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初恋はきっと何処かで嘘をつく。[十話]

夏織に手当てを受けた三浦は、中学時代の出来事と、透への想いを伝えられない理由を打ち明ける。

「三浦さんは悪くない」と告げられ、二人の間に新たなつながりが生まれた。

葵からの伝言を受け、透とも再び話すようになる。


一方、記録が伸びずに悩む葵は、遥から恋心を打ち明けられる。競技への焦りや人間関係に疲れた彼女は、透に陸上を辞めると告げた。


透は、葵が陸上を諦めれば後悔すると考え、「それでも俺といたいなら、追いかけてきてください」と立ち去る。


葵は追いかけてこなかった。


互いに「大好き」と伝え合いながら、二人の恋は終わりを迎えた。

サブタイトル[自覚]


-二週間後学校・相沢透-

二週間前、好きな人の気持ちを優先するという、きっと誰も褒めてくれない決断をした今の俺は、簡単に言えば病んでいた。


心が動かずに固まったままのようで、振られてしまった現実をどこか受け止められずに。

葵先輩とまた付き合えるかも知れないとまで、現実逃避していた。


そんな逃避の場所になったのは勉強だ。

十月末には中間考査がある、俺は何かを考えないように必死に勉強した。


そして今日、中間考査の結果が返って来た。


ほかの生徒には、黙って成績表が配られていく。

担任の田辺先生が俺の前で少し止まる。

「頑張ったな、相沢」


結果を渡される。

そんなふうに声をかけられたのは、俺だけだった。

最近涙腺が緩すぎる、田辺先生の言葉で泣きそうになった。

俺、彼女に振られたんすよ。


言いそうになったが、ぐっとこらえる。


結果を見ると順位が二位。

クラスではなく、学年で。

今までも中の上もしくは上の下くらいの順位だったが、今回の結果は大躍進といって構わないだろう。


「はぁ……」

虚しくなってしまう、中間考査という俺の現実逃避の場所がなくなってしまった。


「なにため息ついてるんだよ」

三浦が聞いてくる。


「はぁ……」

答える気力が湧かない。


「お前だけだぞあんなこと言われて返されたの。結果絶対悪くないだろ」

スルッと結果の紙を三浦に取られる。


「に!……二位!?」

「なんで落ち込んでるんだよ。最近清水先輩とも帰ってないみたいだし」


あの一件について、まだ三浦に話せていない。


「俺、振られちゃって」


「え!?」

初めて誰かに言った。

元から葵先輩は二年生だ、同級生の間でも話題に上がらない。

別れたところで、周囲の人が気づくこともない。

誰も聞かないのだから、誰にも話せなかった。

そうして二週間、空いた時間は勉強に費やした。


「はぁ……」

両手で目元を強く押さえる。

また泣きそうだ。

三浦の前でこんな……。


「ちょっと!ちょっと!何があったんだよ!話だけでも聞くぞ」


-放課後非常階段下・三浦梓-

今日はテスト結果の返却日の為、午前で学校は終了だ。

落ち込む相沢を引っ張って、いつもの非常階段下へ行く。


「何があったか聞いてもいい?」

相沢がここまで落ち込むなんて、初めて見た。


「それが……」

相沢から一連の流れを聞いた。


先輩が陸上を辞めようとしたこと。

そして相沢といると陸上に言い訳してしまうと言われたこと。

相沢は、先輩が陸上を辞めたら後悔すると分かっていたという。


そして、相沢ではなく、陸上を選んだこと。


「……本当は、追いかけて来て欲しかった」

溢れるように、呟いた。


また両手で目を覆う相沢。

ああ、これ本気で好きだったんだな。


なんで……。

先輩だったら相沢を傷つけないと思っていたのに。


「大丈夫?」


「大丈夫じゃないけど、少し落ち着いたよ」


「……先輩のこと本当に好きだったんだね」


「……そうだよ」


目を閉じる。

いろんな感情が入り混じる。

何が不健全だ……。

恋人が自分の為に気持ちを押し殺してるの分かるだろ。


先輩は相沢に助けて貰ったんだろ。


なんで先輩は相沢を助けないんだ!

許せない。


「私ちょっと清水先輩に話してくる!」

立ち上がり、二年生の教室を目指そうと歩き出す。

パシッと手を掴まれた。


「三浦ありがとう、もういいんだ」


泣いている。

初めて見た、相沢の涙。


握った拳が解けない。

悔しい。


私じゃないんだ、私じゃ。

悔しい、悔しいよ。


-同日夜自室・三浦梓-

私は迷っていた。

相沢がこんなに傷ついているのに、先輩は何食わぬ顔して部活に専念してるみたいで。

一言言わないと気がすまない。


メッセージを打つ。

「先輩なら相沢を大事にしてくれるって思ってたのに」


メッセージを送るため、送信ボタンに指をかざす。

「三浦ありがとう、もういいんだ」

放課後の相沢の言葉を思い出す。


……。

一瞬迷ったが、止まれない。

私はメッセージを送った。


もう一つ私はやらなきゃいけないこと。

「治療代」。

嫌だな、中村さん何するかわかんないんだもん。


「相沢彼女と別れました。でも今相沢すごい落ち込んでるから、追い詰めるようなことはしないでほしい」


ぴこん。

中村さんからだ。

「わかった」


一言だけだった。

中村さんは今どんな気持ちなんだろう。

分かったの一言だけでは、その気持ちは分からなかった。


しばらくしてスマホの通知音がなる。

清水先輩からだった。

「すまない」

こちらも一言だけだった。


ふーっと一呼吸。

メッセージを送ってしまったが落ち着いた。


……もう良いんだよね?相沢。


-翌日放課後図書室・相沢透-


今日の放課後は、何の予定もない。

そして三浦はバイトのため帰ってしまった。


「はぁ」

ため息が止まらない。


「どーしたの?また恋バナしにきた?」

澤愛が楽しそうに話しかけてくる。


なんとなくこいつにイジられて、自分の中の何かを傷つけたいような。

そんな気持ちだった。


「あぁ……恋バナしにきた」


「はぁ?」


-独白・澤愛瑠花-


人を弄るのが大好きで、特に誰かの汚い本音が大好きだ。


「恋バナしにきた」


「はぁ?」


自分から言われると、つまらない。

言いたくないことを隠して、取り繕って、それでもぽろっと本音が出る。


私はああいう瞬間が好きなのに。


「自分からしたがる恋バナとか興味ないんだけど」


「だよな……」

相沢君へこんでる。

うぜぇー!


「なーに悩んでるの?」


「好きな人に振られちゃってさ」


「そんなの相沢君もしてきた事じゃん」


「そうだな……」

あーこれあれだ、私だけだと今は全部そうだなで返されるわ。


誰か呼ぶか、失恋した相沢君を、さらに傷つけてくれそうな誰かを……。


あ!私って頭いい!

一人の顔が思い浮かぶ。


「また明日ここに来てよ」


余り二人以外で話すなんて、私のポリシーに反するけど。

なんか相沢君をいじるの最後になる気がするから。

しょうがない。


-翌日放課後・相沢透-

いつもは嫌いな澤愛だが、今だけは罵倒して欲しかった。


それだけだった。

日を改めてまで、何かしてくれるなんて。

意外でしかなかった。


ガラガラ。

図書室の扉を開く。

「よー!」


「坂本君、図書室ではお静かに」

クスクスと爽やかに笑う澤愛。

なーに猫被ってるんだ。


「なんで坂本?」

目の前にいたのは、剣道部でいい奴なんだがあんまりモテない。

澤愛と違って普通の恋バナが好きな、坂本太一だった。


-図書室・相沢透-

今日の図書室には人がいない。

三人揃って、テーブルにつく。


何故坂本が来たのか。

どうやらその答えは単純で、俺を励ます為に坂本を呼んだのだと言う。


「振られたんだって?でもお前ならモテるから大丈夫だよ!」


モテるからなんだと言うのだろう。

「はぁ……」


「早く好きな人でも作れよ!そしたらきっと元気出るって!」


「坂本?好きってなんなんだろうな」


「本当に珍しいな、あの先輩と何があったんだよ?」


視界の横で、澤愛がニヤリと微笑んだ。

あ、こいつきっと善意じゃないな。


「先輩、陸上頑張ってたんだ」

「でも俺がそばにいると、俺に逃げちゃうから。陸上辞めるって」

「でも陸上辞めたらきっと後悔するって俺が話したら、振られた」


今回の、恋の結果はこれだけ。

言葉にすれば少なすぎる。

言葉にしなければ、多すぎて抱えきれない感情だったはずなのに。


なんて簡素なものなのだろう……。

不甲斐なくて、また泣けてきた。


「ならさ?俺が甘えないようにサポートしますとか言ってみれば良かったんじゃ?」

「今の話聞いたら、先輩はお前のこと好きだろ?」


?


澤愛がふぅ、とため息をつく。

今度はつまらなそうだ。


「なんでそこで部活辞めるか、付き合うかになるんだよ?」

「部活も続けて、恋人も続けられるだろ?」


言いたい事は分かる。

でも違うんだ、先輩と付き合ってたから分かる。

このままだときっと傷ついてしまうから。


言い訳しながら、戦うのは辛いから。

……。


「はぁ……」


今思えばそう言ったら、どうなったのだろう。

先輩に直接聞いた訳じゃない。

ただ追いかけてこれなかったということは、きっとそれじゃあダメだったんだと思う。


「なんか坂本変わったな。イケメンというか、気づかいの仕方が変わったというか」


「そーだよ?坂本君今彼女居るし」


「え?」

澤愛の何気ない一言に驚いた。


「お前彼女居たのかよ!」

「誰だよ一体!」


「アハハハ」

どうやら言いたくないようだ、いつもあんなテンションなのに自分のことは恥ずかしいらしい。


「俺の話は後にして!」

「もっと自分が傷つかない解決の仕方すればいいじゃん。もうちょい踏み込んで話し合ってさ」


「お前の傷ついてる姿、どうせ先輩は知らないんだろ?」

「そこ大切にしてくれる奴、分かってくれる奴を見つければいいんじゃね?」


……。

今、一瞬三浦の顔が頭をよぎった。


「な!」

坂本はポンっと俺の肩に手を置いた。


クソっ……。

自分が情けない。

「ありがとな、坂本……」


「いいってことよ!少しは元気出た?」


「あぁ!」


「……つまんねぇ」

ボソッと澤愛がつぶやいた。


「え?」

坂本は若干引いてる。

こいつ、そういう奴だぞ。


澤愛がにやりと、坂本を見た。

「じゃあ、相沢君元気でたみたいだし帰りなよ」


「わかった、二人ともありがとう」


「坂本君はちょっと話をしない?」


「俺?まぁいいけど?」

「じゃあ相沢!また明日!」


二人に手を振り、図書室を後にした。


一人とぼとぼと、帰る。

……俺、ちゃんと話せてなかったんだな。


先輩が追いかけてくれなかった道を今日も辿る。


記録会の時二人で撮った写真、消せなかった大好きと言う最後のメッセージ。


勿体無いな、大切なのに。


少し暗くなってきた、空を見上げて目を閉じる。


覚悟を決め写真と、最後のメッセージを削除した。

画面からは消えた。

気持ちまで消えるには、まだ時間がかかりそうだった。


でもここまで来てようやく消せた。


-少し前図書室・澤愛瑠花-

坂本君なら、悪気なく「次があるって」と笑ってくれる。

今の相沢君には、ああいう明るさが一番きつそうだ。

そう思ってたはずだったのに……。


「坂本君、相沢君には彼女が誰か言わないんだね?」


「いや、それは……」


あぁ、笑っちゃう。

完全にただの棚ぼただった。

しばらくはまた楽しめそうだ。


-一週間ほど経った後・夜の田んぼ道・相沢透-

11月も半ばになる。

肌寒く、真っ暗な夜。


俺はと言うと、最近はジョギングをしている。

「はぁはぁ」

元から走るのは嫌いじゃない。

こびりついた何かが、汗と共に落ちていくような。

そんな感覚だった。


この一週間、恋愛で何かが起こることはなかった。

告白も、呼び出しも、新しい出会いも。


一度だけ、葵先輩と廊下ですれ違った。

お互いに話しかけず、立ち止まることもなくすれ違った。


寂しかった。けれど、立ち止まらずに歩けたことに、少しほっとした。

心が軽くなる、不思議な感覚。


きっとこれで良かったんだ。

今の俺はそう思えた。



-学校昼休み・三浦梓-

「なんか最近やたらと体調良さそうじゃん?」


「そうかな?最近夜ジョギングしてるから」


「なんで?」


「体動かすのはいいことだろ?」


「うっーわ、キモいね」

なんで部活もないのに、そんなことしてんだよ。


「おいコラ」

ぴこん。相沢のスマホが鳴る。


「ん?」

スマホを弄る相沢。

少し眉間に皺を寄せ、悩む。


「どーした?」


「夏織から、放課後話せないかって」


「……。」

中村さん。

追い詰めないでって言ったのに。


「大丈夫、ちゃんとけりつけてくるから」


「振るってこと?」


「ああ」


「そっか」

今の状態で付き合えるわけないよね。


-放課後非常階段下・相沢透-


「相沢?」


夏織が来た。

「ごめんね、待たせちゃった?」


「大丈夫」


「話って何?」


「まず、相沢って彼女いない?」


「いないよ」


「そっか別れちゃったんだね」


「ああ、大好きだったんだけど振られちゃって……」


「なんで別れたとか聞ける?」


「言いたくない」


「わかった、じゃあ聞かない」

「相沢ってさ?どんな子が好きなの?」


どんな子?……。

葵先輩のことは好きだった。

でも、好きになったきっかけは元はと言えば告白されたから。

俺はどんな子が好きなんだろう……。


好きなタイプとかも特にない。

うーん……。


「え?そんな悩む?」


深く考え込む俺に夏織が困惑していた。

「いや、ごめん。あんまり好きなタイプとか考えたことなかったから」


「そっか、まぁいいよ」

「私の用事言うね、これで最後」



「私まだ相沢のこと好きだよ、付き合ってください」

頭を下げて手を伸ばす。

答えを待つ夏織を見て、先輩が追いかけてくるのを待っていた自分を思い出した。


「ごめん、俺夏織とは付き合えない」


「そっか……。ありがとう、最後までちゃんと来てくれて」


「こっちこそ、俺のせいで部活やめたり。本当にごめん」


「大丈夫、私がしたくてした事だから。きっとまだ諦められないから、好きでいさせて」


「……わかった」

まだ夏織は俺のことを好きでいてくれる。


そんな感覚に、甘えてしまう俺がいた……。


「ありがとう、相沢」

数分で会話は終わった。


-校門前・相沢透-

「三浦!待たせた!」

「別にいいよ」


校門の横で、三浦がスマホをしまった。

誰かを待つのは、いつも俺の方だった気がする。


じっと見ていると、三浦が首を傾げた。

「なんだよ?」


「いや、なんでもない」

今回は三浦が俺を待っててくれた。

不思議な感覚だった。


「どうだったんだよ結局」


「ちゃんと振ったよ」


「本当にちゃんとか?」


「今度は大丈夫だって」

コツンと、弱く蹴られる。


いつものじゃれ合いが心地良い。

久しぶりな気がした。


-その日の夜・三浦梓-

あれから、相沢は少し元気になってきた。

私が何がしなくても相沢は立ち直る。


中村さんのこと、振ったんだ……。


相沢少しまた変わったな、前だったら告白されれば付き合ってたのに。

これも先輩と付き合ったから変わったのかな?


まだ清水先輩のこと好きなのかな?


大丈夫かな、中村さん……。


-十二月頭・期末試験後バイト・相沢透-


期末試験の結果はまずまずだ。

前回の二位に比べれば少し成績は落ちた。

しかし、普段通りに戻っただけだ。


テスト期間中はバイトが休み。

少しだけ久しぶりの出勤だ。


「三浦?」

茶の間の三浦を呼ぶ。


「何?」

相変わらずぐうたらしている。


「いや、最近元気かなって」


「なんだそれ?」


「いや、なんでもない」


「あら、仲良いじゃない」

奥から店長がやってきた。


「透ちゃんがきてから、もう半年は経つかしら?」


「そうですね」


「いつまで、二人はここに居てくれるのかしらねぇ」


「まぁ俺は高校卒業するまでですかね?」


「私もかな?」


「いつまでも、一緒に居れればいいのにねぇ」

店長がしみじみと言う。


三浦を見る。


「?」

なんだよ?と言いたげな顔をしてる。


……いつまで一緒か。


-その日の夜自室・清水葵-


風呂から上がり、部屋につく。

目を閉じると初恋を思い出してしまう。


透。


あの日の夜、私は透のことを追いかける事ができなかった。

きっと私の甘えに透も気付いていたんだろう。

陸上を辞める言い訳を、透と過ごしたい気持ちに押し付けようとして。


一ヶ月ほど前、三浦くんからメッセージが届いた。

「先輩なら相沢を大事にしてくれるって思ってたのに」


ぐうの音も出ない。


私だって透の事が好きだったさ。

でもこのままだと、何もかも中途半端になってしまうそんな気がしてて。


ごめん、透。

私のために、辛い気持ちを我慢して。

あの時、私を甘えさせないでくれてありがとう。


大好きだった。


今でも透の背中を思い出すと、少し涙が溢れてしまう。


だけど私は、後悔のないよう走りたい。

透もそうやって送り出してくれたんだから。


ぴこん。

なんだ?こんな時間にメッセージなんて珍しい。

優からだった。

「これ?葵の元カレじゃない?」


-同刻自室・三浦梓-

なんか、最近の相沢は元気だけど変だ。

よく名前を呼ばれるそんな気がしていた。


うーん。


ぴこん。

「わぁ!?」

急にスマホが鳴りだす。


こんな夜に誰だよ。

メッセージの送り主は清水先輩だった。

「今少し電話できる?」


電話って……。

今更何を話すって言うんだ。


プルルル。

うわ!返信してないのに掛かってきた。

「はい、メッセージ見ましたなんですか?」


「三浦くん、まずはごめんなさい。私は透を傷つけた、本当にごめんなさい」


「そんな、今更」


「違うんだ!今はその話じゃなくて」

ぴこん。

スマホがなる、誰かからメッセージが来たみたい。

「その夏織さんが透に告白してる映像が拡散されてるんだ、一年生の間で!いまメッセージを送った!見てくれ!」


「え?」


メッセージを確認する。


アプリのURLだ。

「私まだ相沢のこと好きだよ、付き合ってください」

頭を下げて手を伸ばす。

「ごめん、俺夏織とは付き合えない」


数秒の映像だった。

心臓が潰されるような気持ちだった。


誰がこんなことを!


プロフィールを見るもアイコンは真っ黒だ。

捨て垢だ……。


フォローは!?


0人。

手掛かりもなにもない。

でも、誰がこんなアカウントの映像を拡散なんて。


どうしよう、相沢ようやく元気になってきた頃なのに。

こんな……。

トラブルには巻き込みたくない。


「優が騒いでたんだ!夏織さんに連絡できたりしないか?私はその……嫌われてるし連絡先も持ってない。だけどきっとこれを見たら彼女も傷つく!」


「わかりました」


「すまない、放り投げてしまって。今度また三浦くんとも二人で話をしたい」


私は電話を切った。

とりあえず中村さんに連絡しないと。

メッセージを送る。

「中村さん!アプリで告白の様子が拡散されてて!」


これじゃあ遅い。

電話をかける。


出ない……。

家に行く?こんな夜中に?

無理だ。


メッセージに既読は付かない、中村さん!早く気付いて!


なんで、こんな時にこんな事が……。

もう誰も!相沢も中村さんも傷つけたくない!


-翌日学校・三浦梓-

早く!早くしないと!

私は一足先に学校に行き。

中村さんのクラスへ走った。

「中村さん!いる!?」


クラスには数名の生徒がちらほらと。

私が急に大声を上げるもんだから、クラス内がざわついた。

「夏織はまだきてないよ、でも結構朝早いからもうすぐじゃない?」


一人の女子生徒がそう言った。

「あ……ありがとう」


勢いで来たがどうしよう、なんて伝えよう。

「と…とりあえず中村さんの席どこ?」


「ここだよ」


「ありがとう」

疲れた。まだ来ないし休んでよう。

中村さんの席に座る。


十分ほどすると、教室のドアが開く。

「ちょっと、三浦さん私の席で何してるの?」


やっと会えた。

「中村さん!話があって出来れば二人で!」


「なに?藪から棒に」


「良いから!」


私は中村さんを連れて、この時間なら誰もいないであろう特別教室の前まで走った。


少し落ち着き、深呼吸。

「あまりショック受けないでね?」

「……この動画今拡散されちゃってて」


私のスマホを渡して中村さんに動画を見せる。

中村さんは固まってる。

「そっか……。大丈夫別に気にしないから」


大丈夫?大丈夫な訳ないだろう。

「で……でも!」


「それより三浦さんアプリやってるんだね、ちょっとプロフィール見せてよ」

中村さんは私のスマホをポチポチと操作しはじめた。

私のプロフって今そんな話してる場合じゃ!


「もうチャイムなるよ?早くクラス戻ろ?」


そんな!なんでよ!


-同日昼休み・三浦梓-

結局あの後、クラスに戻る中村さんを引き止められなかった。

どう引き止めたら良いか分からなかった。

だって本人があんなに気にしてないのだから……。


「なんか、変な視線感じるんだよなぁ」

相沢も異変に気付きつつある。


やばいよ……。


ぴこん。

スマホの通知音がなる。

なんだろう昼休みに。


それは真っ黒のアカウントからのフォローだった。


「え?」


肝が冷えるとはこの事だ、怖くてたまらない。

「どうした?三浦?」


相沢がスマホを覗こうとしてくる。

「な……なんでもない!」


どうしよう。

でもこのまま放置って訳には行かない。

覚悟を決めて、フォローを返す。


ぴこん。

また通知が来る。

DMだ。

「嘘。なんで、こんな……」


DM「はじめまして三浦さん、放課後非常階段下で待ってます。相沢くんには何も言わないでね」


逆に都合がいいかもしれない。

中村さんと相沢を巻き込まずに、問題が解決できるかも。


だけどやっぱり怖い……。

私達の事を影から見てる、そんな事普通じゃない……。


「やっぱり、お前なんかあったろ」

相沢は心配してくれている。

相沢の気づかいが暖かい。


「あ……相沢。今日一緒に帰ろう?」


「?」

「最初からそのつもりだったけど?」


「……少し長くなるかもしれないから、どっかで時間潰してて」


「わかった」

「図書室にいるわ、終わったら必ず連絡しろよ」


「わかってる」


-放課後非常階段下・三浦梓-


私は不安でどうにかなりそうだった。

呼び出された事は中学時代何度もある。


だけど今回は少し違う。

このまま真っ黒アカウントの人が、私だけじゃなくて中村さんや相沢。

私達の関係をぐちゃぐちゃにして消してしまうような、そんな恐怖に心が支配されてしまう。


コツン、コツン。

来た……。


夕日の中人影があるいてくる。

コツン、コツン。


見たことのある人だった。


髪が綺麗で、美人な女の人。

中村夏織。


「な……なんで中村さんがここに?」


私が心配してるはずの、ここにいちゃいけない人が目の前にいた。


「じゃーん。これ、私だから」


スマホを見せる。

そこには真っ黒のアカウントが写っていた。


「な……なんで!自分でそんな事!」


「いやー本当は色々と考えていたこととは違う結果になっちゃったから少し説明しづらくてさ……」


なんで中村さんはこんなにも、軽くこの状況を見てるんだ……。

自分の告白を自分で晒すなんておかしいよ。


「三浦さんにはちゃんと説明しとく、あーだこーだ朝みたいに騒がれたら大変だし」


朝みたいに?


「まずね、この動画を撮ったのは綾香」

「三浦さんにしてた意地悪のこと、全部坂本くんに言うからって、言ったら素直にやってくれたよ」

「私が『最後』って言ったらカメラ回してねって」


え?中村さんはなにを言ってるの?

「なんで吉田さんにそんなことを」


「私も綾香に虐められてたからね、それで許すなら軽いもんでしょ……?」


「本当はね、告白成功するつもりだった。無事付き合えて、問題はその後」

「アプリの件で相沢を不安にさせた、ならアプリを使って私が逃げられないようにすれば良いって」

「告白が成功して、その告白が拡散されればきっと相沢も安心するって」

「けど結果は違う、私は振られてこの動画の意味はなくなった」


「じゃあなんで……」


「ショックだったよ、相沢を、安心させる計画が全部ぱーになった」

「しばらくして私は気付いたの。この告白振られても別に良いかなって」

「この動画が拡散されて、私が苦しめばきっと相沢なら私のこと助けてくれるって」

「だからさ三浦さん、このまま騒がないで無視してくれない?」

騒ぐなって……本気なのかな?

「三浦さん、どうせ告白なんて出来ないんだから」


私の傷を手当てして、私に寄り添ってくれてた中村さんだよね?


「でも……。こんなの間違ってるよ!相沢の気持ちを利用して付き合うなんて!」


「じゃあどうしろって言うのよ!!どうすれば相沢は戻ってくるって言うの!!」


強く睨まれる。

平行線だ……。

どうしよう、このままじゃ結局みんな傷ついてしまう。


「もし相沢に話すなら、三浦さんの、秘密も全部言うから」


「嘘……」


嘘でしょ?……。

そんな事言われたら、私にはもう何もできない。


「私はね私のことを助けてくれる、相沢が好きなの」

「三浦さんなら気持ちわかるよね」

私は、違う……。


ぴこん。

中村さんのスマホが鳴る。

「良かった、相沢からだ」

「今から会えないか?だってさ」


その言葉に絶望してしまう。

来ないで……、相沢。


-放課後非常階段下・三浦梓-

「久しぶり」

久しぶりって、相沢は来てしまった……。


相沢は私を見て少し微笑んだように見えた。

……なんだろう?


私はもう……なにも言えない。

「みたよ、動画。陸上部の間で話題になってて、石川から話を聞いたんだ」


「そっか……。相沢は気にしなくて良いよ、きっと私のこと嫌いな子がやっただけだから」


なんて酷い。

こんな嘘を簡単に……。


「そっか……」

「あの動画晒したのって夏織だったりする?」


え?


「え?なんで私が」


「夏織を笑いものにする動画なのに、俺のことはほとんど何も出てこない。それが気になった」

「これだけで決めつけるつもりはない。でも、夏織が出した可能性もあると思った」


「もし、誰かが夏織を馬鹿にする為に、この動画を上げた奴がいるなら俺はそいつを探すよ」

「ただ、もし夏織が上げたならちゃんと話しておかないといけないことがあるから」


「……。」

「そんなことする訳ないじゃん!人に振られたところをみんなに見せてなんの意味があるのさ!」


「意味はあると思う」


「話すってなに……?」


「……。」

「ごめん、夏織のことをこんなにも追い詰めて」

相沢は深々と頭を下げた。


「追い詰めてって……。なんのこと?」


「夏織の告白を断った、けどあの後好きで良いかって聞かれたとき。復縁を期待して待ってほしくない、と伝えるべきだった」

「俺は断ったあとも、好かれている安心を手放したくなかったのかもしれない」


相沢は頭を上げない。

「それは……私が勝手に好きになってるだけだから」


「違うんだ、俺が夏織を好きだった気持ちより、夏織が俺を好きな気持ちの方がずっと大きかった。その事に甘えて夏織が傷ついても良いと思ってた」


「俺は本当に最低だ……苦しいってことを俺は分かってるのに」


「相沢……。」

私は相沢の最初の彼女とのことを思い出していた。


「相沢、顔あげてよ」

中村さんが言う。


「本当にごめん」

顔を上げ、相沢がそう呟く。


中村さんは口を開きかけて、閉じた。

スマホを握っていた指が、少し緩む。

「……なんで、相沢が謝るのよ」


「はぁーー……」

「なんか毒気抜かれちゃったよ。普通そうなる?」

「私が動画上げたの気付いて、言うことそれ?」



「……。」



「ごめん相沢、やっぱり私相沢のことが好きだ」


「ごめん俺は、夏織のことはもう好きじゃない。きっともう好きにならない、だから忘れてくれ」


「……。そっか」

「ありがとう、あの動画上げたの私だよ」

「迷惑かけちゃったね」


中村さんは、私をみた。

「三浦さん、ごめんねまた巻き込んで」

「相沢にあのこと言っても、大丈夫だよ。三浦さんのせいじゃないもん」


「え?」

急に私のことを言われて驚いた。


「あの事?」


「女同士の秘密だよ」

中村さんはいたずらに笑う。


「じゃあ、これで最後だね。今までありがとう幸せだったよ」


中村さんは帰ってしまった。

最後まで良い人なのか悪い人なのか、私には分からなかった……。


-放課後帰り道・三浦梓-


黙って歩く。

なにを話せば良いかわからなかった。


「やっぱり三浦は優しいな」


「なんで……」


「どうせ夏織を助けに行ったら、ああなったんだろ?」


「ずっと黙ってた、だけだったけど」


「誰かと一緒にいるってそれだけで、嬉しいんだよ」


「それより良く気付いたな」


「学年二位だから」

ドヤ顔だ。

「そうでした、そうでした」


「まぁたまたま側にいた学年一位に少し助けて貰ったんだけどな」

「違和感はあったんだけど、犯人までは俺はわからなかった」


「誰だよ、この学年の一番って」


「知らない方が良い、腹立つから」

そう言って相沢は笑った。


「中村さん、大丈夫かな」


「まぁ分かんない」


「でももし、なんかあったら私が。中村さんの側にいるよ」


「お前達そんな仲良かったのか?」


「仲は……良くない」


「なんだそれ」


-その日の夜・相沢透-


はぁ……。つっかれた!


俺あの子と同じことしてたんだよな。

……ずっと。


今までの恋愛を思い出す。

昔の自分気持ちが悪いなぁ……。


両手で頬を叩く。


そして、三浦の事を思い出していた。

夏織を嫌いといっていたのに世話を焼いて。

自分まで傷ついて、それなのにまだ離れようとしない。


俺に対しても同じだ。俺がたくさん傷つけたのに、そばにいてくれる。



不器用で、優しくて、誰かが傷つくのを放っておけない。

そんな三浦の事が俺は『好き』だ……。


-その日の夜・自室・中村夏織・独白-


動画を消して、アカウントを消す。


私なにしてんだろ……。

あんなに回りくどいことして。

三浦さんをまた傷つけて……。


本当はただ、好きなだけでも良いかなってそう思えたはずなのに。


前、三浦さんの治療をした時に本当は殆ど諦めていた。


だけど、この初恋を諦めてるのに終わってないようなそんな気がして。

何かの拍子に相沢がまた助けてくれるような。


なんかずっとふわふわしたような不思議な感覚だった。


そんなことを思っていた時だ、三浦さんからの連絡だ。

相沢が彼女と別れた……。

私はどうしたら良いか分からなかった。


でも、だからこそ。


これを最後にしようって思った。

動画だけ撮ってもらって計画通りには行かなかったから、こんな回りくどいことになっちゃったけど。


はぁ……性格悪いな、私。


ぴこん。

?

メッセージだ、誰からだろう。

「もう少ししたら私、相沢に全部言う。あのことも全部」

メッセージの送り主は三浦さんだった。


馬鹿みたい。

あんな事知ったところで、相沢が三浦さんを責めることなんてしないのに。


あの時の脅しが無意味なことを私は分かってた。

多分、分からないんだろうね三浦さんには……。

きっと自分のことだから。


「そう、頑張ってね」


ぴこん。また三浦さんだ。

「私中村さんのこと嫌いじゃないよ」


はぁ……。うるさいなぁ。

花火の時嫌いって言ってたくせに。


ベッドに横になり。

仰向けで目を閉じる。


今まで諦めていた初恋が胸に刺さって消えてくれなかった。

だけど、今日少しだけその恋が解けていくような不思議な感じ。

もう、終わったんだ。


涙が頬を伝う。

ダサいな……。私。


言い訳したいけど、何も出来なくて。



本当にダサかったな……。


-十話終-

登場人物まとめ

相沢透 主人公

身長165㎝ A型

帰宅部

好きな人 三浦梓

好きなもの RPG 甘いもの

嫌いなもの 自分の過去


三浦梓 相沢の幼馴染

身長152㎝ A型

帰宅部

好きな人 相沢透 店長

好きなもの RPG 和菓子

嫌いなもの 自分の過去


中村夏織

身長163㎝ B型

元演劇部 二番目の相沢の彼女 破局

好きな人 三浦梓 小鳥秋穂

好きなもの 安心

嫌いなもの 過去の自分


清水葵 二年生

身長173㎝ B型

相沢の高校三番目の彼女 破局

好きなもの カレー 家族 陸上

嫌いな人 勝負する前から諦める人

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