旅支度編 4 〜カルディア使者の来訪〜
たまにはゴクトーメインでダークににΣ('◉⌓◉’)
「ヨシ、時間が余りないな。手短に指示を出すぞ」
俺の一言に、一同が背筋を伸ばした。
――ビヨンドの冒険者ギルド支部、奥にある一室で、俺は手元の書類に目を通しながら、仲間たちを見渡す。
……先ずは『ギルド関連』からだな……。
考えは尽きないが、一つずつやることを潰していくしかない。
頭の中を整理しつつ、俺は口を開いた。
「ミリネア、ココの二人はギルド支部の監視だ。カルディアの王太子が動いたってことは、ギルドにも何かしら圧力がかかるはずだ。情報を集めてくれ」
「了解!」
ココが元気よく返事をし、ミリネアも静かに頷いた。
「ついでに、ギルド支部のハウゼン支部長の対応も確認しておきます。ご主様」
ミリネアが小さなメモを取る音がする中、俺は頷きながらアリーに視線を向けた。
「伝達係を頼めるか?」
「了解にゃ!」
アリーがモフモフの銀尾を振りながらどこか上機嫌に答えた。
……次は俺の右腕を診てもらう、『治癒院関連』だな……。
僅かに痛む右腕を庇いながら俺は向き直る。
「クロニク、それとコガラは、【ククード】治癒院を見て来て欲しい。コルネオ・ククードって神父が『神気』を使って、どんな病も治せるらしいとハウゼンから聞いたんだ。どうも……胡散臭い。ククードを探ってくれ」
「ふんっ、つまり「見るだけ」なのか、兄貴?」
クロニクが腕を組み、少し不満げに言い放つ。
「バレなきゃ、多少の探りを入れるのは構わない」
「ははっ、そりゃ楽しみだ」
クロニクが笑うと、人化していた妖精龍のコガラが姿を戻し、彼の肩に舞い降りた。
「コガラ、頼んだぞ」
「あるじー、わかったーー!」
その時、エリナが冷ややかな表情を浮かべた。
「ちょっと待って、旦さん……? それって、アタシやミリネア女史と同じ『七つの大罪』の一人、コルネオ・ククードの事を言っているのかしら?」
「っえ? コルネオ・ククードって、『七つの大罪』の一人なのか?」
エリナの言葉に俺は、思わず眉をひそめた。
「ええ、二つ名はSlothの【神の使徒】。彼の正式な名はコルネオ・ククード・コリン……『コリン聖教皇国』の皇子にして司祭よ……」
エリナの言葉に、不安げな表情を浮かべながらミーアが口を挟んだ。
「心配だからうちもクロニク皇子とコガラについていく」
「ああ、コリン……って、俺が育った孤児院がある国だ……なら、エリナとミーアもクロニクたちと一緒に治療院に行って、ククードの顔を確認してくれ!」
「わかったわ!」
「リーダー了解」
エリナとミーアが、なぜか視線を合わせながらバチバチと火花を散らす。
お互い譲れぬ何かがあるのだろう。
二人から目を逸らした俺は息をつき、次の指示を口にした。
「ShadowWindは、カルディア魔法国の情報収集と王太子エドゥアルトの動向を探ってくれ。もし何かあれば、ハウゼンにも報告しなきゃだからな」
「畏まりに候!」
圭介たちShadowWindにも緊張した表情が窺えた。
「イブは【闇魔法】で俺の影に入っててくれ」
「殿の影……喜んでじゃ!」
「頼む!」
「【ボッシュナム・シャドウ】!」
唱えた刹那、満面の笑みを浮かべたまま、イブが俺の影に潜んだ。
一方で俺は、この会議に同席していた燕尾服を纏う男に視線を向ける。
……ヨシ!丁度いいこの人は打ってつけだ。
『商業ギルド関連』はこの人に……。
指示を出すスピードが、格段に上がった気がしつつも、俺は口を動かす。
「サンドルさん、あんたは商業ギルド経由で、カルディア魔法国の動きを調べてくれ。カルディア王太子を送り込んできたってことは、向こうも本気で動いてくるはず」
「パメラ姫様からのたっての願いですから……承知しましたぞ、ゴクトー殿。さてさて、カルディアの貴族らがどんな手札を隠しているのか……楽しみですな」
「余計な事はするなよ」
「ほっほっほ、私は慎重ですぞ?」
サンドルが銀縁の眼鏡を押し上げながら、不敵な笑みを浮かべた。
……後は、パメラとノビがどうなったかだな……。
心中不安に駆られながら俺は口を開いた。
「アカリ、ジュリの二人は、追われているパメラとノビを探してくれ」
「ええ、でも……通信魔導具のおかげで……どこへ向かっているか、このタブレットで追えたのだけれど……」
アカリが首を傾げると、ジュリが静かに唇を噛む。
「ヘンダー……ノビが持っていた、通信魔導具が反応を示さないの」
「そうか……なら二人は捕まったのかもしれない。人質、いや、捕虜かもしれない。二人がカルディアの法でどのように扱われるか調べてくれ。場合によっちゃ、こっちにも考えがある」
「わかりましたダー様。ジュリ、行くわよ」
「ああ、手分けして調べよう」
俺は書類を軽く叩きながら、全員を見渡した。
「いいか、今回の動き次第で、俺たちの立場が大きく変わる。慎重に動け!」
「了解!」
「それじゃあ、始めるとするか――」
こうして、それぞれの役割を持って仲間たちが散っていく。
そして、俺は単身『七つの大罪』の情報収集へと向かった。
ーーギィィ……バタンッ!
重厚な扉が開く音が響く。それに続いて自動ドアの内扉が静かに滑り開いた。
ガチンッ、と甲冑の金属音を響かせながら、兵士たちがギルドに踏み込んでくる。
思わず身構えた俺は、真紅の甲冑に身を包み、寸分の乱れもない隊列を組み、厳かに進む兵士たちの姿に息を呑んだ。
「カルディア王、アンドレアス・ヴィクトール・カルディア陛下の名のもとに……!」
中央に立つ壮年の男が、金の刺繍が施された深紅の外套を翻しながら、一礼する。その動きには一切の迷いがなく、染みついた権威があった。
「……カルディア本国より、王の勅命を伝えに参った」
その威厳ある声にギルド内が静まり返る。
何人かの冒険者は後ずさり、気配を消そうとする者までいた。
『カルディア魔法国』の使者が公に動く。それが何を意味するか、ギルドにいる冒険者たちは、本能的に察していたのだろう。
「ギルド長はおられるか?」
その言葉に、酒を飲んでいた冒険者の一人がカウンターの影へと身を潜めた。
もう一人は、無言のまま静かに退出する。ここにいては巻き込まれるーー彼らはそう悟ったのだ。
「……ギルド長は不在だ」
カウンター越しに応じたのはギルドの書記官だった。だが、その額には冷や汗が滲んでいる。
「ならば、代理の者を呼べ」
使者の視線がギルド内を巡る。その視線が俺の階級章に留まった。
「……そこの貴殿、ゴクトー・ハルツーム卿とお見受け致す。貴殿ならば話を聴く資格があるだろう」
椅子に深く腰掛けたまま、俺は顎を掻いた。
「……へぇ。俺のような冒険者風情に、ご大層な御指名とはな」
「失礼ながら、貴殿と貴殿の師であるナガラ氏は、かつてカルディアに関わりを持っていたと聞く。ならば、この場で正式に伝えておこう」
……待て。
師匠と俺がカルディアに関わっていたことを、どうして知っている?
……適当に情報を集めたにしては、妙に確信を持っているが。
思考をまとめるスピードが増していく俺の目の前に、使者が一歩踏み出す。
「『カルディア魔法国』は、冒険者ギルドにも正式な通達を行う」
「……通達?」
「……カルディア王家の血を引く者、パメラ・ルシーヌ・カルディア。その身柄の引き渡しを求める」
その言葉が響くと、ギルド内は一瞬凍りついた。
だが、苦笑した俺は、ゆっくりと身体を起こす。
「そりゃあ、随分と勝手な話だな?」
「我らは命令を伝えに来たまで。その決定に異議を唱えることは許されない」
使者の目が鋭く光る。
だが、その時――。
「殿、妾があやつの影に潜んで、ブスリとやっておくかぇ?」
俺の影から姿を現したイブが、ダガーを閃かせながらニヤリと笑う。
「ちょ、ちょっと待てッ!イブ、金色が見えてるぞッ!取りあえず、時間を稼がないと……」
俺の言葉にイブが眉をしかめ、どこか残念そうに、再び影に入って姿を消した。さすが『暗殺者』だ。
その時、俺の顳顬に音声案内のような――どこか冷めた無機質な女性の声が響く。
《「告。この使者はカルディア魔法国近衛師団副団長、ウマイ・ブルドック・ソース大尉。ここにくる前、母国にてクラン『リリゴパノア♾️』全員の下調べを済ませている。ウマイの体温上昇値、心拍数からヒラム・イブ・ファルダットの殺意に怯え、主様に敵意は無いと推測されます」》
《「了だ、美眼」》
《「……お役に立ったならば僥倖」》
《「ん? なんか声のトーンが変わってないか?」》
プツン…とまるで電源が切れたような音だけが脳内に残る中、深淵の美眼からの声が消えた。
ふと我に返り、使者の額にうっすら汗が滲むのを見ながら苦笑する。
俺は椅子から立ち上がり、時間を稼ごうと、わざと軽く伸びをした。
「悪いが、俺には今、もっと急ぎの用があってな」
「……貴殿の都合など関係ない。我々は――」
その言葉を左手で制した俺は、わざと気楽な口調で言ってやった。
「それ以上、何か言うなら、命の保障はないぞ……」
読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )
改稿作業が続くため更新が遅れますm(_ _)m




