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初恋はきっと何処かで嘘をつく。[八話]

夏織との話し合いでも、透の別れる意思は変わらなかった。三浦は清水先輩に連絡し、二人で話す機会を作る。


透の弱さを受け止めた葵は再び告白し、二人は恋人になった。


迎えた文化祭。

透と清水先輩が仲睦まじく過ごす一方、三浦は透との距離に寂しさを感じていた。

そんな中、準備を通じて距離を縮めた綾香と坂本も、交際を始める。


放課後、夏織の恋心と失恋の苦しさを知った三浦。

しかし、そこへ透と葵が現れると、夏織は嫉妬から嫌味を口にしてしまう。後悔して泣き崩れる彼女を、三浦は「嫌いだけど、その苦しい気持ちは分かる」と抱き寄せた。

サブタイトル

[好き好き大好き]


-非常階段下の会話後・清水葵-

非常階段から逃げるように、私は透に手を引っ張られていた。


「待ってくれ!少し話がしたい!」

止まらない透の手を振り払う。


「なんですか?」


「……その、夏織さん?とどこまで行ったのだ」


聞きたくない、が。

あんなことを言われては気にするなと言う方が無理だろう。


「葵先輩は、それを聞いて俺のことを嫌いにならないですか?」


「あぁ!ならないさ。ただあそこまで言われたんだ少し気にはするよ」


「きっと先輩が考えてる、全部です」


「……そうか」

覚悟はしていたが、物凄い不快感だな。

何かが込み上げてくるようだ。


「じゃあ、ごめんなさい。あの場所まだきっと三浦達いるだろうし二人きりは……また今度で」


「待ってくれ!じゃあ今日はその、家に行っても良いか?出来れば部屋に」


「無理しないでください、記録会あるじゃないですか。しばらくはそっちに集中しないと……」


俯く彼から寂しさを感じてしまう。

ああ、ごめんな。

透は本音を隠すのが上手いな。


再び透の手を握る。

「夏織さんと競ってる訳じゃないんだ。なんとなく、なんとなくなんだが」

「透に安心してもらえるように証?みたいなのを渡したくて」

夏織さんだったらきっと、放課後会っていただろう。


突然、透は泣き出してしまう。

「な!なんだ!悪いことでも言ってしまったか?」


「いえ、嬉しくて。本音をなんとなく汲み取ってもらえた気がして……」

ガバッと抱きつかれる。

「本当に俺で良いんですか?」


「ああ、君だから良いんだ」


「本当に俺、先輩のこと傷つけると思います」


そう言う透を私はもう一度抱きしめた。


私は部活をサボった。

二人手を繋いで歩く帰り道。


一気に色々と初めてが押し寄せて来てしまうな。


-相沢自室・清水葵-


私の初めては無事終わった。


「大丈夫ですか?先輩」

優しく私を抱き寄せてくれる。

そんな、透の背中をさする。


これで少しは夏織さんに近づけたかな。


おへその裏がまだジンジンとする。

部活サボっちゃったなぁ……。


「本当に大丈夫でした?」

もう一度たずねてくれる。


そして透はいたずらに微笑む。

憎たらしいな、可愛いやつだ。


「今だって頑張って痛みに耐えてるんだ、またキスをして少しは和らげてくれ」


私の肩に両腕を回し、キスをする。

ああ、綺麗な顔だ。

まるで私より女の子みたいだ。


その日、透が家まで送ってくれた。

初めての午後九時前の帰宅。

家族みんなに、茶化された。


今までモテないなどといじられていたのに、こんなことがあれば手のひらを返す。


彼氏はどんな奴だとか、兄達からの事情聴取が心地いい。

「あおい!写真見せろよ!」


「写真かぁ、まだ撮ってないんだ。今度出かけた時に撮ってくる!イケメンだぞ!」


「うっそだー!」

家族みんなが笑ってくれる。

私の初めてが祝福されてるように感じて、嬉しかった。


が!

私はその後、三日ほど走れなかった。

じんわりと痛む、初体験恐るべし。

透は気を使ってくれてたのに……。


-自室・相沢透-

良かった。

葵先輩は俺のことわかってくれた。

初めての感覚だった。


初めて……。

俺が喜ぶ事を先回りして考えてもらえたような。

綾香や、夏織の時と違う、言わなくても考えてもらえた。

そんな気がした。


でも、このままじゃダメだ。

察してもらう。

それだけじゃダメなんだ、ちゃんと自分の気持ちを言わないと。

俺はひたむきな先輩を支えたい。


俺も先輩の為にちゃんと変わらなくちゃ。


これが本当に好きってことなのかもしれない。


-翌日和菓子屋漆戸・三浦梓-

「なぁ、なぁって!」


「うるさいなぁ……」

客間でくつろぐ私は、珍しく相沢から質問攻めを受けていた。


「なんで夏織とあんなところで話してたんだよ」


「たまたまなんだって、本当にたまたま会って」

もう……。

たまたまとしか言えないだろ。


「なんか三浦、最近秘密多いよな」


「別に!秘密なんてしてない!」


「おやおや、珍しく喧嘩かい?」

奥から店長が出てくる。


「すいません、バイト中に」

相沢が謝る。


「そうだぞ!そういうことはせめて学校で話せ」


「まぁまぁ」と店長は戻って行った。


もぅ。大体なんて言えば信じるんだよ。

階段下で寝てたら、中村さんに起こされて?

吉田さんの告白を見届けたら。

急に相沢達がやって来たって?

無理だろ、信じる訳ない。

本当に偶然なのに。


「夏織なんか言ってた?」

ボリュームを抑えて、相沢が聞いてくる。


「いろいろ言ってたよ」

「相沢のこと諦めてないってさ」


「そっか」


「そっかじゃないよ!どうすんだよ!中村さんのこと」


「俺はもう何も言えないだろ、ちゃんと期待されても困るって言ったぞ」


そうだよな、ちゃんと相沢は振っていた。


「なんかでも、夏織庇うの三浦らしいよな」

「あんな嫌い言ってたくせに」


「今も嫌いだぞ」


「そう言うところだよ」

そう言って相沢は優しく微笑んだ。

最近少し、緩く笑うようになった気がする。

もしかしたら、先輩の影響?


「お前それより、記録会行くのか?」


「行く」


「先輩に帰れ!とか言ってた癖に」


「違う!あれは相沢に言ってただけで!」


「まぁいいや十月半ばだって忘れるなよ」


「わかったよ」


-四日後部活・清水葵-


パーン!

「ふっふっふっふっ……」


「あーおーいー!だいぶタイム戻って来たよ!」


「ハァハァ……」


練習をしたくても体力もまだ戻らない。

みんなこの夏だいぶ先へ行ってしまった。


「ありがとう、優」

タイムを測ってくれたのは冬木優子(ふゆきゆうこ)陸上部の同級生。


「すごいねー、ギプス外したばかりなのに。三日目くらいはボロボロだったじゃん」


「ははは」

ボロボロだったのは別の理由だ、乾いた笑いを返してしまう。


「彼氏また待っててくれてるの?」


「いや今日はバイトみたいだ」


「年下でしょ?いいね理解のある彼君!うらやまー」


「元陸上部だからな!それより結局遥は戻ってこなかったのか?」

西島遥(にしじまはるか)九月ごろ部活を辞めてしまった同級生、私より速い言わば目標のような存在だった。


「戻ってないよ、まぁ気にすんなって」


「そうか」


「それより彼氏のこと聞かせてよ」


「今は部活中だぞ!また今度詳しくな」


もう一度元の位置へ戻る。

手首をリラックスさせ、スタート位置につく。

髪……少し伸びたな。


パーン!

いくら必死に走っても、私のタイムは怪我の前には戻らなかった。


-翌日放課後帰り道・清水葵-

部活終わり。

私は透と二人で帰っていた。

陽も落ちて、周りも薄暗い。


変わらないタイムに少し焦っていた。

「先輩?なにかありました?」


「いや、あんまりいいタイムが出なくてな」

「なにかスランプを抜ける方法とか、なにかないか?」


「僕は跳躍競技だったのでフォーム変えたりとか、力の入れ方とか、ですかね?」

「でも先輩は体力戻すところじゃないですか?」


「そうだな」

ギプスも外れて間もない。

体力が戻るまでゆっくりと、ゆっくりでいい。


「先輩?キスします?」


「え!?こんな公道で」


「いや、したいなって思って」

いたずらに笑う、透が可愛い。


「わかった」

私はダメだと思ってしまう時に透は私を求めてくれる。

ありがとう。


「先輩、無理しないでください」


「あぁ分かってる、ありがとう」


そこから記録会まで、私は必死に努力した。


-放課後図書室・相沢透-

先輩と一緒に帰る為、図書室で時間を潰す。


「あらー?なんか良いことあったんじゃない?」

澤愛だ、絡まれるのもわかっているが放課後帰宅部が黙って座れる場所もあまりない。


教室では周りの目が気になる。


ぼーっと座ってても変に見られない図書室が一番楽なのだ。

澤愛を除けば。

「あぁ、あったよ」


不思議と素直に認められた、夏織、綾香の時と違いきっと俺が先輩の事を好きだからだ。


「つまーんなーい!」


なんなんだコイツ。

恋バナしようとか散々言ってた癖に。

「今の彼女好きなんだ」


「ああ、好きだよ」


「私が前に言ったこと覚えてる?」


『好きな気持ちが大きい方が傷つくんだからさ』


「覚えてるよ」


「大体虫がいいよなぁ!中村夏織さん、吉田綾香さん散々女の子傷つけて自分は今好きな人と付き合えてますだってさ!」


「本当にその通りだよ」


澤愛に睨まれる。

「つまんなくなったね、相沢君」


-放課後帰り道・相沢透-

「もう直ぐですね、記録会」


「あぁ、頑張ってるぞ!」

葵先輩はぐっと力こぶを見せる。


「大好きです」

澤愛にボロクソ言われたせいなのか。

今まで怖くて自分から言えなかった言葉がポロリと溢れた。


「い、いつも君は急だな!」


「すいません……」


「私も大好きだ」


「ありがとうございます」

こんなに好き好きと言い合っているのに、言葉にならない不安が残る。


一体俺は何をこんなに焦っているのだろう。


-記録会当日・清水葵-


よし!やれるだけの事はやった!

記録会へ向かうバスにのる。

学校で予約したバスの為、陸上部で貸切だ。


「はぁ!いつになっても慣れないわぁ!」

優は楽しそうだ。

「私もいい出会いあるかな!?陸上部カップルとか憧れる」


「楽しそうだな、優は」

変なとこに期待している優に笑ってしまう。


「そう言う葵は彼氏来るんでしょ?まじ羨ま」


「へへへ」


「なーに!笑ってんのよ!」

ガバッと羽交い締めにされる。

「痛いよ優!」


「えー!先輩彼氏来るんですか!」

「どんな人なんですか!」

後輩も大騒ぎだ。


「ほ……ほら!優が大きな声だすから!」


「年下の彼氏なの!」


「年下!?」

「意外ですね!」


「もう!」

はちゃめちゃなバス内は、事情聴取に使われた。


-記録会当日・三浦梓-

うげー。

土曜の朝だってのに、こんな早く起きるなんて……。

日差しで溶けてしまいそうだ。

駅前に着くと、先に相沢が待っていた。

「おはよう」


「おはよー……」


「元気よさそうだな」


相沢の軽口をスルーして電車に乗る。

電車内はそこそこ人が居て、二人で並んでは座れない。

相沢が立っていたので、なんとなく私も隣に立つ。


「お前、陸上なんて興味あるのか?」


「いや、清水先輩の頑張ってるところ見たいから」


「そうか」

相沢は嬉しそうだ。


がたんと揺れる電車に体勢を崩す。

「おっ」


パシっ。

「大丈夫かよ」


相沢が手を掴んで支えてくれた。

「……大丈夫」


ほらちゃんと持っとけ。

相沢は自分のリュックを掴むよう言ってくれる。

「わ……分かった」

ぎゅっとリュックを掴む。


これじゃあ、まるで小学生だ。


がたん!

「うわっ!」

相沢の胸にぶつかる。

すると相沢が肩に手を回してくれる。


「やたら揺れるな、大丈夫か?」


「大丈夫!」

気持ちでは振り払ったつもりだった。

だけど私はしなかった。


-記録会会場観客席・相沢透-

久しぶりの空気だ。

秋の澄んだ空、グラウンドの乾いた空気。

晴れて良かった。


「あー日差しが強い、もう十月だぞ……」

全く、三浦はまたぶーたれてる。


先輩の種目は200m、午前に予選を行い。

午後に決勝。

上位者二名もしくは記録タイムを超えてる者のみで決勝を行う。


「もうそろそろだな」


トラックに走者が集まる。

「あ!あれ清水先輩じゃない?」

先輩に向かって三浦が手を振る。

隣に座ってた女性がチラッとこっちをみる。


「流石に気づかないだろ」

ユニフォームに身を包み。体を伸ばしている先輩がいた。


そんな先輩を見守る俺ら二人と、見知らぬ女性がもう一人。


先輩の勝負が始まる。


-200m予選・清水葵-

レース本番、体を伸ばす。


スターターをセットする。

いち、に、さん。

歩数を合わせ、スタート姿勢に。


大丈夫。


スタート位置に戻り少し、ぴょんぴょんと力を抜く。

ポッケから髪留めを取り出し、少し伸びた前髪を留める。


ぱちん。

髪留めの音でスイッチが入る。


よし!


オンユアマークス、セット!


パーン!

紙雷管がなる。


「フッフッフッ……!」


大丈夫、焦るな。

周りのペースに巻き込まれるな。


前の自分を超える。

それだけを目標に。


100m経過。

スタートからみんなほぼ差は開かない。


いける!

残り50m。


ラストスパート。

突然前に人が現れた。

負けない!


ぐんぐんと伸びる先頭に必死に喰らいつく。


……ああ、追いつけない。


ゴール。


結果は六人中、三位。


自己ベストとは行かなかったが。

ギプスを外してからベストタイムだった。

けれど決勝には届かない。


「ハァハァハァ……っつうーー!」

ぐーっと背筋を伸ばす。


頑張った、頑張ったんだ。

だけど、悔しいな。

追いつけなかった。


目の前に追いつけない人が居た、なんて悔しいんだろう。


-記録会観客席・三浦梓-

ぴこん。

清水先輩からのメッセージだ。

「今からそっちに向かうよ」


「今から来るってさ、速かったな先輩」


「……ああ」

相沢は浮かない顔だ。

記録に関して、私は良く分からない。

あまり良くなかったのだろうか。


こつ。こつ。

先輩がやって来た。

ユニフォームに上着だけ羽織ってる。

えろい。


「お疲れ様です、先輩」

相沢がリュックから、凍ったスポーツドリンクを渡す。


どんだけ気が効くんだよこいつ。

それを見て清水先輩も驚く。

「わざわざありがとう!」


「あまりカッコいいところは見せれなかったな、せめて決勝には残りたかったんだが」


「カッコよかったですよ。最後まで諦めてませんでした」

相沢がそう言うと清水先輩が俯いてしまう。

「私もカッコいいと思いました」


清水先輩は顔をあげ笑う。

「二人ともありがとう」


そんな時、急にどこからか話しかけられた。

「ほんっと!ダサい。あんな大口叩いて決勝にも残れないなんて!」


なんてことを言うのだろう。

振り返ると前に清水先輩と揉めてた人がそこにいた。

相沢もキッとその人を睨む。

「見に来てくれてたんだな、遥」


「タイムも全然ダメ、練習してない私より遅いんじゃない?」


かっちーん!

「そんな言い方は!ないんじゃ」

「あなた遥さん?確か部活辞めた葵先輩の同級生の」

途中で相沢が割り込んだ。


「そうだけど、あなたは誰なの?やたら葵と親しいようだけど」


「彼氏です」

遥と呼ばれた人は清水先輩を睨む。


「彼氏なんか作って!うまく行かないからって慰めてもらうなんて」

「がっかりした!全国がどうとか言ってたくせに!ほんっとうに弱い!」


もう!本当こいつは!

「だからって!」

「あなた部活辞めたんですよね」

また相沢が重ねてくる。

なんなの!最近ずっとこんなん!

私も言いたいことあるんですけど!


「部活辞めても、今の葵よりは速いけどね」

また嫌味ったらしく、遥さんは続けた。

くっそー!私も言い返したいのに!

相沢が邪魔してくる。


「仮に遥さんの方が速くても、今走ってる人のことをレースから降りた人がバカにするのはダサいですよ」

相沢が遥先輩を睨む。


うーん、ここは譲るか。

私だったら馬鹿とかアホとかしか出てこない。


「な……なによ……」

あ、効いてるっぽい。


「大丈夫だ、透。遅かったのは事実だからな」

「やっぱり三ヶ月のブランクは大きいな……」


「先輩が最後まで諦めなかったの僕は見てましたよ」

相沢は先輩に笑顔を向ける。


そして遥先輩を見る。

「悔しかったら、部活戻ればいいんじゃないですか?」


「うるさい!あんたには関係ない!」


「だったら、葵先輩が誰と付き合ってるかも、あなたが責めることじゃないですよね」


相沢口喧嘩強いな。

「も!もう大丈夫だから!二人とも、喧嘩はよしてくれ」


「ふんっ!」

遥先輩は帰ってしまった。


「ばーか!ばーか!いー!」

ちゃんと先輩が見えなくなってから、罵倒する。


一方、先輩は。かなり落ち込んでいた。

「三浦くん、悪いけど少し透と二人きりにしてもらっていいか?少しだけでいいから」


「…….わかりました」


そう言って私は自販機に飲み物を買いに行った。


-記録会観客席・清水葵-

「ごめん、重ね重ね見苦しいところを見せてしまった」


「そんなことないです」


「目標は越えられなかった」


「……。」

透は何も言わずに手を握ってくれる。


「すまないな、遥が。きついやつなんだが悪いやつではないんだ」


「大丈夫です……。俺の方こそ少し言いすぎました」


「大丈夫、そんなことでへこたれる奴じゃないから」

気にしないでほしいと、透へ微笑む。

透は目を瞑り私の肩に額を置く。


初めて、キスをしたことを思い出してしまう。

今くらいは甘えてもいいだろう。


私も透の頭に顔を寄せる。

しばらく目を閉じて、この優しさに触れる。


タイムがでなかったこと、遥に罵倒されたこと。

少しだけ私の中で溶けていく。


甘えちゃダメだと、競技者の私が心で訴えてくる。


だけど……。

逆らえない。


「キスしてもいいか?」


「はい」


凍って冷たかったスポーツドリンクのキスの味。

レモンのような柑橘系の甘い香り。

なんて甘い現実逃避。


「写真撮りましょう!」

透がいつもより明るく声をかけてくれる。

気をつかってくれてるのだろう。


「あぁ!」


パシャり。スマホのカメラで写真をとる。


幸せだ。

写真の中の二人はとても笑顔だ……。


-記録会選手席・清水葵-


「あ!あーおーいー!どうだった?彼氏と」

部員達のところに戻ると、優が出迎えてくれた。


「あぁ!ちゃんと見てくれてたぞ!」

二人で撮った写真を見せる。


「あー!」

「ちゃんと見せてよ!」


優は大興奮だ。


「そういえば遥も来てたよ!めっちゃ機嫌悪そうだったけど」

にひひ、と優が笑う。


「私も会ったぞ」

気まずくはにかんでしまう。


「その顔なんかあったな?」


「彼氏とね遥が喧嘩しちゃって……」


「なになに?なんかあった?」


私はこれまでの経緯を優子に話す。

「え?遥に言い返したんだ!」

「いい彼氏じゃん!」


「そうだな」

彼氏を褒められると少し照れる。


「彼氏一人で来たの?」


「いや!幼馴染と!」


「え?女?」


「女の子だが……。私が誘ったんだ」


「すごいね葵。普通誘わなくない?」


「いやいや!彼女が彼を紹介してくれたんだ!」


「ふーん……。まぁいいや!私も彼氏会いたい!」


-記録会観客席・三浦梓-

ぴこん。

「今から先輩来るってさ」


「あちー……」


「帰ればよかったろ?」


「うるさいなー……」

ぐでんとしてる。最後まで見るとか言いやがって。

一人で帰るの寂しいだろ。


「透!」


「葵可愛い!下の名前で男子よんでる!」

きゃっきゃっと騒ぎながら、先輩達がやってくる。


「初めまして、相沢透です」


「かっこいいね!私は冬木優子!優って呼んでね!」

まさに真面目系ギャルって感じだ。

私はこういう人大好き。


「クラスメイトの三浦梓です」


「梓ちゃんね!ちっちゃくて可愛い!」

優先輩がぐりぐりと頭を撫でる。


「いてっ。いてっ。」

久しぶりに頭を撫でられた。


「もうお二人は種目終わりですか?」


「そーよ!暇なのさ!」

「相沢くんは葵のどんなところが好きなの?」


相沢の恋人の好きなところ……。

「葵先輩は、俺のことを思ってくれて。甘えさせてくれるところが好きです」


甘える……。

「そ!そんな!破廉恥な!」


清水先輩が慌てる。

「はれんち?」

「待って!葵!どんな甘えさせ方してんの!」


そりゃあ。そうなるな


ちょん。ちょん。

相沢をつついて小声で聞く。

「やっぱり。そーゆーのさせてくれる人がいいの?」


「ばか!お前まで!」

やはり、相沢も男なのだろうか。

中村さんもしてたって言ってたし、最近付き合ったばかりの清水先輩も。

ちゃんと手が早い。


うりうり。と清水先輩がイジられる。

「なーに!したのよー!甘えさせるなんて!お姉さんだからって!」


「も……もう!優!後で話すから」


「じゃあ葵は相沢くんのどこが好きなの?」


「私?私は気がつかえるところとか、可愛いところとか」

可愛い……。


「先輩俺のこと、可愛いって思ってんですね」

少し照れてるようだ。


仲良いな、中村さんや、吉田さんの時より全然仲がいい。


「梓ちゃんは?好きな人とかいないの?」

優先輩に聞かれる。


「私の好きな人……」


「もう!優!誰にでもそういうの聞かないの!そろそろ行くよ!」

冬木先輩は清水先輩に手を引かれる。


「えー!」

「またね!相沢くん。梓ちゃん!」


-帰宅中電車内・三浦梓-

帰りの電車はガラガラだ。

夕方と言うこともあり西陽が眩しい。

帰りは席に座れた。


相沢は目を閉じている。

「なぁ、なぁ?」

相沢の肩を揺する。


「お前こういう時は話しかけてくるのな」

相沢が目を開ける。


「今日はこの後どうするんだよ」


「今日?家帰って寝るよ」

「三浦も疲れたろ」


「じゃなくて清水先輩とは会わないの?」


「部活の後だぞ、また出かけるの疲れるだろ」


「まぁ、そうか」


「日の光浴びると疲れるな」

そう言ってまた目を閉じてしまう。


「何それ、ガチの陰キャじゃん」


相沢のスマホが光る。

二人の写真が待ち受けだ。


「……。」

私も少し目を閉じる。


-???・三浦梓-

「今日俺の家泊まって行かない?」

「母親夜勤でいないからさ」


和菓子屋の帰りに相沢に言われる。

「やる気まんまんじゃん、そんなに私としたいの?」


「あぁ」


「あぁ。って……」


相沢の部屋に着く。

「意外と綺麗だね」


バンっ。

突然ベッドに押し倒される。

「痛ッ!」

「待って相沢!待って!」


上着を脱がされ。

顔を近づけられる。

あ、これやばいキスされる。


「三浦?」

わかったよ。諦めて目を閉じる。

「もう……良いよ?」


「三浦?着いたぞ?」


???

着いた?


「三浦起きろよ」


あれ?起きろってなんだ?


ゴンっ!

頭を殴られた。

「痛い!」


目を覚ますと、最寄り駅だった。

「もういいじゃなくて、帰るぞ」


「うー……」

さっきはあんなに求めてた癖に。

ってあれ?夢?


危うく降り遅れるところだった。

「ふわぁーー!」

大きく欠伸をして伸びをする。

改札を出て家まで歩く。


当たり前のように、相沢は送ってくれる。

前は彼女がいるから断ってたけど。

それも、もう私はしなくなってしまった。


「ありがとう、送ってくれて」


「こっちこそ、わざわざ付き合ってくれてありがとう」

「じゃあまた明後日学校で」


「またね」


私は相沢に手を振る。

相沢も手を振り返し、家に帰る。


電車での夢を思い出す。


良いよって私。

振り終えた手を眺める。


-自室夜・清水葵-

ぴこん。

メッセージだ。

「お疲れー!彼氏くん良い子そうじゃん!」

「今度またどっかで連れてきてよ!」

優からだった。


「連れてきてって言ってもそんな、みんなで会える場所とかなかなかないし」


「良いじゃん、少しくらいお裾分けしてよ!」

お裾分けって。


「機会があったらな!」


透にメッセージを送る。

「今さっき家に着いたよ、明日は会える?」


ぴこん。

「お疲れ様です、会えます」


良かった、ここのところ練習詰めだった。

久しぶりにゆっくりと過ごしたい。


ぴこん。

「そう言えば、梓ちゃん!好きな人いるみたいだったのに!」

「葵が止めるから!」

優からだった。


まだ、三浦くんは透のことを好きなのだろうか。

そうだとしたら、きっと酷なことしてるのかもしれない。

「普通誘わなくない?」優からも言われた。

一度話してみるべきか。


「三浦くん、一度二人きりで話したいことがあるんだ」

「時間空いてる日とかあるか?」

三浦くんにメッセージを送る。


ふー。ベッドに横になり目を閉じる。


ぐるぐると今日の出来事が頭をまわる。

遥に怒られたこと。

決勝に残れなかったこと。


悔しかったな、それでも透の笑顔が浮かんでしまう。

悔しくても、それでも大丈夫なような。

安心してしまう、弱気になってしまう。


別れたくないな。

透がいなくなってしまったら、この悔しい気持ちと向き合わないと。


-自室夜・三浦梓-

ぴこん。

清水先輩からのメッセージだ。

「できれば一度二人きりで話したいことがあるんだ」


どうしたんだろう。

やたら真剣だな。


「放課後なら基本いつでも、バイトがなければ長くも話せます」


メッセージを送り返す。


「わかった!明後日は記録会の後だから部活は休みなんだ!明後日でも大丈夫か?」


「明後日で大丈夫です、私もバイト休みなので」


「じゃあ明後日の放課後非常階段下でお願いします!」



清水先輩はいい人だ。

だけどこの状況自体は、先輩に校舎裏に呼び出されてるようなものだ。


はぁ……。

なんの話なんだろう、少し怖いな。


-二日後放課後・三浦梓-

私は先輩に呼び出され、人通りの少ない非常階段下に向かっていた。

字面だけ見れば物騒なのだが、呼び出してるのは清水先輩だ。


そんなこんなで非常階段下に着く。


「三浦くん!」


パタパタと小走りで清水先輩がやってきた。


「お疲れ様です、話って何かありました?」


「あまり聞きたくないことなのだが、私の中でハッキリさせた方がきっといいだろうから」

もじもじと珍しく煮え切らない。

「……今更の話なんだが、まだ透のことを好きなのか?」


「……。」


「まだ、答えたくないかな」

「私も今は三浦くんのおかげで透と恋人同士になれた」

「なんだ……その……。前とは少し状況が違うから一応確認しておきたくて」


もう……恋人同士だからな。

先輩から見れば私は邪魔者でしかない。


「……好きです」

言っちゃった。

初めて口に出したかもしれない。


「そうか、すまないな」

「今まで無神経だった」


先輩は頭を下げる。


?

これ以上彼に関わるなとかそう言った話かと思ったのに。


「なんで謝るんですか?」

悪いのはきっと私なのに。私は相沢の彼女じゃないから。


「いや……もしかしたら記録会の時も誘ってしまって嫌な思いを、させてしまったのかと思って」


確かに仲の良い二人を見るのも、少しだけ辛かった。

「私は大丈夫です」


「そうか。私はなんとなくみんなで仲良く!みたいな。そんな考えがあるから」

「三浦くんがどう思っているのかわからなくてな」


「私は……」

私はどう思ってるんだろうと俯いてしまう。


「……。これは友人としてのアドバイスなんだが、一度離れてみるのはどうだ?」

「三浦くんは透に縛られてるような、そんな気がして」


「離れて欲しいんですか?」

離れろと言われる気持ちは分かるだって、先輩は相沢の彼女なんだもん。


だけど、私の為と言われたら。

わからない。


「君が傷ついてるのに、私は何も知らずに喜んでいたんだぞ」

先輩の声が、少し強くなった。

「そんな関係は……健全じゃないだろう」

結局私の恋人と関わるなとかいうことなのだろう。

「辛い思いをするだけだ」


「健全じゃない」

私が付き合えるように手回ししたのに、こんなこと言われるなんて。


「先輩も同じじゃないですか!相沢に彼女が居るのに、別れるまで待って!別れたらすぐに告白して!」

先輩だって同じだ!


「そう言われればそうかもしれないが。すまない上手くまとまらなくて……」


私は先輩が相沢と会う前からずっと一緒にいるんだ。

それが彼女になったから、急に距離を置けって!


「私は先輩のために!」


「私は三浦くんのことを心配してるんだ……」

また私のことだ、本当は先輩だって私のこと邪魔だと思ってるんだ!

記録会の時も結局私を邪魔だと思って二人きりになりたいとか言って!


「私が手回ししたからって無理に言葉を選ばなくて良いですよ」

「どうせ私がなにかしなくても、先輩はきっと相沢と付き合えましたし気にしないでください」


「君には感謝してる。そんなこと言わないでくれ」


「そんなことって!私だって邪魔だから離れろって言われたら!」


「邪魔なんて言ってない……」

先輩は目を伏せ、真っ直ぐ私を見ようとしない。


「不健全って!それを言うなら先輩だってずっともっと!」

言いかけたところ先輩に睨まれる。

初めて見る先輩の目つき、これはきっと怒ってる。

「じゃあなんで君は告白しないんだ!私よりもっと長い間透を好きなんだろ!」

「好きなのに、私と付き合うように勧めて、その隣でずっと我慢してるんだろ!」

「私は、それを大丈夫だとは思えないんだ!」


「私は……」


どもる私に、先輩は深呼吸をした。

「それが出来ないから健全じゃないって言ってるんだ!」

体育会系の通る声だ。


「私は……」

また来る。

あの時の女子達の笑い声が。

嫌だ。


「……わかりました」

「相沢とはもう……関わりません」


「違うんだ、すまない。こんな喧嘩みたいな話にしようとは思わなかったのに……」


私は返事をせずに、逃げるように非常階段下から駆けていく。


まただ。

また逃げた。きっと今回逃げたらもう。


もう、相沢のそばにはいられない。


-校門・三浦梓-

みんな!

みんな!私を邪魔だって!

相沢の隣にいる私を邪魔だって!


涙が出そうだ。

遅い足で頑張って走る。


校門横に相沢がいる、きっと清水先輩を待ってるんだろう。


こんなところで待つなよ!


相沢の横を走ってすり抜ける。


「おい、三浦!」

「……またかよ」

最後の小さな声だけが、やけにはっきり耳に残った。


また!?またってなんだよ!


どうせ私のことなんて待ってないんだ!!

今まで大丈夫と言っても気にかけてくれたのに!!


少し進んだ帰り道。


足がもつれる。

膝をつき、受け身を取ろうと手を前に出す。


ドサっ。

田んぼ沿いの道で、派手に転んだ。

スカートで走るもんじゃないな。


膝と手の平を擦り血が滲む。


……痛て。


誰も……。

誰も私を……。


「大丈夫?」

顔を上げるとそこには、中村さんがいた。


-八話終-

登場人物まとめ

相沢透 主人公

身長165㎝ A型

帰宅部

好きな人 清水葵

好きなもの RPG 甘いもの

嫌いなもの 特に無し


三浦梓 相沢の幼馴染

身長152㎝ A型

帰宅部

好きな人 相沢透 店長

好きなもの RPG 和菓子

嫌いなもの 自分の過去


中村夏織

身長163㎝ B型

元演劇部 二番目の相沢の彼女 破局

好きな人 相沢透

好きなもの 安心

嫌いな人 清水葵


清水葵 二年生

身長173㎝ B型

相沢の高校三番目の彼女 交際中

好きな人 相沢透

好きなもの カレー 家族 陸上

嫌いな人 勝負する前から諦める人


西島遥 二年生

身長168㎝ 元陸上部 AB型

好きな人 ???

嫌いな人 相沢透

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