初恋はきっと何処かで嘘をつく。[六話]
夏織と復縁した透は、三浦梓に促され、清水葵にそのことを伝える。それでも葵は、透を好きでいることを諦められずにいた。
夏織から謝罪を受け、二人と花火をすることになった三浦。
透の「彼氏ができたら寂しい」という言葉に、秘めていた恋心を揺さぶられる。後日、葵と話す機会を得た三浦は、同じ人を好きな彼女に共感し、その恋を応援する。
三浦が自分の気持ちを伝えられない背景には、中学時代の出来事があった。
透の最初の彼女は、三浦への嫌がらせを目的に彼と付き合っていた。その事実を知る三浦は、透が傷ついたのは自分のせいだと、今も責め続けていた。
サブタイトル
[前振り]
-新学期九月・中村夏織-
今日から新学期だ。
夏休みの私は爛れていた。
相沢のバイトのない日は家へ行き、体を重ねる日々。
相沢に求められるのは嬉しかったし、こうしてないと不安で堪らないのだ。
「かーおーりー!」
「小鳥」
小鳥の肌は、部活で少し日に焼けていた。やっぱり運動部は大変そうだ。
「あれから大丈夫?」
小鳥は相沢と復縁したことは知っている。
「大丈夫、仲いいよ」
小鳥の眉がピクッと動いた。
はぁと大きなため息をつく。
「それなら良いんだけどさ……」
「ごめんね、心配かけて」
部活を辞めること、相沢と復縁すること、全部小鳥には反対されていた。
だけど綾香のグループにいじめられても、私のそばを離れようとはしなかった。
私の親友。
「でさ!夏休みはなんかしたの!?」
相沢のことはあまり好きじゃないらしいが、恋バナは好きみたいだ。
私としても、親友が相沢をよく思わないのは少し寂しいが安心してしまう。
「多分、全部したよ」
そう言って小鳥に、微笑む。
女子同士の下ネタがエグいとか色々言われてるが、きっとあれは身体的に変化があるからかも知れない。
痛かった?とか血が出た?とか、きっと男子側は特段変わらないから。
具体的に話す分、エグいように聞こえてしまうのだろう。
「ぎゃぁーー!」と喚く、小鳥。
それをくすくすと笑う私。
部活も辞めた、男子とも話さない。
夏だってずっと一緒に居た。
でも不安は拭えない。
前に、突然振られた時の感覚。
学校が始まった途端、あの時の不安が戻ってきた。
相沢は、先輩から告白もされていた。
自分から女子と関わらなくても、引き寄せてしまう何かがあるのだろう。
あの時私を綾香達から守ってくれたように、きっと彼は誰にでも……。
早く相沢に会いたい。
-翌日和菓子屋漆戸バイト終わり・相沢透-
九月になり、バイト帰りにはもう外は薄暗い。
俺は三浦を家まで送るのが、日課になっていた。
「吉田さんのアカウント見つけた」
突然三浦がスマホを見せつけてきた。
スマホの画面には、吉田綾香の名前があった。
「なんだこれ?」
「アプリだよSNSってやつ」
三浦SNSなんてやってるんだ。
そっちの方が意外だった。
「これがどうした?」
「これアイコン真っ黒だろ?なんかあったんじゃね?」
そういうものなのか。
三浦のプロフィールが気になって、ぽんとスマホをタップしてみる。
アカウント名は『賢い柿』。アイコンは亀のしっぽだった。
「お前のアカウント一体なんだよ……」
「昔飼ってた亀」
「陰キャは本名でSNSなんかしないぞ」
三浦のアカウントを見てみたが、フォローはアニメやゲームの情報サイトやグッズイベント告知のアカウントだらけだった。
そしてフォロワー0。三浦らしくて、少し安心してしまう。
「私のは良いよ!吉田さん真っ黒ってことはまだお前のこと引きずってんじゃない?」
「アイコンくらいじゃわかんないだろ……」
「失恋した時とかに真っ黒にする奴、たまにいるじゃん」
やってないから分からない。
「そういうものなのか」
今更綾香に関しては興味もない。
夏休み前のあの出来事は、ほぼ絶縁宣言のようなものだ。
ふと気になることがある。
「三浦でさえやってるなら、結構いろんな人がやってる?」
「でさえってなんだよ……まぁやってるんじゃない?」
「じゃあ夏織もやってるのかな?」
「まぁ調べてみないと分からんけど。聞いてないならやってないんじゃない?」
三浦がぽちぽちと検索してくれた。
「あ、いた」
アカウント名中村夏織演劇部一年生。
フォローもフォロワーも、大体二百人ほどだった。
「結構男子も多いな」
「まぁ中村さん美人だからね」
美人だからと言う言葉に少し胸がざわついた。
「このアプリってメッセージとか出来るの?」
「出来るぞ、投稿にコメントつけたりDMとかもな」
「そ……そうなんだ」
「お前そんな事も知らないのかよ」
知らなかった。
うーん。
前に、ほかの男子とはメッセージしていないと言われたことはあるが。
それでも、どうしても気になってしまう。
三浦がじーっと俺を見てくる。
「不安なら本人に直接聞けばいいだろ?」
俺は不安なのだろうか?
ただそれを指摘するのは嫉妬深いと思われそうで、俺の方が夏織を好きに見える気がして嫌だった。
「うーん」
「深く考えるなって、気にしなくて良いと思うぞ!」
ポンポンっと背中を叩かれた。
「不安なら始めれば良いじゃん!」
パシャリ、と音がした。三浦がスマホをこちらに向けていた。
「急に何すんだよ」
「アイコンの写真撮っとかないと!後で送るからさ」
「良いよ、やらないから」
俺の知らない夏織がいた。
そのことに胸が苦しくなってしまった。
-翌日図書室放課後・相沢透-
放課後、クラスの男子から「図書室でお前を待ってる人がいる」と伝えられた。
めちゃくちゃ曖昧な呼び出しだ。
こんな事をする奴は一人しかいない。
「ねぇーー!相沢くーーん!君の彼女にぶたれたー!」
テーブルの上で上半身をバタバタとする澤愛。
今日は図書室に誰もいない。
「……お前どうせ嫌味でも言ったんだろ」
「普通の恋バナだよ!」
普通の恋バナねぇ。
『恋愛なんて、好きな気持ちが大きい方が傷つくんだからさ』。
未だに、澤愛の言葉がチラついてしまう。
「また中村さんと付き合ってるの?」
「恋バナする気はないぞ」
澤愛と話してると自分がよく分からなくなってしまう。
「ふふふふふ」
「何笑ってるんだよ」
「不満、不安、不和、不穏」
「そして不本意」
「不が五つ」
「中村さんと別れたいんじゃないの?」
「先輩にも告白されてるんでしょ?なのに好きでもない中村さんと付き合ったのはどうして?」
ピリッと胸が痛む。
いやそうだったんだ。
どうせ夏休みが終わるまで付き合えない。
そう思って、夏織とやり直したんだった……。
だけどメッセージは、送っちゃったから……。
「中村さんのこと好き?」
黙って俯く俺を澤愛は下から覗き込む。
俺は夏織のことを……。
-ロングホームルーム・相沢透-
文化祭。
そう九月末には文化祭がある。
坂本も大張り切りだ!
「よっしゃぁーー!」
「出し物何にする!?何にする!?」
新学期早々テンションが高い。
「文化祭って言ったらあれだろ?お化け屋敷とかが無難じゃない?」
「バカやろー!文化祭マジックだ!教室で文化祭のために一緒に作業する、すると今まで見えなかった一面が見えてくる、たちまち異性として意識してしまう二人。文化祭後今日親いないんだよね?とはじまる二人の恋!」
坂本は熱く語る。
「カップル同士で過ごせるダンス会場にしよう!」
「定時で音楽流して!教室もそれっぽく飾りつければそれで終わり!」
でも、この案にもいいところはある。
ダンス会場とやらが出来るなら、文化祭当日はほぼ暇だ。
回る分には楽しめるだろう。
「よし乗った」
「いいねぇ!」
今更だがこんな準備のない出し物なら、ほとんどクラスメイト内の交流は無いだろう。
そのことに関して坂本は気づいていないようだ。
「誰も案がないなら先生もそれで良いぞ」
担任がそう言ったらなんも出ないだろ……。
「先生も誰と誰が付き合ってるか知りたいし」
おいおい。お前おっさんだぞ?
普通若い女教師が言う奴だろそれ……。
その後特に意見も出なかった為ダンスフロアに決定、俺たちのクラスはほぼ休憩室だ。
ふと視界に、机に伏せる吉田綾香が映った。
-独白・吉田綾香-
私の初めての彼氏。
そんな彼氏が友達に取られた。
その友達を友達が虐めていたら、私まで巻き込まれた。
私だってそのいじめを見て気が晴れていたが、やったのは別の連中だ。
それなのに大きな声で透があんなこと言うから。
私は彼氏を取られた被害者なのに、夏織は幸せそうに透と過ごす。
-夜自室・三浦梓-
意外だった。
相沢は結構嫉妬深い。
私にそんな一面……。
私……男子との絡みほぼねぇ……。
ただこれで一つ問題ができた、あの天真爛漫清水先輩だ。
きっと彼女は誰にでも話す陽キャタイプ。
相沢との相性だけで言うなら、他の男子を寄せ付けない、影のある美人タイプの中村さんの方が多分良い。
少しメッセージしてみるか。
「先輩、実は相沢結構嫉妬深いところあるんです、面倒くさくて。地雷がたくさんあってそれを相手に説明しない感じで……。相沢のことそれでも好きになれます?」
ぽちっと。
ぴこん。
先輩からの返信は早い。
「多分大丈夫だが、急にどうしたのだ?」
……。
急だな、確かに急だ。
とりあえずこれまでのアプリの件の経緯をメッセージにする。
「男の子は結構細かいところを気にするのだな……」
清水先輩は引いてしまっただろうか。
「多分相沢だけだと思います、それに中村さんには聞けないみたいで」
「そうか、私は大丈夫だ」
「この前は無責任に頼んですみませんでした」
「この前?」
「頑張って欲しいって……」
「大丈夫だ、元より告白するくらい好きな人だ。君に言われなくても頑張っていたさ」
この人は優しい。
自分とは違う明るい世界で生きていて、人の悪意に触れたことないような。
私は悪い子だ。
先輩に恋を押し付けて、自分は逃げている。
こんなこと誰かに知られたら、またイジメられてもしょうがないのかもしれない。
相沢にも嫉妬する一面があって驚いたのかも知れない。
この前の写真。
日も落ちたバイト終わりの帰り道、街灯に照らされた相沢の横顔を見つめる。
スマホを投げて、枕に顔を埋めた。
今日はもう寝よう。
-翌日放課後・三浦梓-
下校する時間だ。
今日はバイト、学校をでたら私は一人和菓子屋へ行く。
中村さんが相沢を呼びにきた。
二人は今日一緒に帰るようだ。
部活へ向かう生徒たちと別れ、私たち三人は下駄箱へ向かった。
下駄箱へ向かう途中清水先輩がいた。
何やら別の生徒と言い合っているようだ。
「辞めるなんて言わないでくれ!私だって怪我をしても諦めずに」
「私はもういいの、どうせ全国で勝てないし」
どうやら部活を辞める女子部員を引き止めているようだった。
「あ……あぁ!待ってくれ!」
話していた女子生徒は行ってしまった。
「清水先輩?」
「あ!三浦くん!……みんな一緒なのだな……」
少し気まずそうだった。
それもそうだ。告白した男子とその彼女がそばに居るんだ。
「あ……相沢、私先輩と話してから帰るから」
「二人は知り合いなのか?」
「いいから、お前は今邪魔だからどっか行けって」
そう言えば相沢は私と先輩が話してるのを知らない。
相沢の背中を押し、あとは中村さんに任せた。
-その後帰り道・中村夏織-
今日は相沢のバイトがないので二人で帰れる。
相沢は機嫌が悪そうだ。
こちらを見ずに、いつもより歩くスピードが早い気がする。
「相沢?なんかあった?」
相沢はふうっと息を吐き、しばらく立ち止まった。
「……夏織?浮気とかってしてないよね?」
意外な言葉だった。
初めて聞く、相沢の不安の声。
「してないよ?何かあった?」
「いや……なんでも」
なんでもない事は無いだろう?
「なにか不安なら話聞くよ?」
「誰かから何か言われた?」
私は夏休みずっと相沢と居たのだ、今だって。
きっと誰かに何か言われたに違いない。
綾香?はまずない。清水先輩も周りくどい言い方をする人じゃない。となると残りは。
「三浦さん?」
「いや、違うよ。夏織SNSやってるでしょ?」
これまた意外な返答だ。
「もう使ってないけど」
本当に使っていない。
入学しばらくはやってたけど、綾香達とのごたごたもあって見たくもなかったのだ。
「いや男子のフォロワーたくさんいるなって思ってさ」
そんなことで不安になられても私も困る。
「嫌なら、消すよ」
「嫌ならって……」
どうして欲しいのだろうか。
今までアプリがあったこと自体気に入らないのだろうか?
「どうしたら信用できる?」
「ごめん。俺のただの考えすぎ、前他の男子とメッセージしてないって言ってたからさ」
「してないよ……」
「でも相沢だって私以外の女子と仲良くしてるじゃん!三浦さんとずっと一緒で!私には相沢しかいないんだよ!」
正直幼馴染の女子とバイトも一緒、たまたまだって言われても苛立ってしまう。
「三浦を見守るきっかけ作ったのは、夏織だけどね」
「……。」
こればかりは強く言えない。
でも私は知らなかった事だ。
「それに、三浦はそのアプリ、男のフォロワーいなかったぞ」
三浦さん、三浦さんって。
実際に女子と関わってるのは相沢なのに。
使ってないアプリのことで責められるなんて。
「相沢が三浦さんと関わらないなら、アプリは消す」
相沢の目が鋭く私を見た。
「三浦と関わらないならって、やっぱりそのアプリでメッセージとかしてるんだ」
今の言い方で、相沢の触れられたくないところに触れてしまった気がした。
「ちがう!……っ。してないよ!ほら!見なよ!」
「見てもわかんないよ、俺そのアプリ知らないし」
なんなのよ、もう!
今まで順調だったのに……。
悔しくてどうにかなりそうだ。
「私は演劇部だって辞めたのに……」
「そんな事頼んでない」
軽く言ってくれる。
でも、前に振られた時を思い出してしまう。
「なんでもするから……」
「なんでもするから信用してよ……」
「まず信用されないことしなければ良いのに」
それから、相沢と話すことはできなかった。
半ば義務のように家まで送ってもらった。
-夜自室・中村夏織-
最悪だ。
最悪だ、最悪だ。
こんなことで亀裂が入るなんて。
私はアプリのアカウントを消した。
そして相沢にメッセージを送る。
「ごめんなさい。アプリはアカウントも全部消しました、お願い許して」
いつもなら早い返信が今日は来なかった。
不安でたまらない。
誰か、こ……小鳥に電話してみよう。
「もしもし、小鳥?」
「どうしたの夏織?珍しいじゃん電話なんて」
「ごめん夜中に、少し落ち着かなくて」
「大丈夫だよ?何かあった?」
「いや、もし小鳥の彼氏がさ?アプリやってて女子のフォロワーたくさんいたらどう思う?」
「んー……私はやっぱり嫌かな?それが普通じゃない?」
「……そうだよね。それが普通だよね」
「まさか、相沢そんな事してんの?ほんっとあり得ない!」
「ち……違うよ!相沢はそんな事してないよ」
「そっか。また相沢と何かあった?」
「……別に何もないよ!知り合いの話!少し気になって」
「そっか、また明日学校で話そー。私もう眠くて」
「ごめん本当夜中に!また明日ね!」
「じゃあね〜」
電話が切れてしまい、また一人ぼっちだ。
寂しい。
相沢返事を頂戴。
-翌日ロングホームルーム・吉田綾香-
「今日からダンス会場?の準備をはじめるぞー!まずはリーダー決めから坂本!お前で決定な!」
先生が、文化祭の準備について説明をはじめた。
「ちょっと待ってくださいよ!なんで俺なんすか!」
「お前やりたかったんだろ?」
「後装飾とか色々作るからなぁ、吉田!お前坂本のサポートしてやれ!」
「えぇ!なんで私なんですか?」
男子は苦手だ、透と付き合ってたから話せてたけど今は違う。
「お前美術部だろ、ポスターの作成とかも頼んだぞ?クラスメイトは適当に誘っても良いから」
文化祭一週間前は部活も休みで、文化祭の準備をして良いことになっている。
まだ二週間はある、それまでに何をするかを決めてみんなをまとめて……。
……私には無理だ、あの一件以来みんなに無視されていた。
手伝いなんて頼めるはずない……。
「よし!吉田!一緒に頑張ろうぜ!」
「え?」
「なんだよ!遠足同じ班だったろ?ほら!」
「でも……」
「じゃあどんな感じの模様にするか決めていこうぜー!」
坂本くんが仕切り始める。
「じゃあ手伝いにこれる奴どんくらい居る?部活よりしんどく無いって!」
徐々に坂本くんの周りに、手伝う人が集まってくる。
なんだろう、安心する。
きっと私が無視されてることも、何をしたかも知ってるはずなのに。
何もなかったように振る舞って。
私の事で小言一つ言わずに、クラスをまとめてる。
ただ楽しく文化祭をしたいから、それだけで頑張っているように見えた。
-放課後・吉田綾香-
「……ごめん!坂本くん!放課後時間あるかな?」
「大丈夫だけど文化祭のこと?やる気だねー!良いね!」
「ちょっと違うんだけど二人で話がしたくて」
「別にいいよ!部活始まるまで時間あるから!」
二人であの場所へ行く。この学校でほとんど人が訪れることのない、あの非常階段下。
よく話してたっけ、嫌な思い出ばかりなのに、ここが一番話しやすい。
正直に話しておこう。
私と居ると坂本くんまで何か言われてしまうかも知れない。
「坂本くん……私みんなから無視されてて」
「うん、なんとなく知ってる」
「坂本くん……私中村夏織って子のこと凄く嫌いで。友達がいじめてるのを黙って見てて」
「それも、なんとなく知ってる」
「前、透と私付き合ってたでしょ?夏織相談してたのに、別れた瞬間透と付き合いはじめて」
「そうだったんだ……」
坂本くんは若干気まずそうだ。
「ざまあみろって思って笑ってたんだけど、透は私がいじめてるって勘違いして……みんなの前で」
「それでみんなから無視されてて……だから私と話してると坂本くんまで無視されちゃう」
「文化祭の手伝いはなんでもするから!何かあったら言って!でもみんなの前ではあんまり話さない方が……良いかも」
「うーん。俺は相沢とも友達だからあんまりどっちがどうとかは無いけど。まぁ大丈夫!普通に話すよ!吉田とも」
「え?」
「聞いてた?私みんなに無視……」
「無視って言ってもどうせ女子達だろ?俺あんまり話してないから!無視されてもかわんねぇから!」
「まぁ彼女は遠のくかも知れないけどな……」
とほほ、と泣いたふりをしてくれる坂本くん。
「ごめんね……ありがとう」
「気にすんなって!」
「じゃあさ!また明日!」
スタスタと坂本くんは部活に向かってしまった。
異性と話してない……か。
透と付き合ってた頃の私は馬鹿だったな……。
舞い上がって他の男子と話して、透のことを不安にさせて……。
喧嘩をしてからずっと窮屈だった美術室も、今日ならきっと良い絵が描ける。
-同日和菓子屋漆戸・三浦梓-
「んー!」
バイトも終わり背伸びをする。
今日は相沢も一緒。
今日のバイトは長かった、餡子の納品日。
か弱い女子には辛いものがある。
「「お疲れ様でした!」」
二人で挨拶をし和菓子屋を出る。
何も言わずに相沢は家まで送ってくれる。
夕日が落ちた、暗い帰り道。
「そーいえば三浦、この間清水先輩と話してたよな」
ギクっ……。
「そ……そうだねー。和菓子屋で会って学校でも会ったからさー……」
「三浦そんなに先輩と仲良かったんだな」
「ま……まぁなー。たまたまな、たまたま」
私は清水先輩の相沢への気持ちを直接聞いた……。
なんて話したら一体どんなことになるのだろう。
「それより、お前はどうなんだよ!彼女とはさ!」
「今喧嘩してて……」
「喧嘩?」
「そうアプリのこと聞いてみたんだ」
意外。吉田さんの時は気に入らなかったらすぐ振ってたのに。
「そうか……連絡でも取ってた?」
「いや取ってないって……でも不安でさ」
不安?
それよりこいつ、こんなに嫉妬深かったか?
「なんでそんなに不安なんだ?吉田さんの時はそんなに嫉妬深くなかったろ?」
「なんとなく昔を引きずってるって言うか……」
「昔?」
「昔彼女に振られた時さ、その子のこと好きだったんだけどさ」
「……。」
あの子の事を好きだったかぁ。
自分の髪先を触ってしまう。
「その時の彼女、きっと俺のこと好きじゃなかったからさ」
「そ……そんなことわからないだろ!」
分かってる、だってそう言ってたんだもん。
「そう思えなくて、だからきっと振られたし」
「それから自分から好きって言うのが怖くて」
返す言葉が見つからない。
以前聞いた女子たちの笑い声が蘇る。
相沢の顔を見られない。
……嫌だ。
「ら……らしくないな!相沢らしくもない!」
自分なりに声を張ったつもりだった。
「……そうかな?」
「あんな奴振ってやったくらい吉田さんの時は言ってたろ!」
「今回だってアプリで男のフォロワー沢山いる中村さんが悪いだろ!」
「……らしくないのは三浦の方だろ、どうしたんだよ急に」
「うるさい!うるさい!」
右手で相沢の横っ腹を殴る。
「いって!」
顔だけは見せちゃいけない、今私どんな顔してる?
幸い周りも暗い、家までだってもうすぐだ、私は無心で走り出す。
「ちょっと!おい!」
後ろから相沢が呼ぶ声が聞こえる。
-自宅玄関・三浦梓-
「はぁ……はぁ……」
久しぶりに走ったせいで膝もガクガクだ。
逃げた……。
私は相沢から……違う。
相沢からも過去の自分からも逃げ出した……。
好きって言うのが怖いって、私もだよ。
ずっと……ずっと……私だって怖い。
あの時、何かできたら……。
私は相沢にちゃんと好きって言えたのだろうか。
あの時何かできたら、相沢は今より素直に恋人と付き合えたのだろうか……。
声にならない声で私は泣いた。
-自宅・相沢透-
「なんだったんだよ、三浦のやつ……」
殴られた腹をさする。
でもあんな三浦初めてみた。
「ごめん、俺なにかしちゃった?したならちゃんと謝りたい」
メッセージを送る。
今の今だぞスマホぐらい見てるだろ……。
まぁ良いか……。
少し疲れた。
ぴこん。
三浦?
メッセージは夏織からだ、そういえば昨日の返信してなかったな。
「もし私のこと信じられないなら、別れよう」
ふー……。
少し落ち着いた。
心臓を冷たい何かが通るような感覚に近い。
俺から言うのは気まずかった、むしろ好都合なのかもしれない。
ここで了承したらきっと、それまで。
三浦もよくわからないし、夏織もよくわからない。
もう疲れた。
不本意……。
澤愛の言葉をふと思い出してしまう。
「分かった、別れよう」
メッセージを送る。
これで何にも悩まなくて済む。
-同日少し前自宅・中村夏織-
今日は相沢がバイトだ。
そして小鳥が家に泊まりに来てくれている。
「相沢となんかあったの?」
パジャマ姿の小鳥が聞いてくる。
「……なんかって?」
「いやこの間アプリがどうのって聞いてきたじゃん」
「うん……私の使ってないアプリ男子から結構フォローされてるでしょ?それで疑われちゃって」
「それでこの前の……」
「うん」
簡単にまとめるとこうなる。
あの時は突然言われて少し気が立ってしまった。
すぐ使ってないから消すと言えば良かったのに。
三浦さんの事を出してしまい。
引くに引けなくなってしまった。
「使ってないとか言ったの?」
「説明したけど、私も少し怒っちゃって。それからは連絡返ってこなくて」
「そっか……。ねぇ、相沢と付き合うの疲れない?」
「夏織幸せそうに見えないって言うか」
疲れる……か。
そうかも知れない。
「わかんないや。でも相沢のこと好きなの」
「相沢もきっと、この不安をどうすれば良いか分かんないんだと思う」
「じゃあ、返事来るまでずっと待つの?」
「……うん」
「でもそれ辛くない?相沢いつ返事来るか分からなくてさ、もう少しで文化祭だよ?早く仲直りしないと一緒に回れないよ?」
「……うん」
文化祭か。
一緒にまわりたいな。
拳をギュッと握ると、少し目の前が滲んでしまう。
あんなことにならなければ。
「じゃ……じゃあさ!私のこと信用出来ないなら別れようって聞いてみれば?」
「もし夏織のこと好きなら。嫌だ、ってきっとすぐ返事くれるよ!」
「そんな……もし分かったとか言われたら私……」
「そうだよね……やっぱり、やめとこうか」
「私の意見は前から変わらない、相沢と付き合うのやめた方が良いよ」
……。
そういえば相沢から好きって言ってくれたこと、今まであったっけ。
いつも不安で、どうしたら良いか分からなくて。
「……小鳥、私送ってみる。さっきの信じれないなら別れようって」
「……良いの?」
「きっと大丈夫だから」
「それに小鳥が居ないとこんなメッセージ送れないよ」
私は、メッセージを送った。
大丈夫、相沢はきっと私のことが好きだから。
-六話終-
登場人物まとめ
相沢透 主人公
身長165㎝ A型
帰宅部
好きな人 ???
好きなもの、RPG 甘いもの
嫌いなもの、特に無し
三浦梓 相沢の幼馴染
身長152㎝ A型
帰宅部
好きなもの RPG 和菓子
嫌いな人 中村夏織
吉田綾香
身長158㎝ O型
美術部
好きな人 坂本太一
嫌いなもの 女子グループ
中村夏織
身長163㎝ B型
演劇部
好きなもの 努力 RPG
嫌いなもの SNS
坂本太一
身長168㎝ B型
剣道部
好きなもの、恋バナや噂話
嫌いなもの、テスト
ワンポイント
吉田綾香が中村夏織をいじめていたことは知っている
小鳥秋穂
夏織の親友 テニス部
身長161㎝ A型
好きなもの 恋バナ 少年漫画
嫌いな人 相沢透
澤愛瑠花
身長150㎝ AB型
図書委員 部活は未所属
好きなもの ???
嫌いな人 嘘のない人
ワンポイント
中間テスト期末テスト実はずっと学年一位
清水葵 二年生
身長173㎝ B型
陸上部
好きな人 相沢透
好きなもの カレー 家族 陸上
嫌いな人 勝負する前から諦める人




