げられているストラップを手に取り、そこについているプラスチック製のカードを俺の目の前に提示した。
それは、この医科大学の正規の職員用身分証だった。
カードには彼女の顔写真と、複雑な漢字が並んだ所属部署、そして氏名が印字されている。偽造されたものには見えない。バーコードやICチップの表記もあり、大学のセキュリティ機能に登録されている正式な証明書だ。
俺はそれを見て、彼女が単なる狂人ではなく、本当にこの施設で医療に関わる人間であることを確認した。
「私はここの正規の職員。必要な設備と環境は確保されている。これより、あなたを手術室がある区画へと案内する」
彼女は身分証から手を離し、ロビーの奥へ向かって歩き出した。
俺はためらうことなく、その後を追った。
もう引き返すという選択肢は、俺の頭の中には存在していなかった。
ソラナはロビーを抜け、一般の学生や職員の立ち入りが制限されているエリアへと進んでいく。通路の途中に設置されたセキュリティゲートに、彼女が身分証をかざす。電子音が鳴り、分厚いガラスの扉が左右に開いた。
そこを通過すると、さらに空気の温度が下がったように感じられた。
廊下の突き当たりにある、搬入用の大型エレベーターの前に到着する。
彼女がボタンを押すと、すぐに扉が開いた。
二人で中に乗り込むと、ソラナは操作パネルのカバーを開け、特定の順番でボタンを押し、最後に地下階を示すボタンを押した。通常の利用では行けないフロアへのアクセスコードなのだろう。
エレベーターがゆっくりと下降を始める。
「非合法な手術だから、誰にも見つからない地下に潜るというわけか」
俺が言うと、ソラナは扉を見つめたまま答えた。
「肯定。私がこれから行う手法は、医療倫理委員会の承認を得ていない未承認のプロトコル。したがって、監視カメラの記録や入退室の履歴に残らない経路を使用する必要がある」
「お前は、なぜそんなリスクを冒すんだ。自分の経歴を棒に振るかもしれないんだぞ。俺という見ず知らずの高校生のために、そこまでする理由がない」
俺が追及すると、ソラナは少しだけ俺の方に顔を向けた。
「私がこれを実行するのは、純粋にデータ収集と推論の証明のため。あなたの個人的な事情や、あなたのその後の人生については、私の関与する範疇ではない。被験者としての条件に適合した、ただそれだけのこと」
彼女の答えは、徹底して冷酷だった。
俺という人間を、単なる実験材料としてしか見ていない。だが、俺にとってはそれが好都合だった。同情や倫理的な説教をされるよりも、ビジネスのような割り切った関係の方が、今の俺には精神的に楽だからだ。
「わかった。お前の目的が何であれ、俺が若菜のいる現実に到達できる可能性があるなら、それでいい」
俺がそう言うと、彼女は再び前を向いた。
エレベーターが停止し、扉が開く。
そこは、上層階の清潔な研究施設とは全く異なる、コンクリートが剥き出しの薄暗い通路だった。空調の音すら聞こえない、完全な無音の空間。
ソラナは通路を進み、奥にある頑丈な金属製の扉の前に立った。
彼女が再び身分証をかざし、ロックを解除する。
重たい音を立てて扉が開き、俺たちはその部屋の中へと入った。
◇
部屋の内部は、外の殺風景な通路とは対照的に、高度な医療機器が整然と配置された部屋だった。
中央には固定された金属製の手術台があり、その上には複数の関節を持った巨大な無影灯が設置されている。壁際の手術用ラックには、消毒された多数の器具が布の上に並べられ、心拍や血圧を測定する大型の生体情報モニターが暗い画面のまま鎮座していた。
部屋全体に、アルコールと特殊な薬品の交ざった、鋭い匂いが立ち込めている。
「ここは、元々は動物実験用の手術室。現在は使用されていないため、私の個人的な作業スペースとして確保している」
ソラナは部屋の照明をつけながら説明した。
蛍光灯の白い光が、部屋の隅々までを照らし出す。
彼女はいくつかの機材の電源を入れ始めた。モニターの画面が点灯し、緑色の波形が規則正しく表示される。
「改めて、最終確認を行う」
ソラナは俺の前に立ち、無表情のまま言葉を発した。
「これより、あなたの頭部に局所麻酔を施し、頭蓋骨の穿孔を行う。その後、脳の現実検討を司る見当識の部位を物理的に切断する。そして、露出した脳の受容体に薬剤を投与し、微小な電極によって電気刺激を与える」
彼女は手術の手順を、まるで料理のレシピでも読み上げるかのように淡々と説明した。
「これにより、あなたの現在の現実に対する認識は遮断され、脳の代行機能が最も望む状態を新たな現実として再構築するよう誘導される。しかし、これは不確定な要素を多く含む実験。再構築に失敗した場合、あなたは意識を回復することなく、植物状態に陥るか、全てが破綻した認識の中で自己を失う可能性がある」
「理解している。今更やめるとは言わない」
俺が即座に答えると、彼女は白衣のポケットから一枚の紙とペンを取り出した。
「これは同意書。被験者が自らの意志でこの手術を受けることを記録するためのもの。一番下に署名を」
俺は紙を受け取った。
そこには、手術に伴うリスクや、一切の責任を執刀医に問わない旨の文章が細かな文字でびっしりと印刷されていた。
俺は内容をろくに読まず、ペンを受け取って自分の名前を書き殴った。
一条レイジ。
書き終えた紙をソラナに突き返す。
「これで手続きは終わりだろ。さっさと始めろ」
ソラナは紙を受け取り、バインダーに挟んだ。
「理解した。では、着替えを」
彼女が指し示したパイプ椅子の上には、薄い緑色の手術着が畳まれて置かれていた。
俺は自分が着ていた服を脱ぎ、その手術着に袖を通した。生地は薄く、部屋の冷たい空気が直接肌に触れるようだった。
「靴を脱ぎ、手術台の上に仰向けに」
指示に従い、俺はスニーカーを脱いで手術台の上に横たわった。
金属の台は冷たく、硬い感触が背中全体に伝わってくる。
ソラナが俺の頭の位置を調整し、固定するための器具を取り付けた。これで、俺は自分の意志で頭を動かすことができなくなった。
彼女は俺の額や胸、腕に、生体情報を読み取るためのセンサーを次々と貼り付けていく。
モニターから、俺の心拍に合わせた短い電子音が鳴り始めた。一定のリズムの音が、静かな部屋に響き渡る。
俺の心拍数は、驚くほど安定していた。
自分がこれから、自らの脳を物理的に弄られるという極限の状況に置かれているにもかかわらず、俺の思考は冷めきっていた。
未知の痛みや、二度と目覚めないかもしれないという生物としての根源的な忌避感は確かにある。
だが、あの静まり返った部屋で、無気力に時間を浪費し続けることの恐ろしさに比べれば、こんなものは何でもなかった。
「頭部の毛髪を一部除去する」
ソラナが電気バリカンを手に取り、俺の頭部の右側の髪を刈り始めた。
機械の振動が頭皮に伝わり、髪の毛が床に落ちていくのがわかる。俺の視界は天井の無影灯に向けられたままだ。強烈な光が視覚を刺激し、周囲の景色が白く飛んでいる。
「局所麻酔を投与する」
ソラナの声とともに、頭皮に鋭い痛みが走った。
注射針が皮膚を貫き、薬液が注入されていく。彼女は位置を少しずつずらしながら、数カ所に分けて麻酔を打っていった。
数分が経過すると、麻酔を打たれた部分の感覚が徐々に失われ、分厚いゴムのような鈍い感触へと変わっていった。
「麻酔の効きを確認する」
彼女が何かで頭皮をつついたが、圧迫感があるだけで痛覚は完全に消失していた。
「問題ない。これより、頭蓋骨の穿孔を開始する」
ソラナの言葉の直後、医療用のドリルの高い回転音が室内に鳴り響いた。
彼女がドリルを俺の頭部に押し当てる。
その瞬間、すさまじい振動が俺の頭蓋骨を直接揺さぶった。
痛みはない。しかし、自分の身体の最も堅牢な骨が、物理的に削り取られていくという生々しい感覚が、骨を伝導して脳全体に重低音となって響き渡る。
不快な音が、耳からではなく、身体の内側から直接聞こえてくる。
俺は両手を強く握りしめ、その暴力的な振動に耐えた。
自分の思考の根源である脳を守るための壁が、今まさに破壊されている。その事実は、俺の理性を強烈に揺さぶるものだったが、俺はただ目を閉じてその過程を受け入れていた。
やがて、部屋の中に鉄錆のような匂いが立ち込めた。
俺自身の血の匂いだ。
皮膚が切開され、骨が削られ、血液が流出している。
ドリルの回転音が止まり、振動が収まった。
「穿孔完了。硬膜を切開し、対象部位へのアプローチを行う」
ソラナの声は、どこまでも冷徹で事務的だった。
頭部で細かな作業が行われている気配がある。金属製の器具が触れ合うかすかな音が聞こえる。何かが俺の頭の奥深くに進入していく感覚。
「見当識を司る部位の切断を実行する」
ソラナの言葉が発せられた直後。
俺の意識に、決定的な変化が訪れた。
物理的な痛みや衝撃はない。
だが、俺の中で、世界と俺自身を繋ぎ止めていた何かが、ふっと途切れたという確かな感覚があった。
自分が今、手術台の上に仰向けに寝ているという空間的な認識が、急速に曖昧になっていく。重力の方向がわからなくなり、自分が浮遊しているのか沈み込んでいるのかの判断がつかなくなる。
部屋の空気の冷たさや、薬品の匂いが、自分の身体の感覚から切り離され、遠い別の場所の出来事のように感じられ始めた。
時間の連続性も失われていく。
自分がここに来てから何分が経過したのか。今は昼なのか夜なのか。そもそも、自分がどれだけの時間を生きているのか。それらの前提条件が、俺の脳から意味を持たない情報として剥がれ落ちていく。
自分がどこにいて、何をしているのか。その根本的な見当識が崩落していく。
「化学物質を投与する」
ソラナの声が、ひどく遠く、あるいは頭のすぐ内側から聞こえたような気がした。
俺の脳に、直接何らかの液体が流れ込んでくる感覚。
それと同時に、俺の視界が急速に認識を変え始めた。閉じていたはずのまぶたの裏に、強烈な色彩が広がる。天井の無影灯の光が引き伸ばされ、不規則な模様となって視界を覆い尽くしていく。
「微小電極を配置。電気刺激を開始する」
微弱な電流が、俺の脳の機能に直接干渉してくる。
俺の思考は、もはや論理的な整合性を保つことができなくなった。
過去の記憶の断片が、無作為にフラッシュバックする。
教室の騒がしさ。コンクリートの廊下。スーパーの特売品の札。テレビのバラエティ番組の音声。
それらが一つになって、俺の意識をかき回す。
その極度の混乱の中で、俺は自身の最も強い願望へと意識を集中させようと試みた。
あの日、俺の自室で交わした約束の光景。
「今度は、俺が料理を作るからな」
俺の小指に絡められた、彼女の指の柔らかな感触。
若菜ユイの、嬉しそうな笑顔。
俺は、もやしハンバーグを作らなければならない。あいつがまた俺の部屋のドアを開けて、勝手に入り込んでくる。そして、俺が作った料理を前にして、文句を言いながらもそれを口にする。
その光景だけが、俺の求める唯一の現実だ。
この無意味な現実には、もはや一切の未練はない。
それだけが、俺の思考を塗りつぶしていく。
俺は、自らの意識が深く、底知れない場所へと沈み込んでいくのを感じながら、意識を喪失した。




