↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『妄想図鑑』がこの異世界を塗り替える! 〜英雄トランザニヤの末裔とその仲間たち〜 #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第1幕 交章。 〜明かされていく妄想と真実〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/299

それぞれの意見



「兄上」

「兄者」

「兄様」


 柔らかく響く声。

 どこか懐かしい感覚を呼び起こす。


 目の前には、幼い姿の三人の少年が立っていた。


 銀色の髪に赤い瞳を持つ1人。もう1人は赤い瞳と紺色のオッドアイ。

 そして、一番幼く見えるーー紺色の髪と同色の瞳を持つもう1人。


 無邪気な笑顔を浮かべこちらを見上げる。


 誰だ、この子たちは……?


 問いかける間もなく、彼らが揃って一歩近づいてきた。

 それぞれの声が、異なる響きで俺を呼ぶ。


「兄上、いつも遊んでくれてありがとう」

「兄者、がっはははは。もっと遊んで欲しいぞぅ!」

「兄様、ねえ、次は何で遊ぶ?」


 彼らの言葉に胸が温かくなる反面、

 何故だか心の奥底に妙な痛みが走る。


 なんだ、この感覚は……懐かしいようで……けど……。


 ふと、自分が見下ろす視線の高さに気づく。


 俺、こんなに背が高かったか?

 視線を下げて手を見ると、そこには自分のものとは思えない大きな手があった。長くしなやかな指先、力強い形。


 手の甲にはどこか見覚えのあるーー紋様が刻まれている。


 その瞬間、少年たちの笑顔がふっと霞(かす)んでいく。


「兄様、また会えるよね?」


 最後に紺色の髪の少年が俺に問いかけた。

 その言葉がいつまでもゴクトーの耳に残っていた。


 

 ……夢だ……。


 

 ***




「ゴクトーが見ていた夢がな……ワシの脳内に残ったままじゃ」


 神シロが神妙な面持ちで言葉を詰まらせる。


「ああ、”始祖の血”が記憶を呼び覚ましているようだ」


 黒銀の目の友こと、トランザニヤが静かに頷く。


「わたくしの【Revive】……

 蘇生魔法には……”記憶を消す”難点がありますから……

 それに”心読”のギフトまで与えてしまって」


 神シロの妻、女神東雲が浮かない顔で二人に口添えする。


「いやいや、東雲さんは悪くない。

 ゴクトーがあの雪山で命を落としていたら……

 ダンジョンでも……二度も助けてくれたことに感謝してる」


 トランザニヤは女神東雲に深々と頭を下げた。


 神シロがちょっと語気を強めに投げる。


「ゴクトーを最初に見つけたのは、ワシじゃぞ!」


「感謝してるよ……」


 ふと、口元を綻ばすトランザニヤ。

 彼は下界の『ムッキムッキの食堂』を眺める。

 その目は楽しそうに食事をするゴクトーを追っていた。


 神々は下界に目を向けた。






 ◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇





「さっきの図鑑と、吸い込まれるように消えたシタギって娘は、

 一体なんですか?」


 アカリの吐息の熱さとその言葉に一瞬で、血が昇り熱くなる。


(昔、ナガラ兄様も変な図鑑を見て、笑っていたわ。ダー様も同じね)


 俺の様子を見て、右隣のアカリが口を綻ばせる。

 アカリの思考が俺に伝わり、胸中は戸惑いと疑念が渦を巻く。

 

 俺の『妄想図鑑』ーーアカリに見られたってことか? 

 ……ってか、師匠も『妄想図鑑』を見ていた? ありえない。

 『妄想が癖って、お前変態だな。はっはははは』って、笑ってたんだぞッ!

 

 師匠のその変な笑い方が脳裏をよぎる。


 今まで妄想は、ジュリにしか見られたことがない。

 それもダンジョンでの”悪魔付き”とのあの一戦で見せた、

 《具現想霊》神代魔法ーー奥伝の斑だけだ。

 

 一方、俺の困惑顔が気になったのか、パメラがさらに追い打ちをかける。


「ゴクちゃんはあたいのよん。アカリちゃん」


「ダー様は私を選んでくださいますわ。パメラさん」


 低い声で牽制し合い、二人の間には目に見える程の火花が散っていた。

 

 逃げるように視線を泳がす。

 

 その瞬間、目が合うジュリは、あからさまにムスッとしていた。

 

(わたしなんか、へんダーに選ばれるはずないよね。

 だって、この二人みたいに積極的じゃないし……大きな胸も無いし……)


 彼女の思考が手に取るようにわかるのは複雑。

 このスキルに手を焼きながらも、

 重すぎるそのコンプレックスが心に刺さった。 


 うつむくジュリがしばらく黙る。


「わたしは、自分らしくでいい」

 

 対面に座る彼女は小さく囁き、軽い笑みを浮かべる。

 

 どこか吹っ切れた様子に少しだけ俺の心も軽くなる。

 

 話を戻そう。

 

 料理が運ばれてくるまでの間、俺たちはダンジョンでの話で盛り上がった。


 真っ先にジュリが口火を切る。


「そういやさ、ダンジョンの最後の階層でパメラさんの、

 あの揺れ、やばかったよね!」


 パメラは「ふふん」と鼻を鳴らし、胸を押さえながら答えた。


「当然でしょう?あたいを誰だと思ってるのよん。

 大魔導士、パメラ・ルシーヌ・カルディア様よ?」


「へぇぇぇ〜!自分で言うと……ちょっとダサいにゃ……」


 ジュリの隣でアリーが素直につぶやき、

 パメラがぎくっとした表情を見せ、口を尖らせる。


「ちょ、アリーちゃん!そ、そういうのは心の中だけで言うのよん!」


 その言葉を聞いた一方で、アカリが褒める。


「でも、パメラさん、ほんと凄かったですわ。

 あの『爆弾(ダイナマイト)』の”ブルルルン”……魔物が吹き飛んでーー

 圧倒されましたわ」


「ま、まあね……当然よ」


 パメラはちょっと口元を緩め、照れるように耳を赤くした。

 

 こうして、笑って食事を囲める日が……ずっと続けばいい。


 ふと、そんな思いが胸をよぎった。

 再び胸の奥に、言葉にできない何かが芽生えた。

 それは新たな1ページが『妄想図鑑』に加えられたかのようだ。


 晴れやかな気持ちが徐々に俺の不安を取り除く。


「ダー様?」


 アカリの小声で我に返る。


「どうしましたの? さっきから?」


 その言葉にも気づかぬほど、頭はいっぱいだった。


「いや……なんでもない。ちょっと、ありがたいなって思っただけさ」


「ふふ……それならいいですわ。でも、無理はなさらないでくださいね」


「……ああ、ありがとう」


 そんな俺たちの会話に、パメラが口を尖らせて割り込んできた。


「こらこらこらこら! あたいの前で甘やかすのは禁止よんっ!!」


「パメラ……その言い方が既に甘えてる感じなんだけども……」


「なっ!? だ、誰がっ!」


 いいな、この雰囲気。ほんとに、こういう時間がずっと続けば……。


 そう思う傍ら、”おすすめ”されたタリアータパスタがくるのを待っている。

 仲間たちの表情も穏やかだ。


 陽が頂きに達するちょうど良い昼飯時。

 村人や冒険者たちが次々と食堂に訪れる。

 ノビの妹、サーシャが金髪を靡かせ、忙しなくテーブルで注文を取っていた。

 

 アリーが垂れ耳をピクッと動かし、鼻をクンクンさせる。

 彼女は自前のフォークを強く握りしめた。


 その瞬間、厨房から渋い声が聞こえた。


 「待たせたな。パスタあがったぞ」


 振り向いたサーシャは厨房に入っていく。


「これ、お兄ちゃんのところよね?」


「ああ、ちょっとサービス盛りだ」


 挿絵(By みてみん)

(*ムッキムッキの食堂のマスターのイラスト)

 

 マスターの声が聞こえてすぐ、

 娘のマリアとサーシャが湯気の立つパスタを運んできた。 


「「お待たせしました」」


 その酸味と甘味が混じったような香りに一瞬息を呑む。

 一皿ずつ丁寧に運ばれる料理にアリーが「にゃー!」と。

 小さく喜びの声を上げ、ゴクッと喉を鳴らす。


「……にゃふ……おいしそ〜……」


 ぱっと笑みを浮かべるアリーの表情がなんとも愛らしい。


 その仕草に和やかな空気が漂う中ーー“ぐぅうううう”


 突如、響き渡る腹の音。

 全員がその音の発生源ーージュリに視線を向けた。


 腹の音は聞こえなかったふりして、仲間たちにうながす。

 

「いただこう……」


 その一言にジュリはほっとした表情を見せる。

 だが、彼女は耳まで朱に染まっていた。


 全員で短い祈りを捧げる。


「「「「「「いただきます!」」」」」」


 それぞれがフォークを手に取り、パスタを口に運び始める。

 トマトの酸味と牛肉の香ばしい香りが広がり、

 テーブルには幸福そうな表情が並ぶ。

 

 いきなり、アカリがパスタをクルクルとフォークに巻き、

 俺の口元に差し出す。その行動に一瞬固まった。


 

 ……ちょっと待て、アカリ、いやデス姉さん。

 これ、全員が見てるんですけども……。



 内心戸惑いながらも口を大きく開けてしまう。


 一方で、それを見たジュリがフォークを握る手をピタリと止めた。


(なんで?ネーだけ。そんなのズルい。

 でも……これ以上目立ったら、さっきのお腹の音のことまで……)


 ジュリはパスタを口に運ぶのも忘れてうつむいてしまう。


 目の前のパスタを食べつつ、横目でチラリとジュリの様子を窺う。

 その動揺ぶりがむしろ微笑ましい。

 

 隣のアリーは、無邪気に声をかける。


「ジュリねぇ、食べにゃいの? 冷めちゃうにゃ」


「っえ!? 食べる、食べるから!」


 急いでフォークを動かし、ジュリがパスタを口に運ぶ。

 焦りすぎたのか、口にトマトソースが少し付く。

 

 「……ジュリ、ソースついてるぞ」


 咄嗟に声が漏れ、手を伸ばしてナプキンを差し出す。

 俺にしては気遣いができたと思う。

 

 彼女は一瞬目を丸くしたが、すぐにひったくるように受け取った。


「いいの!!自分でできるから!!」


 ナプキンを押し付けるようにして拭う仕草は、

 可愛らしくもありジュリらしい。

 

 仲間たちの顔にも自然と笑みが溢れていた。

 

 誰かが気に病めば、誰かが笑い、気持ちを分かち合う。

 これがリリゴパノアのスタイル。

 仲間たちって良いもんだな、と改めて思う。

 心のどこかでずっと探していたものが、

 今ここに少しだけあるような気がしていた。


 そんな俺を他所に左隣のパメラが動く。


「はい……ゴクちゃん、あ──ん……してんっ」


 彼女がパスタを巻いたフォークを、艶やかな声とともに差し出す。

 その瞬間、嫌な予感が頭をよぎる。

 案の定、空気が読めない男が、

 「先生ーーオラにも、あーーんして欲しいんさ」と。

 アリーの隣でノビがさらに大きく開口する。


「貴様に食わせてやると思うのか!この馬鹿者があああああ!!」


 パメラが拳を震わせながら怒りを顕にする。

 彼女は左手でしっかり、『爆弾(ダイナマイト)』を押さえていた。

 

 仲間たちがほっとしたような表情を見せる。

 

 騒つく食堂には異様な空気が漂う。


 挿絵(By みてみん)

(*ノビの妹サーシャのイラスト)


 偶然、厨房から出てきたサーシャが、恥ずかしそうに小声で尋ねる。


「お兄ちゃん、もしかして……先生を?」

「そうなんさ……」


 ノビは照れくさそうに頬を掻きながら"ヘラヘラ”と笑うだけ。

 その答えにジュリがフォークを止めて、目を丸くした。

 

 一方、心中穏やかならぬパメラがいきなり声を張る。


「貴様!何を……立場をわきまえろ。歳も離れ過ぎだ!」


 頬を朱らめ、なぜか俺を一瞥するのが気になる。

 場の空気があらぬ方向に流れていく中、ノビが節目がちに言葉を落とす。


「でも、歳ならサーシャだって、離れた人と……」


「ちょっとぉ!お兄ちゃん、皆さんの前で恥ずかしい!」


 妹のサーシャはそう言って顔を朱に染め、厨房の方をチラリ。

 ノビはまるで軽い冗談のように大声で言った。


「おめえが先にオラと先生のこと、言うからなんさ。

 親父は認めでるみでーだから……はやく嫁に行けばいいんさ!」


 サーシャが慌てて「お兄ちゃん!声、でかい!」と小声で言い返す。


 お互い顔を赤くして、言葉を交わす兄妹。

 ふと天井を見据えながら、朝見た夢を思い出す。

 

 兄妹か……確か、あの少年たちは俺を兄と……。

 

 なぜかそれは俺の心にちくっとした痛みを感じさせた。

 不思議な感覚で、まるで前世の記憶のような感覚。

 

 いや、前世での俺は渋谷の街を歩いてた。

 

 この記憶もどこか曖昧。

 俺は境がわからなくなってきていた。

 

 そんな俺を他所に、黙って聞いていたパメラがサーシャに尋ねた。


「マスターには、奥方様がいらっしゃるの?」


 その言葉にアカリがノビとサーシャ、さらにパメラを一瞥して紡ぐ。


「年齢は関係ないですわ。仮に奥方様や側室がいても……私は気にしない」


 アカリの口元には微かな笑みが浮かんでいた。

 一方のサーシャは小声で答える。


「奥さんはマリアが小さい時に病いで、亡くなったらしいのです……」


 彼女はどこかきまずそうだ。

 

 次の瞬間、ジュリがフォークをカタッ…と置き、身を乗り出す。


「なら平気じゃん!!奥さんがいるなら、あれだけど……」


 彼女が言い添えるが、その瞳はどこか揺れていた。

 答えるサーシャの声はさらに小さくなり、


「そうなんですけど……」と。


 顔が朱に染まっていく。


 突然、ガタッと立ち上がるアリーが、いきなり魔導銃の一撃のような発言。


「強いオスは嫁をいっぱい取りゅにゃ!嫁いっぱいが強い証にゃっ!」


 言い終えると耳をピンと立てた。

 その口元にはトマトソースがべったりと付いている。


 見た目は可愛いが、周囲をざわつかせる。

 必然、村人や冒険者たちの視線が集まる。


 片付けをしながらサーシャが厨房に戻り、一旦場が落ち着く。

 

 窓の外を眺めながらほっと息をつく。

 仲間たちも少し落ち着きを取り戻したようだ。


 だが、空気が全く読めない男が再び動いたーー。










 お読みいただき、ありがとうございます。

 引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )



 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ノビの妹のサーシャちゃんのイラストが清楚で可愛かったです。アカリやジュリといったメンバーとは違った魅力を醸し出していますね。今回もとても面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。