初恋はきっと何処かで嘘をつく。[七話]
新学期を迎えた透は、夏織のSNSに男子のフォロワーが多いことを知り、浮気を疑う。
夏織は使っていないと説明しても信じてもらえず、アカウントを削除するが、透からの返信は途絶えてしまう。
一方、文化祭の準備では、孤立していた綾香に坂本が普段どおり接し、彼女の支えになっていた。
三浦に過去の失恋と「自分から好きと言う怖さ」を打ち明けた透。しかし、その原因を自分のせいだと感じる三浦は、動揺して逃げ出してしまう。
そんな夜、夏織は透の気持ちを確かめようと「信じられないなら別れよう」と送る。
引き止めてくれると信じていた彼女に、透が返したのは「分かった、別れよう」だった。
サブタイトル
[三人目]
-自宅・中村夏織-
ぴこん。スマホのメッセージが届く。
小鳥と二人でスマホを覗き込む。
「分かった、別れよう」
昨日はメッセージ来なかったのに。
こんな時ばかり返信が早い。
「え?」
小鳥が驚く。
……どうしよう。
「私たち別れちゃったみたい」
小鳥に笑顔を作る。
「今の私が無理矢理送ったことにして良いからさ!少し考えさせてもらいなよ!」
小鳥が焦ってる。
そりゃ焦るよね、はい、分かりましたって。
そんな簡単に言われて。
「相沢そういうの凄い嫌いだから……」
なんだろう。
相沢のこと分かるのに、分からない。
「で……電話しないと」
「あ、あれ?」
「どうしたの夏織?」
「電話できなくなっちゃった」
「え?ブロックってこと?」
ダメだ。
こんなに拒否されるなんて……。
また小鳥の前で泣いちゃう。
「うっ。うっ。……」
「ご、ごめん!私があんなこと言ったから!」
「私明日相沢と話してくるから!」
「うわぁぁん」
もう止まらない。
親友の気づかいと、相沢に大切にされなくて情けない自分。
何が原因か分からない。
私はその日、小鳥の胸でひたすら泣いた。
-文化祭まで残り十二日・登校・三浦梓-
教室に着けば、前の席には相沢がいる。
気まずいなぁ。
昨日は相沢から逃げ出して、メッセージにも返信していない。
はぁ、学校までの道のりが長い。
俯きながらふらふらと歩いていると、肩をトントンと叩かれる。
「何!?」
「何じゃねぇよ」
正体は相沢だった。
自転車を降りて私の隣に並ぶ。
あれ?自転車?今日はバイトないはずなのに。
「昨日は……ごめん殴って黙って帰っちゃって」
「殴って黙ってってお前本当になぁ」
相沢が笑う。
「ごめん、最近俺疲れてて三浦に気を使えてなかったかも」
「ううん、大丈夫だから。私こそごめん」
私のせいなのに。
相沢は私に気をつかってくれている。
少しの沈黙。
「きょ……今日は自転車なんだな!バイトないのに彼女と、帰らないのか?」
「昨日、あの後別れたから」
「そ……そうか」
別れたんだな。
少し不穏な空気はあったけど。
もしかして……。私なんか言っちゃったかな。
「それって私……」
そう言いかけると相沢が遮る。
「別に三浦がなんか言ったからとかじゃないから。俺が決めたことだから」
「そうか……ごめん」
「別に三浦が謝ることじゃないだろ?」
「そうだけど……」
そんな事を話してると学校に着いてしまう。
「「おはようございまーす!」」
校門で先生達が挨拶してる。
この後相沢はどうするのだろう。
私は相沢にどうなって欲しいのだろう。
-同日教室三限後休み時間・三浦梓-
ぐでーん。
相沢は机に伏して動かない。
そんな相沢を真似するように、私も伏して動かない。
はぁ。相沢元気ないな。
昔のこと思い出しちゃったからかな?
それとも彼女と別れたからかな?
伏してると、一人他のクラスから女子がやってくる。
てくてくと歩き、相沢の目の前で止まった。
「相沢だよね?夏織の事で話があるんだけど。放課後か昼休み、非常階段下に来られる?」
相沢は声をかけられて顔だけあげる。
「放課後なら大丈夫だけど」
なんなんだよ、別れた直後に別の女がまたやってくるとか。
これ前の中村さんの時と同じ展開。
「わ……私も!い……行く」
「三浦……ありがとう」
相沢は優しく笑ってくれた。
「三浦さん?……あなたなら多分別に良いけど」
「それじゃあ放課後、待ってるね」
「分かった」
勢いで行くと言ってしまったがどうしよう。
-放課後廊下・三浦梓-
相沢と二人で廊下をとぼとぼと歩き、非常階段下まで向かう。
「なぁ、なんて言って振ったんだよ」
「まぁ、振ったと言うより話し合い?」
「話し合い?」
「不安なら別れようって言われて、うんって言った」
「そっか」
全く容赦ねぇ……。
「お前好きじゃなかったのかよ?」
「好きってなんなんだろうな……」
「お前なぁ……それ絶対中村さんに言うなよ」
「でもどう思うよ三浦は」
「都合が良いから好きなのか、好きな人だから好きなのか分からなくないか?好きな人とか多少自分にとって都合がいいもんだろ」
「お前のその手の話は聞かないぞ!頭がバカになる」
「お前!絶対中村さんになんか言う前に一旦私に言えよ!」
「揉めるから!」
-放課後非常階段下・小鳥秋穂-
体育座りで目を伏せる夏織。
はぁ。
やっちゃったな、あんな事言わなきゃよかった。
まさか本当に別れるなんて、相沢も薄情な奴だ。
そんな事を思ってると奥から二人組がやってきた。
「な……なんか二人近くない?」
不自然な程に相沢と三浦さんがくっついてる。
「べ……別にそんな事ないと思うぞ」
三浦さんが答える。
この子は夏織から、相沢の親友で迷惑をかけたと聞いていた。
なので同行を許可したが、まさかこんな風に歩いてくるとは……。
「話って何?」
「昨日のメッセージの件なんだけど、私が送ってみれば?って夏織に言ったの。本当に好きなら別れないかなって」
「だから夏織は、まだ相沢のことが好きだから考え直して欲しいです……ごめんなさい」
何やら相沢は三浦さんに耳打ちしてる。
それを聞いて三浦さんが頷く。
「でも送ったのは夏織だろ?俺は前帰りの時にすぐアプリを消してくれれば信用できた」
夏織が話し始める。
「だから……あの後すぐ消してメッセージ送ったのに……」
相沢が三浦さんにまた耳打ちする。
そして三浦さんが首を振る。
三浦さんが相沢に耳打ちをする。
少し悩んだ後相沢は頷く。
「だったら、自分から別れるって言わなきゃよかったじゃん」
「だから!それが私のせいでって!」
また相沢が三浦さんに……。
「ねぇ……二人何やってるの?」
もじもじとして、三浦さんが答える。
「こ……こいつ条件反射で質問に答えちゃうから、一旦私が聞いてから答えさせてる」
「そのまま言ったらきっと酷いこと言う。ぜ……絶対揉めるから……」
なんか会話が遮られてる感じがして癪だ。
相沢が耳打ちせずに答える。
「でもいくら仕掛けたのは君だからって、送ったのは夏織だ」
「……そうだね」
夏織は力なく返事した。
こ……こいつ。
あちゃーと目を覆う三浦さん。
この子は一体何をしに来たのだろう。
私からみれば相沢の言葉は全部アウトだ。
「私、信用してくれるように頑張るから……」
夏織が痛々し過ぎる……。
このまま相沢と別れて欲しいけど。
もし別れたらどうなってしまうのだろう。
「彼女作っても良いから……その彼女と別れたら私のところに戻ってきて?ね?」
「それまで、信用してくれるまで私は男子と関わらないから……」
そんなこと言ってもきっと相沢は。
「そんなこと言っても、こいつ平気で彼女作るぞ」
三浦さんが私の言葉を代弁してくれた。
「大体吉田さんの時のことも、中村さんはよく知ってるだろ」
「……でも良いの、私はあなたと違って逃げてないから」
「あなたって、私のこと?」
夏織は三浦さんに向かって話す。
「そうだけど?」
「……。」
三浦さんが黙ってしまう。
「二人とも何話してるんだよ」
相沢が仲裁する、私も夏織が話してることがよく分からない。
「ごめんね相沢」
「それじゃあね……」
「ちょっと!ちょっと夏織!」
相沢の返事も待たずに夏織は帰ってしまった。
三浦さんと相沢は何やら話してる!
「もう、待ってよ!夏織!」
-話し合いの少し後・二年生教室・清水葵-
「よーし!文化祭の準備やるぞー!」
「「おーう!」」
私は怪我で部活を休んでいるため、文化祭を頑張ることにした。
私のクラスはおばけ屋敷。
ダンボールを大量に使って、道を作る。
夏休み中、部活の手伝いはできても。
直接トレーニングができないのは辛かった。
それに失恋も……。
ぴこん。
おや?変な時間にメッセージだ。
三浦さんからだ。
「相沢、彼女と別れました」
ど……どうしろと?
率直な感想だった。
「そうか、わざわざありがとう」
メッセージを送る。
「今、非常階段のところにいます」
心臓がバクバクと脈打ちはじめる。
まるでホラー映画で殺人鬼に追われてるようだ。
なぜ情報を小出しにするのか。
「私今何した方が良い?」
はぁ……。なんて心臓に悪いメッセージだ。
「今告白できれば、きっと付き合えます」
疑問はいくつかある。
何故三浦さんは相沢君の別れを知っているのか。
何故三浦さんは『自分が告白しないのか』。
ただ三浦さんが人を騙すようには見えない。
「みんなすまない!少し用事ができた!今日は帰ってこないかもしれない!」
私は片足で非常階段へ向かった。
-非常階段下・清水葵-
「はぁはぁ……」
片足だと大変だな。
周りを見渡すと。
相沢君と三浦さんが居た。
「あのー……」
恐る恐る声をかけてみる。
「?なんで清水先輩がここに?」
「私が呼んだの」
「お前勝手に」
「こいつ彼女と別れたんです」
「そ、そうか……。残念だったな」
なんと言えば良いのだろう。
もしここでじゃあ私となんて、傷心中の彼に言えるわけがない。
三浦くんに呼ばれて来てはみたが、私はなんて声をかければ良いのだろうか。
「先輩はなんて呼ばれてここに?」
「……。そうだな」
「三浦くん、相沢くんと二人で話してもいいか?」
「だ……大丈夫です、私帰ります」
「ありがとう」
少し小走りで校門へ向かう三浦くんを見送る。
相沢くんは立ったまま、私は校舎の壁に寄りかかる。
さて、どう話したものか……。
「実は三浦くんからメッセージが来てね」
「今告白すればきっと付き合えますって」
「え?それ三浦が?」
「私も別に本気でそうは思ってないが気になってね、とりあえずここへ寄ってみた次第だ」
「……先輩はこんな俺をどう見ます?彼女と別れたばかりで幼馴染にそんな事を言われて」
三浦くんは少し特殊な気もするが……。
「彼女とはどうして別れたんだ?」
「夏織は他の男子とメッセージしないって言ってたんです。ただアプリのアカウント見てしまって、フォロワーに男子が沢山いて、嘘つかれた気持ちになっちゃったんです」
「私もそのアプリを使ってるし、男子との連絡もとっている。もし仮に相沢くんの彼女になれた時アプリを消せと言うか?」
「わかりません、自分でもよくわからなくて」
「でも、彼女なら……って思ってしまって」
「そうか」
前の彼女の夏織さんは、色々と相沢くんのために犠牲にしていた。
それだけのことが私には出来るだろうか……。
私は彼女の好意を越えることが出来るだろうか……。
「で、彼女はなんて?」
「アプリも消して待ってるって。信用ができたら戻ってきてって」
「そうか……」
「自分でも、どうしたいのかわからなくて。……少し疲れました」
ぺたりと階段に座り込み、俯く相沢くん。
そんな彼を見て可愛いと感じてしまう。
「となり、いいか?」
黙ったまま、相沢くんが頷く
「ありがとう」
私も階段に座る。
「嫌なら言ってくれ」
前置きはした、彼の頭を少しだけ私の肩へそっと抱き寄せる。
「私も悩んでいたよ、この怪我のせいで」
「でも君の言葉に救われた、今度は私が君を救わせてくれないか?」
相沢くんが少し私の胸に顔を埋める。
あまりある方じゃないから、少し恥ずかしい。
「きっと俺、夏織の時みたいに清水先輩を傷つけます」
「構わないさ……。先輩なんだから」
胸の中の彼が少し泣いてるように見えた。
私にも弱さを見せてくれたことが嬉しかった。
やっぱり勝たなくちゃ……。
夏織さんには負けちゃいけないんだ。
「安心して欲しい、私は君のことが好きだ」
二度目の告白。
「……俺も先輩のことが好きです」
顔を上げ、笑顔を向けてくれる。
私の方が少し背が高い。
おでこを合わせ私も笑う。
「ありがとう」
そう言って私は目を閉じると、彼にも意図が伝わった。
相沢くんは私の肩に手を置き、口付けを交わしてくれた。
私達は、恋人同士になった。
-その日の夜自室・清水葵-
相沢くんと結ばれた。
でも問題は何にも解決していない。
相沢くんが何にここまで苦しんでいるのか、私にはなにもわからない。
きっと今日も苦しんだままだろう。
私がなんとかしないと。
三浦くんにメッセージを打つ。
「あの後交際が決まりました、三浦くんのおかげだと思う、ありがとう。ただ相沢くんは何かに苦しんでるようで、何か心当たりはあったりする?」
送信っと。
ぴこん。
三浦くんからの返事は早い。
「おめでとうございます。ただ、相沢の悩みはわかりません」
手詰まりか……。
次は相沢くんへメッセージを打つ。
「告白受けてくれてありがとう、これからは私にも甘えてくれると嬉しい」
ぴこん。
「ありがとうございます、葵先輩って呼んでも良いですか?」
葵。
あまり下の名前で呼ばれることが無かったから少しこそばゆい。
「嬉しい、私も透って呼んでも良いかな?」
「はい、これからお願いします」
私はどこか焦ってしまっている。
少しくらい、この幸せに浸っても良いのだろうか。
「透、大好きだ。これからよろしくお願いします」
-文化祭まであと二日ロングホームルーム・三浦梓-
あれから先輩と相沢は付き合ったらしい。
先輩からのメッセージで私は知った。
相沢は私に彼女の相談をしなくなった。
「じゃあダンスの曲流す係誰がやる?」
「交代制で30分ごとに曲を誰か決める感じで!」
「次の人が来るまでの30分店番な!」
「午前四回、午後六回で十人かな?」
「私!全部やります」
真っ先に手を挙げたのは吉田さんだ、最近は文化祭の準備を頑張ってるのは私の目にも映った。
「吉田いいのかよ!ラッキー」
男子達が囃し立てる。
「待てよ!たった十人なんだから後九人選ぼうぜ!俺も入るから後八人な!」
優しいな、坂本が止めなかったらきっと全部吉田さんになりそうな空気だった。
「俺も」
相沢だった、はぁ……。
しばらく話してないけど、こう言うところは変わらない。
「わ……私も」
結局坂本、相沢と続いた事で十人はすぐに集まった。
つんつん。
「おい、彼女は良いのかよ」
「別にそんな長い時間でもないし大丈夫」
「……そっか」
最近の相沢は素っ気ない。
アルバイトでもろくに話してくれなくなってしまった。
清水先輩に訳を聞きたいが、そんな事聞いたらきっと嫌に思われる。
だって相沢はもう先輩の彼氏なんだから……。
-放課後和菓子屋漆戸・三浦梓-
はぁ。
急にひとりぼっちになってしまった気分だ。
からん。からん。
「いらっしゃいませー」
「あ」
いつものおじちゃんの時間だから少し油断した。
目の前にいたのは両足で歩く、清水先輩だった。
「久しぶり、三浦くん!」
「透はいるか?」
「はい、相沢?」
納品中の相沢を呼ぶ。
「どうした?」
「あ!葵先輩ギプス取れたんですね」
「そうなのだ!今さっきな!」
「いてもたってもいられなくなって来てしまった!」
「良かった、これで部活戻れますね!」
惚気なら他でやってくれよ。
「それでなんだが、十月の半ば土曜日に陸上の記録会があるんだ」
「私も走る予定だ、もし良かったら見に来てくれないか?出来れば三浦くんも」
「俺は行きます」
「じゃ……じゃあ私も」
「決まりだな!まだ鈍ってるが出来るだけ頑張ってみる!」
「……また無理はしないでくださいよ」
「わかってる!」
「それじゃあ、明日!」
からん。からん。
何も買わずに清水先輩は行ってしまった。
短い会話でも変化がわかる。
お互い、いつの間にか名前で呼び合ってる。
これが恋人かぁ。
嫉妬してしまうな、私は相沢と離れてしまったのに。
先輩はどんどん近づいてる気がして。
まぁ、これが普通なのかもしれない。
「三浦?お前陸上の記録会とか行っても楽しくないだろ、無理に俺に合わせなくても良いぞ」
「私も行く」
「まぁ、なら良いけど」
「あと、今日ありがとうな文化祭の係お前も参加してくれて」
「別に……私みんなと違って暇だし」
「なるほどな」と言って相沢が笑う。
ウケた、良かった。
記録会、興味もないが何となく二人きりにさせるのも嫌だった。
それよりまずは、私にとって何にもない文化祭がはじまる。
そう思ってたはずなのに、みんなが何かに突き動かされたような。
そんな不思議なことが、この後起こるなんて。
今の私は知る由もなかった。
-文化祭前日夜自室・相沢透-
俺は夏織から来たメッセージを眺めていた。
「文化祭誰もいなければ一緒に回りたいです。私は誰とも回らないので」
あの話し合いの後、もしかしたらメッセージが来るかもと思い期待してブロックを解除してしまっていた。
「一緒に回らないので夏織の好きにしな」
ぴこん。
「じゃあ来なくてもいいから相沢のこと待ってる」
……。
期待されるのも困る。
かくいう俺は葵先輩と周る予定だった。
午後は先輩の出し物の係りということもあり、周るのは午前中だけ。
放課後は記録会のために勘を少しでも戻しておきたいらしく練習をするらしいため、先輩とは過ごせない。
甘えても良いと言われたがきっとそれは今じゃない。
文化祭なんてそこまで大した行事でもないだろう。
と言う感情と共にきっと夏織なら全ての時間を俺にくれたはずと思ってしまう俺が情けない。
はぁ……。
つまらなくないと言えば嘘になる。
ぴこん。
「明日はよろしくな!楽しみにしてる」
清水先輩からだ。
楽しみ。
……そうか。
「俺も楽しみにしてます」
久しぶりだな、この感覚。
綾香の時と一緒だ……。
-文化祭当日・清水葵-
今日は待ちに待った文化祭。
両足で校門をまたぐ!
今までおとこ女や巨人などと兄達に馬鹿にされていた私とはもう違う!
文化祭、恋人同士、まさに青春だ。
クラスに着き文化祭が始まるのを待つ。
こんなに長い朝礼は初めてだ。
きーんこーんかーんこーん。
来た!
猛ダッシュだ!
「しみずー!廊下は走るなー!」
-相沢の教室・清水葵-
「とおるー!」
私の声にクラスがざわつく。
「先輩!俺の方から迎えに行こうと思ってたのに」
「一年生が二年生の教室に行くのは緊張するだろ?」
「そうですね、ありがとうございます」
優しく微笑んでくれた。
「相沢誰だよ!その人」
どうやら相沢くんのクラスメイトのようだ。
「彼女の清水先輩」
「か……彼女ってお前何も聞いてないぞ!俺文化祭マジックずっと期待してたのに!抜け駆けしやがって!」
このこのとクラスメイトと戯れあっている。
こういう男子らしいところもあるのだな、と可愛く見えてしまう。
「そろそろ透をもらって良いかな?」
「もらってって……。さっさと行っちまえ!」
「係は絶対忘れんなよ!」
友人に手を振りクラスを後にする。
「ごめんなさい、先輩」
「変なのに付き合わせちゃって」
今度は、気まずそうにはにかんだ。
「大丈夫だ」
「それに、クラスメイトに紹介してもらえて私も嬉しかった」
紹介……。
「そうだ、私のクラスに行かないか!お化け屋敷だぞ、怖いぞ!」
「行きましょうか、午前中だけなんで沢山回りましょう」
お化け屋敷に、輪投げ、脱出ゲーム。
めいっぱい楽しんだ。
あと三十分で午前の部が終わってしまうな。
「最後俺のクラス行きません?」
「透のクラスはダンス?だったか?」
「そうです、カップル同士でダンス踊ろうって曲流してます」
「ダンスなんてやったことないが大丈夫かな……」
「二人ならきっと大丈夫ですよ、俺もしたことないんで」
透に手を掴まれ、クラスへ連れて行かれる。
不思議だ。
可愛いところもあるかと思えば、こうやってリードしてくれる男性らしいところもある。
私は透の魅力を全然知らないんだ。
-相沢のクラス・三浦梓-
文化祭中どこも行くあてもない私は非常階段下にこもっていた。
誰もいない、秋の昼風が心地いい。
そんな場所から強制帰還だ。
なんで非リアがリア充のために曲なんぞ流さなくてはいけないのだ。
私の当番は午前の最後の部だ。
午後よりかは人がいないだろうと思い、午前の当番にした。
それなのに結構人いるな……。
三組ほど、計六人。
クラスメイトの女子が大学生くらいの男を連れて来た。
わーきゃーと友達が騒いでる。
馬鹿みたいだな、こんな出し物にやってくるなんて。
「あれ!三浦くんじゃないか!」
「あ、馬!じゃなかった清水先輩」
「ば?三浦くん今が当番なのか!少し気恥ずかしいな」
「え?まさか踊りに来たんですか?」
「そうだぞ!透もほら!」
清水先輩のたっぱに隠れていた、相沢が顔をだす。
「お前こういうのやるタイプなんだな……」
「まぁせっかくだからさ」
「お前今当番だったんだな」
決める時一緒にいたろ!と思ったが、大袈裟にため息を見せた。
「そろそろ流すぞー」
「雰囲気のない、掛け声だな」
相沢の言葉に清水先輩が笑う。
それを見て相沢も笑う。
音楽をかけ、ゆっくりとみんなが踊りはじめる。
大学生の彼氏が強引にクラスメイトの女子と踊る。
ほれみたことか、大体の関係をそれで察してしまう。
高校生と付き合う大学生の彼氏なんて碌でもない。
相沢達はというと不思議だった。
ぎこちない清水先輩を庇うように、安心させるように、相沢が合わせる。
「私は大きいから、少し踊り辛いだろう」
と恥ずかしそうに言う。
「大丈夫ですよ、踊れてますよ」
相沢は軽くゆっくりと、きっと誰と踊っても大丈夫なような足取りで。
不思議だな。
相対性理論は幸福な時間を速くしてしまうらしい。
なら不幸なら、苦しい時間は長くなってしまうのだろうか。
スローモーションに見える二人のダンスに私は見惚れていた。
-放課後非常階段下・三浦梓-
「三……さん?三浦さん?」
うーん。
体が痛い。
きーんこーんかーんこーん。
私は当番以外の文化祭をばっくれて、非常階段下コンクリートのところで寝ていた。
「三浦さん?」
「へ?」
名前を呼んでいたのは中村さんだった。
「学校終わったよ?」
「あ……ありがとう」
「なんで中村さんここに?」
「いや……なんとなく?いつも大事な話する時ここだったから」
どうやら相沢と話す予定があった訳ではないらしい。
「相沢彼女できたんだってね」
「うん」
……気まずいな。
「どう三浦さんからみて、新しい彼女は」
「二人は相性良いと思うよ」
「そうか、じゃあ私の時はどう思ってた?」
「わからない、ただ私中村さんのことそんなに好きじゃないから」
「そうだよね、ごめんね」
少し笑顔を見せた後、中村さんは遠くを見ている。
「あの時の逃げないって、な……なに?」
「私、三浦さんが相沢のこと好きなのかなって」
「でも告白しなければきっと気持ちが冷めるまで側にいれるでしょ?」
だから逃げてる……。
「そういうことだったんだ」
「で?どうなの?」
中村さんは期待の眼差しを向けてくる。
「なんで中村さんに言わなきゃいけないの」
「まぁ言いたくないなら良いよ」
「私ね、相沢と恋人だった時、あなたのことがすっごく邪魔だった。だけどさ無下にしたら相沢に嫌われそうな気がしてて」
「気難しいよね相沢って」
中村さんは目を瞑る。
その目から一筋の涙がゆっくりと溢れる。
「こんなに好きなのに、文化祭回れなかったなって」
「なんか、……ごめん」
他になんて言えば良いのだろう。
恋人でもない、ただの幼馴染なのに。
「大丈夫、気難しい相沢だから。きっとすぐ別れてくれるよ」
「……なんで、中村さんは相沢のこと好きなの?」
「初めはね?綾香の相談を受けてて相沢と話してる内に、この人告白断らない人だ、私でも彼氏できそうって思ってさ」
「本当にそれだけだった」
「でも付き合ってみたらカッコ良くてさ、いじめられてる時も守ってくれて」
「私も最初は相沢と同じ、適当に付き合えるから告白したの」
「そんな理由で……」
「でも、今はすごい好きなの……」
中村さんの涙はどんどん溢れてくる。
今考えると、私は中村さんのことをなにも知らない。
二人きりで話したことも無かったのだから。
中村さんが嫌いで、別れてほしいと思ってた。
だけど今相沢のことでこんなに涙を流してる。
それが少し苦しかった。
「ごめんね、こんな話。きっと誰にも話せないから」
「だ……大丈夫」
こつん、こつん、こつん。
誰かの足音が聞こえてくる。
「な……中村さん!」
泣いてるところを人に見られるのはきっと嫌だろうと思い、咄嗟に中村さんの腕を引っ張り物陰にかくれる。
-放課後非常階段下・三浦梓-
誰だろうこんな人気のないところに。
こつん、こつん。
音の主は意外な人だった。
「……綾香?」
中村さんが聞こえないように私に確認する。
「みたいだね」
もう一人男子が歩いて来た。
「あのさ、話ってなに?」
坂本だ。
「あ……これって」
もしかして、告白?
「文化祭、ありがとう坂本くんのおかげで私楽しかった」
「俺も吉田さんと頑張れて良かったよ、意外な奴ら付き合ってたな!萩原さんなんて彼氏大学生だぜ!」
「そうだね、それで話なんだけど」
「おう!」
「私、坂本くんのことが好き」
「できたら、付き合いたいと思ってる」
ブンと頭を下げて手を差し出す。
あれ普通男子がやるやつ。
「……。俺今まで彼女とか出来たことないから、上手くやれるかわかんないけどそれでもいい?」
吉田さんが顔を上げて、抱きつく。
「良かった……。良かった、怖かった……」
「喜んでくれて嬉しいよ」
「俺文化祭で頑張ってる吉田のこと、ずっと見てたから」
「……ありがとう」
「これからよろしくな!」
「綾香って呼んで!二人きりの時だけでいいから……」
「綾香」
「太一」
二人は再びハグをしてどこかへ行ってしまった。
「……。」
あんまり、人の告白なんて見るもんじゃないな。
心臓が潰されるかと思った。
「はぁー……綾香彼氏できたんだね」
中村さんがそう呟く。
……。
なんて返せばいいんだよ。
「あれ三浦くん!こんなところに!」
げっ!最悪な組み合わせだ。
スタスタと大きな人が歩いてくる。
清水先輩だ。
そして隣には相沢だ。
「ど……どっか行け!」
私なりの最大の抵抗だったが、守ろうとした本人に止められた。
「良いよ三浦さん」
中村さんをいじめていた吉田さんの告白が成功し、今は失恋相手が恋人と二人できた。
私が、過去に経験したことに近い状況だ。
良いわけがない!
「帰れ!相沢!」
頑張って声を張る。
「帰りましょう、先輩。また今度」
「あ……あぁ。タイミングが悪かったな!失礼する」
相沢が清水先輩の手を引く。
「待ってください」
中村さんが二人を引き止める?
なんなんだ!この女!私が気をつかってるのに!
「二人は付き合ってるんですか?」
「あぁ、そうだよ」
相沢が答える。
「じゃあこの後はお家デートですか?」
中村さんが何を話しはじめたか分からない。
「いや、私はこの後部活で」
「まだ行ったことないんですか?相沢の部屋」
「夏織……。」
「せっかく文化祭の後なのに、一緒に帰らないんですね」
なんて意地の悪い。
「そんな言い方は!」
「良いですよ先輩、無視していきましょう」
二人はすたすたと帰ってしまう。
「うっ……うっ……」
二人が見えなくなると中村さんがまた泣きはじめてしまう。
「私……もうどうしたら良いか……」
「三浦さんには話してないかな?私達夏休みずっと部屋でしてたのよ」
「それなのに……それなのに……」
「私嫌なこと言っちゃって」
きっとこれは私と同じ自己嫌悪。
止められなかったんだな。
「あなたのことは嫌いだけど、その苦しい気持ち。私は分かるから」
中村さんの頭を抱える。
私の手を掴み、中村さんは泣きじゃくってしまった。
私、ずっとこのまま逃げるのかな……。
-七話・終-
登場人物まとめ
相沢透 主人公
身長165㎝ A型
帰宅部
好きな人 清水葵
好きなもの RPG 甘いもの
嫌いなもの 特に無し
三浦梓 相沢の幼馴染
身長152㎝ A型
帰宅部
好きな人 相沢透 店長
好きなもの RPG 和菓子
嫌いなもの 自分の過去
吉田綾香
身長158㎝ O型
美術部
坂本太一と交際中
好きな人 坂本太一
嫌いなもの 女子グループ
ワンポイント
今後坂本の隠れファンにめちゃくちゃ嫌われる
中村夏織
身長163㎝ B型
元演劇部 二番目の相沢の彼女 破局
好きな人 相沢透
好きなもの 安心
嫌いなもの SNS
坂本太一
身長168㎝ B型
剣道部 吉田綾香と交際中
好きな人 吉田綾香
好きなもの、恋バナや噂話
嫌いなもの、テスト
ワンポイント
吉田綾香が中村夏織をいじめていたことは知っている
小鳥秋穂
夏織の親友 テニス部
身長161㎝ A型
好きなもの 恋バナ 少年漫画
嫌いな人 相沢透
澤愛瑠花
身長150㎝ AB型
図書委員 部活は未所属
好きなもの ???
嫌いな人 嘘のない人
ワンポイント
作中一番モテる
清水葵 二年生
身長173㎝ B型
相沢の高校三番目の彼女 交際中
好きな人 相沢透
好きなもの カレー 家族 陸上
嫌いな人 勝負する前から諦める人




