訪れた再開、それもぴょん。
「しかし、ゴクトーのやつ、『キャリーズ・パミュ」と言ったか?
あそこで鼻血とは……それも”錆びた鉄の味”をーー懐かしむなんてな」
黒銀の目の友ことトランザニヤがつぶやく。
「もしかしたら……始祖の血脈たる記憶が輪廻……いや、まさかとは思うが……」
神シロが腕を組みながら顎を撫でる。
「ありえない事ではないと思いますわ。彼はわたくしの”心読”のスキルさえ、
ギフトとして取り込んだんですから……」
神シロの妻、女神東雲は淡々と答えた。
「魔族に、そのことが知れたみたいだぞ」
「ああ、まだゴクトーの力では”本物”には対抗できない。
悪魔付きぐらいなら倒せるだろうがな……」
トランザニヤは神シロに答えながら不安な表情を見せる。
「黒銀の、見守ろうぞ」
神シロは威厳のある声でそう言った。
「あなた、なんかちょっと素敵」
女神東雲が亭主のシロの腕をぐいっと掴む。
一方、それを見たトランザニヤが声を張る。
「ってか! それっ! 帰ってからやってくれッ!」
「「ゴクトーと同じッ!!そのツッコミ方ッ!!」」
ニヤける神シロと女神東雲の夫婦。
トランザニヤは顔を赤くしながら下界を覗いた。
その頃、ゴクトーたちはビヨンド村のメイン通りを歩いていた。
◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「……羨ましい」
「美人ね」と。
すれ違う人々が語っているのがわかる。
ギルド支部へ向かう道中でのこと。
挟まれて歩く俺ーーいや、正確には仲間たちが注目を集めていた。
パメラ……その姿、目立ちすぎ……。
視線を気にする俺は胸中ヒヤヒヤ。
左腕にはパメラがガッチリ絡みつき、優雅に歩く。
歩くたびに風が通り抜け、彼女の紫髪を絹糸のように靡かせる。
「まずいわねん」
時折つぶやき、今にも爆発しそうな揺れるーー
『爆弾』を彼女が必死に押さえる。
深紅のワイドブリムハットを斜に被りーー傾いた陽光を遮りながら、
彼女の瞳に影を落とす。その瞳は通りすがりの者の心を一瞬で奪っていった。
レッドバードの羽根は風に乗って流れ、
まるで火の妖精かのように彼女の輪郭を撫でていた。
”ブラトップ”タイプの『黒薔薇』は、
肌に寄り添いながらも決して露骨ではない。
赤いサテンのスカートがその下で軽やかに舞う。
光沢のある布地は彼女が一歩、歩むごとに夕日の光が反射し、
まるで魔法の残滓のように軌跡を描いた。それはただの装いではない。
彼女が纏うものは記憶を封じ、
視線を誘い、そして何かを守るための結界そのもののように思えた。
(*パメラの着る異世界特有の装備)
そんな中、すれ違う亜人たちにも囁かれる。
「すげーな」
「あの風に靡く羽根、綺麗にゃ」
「私だって、あれぐらいスタイルよければ……何よ、見せつけちゃって」
狼種の獣人の男に反応したのは、猫種の可愛らしい女の子の獣人だった。
他方、黒豚種の獣人だけは減らず口を叩く。
そんな囁きなど当然お構いなしに、
パメラが悪戯っぽい眼差しで一瞥し、意に介さない。
カツ… カツ…
パメラの足音がメイン通りの石畳を鳴らしながら、優雅に闊歩する。
それが周囲の視線を集める中、俺の精神が追いつかなくなった。
気にするのをやめ、空を見上げ、思わずつぶやく。
「もう、暗くなったな」
この地方特有なのか、陽が落ちるのが一瞬のように感じる。
亜人たちも、1日の土木作業が終わったのだろうか。
夕飯時を迎えたビヨンド村は、一層賑やかな雰囲気に包まれていた。
彼らは首や肩を軽く回しながら、
メイン通りにある屋台や酒場に足を運ぶ。
それはさておき。
俺の右腕は、アカリにしっかりと絡めとられたままーー。
彼女が着る純白のミニのチャイナドレスは、
丸い窓のように前が開いたデザイン。
その窓から覗くのは、まるで柔らかな膨らみのあるオレンジ色ーー
『プロテクタータイプのブラトップ式』。
ある意味特殊な装備で、名付けるならーー『ユー・ミ・チャイナ』
しかし驚いたのは、そのスリットの大胆さだ。
*錦糸虫が紡いだオレンジのラインまで見えている。
これはダメージ軽減が付与されたものらしい。
『キャリーズ・パミュ』の女性店員おすすめのーーピッチリタイプだ。
お気に入りの特殊ゴーグルを乗せ、軽やかにまとめ上げられた桃色の髪。
その髪は、少しヒヤリとし始めた風に、
まるで踊らされるかのように華やかに舞い、
月夜に照れされ、絹糸のように靡いていた。
石畳を軽やかに弾く足元は、ベージュストッキングと白いヒールが、
そのつややかさに品格を加えていた。
(*アカリの新装備)
アカリの柔らかい感触が伝わるたび、血が昇り顔に熱を帯びる。
当たり前だろ? 俺の左腕にはパメラ。右もアカリだぞッ!
胸中では絶叫なのだ。
だがしかし。
恥ずかしいながらもそれは悪くなかった。
いや、むしろ彼女たちの愛情、まるで『母』に包まれているようなーー
どこか懐かしい柔らかな温もりを胸に秘めながら俺は歩く。
そんな中、すれ違う冒険者の声が背後から聞こえた。
「C級冒険者のお前じゃ……あの美女たちの装備は買えないよな」
「わかってるわよ!」
その声が耳に入ったのだろう。
アカリが白檀の扇子で口元を隠し「ふふふ」と笑みを溢す。
彼女のその表情にはどこか余裕すら感じる。
アカリさんやッ!
いや、デス姉ーーこれは、パメラと張り合っているのかッ!?
声に出しそうになるのを必死に抑えた。
ふと振り返ると、
後ろを歩くアリーとジュリが、手を繋いで楽しそうに話をしている。
紫陽花柄のTシャツをさらりと着こなすアリー。
肩のラインが愛らしく、
そこに紺色のデニムオーバーオールと赤いハイカットシューズが映える。
彼女の尻尾が“フリフリ”と揺れる姿に、思わず口角が上がってしまった。
可愛いぞ。アリー。
本当、似合ってる。
そう思わせるほど、彼女の表情はにこやかだった。
俺と目が合うとアリーが”照れ耳”をピクッと動かす。
一方、ジュリの装備は銀色のチューブトップ。
その紫の肩紐が、彼女のツンデレをさりげなく演出している。
腰のデニムのキュロットスカートから伸びる、スラリとした美脚。
そして、歩く度に揺れる紫の宝石がついたヘソピアス。
素足に銀のスニーカーが軽やかさを添え、
インディゴ色のキャップが全体をまとめていた。
眺めている最中、ジュリと目が合うと彼女が目を細めた。
ジュリさんやッ!
その、ずいぶんと平たいお胸姿ですけども……。
思わずにはいられない俺の性分。
彼女がぷいと頬を膨らませ、目を伏せる。
その表情は彼女の性格でも表すかのように可憐。
だが、どこか憂いも滲んでいた。
みんなそれぞれにお洒落で、それぞれの魅力が際立つ。
けれどーー目立つんだよな、このメンバー。
と思いながら空を見上げ月を眺める。
紺空には綿飴のような雲がぷかりと浮かぶーー
それがまるで可愛らしい満月を庇うように灯りを遮る中、
肌に刺さる風が仲間たちの頬をそっと赤くしていた。
ザッザッ ザッザッ
石畳の苔を踏む音が重なる。
通りすぎる人々の数が益々増えてきた。
時折彼らは立ち止まり、俺たちを一瞥。
人々の視線にかすかな痛みを覚えつつ、俺は歩き続けた。
やがて、ギルド支部に到着する。
ーーギィィ…
軋む重い扉を開けた瞬間、
喧噪ーー酒やTAKOBAの匂いが鼻につく。
次の瞬間、「「「「「「「ぉおおおおおおおおぉ!!!」」」」」」と。
冒険者たちの歓声が上がった。
俺たちを見る一人の男が、隣の男の肩を叩く。
「あれって、ダンジョン踏破したメンバーなんだろ?」
それが徐々に広がっていく。
「桃色姉妹と仲間たちだろ?」
「リーダーは桃色の髪の、白のチャイナドレスの美人だろう?……
オレンジか、ぅ…」
「おお……いい。いい。オスマンは赤い羽根の……
爆発ちてるあの大人の色気もたまんないんだな」
「ちょいとあんたたち、大概にしな……
ここにもあたしって言う美人がいるだろ?」
「ちげぇねぇ」
「オスマンも笑うちかない。ちゅーーちゅちゅちゅ」
思わず聞き耳を立てつつ、
冒険者たちのやりとりに口元を緩めてしまった。
一方で仲間たちは顔色ひとつ変えずに、歩みを進める。
恥ずかしさもあいまって、 俺はテンガロンハットを目深に被った。
ギルド内は、さらにざわつき、好き勝手に話す声が耳に入る。
「ちっこい獣人の女の子、可愛いけど……実力が半端ないって聞いたぞ……」
「ヘソのピアスが揺れでるのが、桃色姉妹の妹がな?物凄い美脚だんべ」
「妹も聞きしに勝る美人。でも吾輩は……姉の大人のスタイル満点を選ぶ!」
「真ん中の真っ黒なテンガロンの奴。介護されてるのか?」
「テンガロンの奴は顔色が悪いぞ……鼻血……か?なんだぁあれ?」
「黒いテンガロンハットって……ハハハァ 今時どうなんだろうな……ダセーな」
冒険者の目が俺に集まる。
……俺だけ悪口かよ。
複雑な心境だ。
それも仕方がないことと、黒一色の俺は気づいていた。
赤・白・紫・銀ーー仲間たちの姿がそれぞれの色を持っていたからだ。
戸惑いの中、後ろからジュリの怒声が響く。
「ちょっとおおおお! うちらのリーダーを馬鹿にしないでえええ!!
あんたたちには、この人の良さがわからないのよっ!!」
冒険者たちの目が丸くなる。
一方、ジュリの横で垂れ耳を威圧的に立てるアリーが声を張る。
「そうにゃっ!」
彼女たちが怒りをあらわにするように、肩を震わす。
二人のその目は、冒険者たちを鋭く見据えていた。
思わず、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
そんな俺を他所に、横にいるパメラが野次馬たちを睨みつける。
優雅に歩きながら冒険者たちを指差し、まるで魔女のように告げた。
「ゴクちゃんの実力も知らない……あんたたちのレベルは何級よん?」
”魔女の講師”ような威圧感に周囲が一瞬、静まる。
そんな中、聞き覚えのある声が響く。
「そうなんさ !……ゴクどーさんの実力を……みんなはじらねぇんさっ!」
「ん?……貴様ああああ!……なぜここに居るうううう!!」
突然の声にパメラは、紫髪を靡かせて振り返る。
ブルルルン
『爆弾』の胸が激しく揺れ、爆風が巻き起こった。
次の瞬間ーー
ピョン
くるっ
ピタ。
ノビが「ケロ」っと鮮やかな宙返りと満点の着地を決める。
それはまさに『忍』のようだった。
静まり返るギルド支部、だがーー次の瞬間。
「おおお!」
「パチパチパチパチ!」
(*ノビの宙返りのイラスト)
吹き飛んだ冒険者たちから拍手喝采を浴びる。
照れながら腕を腰に当てるノビが、どこか自慢げに語る。
「これぐらいは……あたり前なんさ!」
そう言ってノビが胸を叩く。
彼のその表情はまるで確信が宿っているかのようだ。
俺は一瞬、彼の身体がほんのわずか、緑色に淡く光ったのがわかった。
気づいたのは、他にもう一人いたーーニヤけるパメラだ。
ギルドの照明魔導具がチッチッと舞う埃を焦がす中、
周囲を飛ぶ蛾の翅がやたらと目立ち、俺の視線を奪う。
ひとり、またひとりと、冒険者が場を去っていく。
騒ぎは収まり、ギルド内が少し落ち着き始めた。
そんな空気が漂う中、
アリーとジュリ、そしてアカリがノビを見て声をかける。
「「「ノビーーーーっ!!!」」」
嬉しそうにハモるのが笑える。
キュタンキュタン
ノビが爬虫類を思わせる足音を鳴らし、自慢げに口を開く。
「先生っ! オラも呼ばれだんさ。 支部長さんから、
うじの親父にーー親父からサーシャ……んで、オラ、今ここにいるんさ!」
ノビがここにいる理由を話した。
そんなノビにパメラが小言を呈する。
「貴様も……一応は……一緒に潜ったからな」
その言葉には、歯切れの悪さと葛藤が見え隠れする。
当然と言えば当然だ。
ノビはダンジョン攻略は”していない”のだ。
ーーこの時。
落ち着いたのを見計らったかのように、
見覚えのある受付嬢が俺たちに近づくが、どこか遠慮がちだった。
「あのぅ?お取込み中すみませんが……リリゴパノアの方々ですよね?」
受付嬢が引くほどの圧を放つジュリが、ずいっと一歩踏み出し前に出る。
「そうよっ!なにっ!!」
「ひっ!」
受付嬢の悲鳴めいた声が冒険者たちの笑いを誘った。
一瞬その勢いに押され、ひきつりながらも受付嬢が言葉を続ける。
「応接室で支部長がお待ちです…… どうぞこちらに」
言われるがまま、俺たちは受付嬢の後に続いた。
トントントン
「失礼しますハウゼン支部長。リリゴパノアの方々をお連れしました」
受付嬢は軽く会釈して戻っていった。
渋い低音が室内から響く。
「どうぞ」
────────
*錦糸虫ーーこの世界特有の錦色の甲虫。
大陸では東に位置するエルフの治める森ーー
『マヌエル』に最も生息する。
糸を吐くのは幼虫で、成虫になるとわずか3日で死んでしまう貴重な虫。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。




