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初恋はきっと何処かで嘘をつく。[三話]

前回のあらすじ

綾香との別れを仲介していた中村夏織は、透に惹かれ、告白する。しかしその裏で、綾香を諦めさせるために「透と三浦梓が付き合っている」と嘘をついていた。


透と夏織は交際を秘密にし、二人の時間を重ねていく。一方、嘘を信じた女子たちに三浦が囲まれ、透が助けに入る事態も起きていた。


やがて、透と夏織のキスを隠し撮りした写真から、交際が発覚。綾香に責められた夏織は、「もう相沢は私の彼氏なの」と言い放ち、友人たちとの決別を選んだ。


サブタイトル

[図星]


-中間テスト二週間前・中村夏織-

綾香との一件以来、私たちの交友関係は変わった。

グループからハブられる覚悟でいた。けれど、綾香を嫌っていた子も多く、結局は二つのグループに分かれた。


それでも、私が友達から彼氏を奪ったという噂は流れていた。

今、一緒にいる子たちの中にも、そう思っている子はいるのだろう。

そう考えると、居心地が悪かった。


相沢には、交際がバレたことは伝えた。

小言の一つでも言われるかと思っていたが、返事は「大丈夫」の一言だけだった。


そう、大丈夫。

私には相沢がいる。

それだけで、大丈夫。


-放課後・相沢透-

今日は、月に一度の奉仕活動。

部活に入っていない俺と三浦は校舎周りの掃除を行う。

「あー面倒くさい」

三浦がまたぶーぶー言ってる。

ゴミ袋、軍手、学校指定のジャージ。

普段見ない三浦の姿が少し面白い。


「あ!私!あそこ掃除してくる!」

三浦は何かを見つけたのか、一目散に茂みへ駆けていく。

「転ぶなよー」


「ねぇ、君、相沢だよね?」

三浦を追いかけようとしたところ、声をかけられた。


この子は確か……。

綾香を待っていたとき、図書室のカウンターにいた子だ。

「私、澤愛瑠花(さわあい・るか)。図書委員だよ」

「最近図書室、来てくれないね」


三浦に眼鏡をかけさせて、髪を長くしたような。


そんな印象の女子。


「いや、時間潰してただけだから」


「吉田綾香さんを待ってたんだよね?」

突然元カノの名前を言われて驚いた。


「そ……そうだけど」

なんだこいつ。


「へー……今度は中村夏織さんを待つのかな?」

にやけ面が嫌な感じだ。

「恋バナ、いつでも待ってるからね。図書室で」

ひらひらと手を振る澤愛。


……恋バナって。


それより結構広まってるみたいだな。

夏織の心配をしていたが、俺も彼女と別れてすぐに別の恋人だ。

悪い噂がたっても仕方がない。


まぁ事実だし、しょうがないか。


「相沢みて!トカゲ!」

三浦が茂みで捕まえたトカゲを見せてきた。


「男子小学生じゃないんだから」

呆れて微笑む。


三浦は笑顔だ。


-奉仕活動終わり・三浦梓-


私が襲われて以来、相沢と一緒に下校していた。

念のためと言われたが、あれ以来変なことは起きてない。

学校でも、嫌な目線を感じることはなくなっていた。


相沢も中村さんとはほとんど一緒に帰ってない。


「なぁ?最近大丈夫か?」

相沢が心配してくれている。


「大丈夫。多分もう一人でも平気、気にしないで」


「そうはいかないだろう」


大丈夫と言えるのはきっと、相沢だから。

相沢はいつも、大丈夫と言う私を気にしてくれるから。


「でも、本当に綾香の勘違いであそこまで手を出すかな……」

ほら、気にしてくれる。


「わかんない。でも、吉田さんからは睨まれなくなったよ?」


「なら、良いんだけどさ」


そろそろ中間テストだ。

相沢には彼女もいる。

私もいつまでも、相沢に甘えているわけにもいかない。

「明日からは、大丈夫だから」

「何かあったら絶対言うから、ありがとう」


「わかった」

そう言っていつもの場所で二手に分かれた。


はぁ、バイトでもはじめようかな。

少しだけ相沢から自立したい、そんな想いが私にはあった。


-翌日放課後・相沢透-


思い返すとやっぱり癪だった。

澤愛瑠花。あの、何もかも知っているような話しかけ方だ。

あんな話しかけ方をするなんて、喧嘩を売ってるようなものだろう。


俺自身、噂がどのように広がってるか興味があった。


昨日の言葉を思い出す。

「恋バナ、いつでも待ってるからね。図書室で」

澤愛がいるかどうかも分からないまま、図書室へ向かった。


ガラガラ、図書室の扉を開ける。

テスト前ということもあり、いつもより図書室は賑わっていた。


ふとカウンターを見る。

今日は別の生徒が受付をしている。


「なんだー瑠花ちゃん居ないのかー」

耳元から女の子の声が聞こえた。


「うわぁ!」


「図書室ではお静かに」

口元に人差し指を立てて、いたずらっぽく笑う澤愛の姿がそこにはあった。

瑠花ちゃんなんてそんな呼び方、してないだろ。

「少し、座ろうか」


人の少ない一角の席へ案内される。

「嬉しい、恋バナしに来てくれたんだ」

食えない奴……。


「いや、どんな噂が流れてるか聞きたくて」


「そう」

澤愛は両手のひらを上に向け、わざとらしく肩をすくめた。

「なんて事ないよ?吉田さんと別れて、中村さんと付き合った。それだけ」

「まぁただ鞍替えが早いなってみんな思ってるよ」

澤愛はニヤニヤしてる。


「そうか」

まぁその通り、噂でもなんでもない事実だった。


「なんで吉田さんと別れたの?」


「実は……」

綾香と別れる過程を詳しく話す。


「してくれんじゃん、恋バナ」


イラッ。

話さなきゃ良かったな。

「大丈夫、相沢君は合ってるよ?恋愛なんて、好きな気持ちが大きい方が傷つくんだからさ」

「吉田さんを泣かせるのも普通だよ」


あぁこの言い方、キツイな。

澤愛が知らないはずの中学時代の恋愛まで見透かされたような、嫌な気分だった。


「その顔は中村さんにも、不満がありそうだね」

にたにたと笑う澤愛が嫌いだ。


「別に、不満なんてないよ」

俺にとって精一杯の強がりだった。


-その日の夜自室・相沢透-

はぁ……。

澤愛に言われた事を考えていた。


夏織に不満……。

中間テストまで、後少し。

テスト期間中、夏織は勉強で会えない。

それが終われば夏織は部活だ。


嘘をついて付き合い。

それでも会えない彼女に、不満がないかと言えば嘘になる。


演劇部の子なんて付き合うんじゃなかったな。


ふと、澤愛の言葉を思い出す。

「恋愛なんて、好きな気持ちが大きい方が傷つくんだからさ」


俺は違う、ちゃんと相手が幸せになるように気をつかって。

それでも綾香は、俺を裏切ったから振ったんだ。


-中間テスト終了後・中村夏織-


中間テストの結果はきっとまずまずだろう。

テスト前にあんなことがあった割には、集中できた。


今日は二週間ぶりの相沢との帰り道。

もう誰にも隠さなくていい。そんな開放感に胸が躍る。


校門の横で待つ相沢がいる。

「相沢ー!」


こうやって堂々と手を振れるのも、あの喧嘩があったからだ。


「お疲れ様、帰ろうか」


「うん!」


テストが終わったというのに、なぜか相沢の表情は晴れない。

「どうしたの?テストあまり良くなかった?」


「……いやそんな事ないよ」


「じゃあ何かあった?」


「綾香達との喧嘩大丈夫だった?」


「ちょっと大丈夫じゃなかったけど、もう大丈夫だと思う」

なんだその事を心配してくれてたんだ。


「これからも俺たちって変わらない?」


綾香との喧嘩で、私の気持ちが変わったとでも思っているのだろうか。可愛いところもある。

「もうバレちゃったし変わらないよ!」


「そっか。……なら別れたいかな」


「え?今なんて」


「できれば別れたいかなって」

「友達と喧嘩させちゃって悪いけど」


相沢の言ってることが、よくわからない。

急すぎる。


「え?私なんか悪いことした?」


「いや特に」


「なんで?特にってなに?」

頭が追いつかない。


「前から会えないことは気になってた。でも、綾香たちとのこともあったし、テスト前にこんな話をするのもどうかと思って」


「え?私男子と話してないよ?」

「なんなら連絡先も消せるよ?」

「見てよ! 男子とのやり取りなんて、相沢のしかないよ!」


「違うんだよ」


「何が違うの?」

「私初めてのキスだったんだよ!?」

「友達とあんな喧嘩までして!」

「それでも相沢の事が好きだから!」

「私がそういうはぐらかされる事嫌いなの知ってるでしょ!教えてよ!」


「俺が欲しかったのは、そういうことじゃない。部活が忙しい、勉強が忙しいって、恋人らしいことはキスくらいしかしてないだろ?」


「キス以上が欲しいって事?」


「それもそうだけど。俺はもっと一緒に過ごしたかった」


……それくらい言ってくれてもいいじゃん。


「でも今までは、綾香達の目もあったから」


「じゃあこれからは?」


「……それは部活が」


「俺の気持ちはちゃんと話したよ」

そう言って、相沢は背を向けた。


「ちょっと待って……私嫌だよ」

そうは言ったが私の足は動かなかった。

追いかけられなかった。


もしかして、綾香と同じ?

私は幸せだった。満たされていた。

私だけ、浮かれていた。


-次の日・相沢透-

「なぁ三浦」


「いやだ、私は聞かないぞ」

耳を押さえ、聞く耳を持とうとしない。


「そうだよな、ごめん」

入学から二度目だ。

しかも、意図しない形で三浦まで巻き込んでしまっている。


「だー!なんだよ構ってちゃん!聞いてやるよ!」


「夏織と別れた」


ビシっ!バシっ!

と三浦は俺の背中を殴り続ける。

「お!まえは、まず!適当に!告白を!受けすぎなんだ!」


ちゃんと痛いが、この痛みは受け入れよう。


「確かにそうかもしれない。新学期立て続けに告白されて舞い上がってたのかも」


「モテ自慢を!延々とされる非リアの気持ちも考えろ!」

三浦の言う通り。

しかも今回は、三浦まで絡まれてしまった。


「……本当にごめん」


ビシバシっと三浦に殴られる。

……ぐぅう。


「これで良し」

三浦は満足気である。


「な……何が良しだ……」


「ちゃんと話聞いてやるからさ。今回は何があったんだよ」

気が済むまで殴らないと話が聞けないのか、こいつは……。


「今回は時間かな。夏織部活ばっかりで全然会えないから」


「良かったよ。私主役にならなくて」

そんな話もあったな。


「それにお前にまで嫌な思いをさせちゃってさ。本当にごめん」


「何度も言うな、私は大丈夫だから」


自分から振ったとは言え失恋のダメージはある。

けれど、俺には何かあったときに愚痴を聞いてくれる三浦がいる。

こんなに安心できることはない。


「……ありがとう」


「しばらく恋愛は休め!無駄に時間があるから悩むんだ!バイトでもしろ!」


「それもそうだな。一個いい場所見つけたから連絡してみる!」


「私も実はバイトしてるんだぞ!」


「三浦。バイトできるんだ」


「……。」


そんな言葉に三浦は指の関節を鳴らす。

「ま……待ってくれ!違う!違うんだ!」


「問答無用!」


バキっという音と共に俺は崩れ落ちた。

駄目だって。

入っちゃいけない場所に入ったって。


-次の日の放課後・相沢透-


今更だが俺らが住んでるこの街は、都会とも田舎とも言えないような場所。

少し歩けば田んぼもあるし、大きな倉庫や工場なんかもある。


コンビニにも困らない。

そんな町。


今日はバイトの面接だ。

応募したのは、古くさい和菓子屋。募集の張り紙はあるが、前を通っても客をほとんど見かけない。

本当に人手が必要なのかと半信半疑で電話すると、いつでも面接に来ていいと言われた。


からん。からん。


扉の鈴が鳴る。

「すみません、昨日バイトの面接をお願いした者です」


奥に二人の人影がある。

そしてこそこそと話している。

「いいから行きなって。同じくらいの男の子だろう?」

「まだ無理だって。おじいちゃん、おばあちゃんじゃないと怖いから……」

「ほら!優しそうな子だよー!」


声の主は、年配の女性と、俺と同じくらいの年の女子らしい。


え?これどっちが対応するかで揉めてる?

「……すいませーん」


「ほらまた呼んでるよ?」

「今日お客さん来てないんだから、仕事だと思って!」

「いやだよ!おばちゃん」


「はよおし!」


店長らしき人に押し出されたのか、ぽーんと女の子が奥から飛び出してきた。

「い……いらっしゃいませ」


……なんかこの声。

「げ!相沢!?」


「あ、三浦」


-それからどしたの?・相沢透-

まさかここが三浦のバイト先とは。


店長らしいおばあちゃんが出してくれたお茶を啜りながら、三浦はヘラヘラしている。

「奇遇ですな、まさかここに面接に来るとは」


「俺も驚きだよ。お前昨日あんなに大口叩いといて全然働けてないじゃないか!」


「い……いつもは平気だぞ!じいちゃんばあちゃんしか来ないから!」


「ほら梓ちゃん、お客さんって言いなさい」

おばちゃんが話し始める。

「初めまして店長の漆戸(うるしど)です。これからよろしくね」


「え?これからってまだ面接もしてないのに」


「大丈夫、梓ちゃんがこんなに懐いてるなら問題ないわよ」

にこにこ笑顔の店長さん。

「相沢君は学生さんだからね。梓ちゃんと同じで、週三日くらいでいいかしら?」


「助かります。店長と三浦はどんな関係なんです?」


「おばちゃんが私のカリスマに惹かれて、ぜひ働いてくれと……」

「梓ちゃんのお母さんがね、子供の頃ここでバイトしてたことがあってね」

「それで、『うちの娘は人見知りだけど、面倒を見てもらえないか』って頼まれたの」


面倒見てもらえないかって、三浦お前。

「人見知りだけど、じいちゃんばあちゃんなら全然大丈夫!」


「梓ちゃん?お客さんよ」

これ大丈夫なのか?

三浦が接客できる絵が浮かばない。


「餡子重いぞ」

三浦が言う。


「あんこ?」


「まぁお仕事についてはまた今度教えるわね。今日はお菓子でも食べていきなさい」


「ありがとうございます」

面接に来たのに、もてなされてしまった。

でも三浦があんなに懐いてるんだ、きっといい人なのだろう。


あれ?店長にも同じことを言われたような気が。

とりあえずバイトは決まった。


-別れた日の夜・中村夏織-

振られた?あんなに、あんなに幸せだったのに。

小鳥にあんなに自慢して。綾香に叩かれて。


一人だけ浮かれてて。


相沢、相沢。

寂しいよ。


それから私は週末までの三日間学校にいけなかった。



-週明けの教室・中村夏織-


お母さんには、大好きな彼氏に振られて、学校へ行く気力が湧かないことを話した。

「少しだけ、落ち着くまで休んでいいよ」と言ってくれた。


自分の席に着く。

周りのざわめきが、良からぬ噂で満ちている。


「中村さん友達の彼氏奪ったんだって」

「相談するふりしてそのまんま」

「学校でキスとかしてたり」


きっと綾香達のグループが噂を流しているのだろう。

ただ振られた事についてはまだ話が聞こえてこない。

「夏織あんた大丈夫?目真っ赤だよ?」

小鳥が心配してくれている。


「ありがとう。もう大丈夫」


「三日間も学校休んで、心配したんだから」


「小鳥。この三日間なにか私の話聞かなかった?」


「そりゃまぁ色々聞いたけど。私は夏織から聞いてたし」


「私から聞いた以外のことは?」


「特になにも聞いてないと思うけど?」

この反応から察するに振られたことは広まってないみたい。


そんな事を話してると隣の男子が話しかけてくる。

「優等生の中村がこんな休むなんて珍しいね」


「……うるさい」


「え?」


「うるさい!私に話しかけないで!」

私の声が響き、教室が静まり返った。

何話しかけてくるのよ。こんなところ相沢に見られたらどう思われるか。


「そ、そんな怒らなくても」

男子が狼狽えても、私は睨み続けた。

「ご、ごめん」


「ちょっと夏織!やっぱり変だよ。少し落ち着いて!」

小鳥が焦りながら私をたしなめた。


「大丈夫だって、私は大丈夫だからね。小鳥」


「そんな風に見えないって」


今日私が学校に来たのは……。


-同日・相沢透-

「痛ててて」

バイトが昨日から始まった。


三浦が満面の笑みでこちらを見てくる。

「辛そうだな新人」


「筋肉痛だよもう」

バイトの内容はてっきり接客かと思ってたが、実際には違った。

三浦が言ってた通り、餡子だった。

五キロもある餡子の袋を、せっせ、せっせと運んだ。何往復したか分からない。


「店長とかこれ絶対出来ないだろ」


「それなー。私が来るまでどうしてたんだか」


「三浦よくそんな小さい体で運べるな」


「体の使い方がプロだからな!舐めるなよ!」

こればかりは素直に尊敬してしまう。


『私に話しかけないで!』


廊下越しに、大きな声が聞こえた。

「相沢氏、今のって」


夏織の声だった。

あんなに大きな声出す人だったか?


綾香と違い夏織は違うクラスだ。それに演劇部は練習も長い。

別れてから、夏織がどう過ごしているのかは知らなかった。

ただメッセージも何もないから終わったものだろうと思っていた。

「やっぱり、俺のせいで喧嘩でもしてんのかな?」


「まぁ誰かのせいって言ったら中村さんの自業自得だろうけど」

三浦は俺を庇ってくれた。

「友達の元カレと付き合うそんなリスクとったんだ、こうなってもしょうがないよ」


-その後職員室・中村夏織-

「すみません。林先生いらっしゃいますか?」


「あら中村さん?体調は大丈夫?」


林先生は演劇部の顧問だ。

朗らかな雰囲気だが、厳しいところもある先生だ。


「すいません。部活辞めたいんで退部届をください」


「急に。何かあったの?もし嫌なこととかあったら聞くわよ」


「演劇が嫌いになった訳ではないです」


「あんなに毎日頑張ってたのに勿体無い」

少し怒られると思っていたが、そんなことはなかった。


「部活が悪い訳じゃないんです」


「わかったわ。でも七月の発表会はやりきって欲しいわ」

「あなたが抜けたら、みんなまた一から発表会のために練習しなきゃいけなくなる」


「……。でも」


「これは強制じゃないから、ただのお願い」


こう言われると弱い。私の都合で、部活のみんなまで振り回すことになる。


ただ相沢は部活さえ辞めれば戻ってきてくれる。

きっと話せばわかってくれる、そんな気がしていた。

発表会まで一ヶ月弱。

少しの間だけ、たった少しなんだから。


「わかりました」


「ありがとう。嬉しいわ」

林先生は満足気だ。

「退部届だけは渡しておくわね。気が変わったら、出さなくてもいいから」


頭を下げて職員室を出ると、小鳥が待っていた。

「聞いてたよ。部活辞めるってマジ?」

「どうしちゃったの!?おかしいって夏織!何があったのか教えてよ」


「……分かった、昼休み話す」


-昼休み非常階段下・中村夏織-

「別れたー!?つい最近キスしてたって言ってたじゃん」


「……少し声の音量落として」


「あ、ごめん」


「相沢に言われたの、恋人同士の時間がないって」


「あー確かにね」

「でもそれは仕方なくない?演劇部の子とわざわざ付き合うんだもん。それで部活やめろって?」


「違う。部活辞めるのは私の意思」

「相沢に許してもらわないと」


はーっと深いため息をつく小鳥。

「私はあんたの親友だから言うけどさ。相沢の事絶対やめといた方がいいよ」

「夏織ならもっと良い人いるって」


「ありがとう。でも小鳥は相沢の事なにも知らないじゃん」


「こんなに親友傷つけられて、はい頑張ってなんて言える訳ないじゃん!」

「部活辞めたところで、より戻せるか分からないんでしょう!その退部届渡して!」


小鳥に取られまいと、退部届を強く握りしめた。

これがないと……。

学校に来てからずっと抑えていたものが、溢れた。

「やめてよ!私もう……もう。相沢がいないと…」


親友の小鳥に初めて涙を見せた。


「もう……どうしたらいいのよ」

小鳥は頭を抱えてしまった。


「ありがとう。でも、もう後悔したくないの」

そうだ、早く。

相沢にメッセージ早く送らないと。


-同日昼休み・相沢透-

「今日もバイトか〜」


「おばあちゃん昨日たくさんお前に餡子運ばせたから、きっと今日は楽だぞ!」


「お客さん居ないのもそれはそれで……」


ぴこん。夏織からだ。

別れてから初めてのメッセージ。

「この間はなにも言えず、ごめんなさい」

「一ヶ月後の演劇部の発表会で、退部する予定です。だからそれまで少しまってください。お願いします」


まさか、部活まで辞めるとは思わなかった。

これはどういう事だ?

今から恋人に戻って待つのか、一ヶ月後にやり直すか考えるのか。


「その難しそうな顔、女だな?見せてみろ」

三浦がスマホを覗いてくる。


隠す内容でもない、ましてやまだ返信も送ってないのだ。

見せても良いだろう。


「うわぁ……」

三浦はドン引きだった。

「部活まで辞めるか……」


「……どうしよう」

情けねぇ。自分がどうしたいかを考えるより先に、三浦に答えを求めてしまっている。


「どうって。相沢はどうしたいかじゃない?」


「俺がかぁ」


「時間が問題なら、相手は寄り添ってくれてんだから。これで問題解決と思ってまた恋人同士に戻っても良くね?」


「まぁそうかも」


「それに丁度恋愛休む予定だったんだしとりあえず、うんって返しとけば?」


「そうかもな……」


「ってのは建前」


「え?」


「女の子が部活辞めても彼氏に捨てられたくないってやっぱりやばいよ……」

普通じゃないと、三浦は言う。

「でも、私にもどうすりゃいいか分かんないんだけどさ」


それでも、部活を辞めてまで俺と一緒にいたいという気持ちを、嬉しく感じてしまう自分がいた。


「まぁとりあえず『わかった』と返しておくか」

メッセージを送信する。


「そうだな、一ヶ月待ったほうがお前も少しは落ち着くだろう」


「落ち着くってお前な……」


「本気だぞ、相沢はもっと話し合う事を覚えろ」


……話し合うか。

そう言われると恋人と話し合うなんて、してこなかった。

綾香の時も、夏織の時も。


相手に変わってほしいと頼むなんて、厚かましいと思っていた。

裏切ったあいつらが悪いんだ、そんな気持ち。


でも、そのせいで夏織は追い詰められている。


二人でじっとスマホを眺めてると、夏織からメッセージが来た。

「落ち着いたら、相沢がしたい事全部する。えっちなことでもなんでも出来るから」


三浦が俺を睨む。

「おい……」


「違う!別に俺は何にも言ってない!」


「……変態」

三浦はじとっとした目で俺を見た。


……。いやいや今はその話ではない。

これから一ヶ月、俺はどう過ごすべきなのだろう。


-和菓子屋漆戸・相沢透-

今日のバイトは、ほぼ店番。

前日に納品されたあんこをひたすら運ばされたおかげで今日はゆっくりして良いとの事だった。


「流石男の子ね、しっかり働いてくれるわ」

昨日の店長の言葉だった。

三浦と仲がいいおかげで気安く接してもらっているが、あくまで店長は雇用主で、俺はアルバイトだ。


「いつものおじちゃん今日は来ないなー」

後ろの和室で煎餅をボリボリ食べる三浦。

一応仕事中なんだが……。


そんな三浦を無視して店内の掃除をする。


カラン。カラン。


お客さんだ。

「いらっしゃいませ」


「うげっ!」

なにやら、奥で三浦がバタバタしてる。


そこには松葉杖をつきリュックを背負った制服姿の女子がいた。

この制服は俺達と同じ高校?


「あれ?相沢君かな?初めまして!」


「初めまして?なんで俺の名前を?」


「私陸上部の二年生!清水葵(しみずあおい)。石川君からちょいちょい話聞いててね!この間の体育祭速かったね!」


先輩かぁ。

この時間なら、陸上部はまだ練習中のはずだ。怪我で早く帰るところだろうか。


「見ての通りしばらく部活には出れないから、みんなにはお菓子でも買っておこうかとね!」


清水先輩は石川のようにハキハキしてる。

髪をポニーテールにした元気あふれる見た目をしている。

背は俺より少し高い。三浦と比べると一回りくらい大きそうだ。


「そうでしたか、ゆっくりしてってくださいね」


「ありがとう!お邪魔する!」

しばらく和菓子を眺めた末、煎餅を選んだ。


「お会計千八百円になります」

煎餅を手渡したが松葉杖をついてるせいで大変そうだ。

「手伝います」


「ありがとう!リュックの中は空っぽだから適当に詰めてくれて構わない!」


先輩が背中を向けたので、「失礼します」とリュックを開けた。本当に何も入っていなかった。

「ありがとう!ではまた!」


一言一言区切るようにはっきりと話す。

聞きやすい話し声。それになんだか温かい。


石川みたいな話し方って、女の子がするとめちゃくちゃ可愛いのでは?


「ふはぁんはぁんふふふ、ふはぁんはふんふ」

大福を詰め込みながら話す三浦を、無視する。


店長が、お菓子とお茶を持って奥から出てきた。

「『初めての接客なのに、全然緊張しないのね』ですって」


よく分かるな……。

「はい。同じ学校の生徒でしたので」


「良かった。接客も問題なさそうね」

店長に認められると、大人になった気がして嬉しい。

「透君の大福もあるから、いつでも食べなさい」


「ありがとうございます」


ふんふん、言いながら店長と話す三浦。

あれでちゃんと話せてるのだろうか?そもそも三浦を甘やかしすぎではないだろうか。


-次の日学校・中村夏織-


「あれれ〜?もしかして振られちゃいました?」

綾香のグループの子たちだった。わざと教室中に聞こえるような声で話しかけてくる。


「目真っ赤ですよ〜!もうちょっと休んだほうがいいんじゃないです?」

「もうやめなって……」

グループの一人が、困ったように隣の子の袖を引いた。


周りの席でも、ひそひそ声が上がった。

「へー中村さんって彼氏とか作るんだ」

「その彼氏友達の元彼だって」

「ほら、あの体育祭で部活入ってないのに足はやかった人」

「あれ?あいつの彼女って吉田じゃないの?」

「だから……その彼氏とったんでしょ?」


こそこそとまた噂が広がる。

「振られてないから、私」


「へーなのに泣いてんだ。ひっどい彼氏〜」

「隣で三浦と仲良くやってるよ!」


女子達がケタケタと笑う。

教室の外で綾香もニヤニヤしながら見てる。


「やめなよ!いい加減にしないと怒るよ」

小鳥が守ってくれる。


「こーわ!あんたも気をつけなよ!彼氏できたら取られるかもよ?」


「大丈夫!私彼氏いないから!」


「本当にいい加減にするべきだ!今の君達は流石に意地が悪く見えるぞ!」

石川君も声を上げてくれた。

「色恋の話に関しては俺は何も知らない!ただ君達の事情がどうであれ一人を多数で責めるのは間違ってると思うぞ!」


さらに小鳥は続ける。

「早く出て行きなよ!ここはあんたのクラスじゃないでしょ!」


流石に無関係の男子にまで怒られたからか、綾香のグループは帰って行った。


「ありがとう。小鳥」


「この間ああは言ったけど、夏織は友達だから」

ありがとう。


「石川もありがとう、いい奴だね!」

小鳥が石川の肩を笑顔で叩く。


そんな二人の姿が、私にはとても眩しく見えてしまう。


なんで……なんで私には相沢と……。


-その日の夜自室・中村夏織-


いつもなら、強気に言い返せた。

でも、今日はそれ以上、言い返せなかった。


今日のことでまた噂が広がる。

寂しいよ。

寂しいよ、相沢。


-次の日・相沢透-

「おいっしょ!おいっしょ!」

松葉杖をつきながら、片手で大きな部活用の水筒を運ぶ清水先輩がいた。


ちょっと!階段下りようとしてる!

あれは危ない。


「先輩。手伝います」


「君は、相沢君!ありがとう!」


陸上部の部室はグラウンドの横にある。


部室まで水筒を運び終えると、「少し話をしないか?」と誘われた。

二人でグラウンドの隅に腰を下ろす。


「いやぁ!片足が使えない分、事務仕事でもしようかと思ったが意外に大変だな!助かった」

ぶらぶらと右足を見せつけて来る。


どう見ても事務仕事じゃないと思うが。

「無理して、反対の脚まで痛めないでくださいよ」


「ありがとう!」

「そういえば君は、なぜ陸上部に入らなかったんだ?」


「俺は……」


身長や放課後の時間など、色々理由は挙げていた。けれど一番大きかったのは、自分で決めた目標記録を超えたことだ。

俺なりにやり切って、陸上を辞めたのだ。

やりきるハードルが低いと言われればそうかも知れないが……。


「もともと、高校では続けないつもりだったんです」


「……そうか勿体無いな!私も君と一緒に走りたかった」


本当に石川そっくりだな。


「私はこの足だ、三ヶ月も部活を休まなくてはいけない。みんなに追い越されるのが怖くてな」

「少しでも体を動かしていたいのだ」


「そうだったんですね……」

二年生のこの時期に怪我。

先輩は明るく振る舞っているが、一番伸びる夏休み。

一切練習ができないのは、きっと辛いだろう。


「急にすまないな!こんな話」


「いえ……でも先輩が陸上をするのは誰かを追い越す為ですか?」


「まぁそうなるな」


「少し考えを変えてみたらどうです?」

「例えば追い越す相手を自分にしたり。陸上なんて所詮個人種目ですし、誰も咎めませんよ」


俺なりの気づかいのつもりだったが、「所詮」は余計だったかもしれない。

傷付いてはいないだろうか。


「……ありがとう。励ましてくれてるのだな」

先輩はグラウンドの方へ顔を向けた。

「今日はありがとう、もう大丈夫だ!」


きっと一人になりたいのだろうと思い、その場をすぐに立ち去る。

「では、また」


「またな!」


夢中ってああいう事なんだろう。

そんな熱さを、少し思い出していた。


-3話終-

登場人物まとめ

相沢透 主人公

身長165㎝ A型

帰宅部

好きな人 ???

好きなもの、RPG 甘いもの

嫌いなもの、特に無し

ワンポイント ド○クエでは ビ○ンカ以外を選ぶやつの意味がわからない


三浦梓 相沢の幼馴染

身長152㎝ A型

帰宅部

好きな人、相沢透

好きなもの、RPG 和菓子

嫌いなもの、群れてる女子

ワンポイント、ドラ○エでは フ○ーラを嫁にする


中村夏織

身長163㎝ B型

演劇部

相沢の高校二番目の彼女 

別れを告げられ、復縁を願っている

好きな人 相沢透

好きなもの、紅茶 努力

嫌いなもの、馴れ馴れしく話しかけてくる男子 吉田綾香のグループ


小鳥秋穂

夏織の親友 テニス部

身長161㎝ A型

好きなもの 恋バナ 少年漫画

嫌いな人 相沢透


澤愛瑠花

身長150㎝ AB型

図書委員 部活は未所属

好きなもの ???

嫌いな人 嘘のない人


清水葵 二年生

身長173㎝ B型

好きなもの カレー 家族 陸上

嫌いな人 勝負する前から諦める人


漆戸店長 75歳

身長155㎝ O型

好きな人 旦那 梓ちゃん

嫌いなもの もう無い

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