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初恋はきっと何処かで嘘をつく。[二話]

高校一年生の相沢透は、幼馴染の三浦梓と部活選びに悩む中、同じ中学出身の吉田綾香から告白される。


綾香への恋心はまだなかったものの、勇気を出してくれた彼女の気持ちに応えたいと、透は交際を受け入れたが。

相沢に気をつかわず、男子と話す綾香。

そんな綾香を相沢は、理由も告げずに振ってしまう。


そして綾香のために話をすると言う中村夏織。

まわりくどく絡み合う、本音の見えない関係はこれからどうなっていくのか。

中村夏織は恋に恋する乙女であった。

恋人ができたら誠実に。


不安も何もなく。

手を取り合って、歩いてく。


恋人には憧れていた。

けれど、たくさんの異性と親しくする人は不純だと思っていた。

そんなことを考えているうちに、男子の知り合いすら増えなかった。


だけど、『これさえ出来れば』付き合える。

そんな男子が目の前に現れた。


サブタイトル

[二人目]

-翌日の昼休み・相沢透-

俺は三浦のように机に伏せていた。

「あー鬱だ……」


つんつん。

「モテる男は辛そうですな、相沢〜」

にやけ面の三浦が話しかけてくる。

「実際なんで振ったんだよ。仲良さそうだったじゃん」


「まぁそう見えるようにしてただけなんだけどな」

俺は、綾香にとって理想的な恋人のフリをしただけだった。


「なんだそれ?アニメの見過ぎだろ」

三浦に突っ込まれてしまう。

確かに今の言い方はカッコつけてるように聞こえるな……。


「実際さ、俺と三浦は綾香のために気を遣ってたのに、綾香は気づいてすらいなかった。そんな気がしてさ」


「……私は別に」

気をつかわせた挙げ句、結局別れてしまった。三浦には悪いことをしたと思っていた。


「まぁ吉田さん結構他の男子と話してたからね。良かったよ別れてくれて」


「良かったってお前……」


そんな突っ込みに、にこりと笑う。

「幼馴染の私としても、お前を雑に扱う奴は許さないからな!」


「ありがとう」

昔から、こういうときの三浦の軽口には救われる。 


ただ、これからどうしたものか。

放課後、毎回あの二人に絡まれるのは正直ごめんだ。

早いところ綾香を納得させなければ。


ぴこん。メッセージが入る。

中村さんからだ。

「突然ごめん、中村です。綾香から連絡先をもらいました。話したいことがあるんだけど、できれば三浦さんも連れてきてほしい」


三浦も?


後ろを振り返りスマホの画面を三浦にみせる。


「中村さんってあのキツイ美人の?」


「たぶん、そう」


「なにこれ?私刺されたりしないよね……」


とりあえず顔だけ出してみることにした。


-非常階段下・相沢透-


「ごめんなさい!」

突然夏織さんが謝ってきた。


二人そろってきょとんとしてると三浦が耳打ちしてくる。

ひそひそ。

「お前中村さんに告白でもしたのか?」


「してないよ。っていうかしてたらお前呼ばないだろ……」


「あ……あのー」

夏織さんが気まずそうに話し始める。

「順番を間違えてごめん。ちゃんと説明する」


中村さんの説明によると、綾香は俺と付き合ったことで、他の男子とも気軽に話せるようになったらしい。三浦を遠足の班に誘ったのは、自分が恋人だと見せつけるためだったという。


「三浦梓さん……だよね?友達がひどい事をしてごめんなさい」


三浦はじーっと俺の顔をみる。

「……なんでこの人が私に謝ってんの?」


「俺だってこの話、今初めて聞いたんだから知らないぞ……」


一つ息を吐いて、三浦が口を開く。

「大丈夫。別にき……気にしてないから」


「なら良かったけど」


「で……でもアレだな。綾香って奴は性格が悪いな!」

今度は聞こえる声でそう言った。


「そうだね」

中村さんも苦笑いだ。

「ごめんね二人とも、綾香には諦めてもらうように私から言っとくから」


「ありがとう。助かるよ」


「それで二人は本当に付き合ってないんだよね?」


「そうだけど?」

三浦が答える。


「わかった。じゃあ私部活あるから」


三浦が俺のことをじーっと見つめてくる。

「この話し合いやっぱり私必要か?」


-三人で会う前夜・中村夏織-


私は相沢との会話を思い出していた。


気づかいをわかってくれる人。男子と関わりのない人。

「私にも恋人が作れるかもしれない」


急に湧いてきた特大の恋愛フラグに、私は少し舞い上がっていた。


でも問題が色々とある。

まずは綾香を諦めさせなければならない。


二つ目は、あの幼馴染と本当に付き合っていないのか、確かめること。


三つ目は、今の友達グループとの関係だ。


ほとぼりが冷めてからなら、相沢が恋人を作ったところで綾香も気にしないだろう。

ただ、綾香が納得していなければ、グループ内で揉めることになる。


三浦さんを使おう。

二人の関係を明日確認してみるとしよう。


綾香にメッセージを送る。

「相沢の連絡先もらえる?」

「明日相沢と話してみるよ。綾香がいると話できなくなるだろうから、話がまとまるまで私に任せて」


-話し合いを終えた夜・中村夏織-

相沢と三浦さんの関係はわかった。


綾香にメッセージを送る。

「ダメだった。相沢と三浦さんあの二人付き合ってるみたい。相沢はもう話しかけないで欲しいって」


……送信っと。


これで、私がそう言ったと知られても大丈夫だ。


二人にはもう謝った。相沢だって、綾香には諦めてほしいはずだ。

バレても、そのためについた嘘だと説明すればいい。


それに三浦さんは、相沢以外とはほとんど話していないみたいだし。

三浦さんがわざわざ付き合ってないことを声高に話すこともない。


明日からは、綾香が相沢たちに近づかないよう気をつけないと。


-次の日昼食・中村夏織-

私たちは、グラウンドの入り口にあるコンクリートの段差に座っていた。相沢と綾香が昼ごはんを食べていた場所だ。


ぐすん、ぐすん。

綾香は泣いている。教室であの二人を見るのが辛いらしい。

「なんで…透ほどイケメンな彼氏なんてもう出来ない……」


「まあまあ」

と、他の女子達が慰める。

「かーおーりー!実際なんて言われたの?」


ここは気をつけなければ。

「俺は三浦とすら話すのやめたのに、綾香は他の男子と仲良くやってるのが気に食わなかったんだって」


「なら男子と話すのやめればいいじゃん」


「それも言ったよ!もうダメだって」

えーん。えーんと泣き続ける綾香。


「でも新しい彼女三浦でしょー!あの地味な子」

「相沢って案外誰でも良かったりするのかもね!」


周りの女子達が口々に相沢のことを話す。


ただ、いくら綾香を諦めさせるとはいえ次の恋人は三浦さんなんて嘘をついた。


綾香に続いて、三浦さんとも付き合った。そう思われれば、「自分でもいける」と考える女子が出てくるかもしれない。


「やめてよ!そんなこと今言わないで!」

無神経な友達に綾香が怒る。


「私あの子に負けたみたいじゃん!」

実際には負けている。

見た目でも、誠実さでも。


「綾香はどうすんの?諦める?」


「諦め切れないよー!」


綾香に少し怒りが湧いた。

「大体ね!もっとちゃんと相沢と向き合ってればこんなことにならなかったんだから!」

私は続ける。

「あんたの不誠実が招いた結果でしょ!」


「ガチギレじゃーん」

「かおりっち男子とあんまり連まないもんねー!」

周りの女子達が囃し立てる。


ふんっ。と綾香から視線を外す。


「わかってるよー……」

そう言いながらも、綾香は泣きやまなかった。

全く。そんなに好きならもっと一途になればいいのに。


「ほーらよしよし」

綾香は周りの女子達に慰められながら、昼食を終えた。


-教室ロングホームルーム・相沢透-

担任の田辺先生が教壇につく。

「えー五月末には体育祭がある。クラスの中で得意なやつとかいるか?」

「決めるのは、百メートル走とリレー、それから障害物競走の選手だ」


「おい。行けよ」

三浦がちょっかいをかけてくる。


「なんで俺が……」


「足速いだろ!元陸部」


「いいよ目立ちたくないし」


「先生!相沢くんは足がとっても速いです!」

坂本が元気よく手をあげる。

「お前な!」

坂本は軽々しく俺を売った。


「じゃあ坂本と相沢は百メートルとリレーな」

田辺先生は坂本も巻き込む。


「え!俺もですか!?」


「人を売るならそのぐらいの覚悟がないとな」

田辺先生は、笑いながら黒板に坂本の名前も書いた。


「相沢は帰宅部な上に、元陸上部だろ。ちょうどいいじゃないか」

げっ、部活に入るよう勧められてた手前断りづらい。


「じ、じゃあ三浦は?」


「三浦は、走るの苦手だろ?」


後ろを振り向くと、したり顔の三浦がいた。

「ピース」

こいつ!一発くらい殴ってもいいだろうか?


-ホームルームが終わり放課後-

坂本が叫ぶ。

「嫌だー!剣道の部活もあるのに体育祭も頑張らないとなんてー!」


「元はお前のせいだからな」


「でもこのクラスあんまり運動できるやついなくね?どっちにしろお前は選手だって」

まぁそうなんだけどな。


「そういえば吉田さんと別れたってマジかよ?」

少しボリュームを下げてくれた。

「ま、まぁな」


「じゃあアレだな!今度こそドキドキ体育祭。運命の相手はあなた的な!二人で恋を探せるな!」


「そうだな」


「今度は裏切るなよ!絶対な!」

そう言い残し、坂本は部活に向かった。


俺も帰るか。

教室を出るとそこには中村さんがいた。


「相沢」


「あ、この間はありがとう」


「大丈夫。今時間ある?」

ここ数日で、中村さんに呼び出されるのは何度目だろう。


「大丈夫だけど」


「前の場所いい?」


-非常階段下・相沢透-

「へーそれでリレーの選手に」


「たまったもんじゃないよ。部活だってやめてから結構経つのに」


「まぁ暇そうだしいいじゃん」

最初のきついイメージからだいぶ柔らかくなった。

「で?話ってなに?」


「相沢ってさ。この前言ってたような子が告白してきたらどうする?」


?てっきり綾香の話をするものとばかり考えてたから驚いた。

「まぁ告白されたらとりあえず付き合うかな」


「それは誰でも?」


「……誰でもかも」


「あのさ、綾香のことだけど新しい彼女が相沢にできたって嘘ついてさ……それで」

あー最近呼び止められないと思ったら、そう言うことか。


「大丈夫。それでいいよ」


「そこからの話なんだけど、その恋人私じゃだめかな」

ん?今のは告白になるのか?

「これから部活あるから、ゆっくり考えて! 夜、メッセージ送るね」

中村さんはさっさと視聴覚室へ向かっていった。


-帰り道・相沢透-

意外な話だった。

「なぁ!なぁって」


三浦がちょんちょんと制服を引っ張る。

下校時たまたま会ってそのまま一緒に帰っていたのだ。

「どうしたんだ?ぼーっとして」


「いや中村さんにさっき告白されて」


「え?最近のお前流石にモテすぎじゃないか?」


「俺もそう思う」


ドカっ!と思いっきり三浦のカーフキックを食らった。

「いって!」


「どうすんのよ」


「いや、結構急だったから」


「お前は鈍感主人公か!私はなんとなくそうなのかなって思ってたぞ?」


「え?なんで」


「いやこの前三人で話した時友達がバカなことしただけであんな事しないだろ普通」


「そ、そうかな?」

友達が悪いことしたら謝ってもおかしくないような?


「お前、私が誰かいじめたとして、代わりに謝りに行くか? 普通は私を捕まえて謝らせるだろ。なのに、あの場には吉田さんがいなかったじゃん」


そう言われればあの話し合いは不自然だった。

三浦も「私、必要か?」と言っていた。


「確かにな」


「でも前の吉田さんより良い人そうじゃん」


「……そうかな?」

確かに綾香よりかは、美人だけど。


「それに友達の元彼とか普通手出さないぜ。それだけ思ってるんじゃね?」


中村さんは、かなり危ない橋を渡っている。

新学期、同じグループの友達の元彼にこの早さで告白するのだ。

なかなかに肝が座ってる。


「少し話してみる」


「おう!花のセブンティーンは短いぞ楽しめ楽しめ」


「まだ十六だけどな」


-自室夜・中村夏織-

まだ心臓が落ち着かない。

告白した後、私は部活にも全く集中できなかった。

早く帰ってメッセージを送りたい、そう思っていたのに。

メッセージを送れずに、かれこれ20分は経っている。


「今日の話、しても良いかな?」

いや、これだとだいぶ置きにいってる。

「もし良ければ返事もらえる?」

これも違うな、急かしてるみたいだ。


文字を打っては、消す。


大体、相沢からすれば急な話に感じるだろう。

私自身も若干焦った感じは否めない。


綾香を諦めさせるため。

相沢と三浦さんが付き合ってると嘘をついた。


私の嘘で、相沢は誰の告白でも受ける男だと思われたかもしれない。

誰かに先を越される前に、告白しておきたかった。


私は綾香の彼氏として知ったけれど、相沢は女子から結構人気がある。


綾香とは違って、異性とだらだら話し続けたりしない。

余裕があると言うか、深く踏み込まないと言うか。

女子に執着しない。顔もいい。

付き合ったら一途になってくれそう。

そんなことをみんな話していた。


「急でごめん、でも好きになっちゃって」

これが良い。

私なりの誠実なメッセージだ。


送信っと。あー送っちゃった。


ぴこん。

相沢からの返事は早かった。

「ありがとう。俺でよければ付き合おう。でも、友達は大丈夫?」


……良かった、告白は受けてもらえた。


「嬉しい、でも綾香は怒ると思うから少しの間は秘密にしてても良い?」


「わかった。友達のこともあるのに告白してくれてありがとう」


「ごめん、こんな状況で」

「あと、三浦さんとは普通に話してても良いから!他の人とだと怒っちゃうかもだけど」


「三浦?」


「うん、二人はなんかちゃんとした友達みたいだし」


「気をつかってくれてるんだね。ありがとう」


「いいえ」

良かった、喜んでくれてる。


「俺は元から三浦以外とはあまり話さない方だから安心して」


「ありがとう」


「学校では中村さんと、話さない方がいい?」


「二人の時は大丈夫。二人になれるよう時間作るから」


「わかった、また明日」


「また明日」


……。


で……出来た!

私にも恋人が出来た!


相沢と三浦さんは、しばらく私のことで話すだろう。

クラスメイトの綾香には嫌でも目に付くはず。


そうすれば私の嘘にも信憑性がでてくる。

三浦さんと仲良くされるのは気に食わないがこればかりはしょうがない。


……これからは、私の相沢だ。


-次の日・相沢透-

「三浦、俺中村さんと付き合うことにした」


「……そっか」


「それで、中村さんは今まで通りお前と話してて良いって」


「なんで中村さんはちょいちょい私を出してくるんだ」


それは綾香と付き合ってる時に色々言ったからだと思うけど。

「わからん、まぁそんな感じで」


「それにしてもどーすんだよお前の元カノ、未練たらたらって感じ。私すげー目でたまに見られるんだから」


「それなー、だからしばらくこのことは秘密にしといてくれ」


「秘密ねぇ……。まぁ分かった」


ぴこん。

中村さんからメッセージが届く。

「昼ごはんはしばらく綾香達と食べるね。放課後会える?今日部活休みだから」


「ああ。大丈夫」


中村さんはこれからしばらくは友達に嘘を付き続けるのだろうか。


-昼休み・中村夏織-

今日も綾香は怒ってる。

「そもそも早すぎない?この前別れたばかりなのにさ!」


「でもいい加減諦めたらー?だってもう彼女作っちゃったんだし」

取り巻きの女子達は綾香の愚痴にいい加減飽きてるようだ。

「でも初めての彼氏だったんだもん。初めて手繋いで」


「手繋いでって中学生じゃないんだから。キスとかはしたのー?」

女子達はけらけらと笑ってる。

「……キスはしてない。でもハグはしたよ!」

無邪気にべらべらと相沢の話をする綾香にイラついた。

「あんまりそういう話はしない方がいいんじゃない?」


私がそう言うが、みんなは聞く耳を持たない。

「なんで?気になるじゃん減るもんじゃないし」


私の相沢になったのだ。綾香のじゃない。

「大体、綾香のそのお喋りのせいで振られてんだから反省しなよ」


「ちょっと!そんな言い方なくない?」

綾香は怒る。


「なんか今日のかおりっち、やたら相沢の肩持つじゃん」


「私は昔から曲がったことが嫌なだけ。綾香も次の彼氏にはちゃんと向き合いなよ」


「嫌だー!透が三浦と別れるまで待つ!」


「それ面白そう!なんなら別れさせてみる?みんなでちょっと詰めてさぁ」

「そうね!どうせ三浦だし。陰キャのくせにあんな彼氏似合わねー!」


楽しそうにみんなは笑う。ただこればっかりは止めさせないと。

「そういう事するんなら私本気で怒るからね……」


「じょーだんだって!お笑いわかんないなーかおりっちは」


昼休み終了の予鈴がなる。

みんなはクラスに戻る。


-昼休み終了前・グループの他の女子達-

夏織と綾香がそれぞれの教室へ戻ると、残った女子たちは声を潜めた。


「なんか夏織最近キツイね」

「自分が一番正しいって感じ」

「ちょっとムカつくよねー」

「相沢の話自分が一番首突っ込んでたくせに、私達には触れるなってさ」

「綾香もいい加減うるさいし」

「もっと面白い話ないかな」


-放課後・相沢透-

帰りのホームルームが終わり、

みんな、それぞれの用事へ散っていく。


「おし、俺も行くか」


中村さんの家は俺の家からそこそこ近い。

けれど徒歩で通学してるらしい。


綾香に見られたくないという中村さんの希望で、学校から少し離れた場所で待ち合わせた。

正直、堂々と付き合っていると言えない関係は、あまり気持ちのいいものではない。


「お待たせ」

中村さんが控えめに手を振ってくる。


「お疲れ様」


「ありがとう」

今日は付き合ってから初めての二人きりだ。

「そういえば帰り道同じなのに会ったことないな」


「そうね、演劇部練習十九時までだから」


「長いね」


「……だから普段は一緒に帰れない」

一般生徒の最終下校時刻は十八時だ。


例外として部活動や文化祭などの理由がある生徒は二十時まで残れるらしい。

「大丈夫」


「でもこうやって毎週木曜は一緒に帰れるから!」

そして演劇部は木曜日のみ練習が休み。

それで今に至る訳だ。


「そういえば綾香の調子はどう?」


「……まだ諦めきれないって」

「結構急だったから、納得できないみたい」


「そうか」

俺としては別れることは決めていた。

そしてあの日、もう昼飯の邪魔をされたくない程度の気持ちで振った。

だけど綾香からすれば突然に感じた訳か。


元彼女が俺のことを引きずってくれている。

中学時代、適当に扱われた傷が少し癒え、優越感に浸れた。


「ごめん、変な嘘ついたせいでコソコソするはめになって」


さっき考えていた事をそのまま言われ、少し驚いた。

曲がったことが嫌いな、中村さんらしい謝罪だ。

「大丈夫、中村さんが俺を思ってやってくれたことだから」


「もう敬称はいらないよ、夏織って呼んで」


「ありがとう。夏織」


「相沢こそこれからよろしくね」


「こちらこそ、よろしくね」

週に一度の下校、クラスも違う、そして学校ではまだ話せない。


そうなると綾香の時と違い、恋人らしい時間は少ない。


うーん。今話されて思ったが、なんのために夏織は付き合いたかったんだ?


「私性格きついから嫌なことあったら言ってね?」


「わかった。俺に対しても、なんかあったら言ってね」


「うん」

夏織は俺の手をじっとみてくる。

「な、なんかある?」


「いや自転車だと手繋げないなと思ってさ」


「あぁそうだね」

「……木曜日だけ、歩きでくるよ」


「いや、そこまでしないで大丈夫だから!ふと思っただけ」


「これからは恋人として、したい事をやろう?」


「ありがとう。嬉しい」


夏織は美人だが、綾香程会える時間は多くない。

帰り道も、もう終わってしまう。


それだけが少し名残惜しい。


-自室夜・中村夏織-

幸せだった。恋人と一緒に歩く、初めての帰り道。


あの生意気な綾香より私は上。

これからは、綾香と相沢の思い出を私が塗り替えていかないと。


ぴこん。相沢からだ。

「今日は恋人として話せて嬉しかった」

……相沢も私と同じ気持ちだった。


「私も嬉しかった。ありがとう」


「また明日」


「また明日」


彼氏ってこんな感じなんだ。

これからのことを考えると、胸が躍る。


-次の日放課後・三浦梓-


私の名前は三浦梓。友達のいない、地味な女子高生だ。

イケメンの幼馴染がいること以外、特に変わったところはない。


へっ、と自嘲するような笑いが漏れた。


今まで一緒だと思っていた幼馴染に彼女が出来たのだ、リア充め爆発しろ。


でもしょうがない。

私みたいなやつに、なにも思わず話しかけ続けてくれるイケメン。

今まで女にモテなかったのが奇跡だ。

そんなアイツにも高校に入ってからは二人目の彼女が出来てしまった。


この短期間で二人目だ。

私は相沢のことが『好き』……。


だけど、私は相沢が女の子と付き合うのを見送るしかない。

……なにかを言う資格は私にはない。


今日も、誰とも話さずに帰るつもりだった。

前もアイツは彼女と一緒に帰ってたんだ、きっと今回もそうだろう。


学校を出て、人通りの少ない道に入るとそこには四人の女子高生の群れがいた。


あれ?こいつら相沢の元カノの友達じゃないか?

「あ!三浦さーん」

嫌な予感がする。

こんな時に話しかけられるなんて碌な事じゃない。


「な……なに?」


「最近彼氏できたんだって?良かったじゃーん」

いじめっ子に囲まれてる気分だ。

実際にそうなのかもしれない。


「か……彼氏なんて、い……いない」


「へー嘘つくんだ。度胸あるじゃん」


一人の生徒に胸ぐらを掴まれる。

掴んできた腕を取ると、相手の体勢を崩した。地面に強くぶつけないよう、最後まで腕を支える。


「ご…ごめん、でもぼ……暴力はダメ」

またやってしまった。

走るのも球技も苦手だが、私は合気道を習ってる。

喧嘩で女の子に負けることはほぼない。


「どの口が!」


「三浦!」

男子の大声にその場が静まる。


声の正体は相沢だった。

「三浦。大丈夫か?」


「っ!なんで三浦の心配なんだよ!やられてんのこっちだろ!」


私が転がした女子高生が怒る。

「三浦が自分から暴力を振るうなんてあり得ない」

「お前らなんかやったろ」

相沢は女子達を睨みつける。


あ、これやばい。やばすぎる。

めっちゃかっこいい。


「はいはーい。喧嘩はやめよ〜う」

まったりした子が場をしきりはじめる。


「いやー。三浦と相沢が付き合ってるのか聞いただけなのに。三浦ちゃんが嘘つくからー」


「三浦と俺が?」

私も気になっていた。そもそも、どうして付き合っていることになっているんだ?


「俺のことなら彼女はいる。ただ三浦じゃない」


一番いい返答な気がした。

中村さんの名前は出さない。でも、私への誤解は否定してくれる。


「三浦には手を出すな」


「でも!」

転かされた女子が何か言おうとする。

それをまったりした女子が遮る。

「わかったよ〜。ちょっと戯れてただけだから」

「もう関わらないから安心して」

女子高生達は帰った。


「大丈夫か三浦?」


「だ……大丈夫」


「……巻き込んでごめん」


「あの子達、私が相沢の彼女だって決めつけてる感じだった」


「綾香がそう思ってるのかも知れないな」

「……本当に巻き込んでごめん」

かっこいいが止まらない。こんなこと言われたらみんな好きになるだろ。

こいつはきっと本当にモテ男になってしまった。


「大丈夫。私強いから」


「俺より強そうだ」

相沢は笑顔を向けてくれる。


もう少しで夏が来る。夕暮れの風には、ほのかな暖かさがあった。

さっきまで強張っていた体が、少し緩んだ。


「今日は念の為家まで送るよ」


いくら喧嘩が強いとは言え、心細かった。

今日くらいは甘えても良いだろう。

「……ありがとう」



-体育祭前日・合同練習午前・中村夏織-


あの初めての下校から、木曜日が二度過ぎた。


手を繋いでゆっくり帰る。

自転車通学のところわざわざ歩いてきてくれる、そんな私の彼氏。


学校では話せないから、帰り道は少ない時間とは言え幸せだった。


じりじりと照る太陽の下。

日差しを遮るもののないグラウンド。

日焼けしちゃうなぁ。


相沢は百メートル走とリレーの選手だ。

元陸上部というのは聞いていたが、相沢が運動してるところを初めて見る。


相沢の百メートル走だ。


「セット」


パーン!紙雷管が鳴る。


速い。すご!


相沢一位じゃん!

まだこんなに速いなんて!

私の彼氏かっこいい!

いてもたってもいられなかった。


昼休憩。クラスに戻る相沢を見つけた。

「昼休み少し時間ある?」


「ああ、大丈夫だよ」


「お昼食べたらメールして、グラウンドの裏で待ってる」

これから私は、綾香がしてないことを相沢にする。


-昼食後・中村夏織-

グラウンド裏。

「珍しいね。学校で呼び出すなんて」


私は相沢にハグをした。

練習の後だから、私も少し汗ばんでいる。それでも、抱きつきたい気持ちを抑えられなかった。


「走ってる姿かっこよかったよ」


「ありがとう」


顔を上げ相沢をみる。

羨ましくなるほど大きな瞳に整った顔立ち。

「少し目を閉じて」


私の初めて。


私も目を閉じる。

顔を近づけて、唇と唇が触れ合う。

少し濡れてる、幸福感が押し寄せてくる。

ああこれがキスなんだ。


目を開けると、目を閉じたままの相沢がいた。

可愛い。

すごく長くこうしていた気がした。

「私初めてだから」


「俺も初めてだよ」

相沢もファーストキスだった。

それが私にはすごく嬉しかった。


「明日体育祭で私部活休みだから一緒に帰ろう!」


「わかった。待ってるね」


-体育祭前日・合同練習午後・中村夏織-

初めてのキス。

キスってこんなに嬉しいものなんだ。


手を繋ぐ、一緒に帰るのは綾香もしていた。

その話を聞いた時まだ同じような気がしていた。


ただこれで私は明確に上になったのだ。

嬉しい。

キスの思い出に浸ってると、友達が話しかけてきた。

「なんか良いことあった?めっちゃ機嫌良さそう」

この子は同じクラスの小鳥秋穂(ことりあきほ)。

「そ……そんな事ないわよ」


「いつものポーカーフェイスが緩んでるぞー」


「もう!今度話すから!」


「はーい!」


小鳥は中学からの親友で、テニス部に所属してる。

活発で素直で可愛くて、私とは真逆の女の子だ。


私が唯一本音で話せる。

そんな親友。


今日のことは私の宝物。

誰のものでもない私だけの宝物。


-少し戻って同日昼食後・グラウンド裏の影-

物陰で、女子たちがスマホの画面を覗き込んでいた。

キスに浮かれる夏織の知らない場所で、きゃっきゃっと騒ぐ女子達の声。

「良い写真撮れたじゃん!」

「あ〜あ〜かおり、あんな真面目なフリしてお熱いね〜」


-翌日の放課後・中村夏織-

体育祭は何事もなく終わった。

待ちに待った帰り道。

「相沢ー!」

待ちきれないと言わんばかりに手を振る。


「夏織、お疲れ様」


「結局本番でも一位だったね」


「まぁ陸上やってたし、石川と同じだったら二位だったよ。くじ運がよかっただけ」


「かっこよかったよ」

私の彼氏はかっこいい。

今はまだ、それを周りに言えないことだけが少し残念だ。


「体育祭が終わったら中間テストかー」


「相沢はテストちゃんとできそう?」


「まぁそれなりかな?少し落としてこの高校入ったし」


「それあんまり言わない方が良いよ……嫌味に聞こえるから」

くすりと笑う。


「ごめん」

「そう言えば、夏織はテスト前は部活休み?」


「うん、だけどちゃんと勉強しないとね」


「……そうだね」


「相沢もいくら落としたからって勉強しないと」


「わかってるよ」


もう直ぐ家に着いてしまう。


「相沢、またしても良い?」


人生二度目のキス。


言葉にだして、素直に甘える。

それがこんなに素晴らしいことだなんて。


恋をすると、心に花が咲く。そんな言葉の意味が、少し分かった気がした。


どうかこの花が、枯れませんように。


もう少しで六月になる。

私の高校生活はまだ始まったばかりなのだから。


-次の日昼食・中村夏織-

今日は小鳥と二人で食事をとる。

「んでー、この間何があったのよ。好きな人でも出来た?」


「みんなには秘密だよ?絶対だからね?」



「絶対言わないよ!でも夏織の秘密なら高く売れそう」


「やめてよー。あのね、私彼氏できた」


「え?」

小鳥は固まった。

「あの夏織が!不純異性交友はんたーい!みたいな」


「ちょっと!私そんなイメージ?」


「そうだよ!誰にもなびかないクールビューティー!」


「……もうキスもしちゃった」


「きーーっ!ま、まさか夏織に先越されるなんて」

「んで!誰よ!誰よ!その彼氏ー?」

小鳥は身を乗り出して、次々と質問してきた。


「相沢透……ってわかる?」


「あれ?綾香の元カレじゃない?」


「そうなの。だから少しの間秘密にして欲しくて」


「そう言うことね、了解!」

「ねぇねぇ!もうデートとか行った?」


「まだ、私部活忙しいし」


「部活より彼氏だろー!いいなぁ!」


「小鳥も可愛いんだから作ろうと思えば作れるわよ!」


「あーあー夏織が先行っちゃったー!」

うわーん、うわーんと泣いてるふりをする小鳥。

そんな小鳥をみて実感する。


私、少し進めたんだ。

今まで想像していた青春を私はきっと送れてる。


-放課後視聴覚室前・中村夏織-


「ねぇ、かおりー?少し話できる?」

いつも綾香と昼食をとっている美術部のメンバーだ。


「私部活はじまるんだけど」


「少しだけだからさ!」

私は半ば無理やり、彼女たちに連れていかれた。


-非常階段下・中村夏織-

非常階段下、人通りが少なく秘密の話をするなら持ってこいの場所。


そこには泣いてる綾香がいた。

綾香は私を見るなり、目の前まで詰め寄ってきた。

「なんでよ……あり得ない……」

声は小さい。その肩はふるふると震えていた。


バチん!平手打ちだった。

頬がじんじんとする。

「普通友達の元カレと付き合う!?あり得ない!」

今度は大きな声だった。


一体どこでバレたのだろう。

上手く隠してたつもりだったのに。


「じゃーん」


一人の女子が私に写真を見せてくる。

それは、グラウンド裏で初めてキスをしたときの写真だった。


「あれー?三浦と相沢は付き合ってるのに、なんで夏織は相沢とキスしてるの〜?」


「なんとか言いなさいよ!」


また平手打ちが飛んでくる。

私は、振り上げられた綾香の手首を掴んだ。こんなの叩かれる道理はない。

だってそうでしょ?綾香は捨てられたんだから。


「黙ってたのは謝るけど、綾香に関係なくない?」

「もう振られたんだから」


引く気のない私に威圧されてか、綾香の腕から力が抜けた。

手首を離すと、綾香はその場に座り込んだ。


「そんな言い方しなくても!」

綾香の友達が庇おうとする。


「でも一緒に透と話してくれて。仲直りさせてくれようと……それなのに……」


「透。透ってうるさい!もう相沢は私の彼氏なの!」

「相沢は私を選んだのよ!キスだってしてないんでしょう!?分かったらもう私達に関わらないで!」


「そ……そんな」

俯く綾香。


私は振り返らずに部活に向かった。


私にはもう相沢がいる。もう私は何も怖くない。


-二話終-

登場人物まとめ

相沢透 主人公

身長165㎝ A型

帰宅部

好きな人 ???

好きなもの、RPG 甘いもの

嫌いなもの、特に無し


三浦梓 相沢の幼馴染

身長152㎝ A型

帰宅部

好きな人、相沢透

好きなもの、RPG 和菓子

嫌いなもの、群れてる女子

ワンポイント、実は合気道を習っていた


吉田綾香

身長158㎝ O型

相沢の高校初めての彼女 現在は破局

美術部

好きな人、相沢透

嫌いなもの、マウント取ってくる女子 中村夏織



中村夏織

身長163㎝ B型

演劇部

相沢の高校二番目の彼女 交際中

好きな人 相沢透

好きなもの、紅茶 努力

嫌いなもの、馴れ馴れしく話しかけてくる男子 パクチー


石川浩介

身長175㎝ AB型

陸上部

好きなもの、陸上 唐揚げ 勉強

嫌いなもの、雨

ワンポイント、体育祭の100mはぶっちぎりの一位


坂本太一

身長168㎝ B型

剣道部

好きなもの、恋バナや噂話 

嫌いなもの、テスト

ワンポイント

体育祭の100mは六人中四位

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