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自由暗殺人 ノロクロ  作者: 浪川 晃帆
Ⅳ 輪廻邂逅
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大学の日々Ⅱ ‐1

 

 時は更に遡り、まだ与破音が生きていた時のことだ。

 彼女、神里輪音は与破音の妹。大学も同じく名古屋港湾大。課外活動で入った〈ヒトと地球の未来を考える会〉にも一緒に参加していた。

「おはようございまーす、せんぱーい」

 性格は根暗な与破音とは反対に明るく活発な女の子だった。二つに結びの長い髪は目にする度に跳ね回り、まだ高校生らしさを色濃く残した。

 そんな彼女の所属は機械学部生命応用学科という純然たる理系。哲学や人の心理を学んでる与破音とは頭の構造までが対極的だった。

 とある日の夕方、いつものようにキャンパスの駐輪場で彼女と会った。彼女とは研究室も遠く構内で擦れ違うことはまれだが、与破音の繋がりもあってよく会いに来た。

「今日はビラ配りですか? それともミサですかね?」

「ミサだろ」

「え? 先輩? ミサって何ですか? もしかして……、女? 先輩、ウチというものがありながら、ぐすんぐすん」

「普通に集会って言えよって話だよな、宗教じゃねえんだし、何がミサだよ。つか、毎回その茶番やるの、いい加減やめようか」

「ええ~いいじゃないですか~、なんか先輩が遊び人みたいで」

「遊び人ねぇ。憧れるなぁ。せめて彼女の一人くらい欲しいもんだっての」

「ですよねぇ。それじゃ、行きましょうか」

「いや待て、なぜ後ろに乗ってる?」

「はい?」

 バイクに跨がって振り向くと、ちゃっかりヘルメットまで被って後ろのシートに座わっている彼女が、笑顔で小さく首を傾げた。

「彼女できた気分ってのはいかがですか? 先輩?」

「お前バスで行く金節約したいだけだろ。で、そのヘルメットはどうした」

「与破音からぱくった」

「あいつも乗る気だったのかよ。流石に男の二人乗りは御免被りたいぞ……」

「じゃあ、ウチはいいってことですね! やったあ!」

「まぁ、……いいけど」


 三人が入会していた〈ヒトと地球の未来を考える会〉では、定例の集会を何故かミサと呼んでいた。キリスト教など関係ないし、むしろ仏教系の僧侶が会長を努めるというのに妙な話だ。正直この時点で怪しさは抜群なのだが、慈善事業への参加は就活で有利なので、惰性でミサにも顔を出していた。

 輪音も同じく全く興味を示さなかったが、だが兄の与破音は異なった。このミサも人類の平和集会だと自ら唱え、異常なほどに熱心だったことを覚えている。


「だから何度言ったらわかるんだ! 僕らの国は〈環太平洋共栄機構〉に参加すべきではなかったんだ! まだ間に合うとも! 早急に離脱するよう、みんなで政府に訴えるんだ!」

 公民館の戸を開けた途端、与破音の大声が外に飛び出してきた。長机を叩いて立ち上がる与破音を集まっていた会員達は白い目で見上げていた。

「まーたやってるよ、与破音」

 輪音と二人で静かに入室すると。入り口付近の数人に会釈をして椅子に掛けた。

「ですからぁ!」

 と、再び大声を上げる与破音に対し何人かの大人が制した。

「君はさっきから何を喋ってるわけ? 神里君、意味がわからんよ」

「どうして! この地域は世界に残された最後のユートピアなんだ! 同化によって外世界の人を受け入れれば、たちまち汚れる! 人類最後の聖地が失われる!」

 それを皮切りに、周囲からは次々に批判の矢が飛んできた。

「なんでそういう発想ができるかなぁ、君。それ諸外国の貧しい友達の前で言える?」

「神里、お前の考えは差別主義者と変わらないぞ。お前は外国の友達をどういう目で見てる。友達に上も下もないだろう」

「そうだよ神里君。我々人類みんな友達。そして幸せは友達と共有しなきゃいけない。それは義務であり、人として当たり前なんだ。世界人類はみんな友達なんだよ?」

「自分たちさえよければいい、だなんて、大破壊前の時代でもありえない思考だ。いまこそ、みんなが手を取り合って友情を深めないと」


「なんで、なんでわかんないんだ。僕はただ、じんるいの、へいわの、せかいの、しあわせを、みんなの、……、う、うわあああ、うっ、うっ、うあ……」

 そして嗚咽し、眼球一杯の涙を決壊させるのがいつものオチだ。そしてそんな二十代の男をあやして落ち着かせるのが、この場における自分の役割なのだった。

「さて、そろそろ議題に戻りましょうか。与破音さんもいいでしょうか。また時間のある時に貴方の話をなさってくださいね」

 正面奥に腰掛ける僧侶が、与破音に優しく諭した。

「うっ、うっ」

「ほら与破音。是雲法師もそうおっしゃってる事だし、取り敢えず座れって。な?」

「う、ううう」

「二人ともいつも与破音さんをありがとうございます。では話し合いを始めましょうか」

 つまり、これまでの与破音の主張は話し合いでさえ無かったということ。確かに傍目に見ても、ただ彼が騒いでるだけというのが有り体。既に全員の向いている方向は同じで、会議の内容は週末の活動の打ち合わせだというのに、与破音はひとり浮いていた。全く迷惑な会員が入ったと思われているだろう。

 そうして席に着くと、横にいた一人の会員が会議前に伝えるタイミングを逃したというように、小さな声でこちらに耳打ちした。 

「そういえば大学生の三人とも、今月から協力金が少し変わるから会計担当に話し聞いといてね……。





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