初恋はきっと何処かで嘘をつく。[十一話]
あらすじ
葵との失恋に沈む透は、坂本との会話を通じて、十分に話し合えていなかった自分を振り返り、少しずつ立ち直っていく。
そんな中、夏織の告白を断る動画が拡散される。公開したのは、透に再び助けてもらおうとした夏織自身だった。止めようとした三浦も、打ち明けた秘密を使って口止めされてしまう。
事情を疑った透は、夏織の好意に甘え、期待を残していたことを謝罪する。そのうえで復縁の意思がないと伝え、夏織はようやく恋の終わりを受け入れた。
その夜、透は、傷ついても誰かを放っておけない三浦への恋心を自覚する。一方、三浦も、隠してきたことを透に話す決意を固めていた。
サブタイトル
[そして透き通る]
-翌日放課後図書室・相沢透-
「昨日はありがとう」
「犯人探しは面白かったから別にいいよ」
「当たってたみたいでなにより」
昨日、図書室にいる時に、石川から夏織の動画について連絡が来た。
その場にいた澤愛と、誰が投稿したのか考えたのだ。
結果としては、澤愛の予想通り。
釈然としないが、かなり助けられた。
「中村さん元気?」
「元気な訳ないだろ……」
「まぁあの子にぶたれたから、いい気味だよ」
にこにこと笑った。
「なんで、そういうこと言うんだ?」
「わざわざ人を怒らせるような」
「楽しいからだよ?」
澤愛はそう言って、不思議そうな顔をする。
「まぁ、ほどほどにな」
「相沢君最近凄いつまんないから、もう遊んであげない」
お前と遊びたい奴なんていないだろ……。
「俺は澤愛と話せて良かったよ」
「んーーー!うっざ!」
「本当にあり得ないんだけど!」
「お前こう言われるの嫌だろ」
そう言って俺は笑った。
「もうお前に恋バナすることはないかもな」
「そうかもね」
「ありがとう澤愛」
「……本当につまんない」
-その日の夜・小鳥秋穂-
今日は夏織の部屋でお泊まり。
一連の事件を聞いて、相沢を一発殴ろうか悩んでいた。
「うわーん!」
私の胸の中で号泣する夏織。
「大丈夫?動画のこと」
「私がやったことだから……」
「違う、また学校で変なことにならないかなって」
「わかんない」
そこまで考える余裕はきっと今の夏織にはない。
三浦さんを脅したことも、綾香を脅したことも、とっても酷いことだと私は思う。
だから別れた方が良いって言ってたのに……。
戻らない方がいい。頭では、今もそう思っている。
それでも、こんなに泣いている夏織を見ると、相沢に腹が立った。
やっぱり殴ろう。
「私、明日相沢のこと殴ってくる」
「大丈夫!やめて」
「全部私のせいだから……」
「……。」
納得がいかず、黙ってしまう。
「相沢、私に謝ったの」
「ちゃんと振れなくてごめんって、期待持たせてごめんって」
「私に好かれてることに、甘えてたって」
「……なにそれ?」
はぁ、とため息をついた。
「ごめんね、小鳥。沢山心配かけて」
「こんな私のそばにいてくれて……」
「親友だからね」
「なにかあったら絶対言って!」
「小鳥の敵は私が殴る!」
夏織、本当に殴りそうだな……。
「私も同じ気持ちだったんだから!」
「ごめんなさい」
また夏織は俯いて泣いてしまう。
よしよしと夏織の頭を撫でる。
そうして、三十分くらい経った頃だった。
「決めた……」
夏織が一言呟いた。
「え?」
涙を拭き、勢いよく立ち上がり、言い切った。
「私、演劇部に戻る!」
「どうせ人いないし、戻れるでしょ」
そう言って夏織は笑った。
そうだった。夏織って、こういうことを平気で言うやつだった。
久しぶりにいつもの調子が戻ってきて、私は少しほっとした。
-一週間後自室・三浦梓-
ベッドで横になり、スマホをいじる。
あの動画も、アカウントもその日の夜に消えていた。
清水先輩に二人で話したいって言われたなぁ。
なに話したいんだろう?
ぴこん。相沢からだ。
「クリスマスイブ出掛けないか?」
「え?」
-翌日学校・三浦梓-
昨日のメッセージはびっくりした。
とりあえず「良いよ」って返したけど。
クリスマスイブ?
「「おはようございます」」
生徒会役員達が校門で元気よく挨拶している。
「三浦?」
相沢が小走りで近づいてきた。
「おはよう」
普段と変わらない。
「お……おはよう」
なんでクリスマスイブなんかに……。
-同日昼休み・三浦梓-
「三浦?」
「なに?」
「昨日の話さ、どこか行きたい場所とかある?」
うーん、あまりに突然のことだったから候補すらも見つからない。
「静かで落ち着ける場所がいいかな?」
「静かで、落ち着ける場所かぁ。山とかどう?」
山かよ!?
「もうちょい考えてみる」
「わかった」
-同日放課後帰り道・三浦梓-
今日は、相沢がバイトのため私は一人で帰る。
なんだよ、なんもないことみたいに話しやがって……。
「三浦さん!」
あれ?誰だろうこんなところで私を呼ぶなんて。
振り返るとぴょんぴょんと跳ねながら近づいてくる、中村さんがいた。
こんなに明るい声だったっけ?
「中村さん」
「今から帰り?」
「そうだけど」
「そっか、なんか久しぶりだね」
「私部活復帰したから、帰り道も全然会わないし」
あの事件から、中村さんは部活に復帰したらしい。
「そうなんだ、今日は休み?」
「演劇部は木曜日休みなの」
「そっか、あれから大丈夫?」
告白の動画を流されて、またいじめられてるという噂が少したっていた。
「まぁね、今日も告白されてきた」
「え?」
「なんかさ、あの動画みて助けたいってさ」
「そう言ってくる男子がちらほらね」
「ちらほらって、付き合うの?」
「私と話したこともないのに、助けたいってさ」
「馬鹿にすんなって振っちゃった」
「そっか、中村さんモテそうだもんね」
「……そうかもね」
「三浦さんは言ったの?」
そうだった、全部言う。
中村さんにはそう言ったんだ。
「まだ……、そのクリスマスイブに」
言ってから、もう逃げられないなと思った。
「意外、そういうの気にするんだ」
中村さんは笑った。
「頑張ってね、きっと大丈夫だから」
「……ありがとう」
「ダメでも、うまく行っても、連絡ちょうだいよ」
「分かった」
「馬鹿にしてあげるから」
また中村さんは笑った。
「ひどいなぁ……」
「嘘だよ」
「分かってる」
「じゃあ私こっちだから」
「うん、またね」
「またね」
-同日夜・相沢透-
「言っちゃったな……」
もう少しでクリスマスイブになる。
俺的にはかなり勇気を出したのに、三浦の反応は余りよくない。
「はぁ……」
あいつ誰にでも優しいからな、きっと俺じゃなくても。
んー!
緊張してきた。
今更だけど、あいつ、あんまり人と関わらないよな。
そのくせ、夏織にも葵先輩にも、あんなに入れ込んで。
三浦ってどんな人が好きなんだろう。
-翌日学校・相沢透-
「三浦?」
「なんだよ?」
「……。」
「山でいい?」
「良いけど」
「本当に?三浦は嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ、どうしたんだよ急に出掛けたいって」
「どうしたって……」
こいつ、あんまりわかってない?
「え?」
「え?」
微妙な空気が流れてしまう。
「あ……後さ、帰ってきたら少し寄りたいところがあるんだ」
「寄りたいところ?」
「秘密にしておきたいというか、俺に少し任せてくれる?」
「……わかった」
-同日放課後・和菓子漆戸・三浦梓-
今日、相沢はバイトが休みだ。
煎餅を食べお茶を飲む。
「ふぅー……」
相沢が居ないと気兼ねなくサボれる。
暇そうに目の前でお茶をすする店長。
「ばあちゃん、相沢にクリスマスイブ出かけないかって誘われた」
「……。ようやく、なのね」
おばちゃんがもう一度お茶をすすった。
「ようやくって……」
深く目を閉じていたおばちゃんが話し始める。
「透ちゃんが彼女連れてきた時はどうなるかと思ってたけど、良かったわ」
「待って!そんな話じゃないじゃん」
「高校生の異性がクリスマスイブって、他に何があるの?」
がさごそとおばちゃんがタンスを漁る。
「あった、あった」
「梓ちゃんに、大切なもの渡さないと」
そう言っておばちゃんは箱のような物を手渡してくれた。
「ありがとう」
なんだろうコレ。
箱を見るとパッケージには0.01mmの文字が。
ぱこーん!その箱を私は床に叩きつけた。
「何かあったら、ちゃんと付けるのよ」
おい、今いくつだ!
なんでタンスから出てきた!
「おばちゃんに相談した私が馬鹿だった」
フンっと怒った振りをして腕を組む。
「そんなこと言わないで、大切なことなんだから」
店長は楽しそうに笑ってた。
クリスマスイブってことは、やっぱりデートなのかな……。
でもあいつ、自分からこういうの誘う奴だったっけ……。
-クリスマスイブ当日・山・三浦梓-
山までは電車とバスで来た。
昼過ぎごろに着いた。
片道一時間半程の場所、交通費だけで往復2000円ちょっとかかる。
「お前、なんか格好が面白いな」
ぶかぶかのカーゴパンツに、暖かいジャンバー、登山用に買った新品のスニーカー。
そして極め付けはどう見ても私の頭の1.5倍ほど大きいつばの登山用の帽子。
これは着せられてる感が半端じゃない。
「うぅ……」
だって十二月の山だぞ、寒いだろ。
この帽子は山の入り口の売店で、冬でも日焼けするから買った方がいいと言われたものだ。
私は断ったのだが、相沢が買ってくれた。
初めてのプレゼントだったが、こんなに色気のないものになるとは……。
そういう相沢は、リュックを背負い、えんじ色のコート、黒のパンツにスニーカー。
私より少しラフな格好をしていた。
「登るか!」
いつもより少しテンションが高い。
山に来たからかな。
「わかった」
山の入り口。
お土産屋さんやら食事処、お寺を抜けて山道へ入る。
あまり高くない山だ、週末ということもあり人はそれなりに多い。
難易度も高くないため、子供連れも多い。
「大丈夫か?」
少し歩くたびに相沢が確認してくれる。
「大丈夫だよ……」
まるで子供扱いだ。
山は紅葉も終わり、少し寂しい風景だった。
ただこれも味がある。
久しぶりだな、こんな自然は。
「んーーっ!」
少し登ると、ベンチがありそこで休む。
「三浦?喉乾いてないか?」
「少しだけ」
「ほら」とリュックからペットボトルを差し出してくれた。
「こ!これお前間接キスにならないか?!」
「三浦の分だよ、俺のは別にある」
な、なんだ……。
こいつのリュックにはいつも飲み物が入ってる。
記録会の時もそうだった。
「気持ちが良いな」
相沢はつぶやいた。
「うん、来てよかった」
「よし、もう少しだ!」
いつもと違う頑張って明るくしてるような。
そんな気がした。
-山頂・三浦梓-
昼過ぎから登り始めて、一時間経たないくらいで山頂についた。
空気が気持ち良い。
背を伸ばし、あくびをする。
今日ここに来て相沢は良かったのかな?
そんな風に思い、相沢を見る。
山頂で遠くを眺めるどこか儚い、整った顔。
私の好きな人。
「ん?」
視線を感じたのか、私を見る相沢。
「やっぱり、その格好面白いな」
そう言って、帽子のつばに少し触る。
「馬鹿にすんなよ」
ふくれる私を見て、相沢はまた乾いたように笑った。
……。
「……私さ、中学の頃いじめられてた」
「相沢は気付いてるか分からないけど」
「気付いてたよ」
「そっか」
……。
なんだよ……。
「だから私、相沢と話せて凄く嬉しくて」
この先も言わないとだろう……。
「だって三浦いい奴じゃん」
ダメだな、溢れてきちゃう。
今の相沢には彼女がいない。
「だから……。だから!相沢が傷つくの嫌なんだよ!」
「先輩のことだって……もっと早く」
「聞くことしか出来ないけど、泣くほど辛いなら私は一緒に居るから!」
相沢はポカンとしていた。
なにも言われないとそれはそれで気まずいのだが。
「な……なんか言えよ」
「いや、嬉しかったから」
「……。」
少しの沈黙。
「良かった!今日三浦と山登れて!」
相沢は大きな声でそう言った。
一呼吸おくと、いつもの声色で話し始める。
「ありがとう。三浦」
私は卑怯だ、嫌われるかもしれないと思って。
大事な事が一つ言えてない。
「せっかくだし、写真撮ろうぜ!二人で」
「わかった」
スマホをインカメラにして二人で写真を撮る。
パシャ!山の景色なんて見えない二人のどアップだ。
相沢は笑ってる。
「良い写真撮れた、後で送るよ」
「ありがとう」
「じゃあ、そろそろ行こうか締めの場所」
「これからどこ行くんだよ?締めって」
「中学の近くの公園、覚えてる?」
あ、私がいじめられてる時、相沢に助けられた場所だ。
「あんなところ、何にもないだろ」
「静かな場所だろ?それに少し話したいことがあって」
……話したいこと。
「わかった」
-公園・三浦梓-
地元に戻る頃には十七時を回っていた。
だいぶ暗いな、けれどこの公園には街灯もある。
家からも近い。
確かに、静かに話すなら丁度いい場所かもしれない。
ダサい帽子を取り、二人並んでベンチに座る。
「ここ、俺と三浦が初めて話した場所だな」
そう言われれば、確かに。
「私は少し恥ずかしかったよ、あんな初めて」
だって私は囲まれていじめられてたんだもん。
「そっか」
「それとこれ」
相沢に小さな箱を手渡された。
「なにこれ?」
「……クリスマスプレゼント」
「え!?」
「私なんにも用意してないぞ!?」
「大丈夫だよ」
「ご……ごめん」
「開けても良い?」
「いいよ」
「ありがとう」
箱を開ける。
箱の中身はネックレスだった。
小さいな、ハート型のネックレス。
ハートの右上には小さな宝石がはめ込まれていた。
「綺麗……ありがとう」
「いいえ」
……今度は私の番だ。
「じゃあ」
「私から話して良い?」
「嫌だ」
「え!?」
こんな良い雰囲気なのに!断る!?
「な……なんでだよ!」
「俺からが良いから」
「なんだよ意地張って……」
「意地……かも?」
もう全く。
「わかったよ、相沢から」
相沢はふーっと深く深呼吸。
そしてベンチから立ち上がり、私を見る。
「三浦の事が好きだ」
「今までいろんなダサいところも見せたし、今更かよって思われるかも知れないけど」
「俺ずっと三浦の事が好きだった」
「ずっと?」
ずっとってなんだ?
「うん」
ベンチから立ち上がる。
「じゃあ、なんで色んな女の子と付き合ったんだよ」
「分かんなかったんだ、三浦の事が好きだって」
「自覚できてなかったけど、きっとずっと前から好きだった」
ふと花火のことを思い出す。
私に彼氏ができたら嫌だって相沢は言ってた。
「いつから?」
「……分かんない」
「ずっと前から特別だった、でもそれが好きって気づいたのは最近で……」
「今は三浦と付き合いたいと思ってる」
「おーい!?」
はぁー……。なんだよ変な告白。
でも、ずっと待ってた。
目を閉じて私も覚悟を決める。
「私も相沢の事が好き」
「……良かった」
「でも……言わなきゃいけない事があって」
「言わなきゃいけないこと?」
……。
怖いな、せっかく好きって言ってくれたのに。
でも言わなきゃね……。
中村さんにも約束したから。
「あ……相沢の初めての彼女……。私をいじめるために付き合ったの!」
「だからその子相沢のこと全然好きじゃないって……。それで相沢のこと傷つけた」
「だから……今まで自分の気持ちに蓋をして、私はずっと言い出せなかった」
「……そっか」
相沢は一度目を伏せた。
私は、その次の言葉を待つのが怖かった。
「ありがとう」
「ありがとう?」
「俺のことを気づかってくれてたんだろ?」
「……違うよ、私のせいで傷ついたから。嫌われるのが怖かったから」
「そんなこと気にしないよ」
「それに、三浦のせいじゃない」
そんなこと気にしない。
ちょっと言い方が腹立つけど、ようやく心の重りが取れた。
はぁー……。
まぁ良いか。
今までのことを思い出す。
「相沢?」
私を見る相沢の肩に、握り拳ポンッと当てる。
今までの感情が涙と共に溢れ出す。
「辛かったんだぞ!ずっと!ずっと!お前が色んな女の子と付き合って!」
「ただそれを眺めてることしか出来なくて!」
「ごめん……」
そう言って相沢は私を抱き寄せてくれた。
暖かい。
私がずっと欲しかったもの。
「本当に、本当にごめん三浦」
「あ!ず!さ!」
「わかった、梓」
「透、大好き」
「梓、大好きだよ」
あぁー!辛かったな今まで本当に。
「うわぁぁぁーん」
泣き崩れる私を、透はずっと抱きしめてくれた。
-独白・相沢透-
きっと恋愛なんてみんなそうなんだ、自分勝手で。
独りよがりで。
嘘でもいいから、誰かを幸せにする。
なんて偉そうだ。
過去の自分を振り返れば、気持ちが悪くて吐き気がする。
けれど今は、
本当に好きな人がいて。
本気で幸せになってほしい人がいて。
本気でそばに居たい人がいる。
泣いたり笑ったり、ずっと一緒にいたいから。
好きな気持ちが大きい方が傷つく。
これもきっと本当のことだ。
だからって人を好きになるのは止めれない。
「梓?」
「ん?」
「大好き」
-初恋はきっと何処かで嘘をつく・完-
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
感想コメントなどあれば貰えると嬉しいです
半年はどリスナーの方々と相談しながら書き上げた、恋愛小説になります。
個人的にラスト三浦が幸せになってくれて本当に嬉しかったです。
僕個人の一番好きなタイプは清水先輩、時点で夏織です。
構想とはだいぶ違う結末になりました。
相沢が清水先輩を本気で好きになったり。
夏織と三浦が仲良くなったりしたのは構想段階では無い展開でした。
好評でしたら、夏織主人公の二年生編を考えてみたいと思います。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。




