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初恋はきっと何処かで嘘をつく。[九話]

葵に本音を受け止めてもらえたと感じた透は、彼女を支えるため、自分も変わろうと思い始める。


怪我から復帰した葵は、記録会で決勝進出を逃す。

元部員の西島遥から厳しい言葉を浴びせられるが、透に庇われ、その優しさに救われていた。


一方、三浦の恋心を気にかけた葵は、二人きりで話す場を設ける。

透への想いを認めた三浦に、葵は距離を置くことを勧めるが、心配は拒絶として伝わり、口論になってしまう。


「もう関わらない」と告げて逃げ出した梓は、帰り道で転んでしまう。傷ついた彼女に「大丈夫?」と声をかけたのは、夏織だった。

サブタイトル[二度目の初恋]


-中村夏織自室・三浦梓-

「痛っつー!」


「ちょっと動かないでよ」

転んだ私はそのまま中村さんの家で手当を受けていた。

消毒を終え、少し大きめの絆創膏を貼った。


「……ありがとう」

傷の手当てなんて、家庭的なところもあるんだな。


「良いよ、んでなに走ってたの」


「先輩に相沢と関わるなって……」


「あの人の良さそうな先輩が?」

やばい、端折りすぎた。


詳しく経緯を話す。

「それで逃げてきた訳か」


「うん」


「三浦さんはなんで告白しないの?」


「……。」


「私と三浦さんなんか、友達でもなんでもないんだし。別に言いふらしたりなんかしないよ」


友達でもないし……か。

不思議だな友達じゃないのに、こんなに関わって。


「私中学の頃いじめられてて」

チラッと中村さんの顔を見る。

黙って聞いてくれている、話しても良いみたい。

「私喧嘩強いから」


「……え?」

まぁ驚くよね。


「うん。いじめてくる子のこと倒してたら、みんなから無視されて」

「その時に、話しかけてくれたのが相沢だったの」


「そうなんだ、やっぱり相沢は誰にでもそうなんだ」


「それが嬉しくて沢山話してたら、相沢が急に彼女出来たって話してきて。すごいショックだったけどしょうがないって思ってた」


「今と変わらなそうだね」

中村さんは寂しそうに笑う。


「私も告白したかった……。だけどね。その彼女、私のことをいじめてた一人で」

「私のことを傷つけるために付き合ったって、相沢のこと好きでもないって簡単に振っちゃって」

「相沢それですっごい傷ついて、性格も少し変わっちゃった気がする」


「……そっか」


「私のせいで、相沢を傷つけちゃったから……」


涙がまた出てしまう。

初めて自分の本音を話せた気がする。


「でも私は、三浦さんが告白しちゃいけない理由じゃないと思う」


「え?」


「だって悪いのはいじめてた子で、相沢も巻き込まれたけど三浦さんは悪くないよ」


「でも私、相沢を傷つけた」


「三浦さんじゃないよ」


「……。」

そんな事を言われるなんて。

言葉が出ない。


パーンっと傷に平手打ちをされる。

「あぁー!痛っーー!」

痛い!なんて事をするんだ。


「私も相沢と付き合ってた時、あなたのことめちゃくちゃ邪魔だったからその分」

中村さんは、にこりと笑う。


「あまりライバルを増やしたくないから、これで終わり」

「なんとなく理由はわかったから、もう大丈夫」


「ひどい……」

涙目で中村さんを見る。


「彼女からすれば幼馴染なんて邪魔でしかないんだから、当たり前でしょ!」

「これでも私は譲歩してた方よ!」


「譲歩って、勝手に自爆したくせに」

中村さんに睨まれる。


「それで?あの二人いつ頃別れそうなのよ」


「別れないと思うよ……。それ見て私逃げたんだし」


「そっか。残念」


「中村さんは、まだ相沢を好きでいるの」


「今はね、他に好きな人も出来ないから」


「今は?」


「少しだけ諦めもついてきたからさ」


「そっか……」


「もしあの二人が別れたら、教えてよ」

「どうせ三浦さん告白しないんでしょ?」


「うー……」

素直に教えるのは、なんとなく嫌だった。


「治療代」

中村さんが片手を差し出す。


「でも私だって、相沢とは関わらないって言っちゃったから」


「わかったらで良いから、無理に知ろうとしなくて良いよ」

「どうせあの先輩なら、別れたらあなたにメッセージ送るでしょ」


そう……かな?

「わかった」


手当ても終わり話すこともないので、今日は帰ることにした。

玄関まで移動する。


「家近いんでしょ、気をつけてね」


「……今日はありがとう」


「たまたまだから」

「またね」

パタンと玄関を閉められる。


またね……。


手のひらの絆創膏をみて、少し私は嬉しくなった。

初めて隠してた本音を全部人に話した。

奇妙なことに友達でもなければ、私が好きな人に振られた元カノだ。


サバサバとした会話なのに、少しだけ優しい気持ちがそこにあった気がする。

不思議な感覚だった。


-翌日学校昼休み・相沢透-


三浦の様子が最近変だ。

よく走ったり、急に黙ったり。


今日は黙ってる。


昼休み昼食を食べようとパンを出す。

ガタっ。

後ろの席の三浦が弁当箱を持って、どこかに行ってしまった。


!?


おかしいぞ。

今まで、自分の席からテコでも動かなかったのに。


でも、わざわざ見に行くのはダサいしなぁ。

気になる……。


-放課後図書室・相沢透-

最近は放課後、先輩の部活が終わるまでの時間を図書室で潰していた。


勉強は好きだ。

授業に関係のない事なら特に。

一冊の本を手に取り席に着く。


普段なら読みふける本も、今日はページをめくるだけだ。

「珍しいね!集中してない感じ」

澤愛が楽しそうに話しかけてくる。


「気になることがあってね……」


「恋多き旦那は大変だね」

メガネをすちゃっと、直し楽しそうだ。

この前はあんなにつまらなそうにしてた癖に。


「違う、幼馴染が変でな」


「変って?」


「帰り道で急に走り出したり、無視したり、今まで自分の席で昼飯食べてたのに急にどこかに行ったり」


「あー、それはね?」

「いやでもなぁ!言っちゃったらなぁ!」

誰か遊べる人、いじれる人を探してるような。


「声大きいぞ、全く」

めちゃくちゃテンション高いな。


そんなツッコミをものともせずに、にんまりと笑う。

「相沢くんはー、その子のこと気になってるの?好きなの?」


「ただの幼馴染だよ」


「じゃー気にしなくて良いじゃん!別にどこの誰かとご飯食べようが!」


「誰って?」


「素直じゃない相沢くんには教えなーい」


「良いよ別に」

どうせ三浦のことなんか知らないしと、読んでない本を捲り始める。


「えー!つまんなーい!恋バナしようよ!恋バナー」


「はぁ!たまんない!放課後呼び出され!突然の告白。恥ずかしくなってその場で逃げ出してしまう彼女!」

「しかし、走り出した恋はもう止まらない!『今日一緒にお昼たべない?』そう言って誘い出し、突然咲き乱れる恋の花」


「待て待て待て、三浦に彼氏!?」


「あ、三浦ちゃんって言うんだ。しかもやっぱり女子」


あ。

やられた。


「楽しいね!楽しいね!」

澤愛はご満悦だ。


「うるさいぞ、本を読むからあっち行ってくれ」


「相沢くん彼女いるのに幼馴染のこと気にするんだ」


もう勘弁してくれ……。


-放課後部活終わり校門前・相沢透-

疲れた、というかウザい。

あれから延々と、澤愛脚本の恋愛ドラマの設定を語られた。


「はぁ」


「お待たせ!」

葵先輩がやってきた。

「どうした、少し疲れてそうだが」


「大丈夫です、大したことないんで」

いかん、澤愛ワールドがまだ抜けてない。

片手で目を擦り、少しだけでも疲れを飛ばす。


「毎回ありがとう、帰ってもらっても良いんだぞ」


「先輩は一緒に帰りたくないですか?」


「帰りたいって言ったら、君は待つだろ!」

「そう言うところズルいぞ!」

先輩は笑う。


「そう言えば」

「透に話さなきゃいけない事があるんだ」


「どうしたんですか急に」

先輩がそんな事を言うなんて珍しい。


「その……、なにがあっても私を嫌いにならないでくれるか?」


「なにがって……。なにかあったんですか?」

ヒヤリとした感覚が胸を伝う。


「……。嫌いにならないでくれるか?」


「わかりました」


「その、実は三浦くんと喧嘩したんだ」


三浦と喧嘩?

さっきの問いかけで不安が頭の中をぐるぐるしていた。

それに比べればと少し安堵してしまう。


「大丈夫ですよ、何があったんですか?」

珍しいことばかりだ、先輩はあの遥先輩とも喧嘩になりもしなさそうなのに。


三浦と喧嘩?


「その三浦くんの秘密のこともあるから詳しくは話せないんだが」

「いろいろあって言い合いになってな、もし三浦くんの様子が変だったら気にしないでくれと、伝えてくれないか?」

「三浦くんのことを傷つけてしまったから」


三浦を傷つけた。

でもきっと葵先輩がしたことだ、傷つけようとして傷つけてしまった訳じゃないだろう。

「もしかして昨日ですか?」


「そうだ……。やはり変だったか?」


「少しだけ」


「……そうか」


「まぁきっと大丈夫です、わかりました」


少しの沈黙。

「透?私のこと好き?」


「大好きですよ」


「……ありがとう」


「今度の土日どちらか親のいない日はあるか?」


「はい、土曜なら」


「じゃあ久しぶりに透の部屋で会いたい」


「嬉しいです」


-翌日学校昼休み・三浦梓-

はぁ……。

相沢と関わらない宣言。

結構きついな、今まで普通にしてたけど。


意識すると想像以上に寂しい。

昨日は中村さんと昼ごはんを食べていた。

事情を知ってる唯一の人物。


ただ、中村さんも友達と食べるから毎日は無理だと言われてしまった。

今日は一人。


うぐぐ。

私にも、お昼を食べるくらい仲のいい友達がいれば。

「三浦?」

ぐでんとしてると相沢に急に名前を呼ばれた。

びくっ!としてしまう。


「な……なに?」


はぁ、とため息をつかれる。

「逃げるなよ……」


「……え?」


「先輩と喧嘩したんだって?」


喧嘩?あれって喧嘩になるんだ。

「そうかも」


「先輩から気にしなくていいって」

「それだけ」


「……気にするなって何のこと?」


「俺も深くは知らない、三浦のこともあるから深く話せないって言われてさ」


「そっか」

良かった、好きって言った事は聞いてないみたい。


「急に無視するのやめろよ……。寂しいだろ」

なんかそのセリフ前に相沢に言った気がする。


「ご……ごめん」

相沢と関わらないなんて、きっとできない。

気にしないでってそう言うことだろうか?


「珍しいな、お前が喧嘩なんて」


「別に、私は喧嘩と思ってないし」


「ごめんな、あの時三浦を追いかけられなくて」

追えるわけないだろ、彼女待ってたんだから。


「大丈夫」


「その手、大丈夫か?」

手につけた、絆創膏を気にしてるみたいだ。


「大丈夫」

転んだだけだし。


「他にも最近なんかあったか?」


他にも?手のひらの絆創膏を見る。

うーん、でもこれじゃないだろう。


「……特に」


「なら良かった」


???


先輩と喧嘩したのに、一体何言ってるんだこいつは。


-その日の放課後・清水葵-

パーン!


「ふっふっふ!」


ピっ。

優がストップウォッチを押す。

「お疲れ」


「はぁはぁ……」

「タイムどうだった?」


「記録会より1.5秒遅いかな」


「……そうか」


あれからと言うものタイムも伸びなくなっていた。

「んー!上手くいかんな!」


「まぁまた怪我したら元も子もないし、無理しちゃダメだよ」


「わかってる」



グラウンドの隅に置いた水筒を取り、水を飲む。

「ぷはぁー!」


ふと校舎の窓を見ると、廊下を透が女子と歩いている。

後ろ姿しか見えないが、背が低く、髪の毛が長い。

夏織さんでも、三浦くんでもない。


どうやら本を抱えているようだ、女子と話しながら呆れた顔をする透。

あんな表情は初めてみた。


彼の周りの女の子は、みんな背が小さいな。


水筒に反射した自分を見る。


少しだけ、少しだけ確認するだけだから。

私は校舎へと吸い込まれてしまう。


スパイクを脱ぎ上履きに履き替える、運動着のまま透を追いかける。


-廊下・清水葵-


確かここを通って。


「あれ?先輩?」

図書室の前に透がいた。


「いやぁ!偶然通ってな!」


がらがらと図書室の扉を開けて先ほどの女子が出てくる。

「あれ?この人が例のパイセンですか?」

その女子がニヤニヤと笑う。不快な笑顔だ。


「そうだけど」

例のとは彼女のことだろうか。


「そっか〜、澤愛瑠花って言います!相沢くんと同級生の図書委員です!」

きゃぴっと効果音がつきそうなピースを目の横で作る。

ザ女子高生といった印象だ。


「あぁ、澤愛くんだねよろしく」


「心配しないでくださいね!ただの図書委員の手伝いしてもらってただけなんで!」

にこにこと笑顔を振り撒く澤愛くん。


ちょこんと私の耳元に近づいて小声で囁く。

「でも……相沢はめっちゃモテますから、気をつけないとですよ」

ニシシと笑う、まるで狐や狸に揶揄われてるようなそんな気持ちになった。


「わかった、心得とくよ」


「楽しいね!楽しいね!」

澤愛くんは、透の手を取りぴょんぴょんと跳ねる。

身長の問題だろうか、きっと私がああしても可愛くはなれないな……。


「お前は全く」

透は呆れ顔だ。


澤愛くんは、透の手を握りながらじっと私の姿をみた。

「背が高いと陸上で有利そうですね!歩幅も小さいより大きい方がよっぽど良さそうですしね!」

澤愛くんはそう言う。

なんなんだこの子は、人の触られたくないところをギリギリで触れないような物言いだ。


「……確かにそうだな」


「透、いつまでその、彼女の前で手を握ってるんだ」


「す、すいません。ほら澤愛!」


「気にしないでって言ったじゃないですか〜」

小言を言われても澤愛くんは、にんまり笑顔だ。


透も澤愛くんを睨む。

「今日は別の場所で待つから」


「え〜!図書室行こうよ!いつもみたいに時間潰そうよ〜!」


-放課後部活終わり・清水葵-

「すまないね、また待たせてしまって」


「いえこちらこそ、さっきは澤愛がすいません」


「いや、彼女とは仲が良いのか?」


「いえ、時間潰すのに図書室にいるとちょくちょく絡まれて。いつもあんな感じです」


「随分と親しそうに見えたから……」

嫉妬なのだろうか。


「そんなことはないですよ、葵先輩が嫌なら今後は話しません」


「いやいや!そんな権利私には!」


「ありますよ、だって恋人なんですから」


「……そう言うものなのか」

恋人の為に何かを犠牲にするなんて、よくある話か。

過去振り返れば、中村さんも部活を辞めたらしいからな。


「じゃあこれからは、澤愛とは話しません」


「そんな!」


「僕が葵先輩を不安にさせたくないからです」


「……そうか、ありがとう」

今思い返せば、私はずっと透に我慢をさせてるのではないだろうか。

帰りにこんなに待たせて、きっと夏織さんより会える時間は少ない。

「申し訳ないな、私ばかり」


「先輩ばかりじゃないですよ、僕も同じ気持ちです」


「今度の土曜日はたくさんしよう」

そんな言葉に透は笑ってくれた。


-翌週部活終わり・清水葵-

今日は透がバイトの為一人で帰る。


部活も休まずに頑張っていたが記録は横ばいだった。

体力も戻ってきた。フォームも調整している。

きっと結果がついてくるのはこれからだ、と自分に言い聞かせていた。


とぼとぼと歩いていると校門に一人女子が立っていた、遥だ。


「記録会ぶりじゃないか、どうしたんだ?」


「葵、タイム伸びないね」


分かってるよ、私が一番。

「そ、そうだな。自己ベストもまだ超えれていないんだ」


「男に浮かれてるからじゃないの?」

腕を組みフンっと吐き捨てた。


きっと遥は私になら何を言っても良いと思ってるんだろうな。

「そんな言い方無いじゃないか……透がいても練習をサボったりはしてない。これが私の実力だ」


「私の実力って!二人で全国目指そうって!私その言葉本気で信じてたのに!」

「怪我して!夏休み中練習できません?そんなんじゃ全国なんて行けるわけないでしょう!」

「練習出来ない内に彼氏作って!本当に腑抜けてる!」

「あの彼氏も葵の弱味につけ込んで、さいってー!」


「……。」

握った拳が震える。

いくら遥だからって私にも限度がある。

「そんな言い方をしないでくれ!!」

人生で初めて人のことを言われて怒鳴った気がする。

涙が頬を伝う。


私の事はいくら言われようが構わない。

だけど透のことを言うのは違うだろう。


「な……なによ怒鳴って、私間違ったこと言ってる!?」


「私が怪我をしたのも本当だ、私が全国に行こうと言ったのも本当だ」

「だけど、遥は関係ないだろ!なんでそんなに私を傷つけるんだ」

「そんなに……そんなに悪いことを私はしたか?」


遥のことがわからない。

同じ部活に私より速い子がいて目標にしていた。

だから一緒に高みを目指したくて頑張ろうと思った、ただそれだけなのに。


「彼氏なんて、彼氏なんて作っちゃったら」

「部活に集中出来ないじゃないの!」


「そんな馬鹿な話はないだろう!私は透がいなければきっと頑張れなかった」

「透がいなければ、もしかしたら陸上を続けられなかったかも知れないのに!」


「……私じゃ、私じゃダメだったの?」

私?一体遥は何を言ってるんだ。


「その役目、その辺の男じゃなくて!私じゃダメだったのかって聞いてるのよ!」


「そんな、私を追い詰めることばかり言って。挙げ句の果てには部活までやめて!遥になんの役目があるんだ!」


「私だってずっと葵の事支えたかったのに……」


「遥は真逆のことばかりしてたじゃないか!」

いつの間にか私が遥を責めてしまっていた。


「ごめんなさい……私ずっと葵のこと好きだった。今も好きなの」


「私だって遥のことは好きさ、でも今の遥は何を考えてるか分からない」


「違う、私の好きは……葵が彼氏を好きなのと同じ好きなの……」


「え?」


私は戸惑った。


「でも私達は女性同士じゃないか……」


「分かってるよ!」

一言だけ吐き捨てて、遥はなんにも言わずに走り去ってしまった。

もう、なにがなんだか。

考えることが多すぎる。


……疲れたな部活。


-独白・西島遥-

私はきっと悪い人だ。

人を見下して、出来ない奴らをサボってると罵った。


中学から続けていた陸上を高校でも続けていた。

中学は三年の最後に県大会に200mでベスト8に入れるくらい速かった。


高校に入っても周りは、私より遅い。

練習を真面目にしないからだ。


気に入らない子はぶっ飛ばしてやる、くらいの勢いだった。

そんな私に友達ができた、同じ200mの選手背が高いのに可愛い顔立ちで。

私のことをよく褒めてくれて、私のことを凄いと尊敬してくれた。


いつしか私は、彼女の明るさに惹かれていった。

無理だと分かってる、だって女の子同士なのだから。


彼女が二人で、全国に行こうと言い出した。


今の私たちが、二人そろって全国へ行くなんて、夢みたいな話だった。

大体私ですら行けてない、彼女も地区予選止まりだ。


しかし私のアドバイスもすぐに取り入れた彼女は、メキメキとタイムが上がる。


このままなら、県大会くらい普通に行けるだろう。


全国の壁は厳しい。

それは私が一番分かってる。

だけど彼女となら、もし全国大会に行けたなら。


もしかしたら……。

もしかしたら、彼女と付き合えるかも知れない。


してもいない約束に心躍った。


高校二年生大事な時期だった。

夏休みは、一番練習ができる時期だ。


彼女は怪我をした、無理をしすぎたみたいだ。

私は泣いた、彼女の方がよっぽど悔しいはずなのに。

そう思っていたが止められない。


しかし、夏休みが終わり私は知った。

彼女は男の子に告白をしていた。


彼女の好きな人は男の子。

そんな当たり前に私は走れなくなってしまった。

なんのために走れば良いか、私にはもうわからない。


どうか神様、葵を返して。


-翌日部活終わり自宅前・清水葵-

今日はバイトのない透が家まで送ってくれた。

「なぁ、透」


「なんですか?」


「もし私が陸上を辞めると言ったら、軽蔑するか」


「しません、先輩が決めたことなら」


「そうか、良かった」


この先の言葉を言ったら、言ってしまったらきっと何かが。

なにかが壊れてしまう。

そんな気がしていた、だけどもう限界だ。


遥に罵られ。

透に甘える。


競技者としての自分に目を瞑り。

甘えてしまう自分に嫌気がさしていた。


「なぁ、透。大好きって言ってくれないか?」

まだどこか未練があるような気がしてたまらない、自分の気持ちを誤魔化すための。

そんな質問。


「大好きです。きっと葵先輩が僕を思うよりずっと大好きです」


「良かった。嬉しいよ」

「透といると、タイムが戻らなくても、もういいかと思ってしまうんだ」

「でも、そんなふうに思う中途半端な自分も嫌なんだ」


「そうですか……」


「私陸上辞めようと思う」

きっとまだ私は走りたい、そんなはずなのに。

疲れてしまった。


-葵先輩自宅前・相沢透-


「私陸上辞めようと思う」


どことなく感じていた、記録会からずっと。

葵先輩の焦り。

俺は口では諦めない姿を応援していた。

けれど、きっと葵先輩の心の傷までは癒やせなかった。


あーーー!嫌だなーーー!

このまま『分かりました』と言えれば。

きっと、夏織の時のように先輩は部活を辞めてくれる。


そして葵先輩と一緒にいられる。


あーあ!俺こんなに大好きなのに。

ずっとずっと先輩と一緒に居たかったのに。

悔しいな、悔しいよ。


分かってる。

分かりましたって言えば。言えれば。


『無理だ』。



このまま逃げるなんて、きっと葵先輩が一番したくない事だ。

こんな時ばかり人が何を求めてるか、なんとなく分かってしまう。


三浦にも怒られたから。

話し合うって決めたのに。



分かってる。

言いたくないんだ、結果なんてわかってるから。

でも好きだから。

葵先輩が大好きだから、言わなくちゃ。


「俺といるために陸上を辞めたら、先輩はきっと後悔すると思います」

「……でも、それでも俺といたいなら、追いかけてきてください」


「急になにを言ってるんだ?」


固まる先輩に笑顔を向ける。


「今悩んでる先輩も、全部全部先輩なんです」

「陸上が好きな先輩も、俺と居たい先輩も」

「だけどきっと俺と一緒だと先輩は後悔する、だから追いかけて来てください」


「……待ってくれ透」

力なく呟く葵先輩。


「どっちを選んでも大丈夫です」

「大好きです。先輩」



ゆっくりと歩き出す。

決して振り返らないように、俺多分凄い偉いのに。

……こんなに自分の気持ちを殺して。


それでも先輩のこと大好きだから。


とぼとぼと歩く。

陸上の選手だろ、こんなにゆっくり歩いてるんだ。

すぐ追いつけるだろう。

……なんで、なんでだよ!


分かってたのに。

こう言ったら終わってしまうって、分かってたのに。



もうすぐ家に着いてしまう。

あぁ。

着いたらきっと認めなくちゃいけない。


ぴこん。

メッセージが届く。


「大好きだったよ透。ありがとう」


分かってた、分かってたんだ。

あんな言い方したら無理だって。

分かってるけど、分かってたんだけど。

大好きだったから。


空を見上げる。

秋のまるで透き通るような、冷たい夜空。

綺麗だな。

こんな綺麗な星空だと疲れちゃうな。


羨ましいな。

誰かが側で泣いてたら、俺は放って置かないのに。

今の俺には誰もいないや……。


メッセージを打つ。

「俺も大好きです」


二人で大好きと送り合い。

俺の二番目の初恋は終わってしまった。


-九話終-

登場人物まとめ

相沢透 主人公

身長165㎝ A型

帰宅部

好きな人 清水葵

好きなもの RPG 甘いもの

嫌いなもの 特に無し


三浦梓 相沢の幼馴染

身長152㎝ A型

帰宅部

好きな人 相沢透 店長

好きなもの RPG 和菓子

嫌いなもの 自分の過去


中村夏織

身長163㎝ B型

元演劇部 二番目の相沢の彼女 破局

好きな人 相沢透

好きなもの 安心

嫌いな人 清水葵


清水葵 二年生

身長173㎝ B型

相沢の高校三番目の彼女 破局

好きなもの カレー 家族 陸上

嫌いな人 勝負する前から諦める人


西島遥 二年生

身長168㎝ 元陸上部 AB型

好きな人 清水葵

嫌いな人 相沢透

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