↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

初恋はきっと何処かで嘘をつく。[四話]

交際が周囲に知られ、透との関係に安心する夏織。一方、透は図書委員の澤愛瑠花に本心を探られ、夏織と会えないことへの不満を自覚する。中間テスト後、透は夏織に別れを告げた。


失恋に追い詰められた夏織は、復縁を願い、七月の発表会を最後に演劇部を辞めると決意。透は「少し待ってほしい」という彼女の頼みに、曖昧な返事をしてしまう。


三浦梓に話し合いの大切さを指摘された透は、偶然にも彼女と同じ和菓子屋でアルバイトを始める。そこで出会ったのは、怪我で練習を休んでいる陸上部の先輩、清水葵だった。

サブタイトル[保留]


-放課後図書室・中村夏織-

今日は木曜日だ……。

木曜日なのに、私は一人だった。


相沢が時々図書室にいるという話を、グループの女子から聞いた。

そんな私は藁にもすがる思いで、ここに来た。


「あれ?中村夏織さん?」

見知らぬ女子が話しかけてくる。

「相沢君の彼女だよね?『元』」


ちょっと待って……。

誰こいつ。

「私に何か?」


「少し恋バナしない?」

腹は立った。けれど、相沢について何を知っているのか、確かめずにはいられなかった。


今日の図書室には、私たち以外に誰もいなかった。

テーブルに着く。

「急に何?」

その女子を睨む。


「私の名前は澤愛、あれ?ひっくり返すと相沢になっちゃうね」

そう言いながら澤愛さんは微笑んだ。

今にも手が出そうだ。


「大丈夫、私は恋バナしたいだけだから、相沢君とはなんで別れたの?」


「別にあなたには関係ない」


「そう、なーんか相沢君あなたに不満ありそうにしてたけど」


「……。」

どこまで何を知っているのだろう。


「美人だね、中村さんは」


「どうも」


「吉田綾香さんより美人だね」


綾香?

「ちゃんとしてそうだね、中村さんは」


「何?」


「吉田綾香さんより、真面目そう」

耐えられなかった。

綾香を物差し馬鹿にされている。

私も同じだと、そんな風に言われてるような気持ちになった。


「吉田綾香さんより……」

バチンっ。

初めて私は人を叩いた。


澤愛さんの眼鏡が床に落ちる。

「痛いなぁ」

そう言いながら、眼鏡を拾いまたかける。

その顔は言葉とは裏腹に笑っていた。


「何が言いたいのよ……」


「いや中村さんのほうが上だなって思って」


上……。

当たり前じゃない、綾香なんだから。

私が下な訳ない。


「なんで振られたの?」

ニヤリと澤愛さんが笑う。


「くっ……。」

耐えられなくなって席を立つ。

不気味な笑顔から逃げるように、私は図書室を後にした。


-教室昼休み・相沢透-

夏織が言った期限まで、あと二週間ほどだ。


その間、特段何かあった訳ではない。

ただ、知ろうとしてなかっただけかも知れないが。

そんな俺にも夏織の話が入ってきた。


坂本が隣に座る。

「なぁ!この学校今イジメあるらしくてさ……」


「イジメ?」

そんなこと、今時起こるのか?

少し意外だった。


「石川と同じクラスの中村夏織って子!みんなにはぶられて、悪口言われてるらしいぜ」


あーあ、聞かなきゃ良かった。

「そ……そうなんだ……」

大体なんでそうなったかは、想像がつく。

「それが……お前の元カノがやってるっぽくてよ……」


まぁそこが揉めてるんだろうなとは思った。

ただ夏織の性格だ。

綾香達のグループに負けるほど気が弱いとは思えない。


「女子達って物騒だよなぁ……」

坂本は色恋や噂話がとにかく好きで、たまにふらっと来て俺にも共有してくれる。


「それじゃあ俺!食堂行ってくるわ!」

坂本は席を立ち食堂へと向かった。


「ありがとう。わざわざ教えてくれて!」

坂本は背中を向けて手を振った。


つんつん。

「さっきの話どーすんだよ」

三浦が問いかけてくる。


「綾香と少し話してくるよ」


「……マジかよ」

綾香本人に釘を刺せば、夏織のイジメは終わるだろう。

そんな軽い気持ちだった。

元より喧嘩の仲裁とかは得意な方だ。


ぐるりと教室を見回すが綾香はいない。

グラウンドか、はたまた夏織のクラスか。

少し探してみることにした。


-夏織教室前・相沢透-

綾香は簡単に見つかった。

夏織のクラスの前でクスクスと笑ってる。


うげぇ。マジで性格悪いなこいつ。

中を見てみると女子のグループが夏織を囲んでいた。

「今日は、石川も小鳥もいないみたいね〜」

明らかに穏やかではない雰囲気だった。


「別に。あんた達には関係ないでしょ」

言い返してはいるが、いつものような覇気はない。


「なぁ」

俺が女子達のグループに話しかける。


「あ……相沢」

夏織は今にも泣きそうだった。


「あれ?相沢じゃん丁度あんたにも話があったんよ!」

こいつ、確か三浦に投げられてた。

「夏織とは仲良くしてんの?」


「お前たちには関係ないだろ」

別れたと言えば、また夏織がいじめられるだろう。


「へー。否定はしないんだ」


「これ以上夏織に関わるなよ」

元カノだろうと、よく見られたいと思う欲がきっと俺には強いのだろう。


「へー。私らが三浦に手出したのこいつのせいだって言ったらどうする?」


「どういう意味だ?」


「や……やめて……」

夏織の訴えも届かなかった。

「こいつが三浦と相沢は付き合ってるって嘘ついたんだよ!」


女子達はケラケラと笑う。


ああ、なるほど。


新しい彼女ができたと嘘をついた。夏織は、そう言っていた。

その相手を三浦にしていたのか。

……だからこいつらは、三浦を狙って絡んできたんだ。


「だから何?」

ああ、こう言えば夏織は安心するだろうと思ってしまう。

無意識に、相手が望む言葉をノータイムで返してしまう。本当に悪い癖だ。

これでは三浦を軽く見てる様に見えてしまう。


「だからって…….こいつお前らの嘘の噂流してたんだぞ!」

面白くない反応にその女子は声を荒げる。


「もっと簡単な話、お前らがいなければいいんじゃないか?」


「……ッ!」

その女子が悔しがる。


「だから俺の周りには関わるな。三浦にも夏織にも」


「相沢……」

夏織は俺の制服の袖を弱々しくぎゅっと掴む。

そんな夏織の手を握る。

夏織は手を握り返し、涙を流した。

俺なりに「安心しろよ」と伝えたつもりだった。



「綾香。今回のことで、はっきり分かった」


夏織の手を離し、綾香の方へ歩く。

教室の手前まで出てきて、話を聞いてた綾香が狼狽える。

「わ……私三浦さんに手を出せなんて言ってない!」


もうそれはどっちでも良いんだけどな。

「俺はお前のことが大嫌いだ。もう二度と関わらないでくれ」


その言葉を聞いた綾香は、膝をついて泣き出してしまった。


「お前ら何やってるんだ!」

石川ともう一人の女子が、このクラスの担任を連れてきた。


泣き崩れる綾香と夏織。

そして逃げる女子達。


結構カオスな状態になったな。


先生は泣いてる綾香を捕まえて、どこかへ行ってしまった。


俺は綾香を泣かせ、夏織を助けた。


ほとんど筋書き通りに事は進んだ。

しかし、筋が通っているかは微妙なところだ。


-同じ頃教室・三浦梓-


行っちゃったなぁ……。

しばらくしてクラスのみんながざわつく。


そんな中渦中の人物が席に戻ってくる。

「どーなったんだよー」


「綾香達に嫌いだから俺の周りには関わるなって言った。もちろん夏織にも」


こいつはなんでこうも堂々と言い切れるんだ……。

まだ高校生活はじまったばかりだぞ。


「三浦もまたなんかあったら絶対に教えろよ」


「うん……なんでお前さ、中村さんのこと助けたの?」

正直、わざわざ助けに入ったら、相沢の交友関係が狭まるんじゃないかと思っていた。

「どういう意味?」


「いや、助けたら吉田さんの周りの人達にまで嫌われちゃうだろ?」


「まぁそうかも知れないけど、元から親友って言える奴お前しかいないから。それで離れられたところで別に」


「そうか……」

相沢は、自分は何も間違っていないとでも言うように堂々としていた。


「三浦がいるから色々言えるのかもな」

相沢はほっと息をつき、柔らかな笑みをこぼした。


恥ずかしげもなくそんなセリフを……。


「あと、俺とお前が付き合ってるって噂、流したのは夏織だった……」


「え?」


「詳しくは時間がなかったから聞けなかった」

「だけどあの場面で女子達が言ってたから、多分本当だと思う」


「はーっ。お前が絡むと毎回私も絡まれるな……」


「……ごめん」


「大丈夫だって!冗談だ」


その時は、別に気にしていないつもりだった。

むしろ、それだけ意識されているのだと、少し優越感さえあった。


「でも待てよ?わざわざ誰と付き合ったか言わなくても良いのになんで私にしたんだ?」


「それは夏織に聞かないとわからない」

相沢が中村さんのクラスに行ったのは五分ほどだった。

きっと相沢だって気持ちの整理も、状況の整理も、出来ていないのだろう。


よく考えると、中村さんは嘘をついていた。

私を貶めるそんな嘘を。

だけど相沢はそんな中村さんを助けた。

私がいるから助けられると言ったのだ。


そんな複雑な気持ちを抱えていると、五限目のチャイムがなる。


-放課後和菓子漆戸・相沢透-

今日は色々なことがあった。


綾香達のいじめ。

夏織の嘘。


正直、三浦に危害を加えた二人を許すつもりもない。

ただ、弱ってる夏織を放っておけなかった。

くそっ……ややこしいことになった。


どうしたら良いかわからなくなって、思わず顔をしかめてしまう。


「大丈夫か?あまり思い詰めるなよ?」

茶の間から三浦が話しかけて来た。

「大丈夫」


三浦に迷惑をかけたくないと思うほど、三浦が絡まれる。

一体全体なんなんだ。

ただ、綾香達のグループもこれで絡んではこない筈だ。今度こそは大丈夫。


カラン。カラン。


お客さんだ。

「いらっしゃいませ」

そこには松葉杖をついた女子がいた。


「あれ?」


「やぁ!また会ったな!」

そこに居たのは清水先輩だった。


「また来てくださったんですね」


「今度は、家族用だ!前回の煎餅を母が食べたいと言い出してな!」


「そうですか、ゆっくりしてってください」


「ありゃ?」

奥の三浦が清水先輩を不思議そうに見つめた。

茶の間へ行き小声で三浦に話しかける。

「何かあったか?」


「あの人この前も来ていた気が……」


「この前も来てたぞ。俺が初めて接客した人だ」

そういえば三浦も清水先輩を見ていた。

「うーん、まぁ良いか」


まずい、三浦の適当な発言一つ一つに敏感になってしまってる俺がいる。


「これにしよう!」

決まったみたいだ。


「ありがとうございます」

また空のリュックに煎餅を詰めた。

「でも松葉杖でお使いなんて、大変ですね」


「部活がないと暇で仕方ないからな!私はその方が気が晴れる!」


「あ……余計なことをすいません」


「大丈夫だ相沢くん、この前の言葉考えさせてもらった」

「みんなに追いつけなくなるかも知れないのは辛いが」

「私は、今までの自分を超えるために努力しようと決めた」


良かった、先輩は前向きになれたようだ。

「悩みが晴れたようで良かったです……」


「ありがとう!また学校でな!」


「ありがとうございました」


カラン。カラン。

先輩はいつも元気だ。

それなのに三浦と来たら。


納品がない時は茶の間で茶菓子を食ってるだけ。

そんな三浦が肘をつき、俺を見てくる。

「な……なんだよ?」


「お前まさか立ってる?」


「たっ!立ってねぇよ!」


「違うよ恋愛フラグだよ」

三浦がナニに違うと言ったかは、詮索をしないでおきたかった。


-翌日昼休み・相沢透-

昨日珍しい人物からメッセージが来た。

「明日の昼休み!出来れば俺のクラスに来て欲しい!PS石川浩介」

なんか色々と間違ってるが、突っ込まないことにしよう。

「じゃあ、いってくる」


「いってらっしゃい、また変なトラブルに巻き込まれるなよ」

そればっかりは俺もごめんだ、ただ石川のクラスとなると夏織もいる。


約束の日まで二週間弱だ、確かにトラブルが起きそうな気配はする。


-昼休み石川のクラス・相沢透-


「おーいたいた」


石川の後ろ姿を見つけた。

そして隣にはポニーテールで松葉杖をついた女子がいた。

そう、清水先輩だ。

そうか、陸上部同士不思議な組み合わせではないのか。

「おー!相沢!清水先輩がお前に用があるって!」

やたらニコニコと石川が手を振ってくる。


「相沢君にこれを渡したくて!」

先輩から一枚の紙を受け取った。

これは……?

「入部届だ!」


げっ!まさかの勧誘だった。

石川が嬉しそうだ。

「ついに一緒に走れるな!」


「ま……待ってください!陸上部に入るなんて俺は一言も!」


「嫌なら仕方ない!私が勝手に勧誘しただけだ!」

おいおい、明るいだけの人かと思ったら結構強引だ。

「えぇー先輩!了承とってなかったんですか!?」

そりゃ石川も驚くよ。


「ああ!是非と思ったんだが断られてしまったな!」


全く。

陰キャ、陽キャと世間では分類するが、この二人はただの光だ。

まっすぐ生きすぎだろ。

「大体、なんで俺なんか……」


「私は君のことが好きだからだ!」


-同日昼休み・中村夏織-

なぜか石川君が女の子を連れている。

松葉杖をついた背の高い女子、顔は綺麗というより可愛い系だ。


「私は君のことが好きだからだ!」


ちょっと待って?は?何言ってんのこの女?

相沢が好き?

「すいません。あなた誰ですか?」


「私か?私の名前は清水葵!石川君と同じ陸上部の二年生だ!」

なんなのこいつ、テンションが意味わからないんだけど。


「私が聞いてるのは、相沢とどういう関係なんですかという意味です」


「相沢君とかぁ……。知り合い?かな」

知り合い程度で告白って。


「少し待ってくれ!そういう君は誰なんだ?」


「相沢の彼女です」

先輩は少しむっとした表情になった。


「相沢君そうなのか?」


「……いや、なんていうか」

なんで?この間は私のこと守ってくれたのに!


「少し複雑なようだな。私はこれで帰るとする」

「私の好きとは恋の好きだ!相沢君は少し考えてくれると嬉しい」


「でも俺たち全然話したことないじゃないですか」


「あぁ!でも君の一言に、君の気づかいに私は救われた!」

そう言って先輩は帰ってしまった。


「相沢……?」

問いかけるが複雑そうな表情をして黙ったままだ。


「な……何が起こったんだ……」

石川君も呆然としてる。


「…….相沢?ねぇ相沢?」


「俺、三浦のことで嘘をついたのは許せない……」

嘘でしょ?あの時は、気にしないって意味じゃなかったの?


「ごめんなさい……でもそれが一番みんな納得すると思ったから……」


「そのせいで三浦が暴力を振るわれそうになったから……」


「え?」

手を出すって暴力?

そんなこと私は知らなかった。

相沢が三浦を大切にしてるとわかってたのに。

私は綾香と同じミスを犯していた。


「待って相沢!話をして!」

ただそばにいて欲しかっただけなのに……。


-独白・清水葵-

私は三人兄妹の末っ子だ。

上に兄が二人いる。

兄は優しく活発で、私と同じく背が高く運動が好きだった。

兄達は女子によくモテた。

だけどどうだろう、これが女子となれば魅力的には映らない。

そんなことを私は思っていた。


私は強く、逞しい。周りにはそう思われていたし、私もそう思われるように振る舞った。


しかし、怪我をしてとある人に弱音を吐いた。

今までだって、弱音を吐いたことは何度もあった。

それでも周りは、「葵ならきっと大丈夫」と言ってくれた。

そんな言葉に、多少追い詰められていたのかも知れない。


その人は「大丈夫」と言う代わりに、自分を超えることを目標にしてはどうかと提案してくれた。


気持ちが楽になった。

誰かに勝つことが全てだった私だったのに。

誰かに勝つ為じゃなく、自分の為に走れるそんな気がした。


私は彼のことを何もしらない、それなのに彼に惹かれていた。


-和菓子屋漆戸・三浦梓-

相沢の元気がないような気がする。

バリっバリっ。

まぁ立て続けにいろんなことが起きたのだ、少し疲れてもしょうがない。

バリっバリっ。


「おい、仕事しろよ」

先輩なのに怒られた。


「私は先輩だぞ!お客さんもいないし良いじゃないか!」


はーっと深く相沢はため息をついた。あれ?結構落ち込んでる?

「透君、何かあったの?」


店長も相沢を心配してる。

「いえ…….ただ最近色んなことが起きてて」


「少し、お茶にしましょう」


「ありがとうございます」

店長がこう言わないと、相沢は休まない。

今だって客もいないのにせっせと掃除をしていた。


「透君も少し休みなさい、梓ちゃんを見てごらん」

「今日出勤してから、ほとんど煎餅しか食べてない」


「それは流石に……」

二人ともなんて言い草だ、おじちゃん達のレジを三回はしたのに。

バリっバリっ。


「透君の悩みは学校のこと?恋愛とか?」

店長が聞く。


「……恋愛ですかね?今日女の子に告白されて」


「ちょっとお前!その話しらないぞ!」

あ、つっ、詰まった!げほっげほっ。

店長がすっとお茶を出してくれた。


私が少し落ち着いた頃相沢が話しはじめた。

「今日のことだからまだ三浦にも話せてなくて、ここにも来たことのある松葉杖をついた女の子です」

「僕自身、その女の子とは数えるほど……いや今日含めても五回も話した事はありませんでした……」「それなのに前の彼女のクラスでしかも大声で告白されて……」


最近のこいつの周りはおかしいぞ。

確かに相沢はかっこいい、モテるかモテないかで言ったらモテる側の人間だろう。

高校で彼女ができてから、立て続けに告白されていた。


あらあらぁ、と店長は楽しそうだ。

「透君はどんな子が好きなの?」


「どんな子……ですか」


「梓ちゃんの前だと話しづらい?」


「いえいえ!元から三浦にはなんでも話してる関係なので」

そういえば相沢はどんな子がタイプなのだろう?

相沢の中学時代、自分から告白した女の子のことを私は知っている。

ショートカットの似合う、美人な女の子だった。


「俺は……『俺のことを好きな人』が好きです」


「まぁ!」と店長が胸の前で、ぽんと手を合わせた。

「なら私のことも透君は好きね!」

店長の突飛な問いに相沢は直ぐ返事をした。

「はい。店長のことも好きですよ」

ん?ん?なんだ今のやりとり?


「今ので悩みそのものは解決しないけれど、きっかけが分かった気がするわ」

店長は何かに気付いたようだ。


「きっかけ?」


「透君の問題は、『すっごい人たらし』」

「私みたいなおばあちゃんなら嬉しいだけだけど、クラスメイトの女子に同じこと言ったら、そうなっちゃうわよ」


「……そうかも知れません」

相沢は苦笑いだ。


「自覚があるならいいわ」

え?今の説教だったの?


「おばちゃん、どういうこと?」


私が尋ねると、店長は微笑んだ。

「だから梓ちゃんと相性がいいのかもね」


相沢が笑う。

「そうかも知れません」


二人だけ納得してずるいぞ!



-翌日放課後二年生の教室・中村夏織-

昨日より少し落ち着いた。

私と相沢の関係は正直なんとも言えない。

付き合ってるのか、別れているのか。


ただ部活を辞めた後、その時何がどうなるのか。

私は三浦さんを傷つけた……。


相沢は私のことを振るのかも知れない。


そんな中、相沢の前にまた一人の女が現れた。

清水葵、二年生の先輩で陸上部。


相沢本人も、先輩を連れてきた石川君でさえ、あの告白には驚いていた。


何があったのか気にならない訳ではなかった。

気がつくと二年生の教室にいた。


先輩は松葉杖姿のため直ぐ見つかった。

リュックを背負い片手には大量の水筒を抱えて、よいっしょと立つ。

足を怪我しているのに、よくやるなと思った。

「清水先輩!……少し手伝います」


「君は……あの時の」


「中村夏織です」


-グラウンド・中村夏織-

水筒を運ぶのを手伝ったあと、グラウンド脇のコンクリートの上に二人で座った。


「夏織さんは怒っているのか?」

先輩は私のことを気にしていた。

それもそうだ、クラスで告白したら彼女を名乗る人が出てきた。

キレてないと思うほうが不自然だろう。


「すいません……実は私と相沢は……」


私は相沢に振られたこと。

私が部活を辞めるまで、相沢が待っていてくれること。

相沢の友達を傷つけてしまったこと。

それらを先輩に話した。


「そうか相沢君の事が好きで、そこまでするのだな……」


「……はい」

「部活を辞めて、相沢の喜ぶことをたくさんしようと思ってた矢先あなたが現れました。なんで相沢のことを好きになったんですか?」


「私は初恋かもしれない。だから上手く説明できないのだが」

「彼の言葉に、今までの人生を救われた気がしたんだ」

このパターンで本当に上手く説明できない人いるんだ。


「君は相沢のどこが好きなんだ?」

清水先輩はまっすぐに質問してきた。


「私は、優しくて。この間もいじめられてたところを助けてくれて……」


「……相沢君はやはり誰にでも優しいのだな」

誰にでもじゃない!と否定したかった。


だけど考えると、あの時の私は三浦さんの嘘を広めた事がバレた瞬間だった。

三浦さんを傷つけたことを許さないと言った相沢、だけどあの時は私を助けてくれた。


相沢はだれにでも優しいの……?


私だけじゃない……。


「だから!誰にでも優しい彼に、私には特別優しくしてほしい!」

先輩が言った。


「でも……先輩は部活やめれます?」


「わからない!彼が私にどんなことを思っているかは知らないが」

「その時考える!」


「先輩……私はきっと振られます。だから私が部活を辞めて話をするまで少しだけ告白の返事待って貰うよう相沢に話してくれませんか?」


「うむ……私もあまり待つのは好きじゃないが……」

やっぱり石川の先輩なだけあって人が良い。

「……やはりそれはできかねる。相沢君が待つと決めるのはいいが、私から待てと言うのは違うだろう」


それはそう。

私自身何言ってるかわからなくなっていた。

とにかく、この人を止めたかった。


「私は相沢と、キスしました……」


「そうか……」


「部活を辞めればその先だって……相沢はしたいっていいました」


「夏織さん……あまり聞きたくない」


怒るでもなく、悲しむ先輩をみて私は思った。

あの時の綾香と全く同じことを先輩にしてしまった。


「二人の約束の方が早い……それを無下にしてほしいとは人としては思わない。だから話が終わるまで待つ気ではあるよ」


……。


-約束の日放課後・中村夏織-


発表会が終わった翌日。

私は林先生に退部届を渡しにきていた。

「後悔はないのね?」


「はい……短い間でしたが、ありがとうございます」


退部届を出した私は、そのまま非常階段下へ向かった。


人目につかない、本音で話すにはちょうどいい場所だった。


昨日の小鳥との会話を思い出す。

「だいたいさー、より戻せるなんて決まってないんだから、答え聞いた後に退部届出せば良くない?」

そう言われればその通りだが、曲がったことをしたくはなかった。


すでに男子が一人待っていた。

相沢だ。


「話ってなに?」


「私部活辞めてきたよ……」


「別に俺はそうしてほしいとは思っていない……」


「三浦さんのことはごめんなさい」

「でもあの時はまだ、相沢、私と付き合ってなかったでしょ?だから三浦さんの名前を出すのがみんなを納得させられると思って……」


「それなら一言言って欲しかった」


……言える訳ないじゃん。

私たちが付き合う前日に嘘をついた。

いくら焦ってたとはいえタイミングは最悪だった。


「ごめんなさい……」


相沢は黙ったままだった。

「もし相沢に好きな人ができたら、私のことは捨てて良い」

「だから……それまででもいいから……」

情けない……でもこうしないと相沢が。


そう思うと涙が出てきてしまう。

立っていられない。


崩れ落ちる私を相沢は抱きしめてくれた。

「そこまで追い詰めてごめん、もう一度やり直そう」


嗚呼、私のほしかったもの。

もう絶対無くさない。


-独白・相沢透-

清水先輩の告白から少し経った頃、返事をどうするか迷っていると、先輩からメッセージが来た。

「夏織さんと話したよ。今すごい微妙なタイミングで告白してしまったみたいだね」


夏織と話したと聞いて驚いた。またあいつ、何か言ったんじゃないかと。


「もし君が夏織さんと話の決着をつけるなら私も待てる」

「どっちにしろ、夏休みは部の手伝いで忙しい。足を怪我していても、できることはあるからな」

「秋になったら返事を聞かせてくれ」


「それと君が夏織さんを振った理由も聞いた、今の私は部活が好きだ。それも踏まえた上で返事をしてほしい」

夏織め、余計なことを。


そして今日に至る。

目の前では元カノが泣き崩れる。

次の彼女が出来るまでの繋ぎでいいと懇願する。


どうせ夏休みが終わるまで、清水先輩とは付き合えない。


それなら……。


-四話終-

登場人物まとめ

相沢透 主人公

身長165㎝ A型

帰宅部

好きな人 一応中村夏織

好きなもの RPG 甘いもの

嫌いなもの 特に無し


三浦梓 相沢の幼馴染

身長152㎝ A型

帰宅部

好きな人 相沢透、店長

好きなもの RPG 和菓子

嫌いなもの 群れてる女子


中村夏織

身長163㎝ B型

演劇部

相沢の高校二番目の彼女 復縁

好きな人 相沢透

好きなもの 紅茶 努力

苦手な人 三浦梓


清水葵 二年生

身長173㎝ B型

好きな人 相沢透

好きなもの カレー 家族 陸上

嫌いな人 勝負する前から諦める人

苦手な人 中村夏織

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。