旅支度編 3 〜パメラの決断〜
戦闘シーンは苦手で……ダークに染めきれない……Σ('◉⌓◉’)
「そこまでよ、エドゥアルト!」
凛とした声がその場を制した。
エドゥアルトが振り向くよりも早く、紫電の奔流が突如として弾かれた。
「……何ッ!?」
エドゥアルトの周囲に展開されていた雷刃が、まるで見えない壁に遮られるように消失する。
ビヨンド村の路地に立っていたのは、艶やかな紫の髪を靡かせるパメラ・ルシーヌ・カルディアだった。そして彼女が静かにノビの前に踏み出す。
「先生……?」
ノビの血塗れの姿を一瞥し、ふっと息をついた。
「まったく……この大馬鹿者め。なんで貴様は、そんなに無茶ばかりするのだ?」
そう言いながらパメラの視線は、エドゥアルトへと向けられる。
「エドゥアルト、姉として言っておくわ……あんた、カルディア王族としての誇りをどこかに置き忘れてきたのかしら」
エドゥアルトの瞳が細められる。
「……何が言いたい?」
パメラが片手を上げ、淡々と告げた。
「この場で証明してあげるわん。カルディア王族の力が、決してあんた一人のものでは――ないということをね!」
彼女の手の平に、魔法陣が展開される。そこから浮かび上がったのは、真紅と黄金に彩られたカルディア魔法国の紋章――三本の剣と一対の翼を従えた重厚な盾紋が真紅に輝く。そして、円環の魔法陣の上で苛烈な魔力を放った。
「……!?」
エドゥアルトの表情が僅かに揺らいだ――その時、艶やかなパメラの唇が、歌うように動き、胸を弾ませながら軽やかに飛び上がる。
「血湧き、肉踊る、我が血よ!パメラ・ルシーヌ・カルディアの名のもとに、豊かな胸の力、今ここに!【風胸爆裂弾】!」
――その刹那、爆発が起きた。
詠唱の完了と同時に、彼女の誇る豊満な胸の『爆弾』が弾けるように躍動し、そこから生み出された狂暴な竜巻が、周囲の瓦礫ごと大気を激しく巻き込む。それはまさに彼女の二つ名、『紅玉の爆弾』に恥じぬ威力だった。
「なっ……胸の力!?」
その瞬間、エドゥアルトが顔面を肘で覆いながら息を呑んだ。
エドゥアルトが展開していた、紫電を帯びた堅牢な雷魔法が、パメラの放った桁外れの風圧によって、まるでロウソクの火のように一瞬で吹き消された。
ノビがその衝撃に顔を覆う中、パメラは爆風が吹き荒れる中に悠然と佇んでいた。
エドゥアルトの目が見開かれたその刹那、再び滑らかに彼女の唇が動く――。
「弾め、我が胸!包み込みなさい、我が真紅の抱擁――弾け咲け!豊穣なる胸の盾!【胸爆結界】!!」
パメラの全身から、柔らかくも弾力に満ちた魔法の障壁が瞬く間に展開された。その色は鮮烈な深紅。まるで彼女が纏う紅色の装備そのものが、光となって広がったかのように艶やかに輝く。彼女とノビの二人を優しく、かつ決して何者も寄せ付けない薄い膜で包み込んでいった。
「何ぃ!……胸の盾だと……?」
「その雷、通じるとは思わないで欲しいわね!」
「ならば、試してみるまでっ!」
パメラの制止を切り捨てるように、エドゥアルトが腕を突き出し、苛烈な雷撃を解き放つ。
ズドォォォン!
凄まじい雷光が二人に直撃する――はずだった。
次の瞬間、バチィィィンッ!
咆哮を上げた雷撃が、まるでゴムの膜に弾き返されるかのように激しく散乱した。
「な……!?」
信じがたい光景に、驚愕の表情を浮かべるエドゥアルト。
「この魔法は、ゴムの性質を持つのよん」
そう言ってパメラが『爆弾』をブルンと揺らし、旋風を巻き起こしながら薄く微笑む。
「すなわち、雷を完全に遮断するわん」
「……馬鹿な、そんな魔法が……!」
エドゥアルトは唇の端を噛みしめ、眉間に深い皺を寄せた。
対照的に、パメラの唇は余裕の笑みを湛えて弧を描く。
「ふっ、これは私が編み出したオリジナル魔法だもの。誰も知らないのも無理はないわ」
パメラの【魔法障壁】が、柔らかくも絶対的な存在感を解き放つ。
「貴様に私とノビを裁く権利はない。……今すぐこの場を立ち去りなさい、エドゥアルト」
雷とゴム――対極の力が衝突し、激闘の幕はパメラの介入によって新たな局面を迎えた。
「したっけ、先生に守られるままじゃ、オラの男がすたるんさ!【マグナム・ナックル】!」
叫ぶノビが防御障壁を突き破って飛び出し、力強く大地を蹴る。左腕がメリメリと音を立て、黄金の輝きを放ちながら凶悪に膨れ上がった。
「ならば……この田舎者だけでもっ!」
エドゥアルトの叫びとともに、雷龍【ヴォルト・ドラグーン】が天を裂く。紫電を纏った龍が咆哮し、ビヨンド村の空を灼き尽くさんばかりに舞い降りた。
「――ノビッ!」
パメラの悲痛な声が響いた時には、雷光が石畳を打ち割り、大気を焦がしながらノビへ迫っていた。
全身血に塗れ、右腕は既に使い物にならない。
「したっけ……っ……まだ……まだぁ!」
それでもなお左拳を天に突き出し、ノビは正面から雷龍の威圧を受け止める。
朦朧とする意識の中、膝を突きそうになりながらも足を踏ん張り、渾身の力を込めて拳を握りしめた。
ノビが僅かに時を稼いだその刹那、パメラが赤蛇の杖を天高く掲げ、朗々と詠唱を紡ぐ。
「我の胸より駆け巡れ、風縫いし精霊ブルン。妖艶な真紅の薔薇が呼び覚まし、深淵の大炎霊サラマンダーよ、その身を委ね目覚め、吹き荒べ!――目覚めし二つの咆哮よ、我が血肉と交わりて灼熱の渦となれ!――抱擁の果てに散りなさい。【薔薇胸爆砕】!!」
ゴォォォォォォ༄༄༄༄༄༄༄༄༄!
次の瞬間、豪火に包まれた雷龍が消し飛んだ。
激しい爆風と炎の嵐が路地を駆け抜け、エドゥアルトの放った紫電を根こそぎ呑み込んでいく。灼熱の衝撃波がビヨンド村の空を焦がし、やがて嵐が去ったあとに残されたのは、真っ白な煙と、ただならぬ静寂だけだった。
「……くっ……はあぁっ……!」
煙の向こう側で、エドゥアルトが膝をつき、信じられないものを見る目でパメラを睨みつける。服の一部は焦げ付き、誇り高き表情には焦燥と動揺が色濃く滲んでいた。
「言ったでしょう、エドゥアルト。今のお前では、私にも……そして、ノビにも届かないわ」
パメラは赤蛇の杖を静かに下ろすと、靡いていた紫髪を優雅に手で整え、一歩前に出る。その背後では、ノビが左拳を握りしめたまま、荒い息を吐いてギリギリのところで立っていた。
「……エドゥアルト。お前にこれ以上、ノビを傷つけさせるわけにはいかない」
パメラが静かに言い放つ。
「ほう……姉上が……ボクに刃向かうと?」
エドゥアルトが睨み返し、その歪んだ顔に激情を滲ませた。
「逃げることしかできない姉上ではなかったのか?」
パメラが冷たい視線をエドゥアルトに向ける。
「……今までならね……けれど、お前がこんな真似をするなら、話は別。私は逃げるだけじゃない。……戦うわん」
パメラの周囲に、真紅の魔法陣が次々と展開される。
「面白い……ならば、その覚悟、確かめさせてもらう」
エドゥアルトの周囲に再び紫電が奔る。だが、彼の目は先程とは違っていた。
(――姉上の魔法。これが、カルディアの血筋の証明……)
愉悦に満ちた笑みが、エドゥアルトの唇に浮かぶ。
「ますます……あの揺れるブルンが欲しくなった」
「んなっ!?」
エドゥアルトを見据えるノビの眉が吊り上がる。
「田舎者の貴様などに、姉上を渡す気はない……!」
エドゥアルトの紫電が収束し、再び一点へと凝縮される。
「だったら、力尽くで止めてみなさい!!」
パメラも魔法を強化し、対峙する。再びカルディアの血を引く者同士の、本当の戦いが始まろうとしていた。
その時だ――。
「そこまでだ、エドゥアルト殿下!」
鋭い声が響いた瞬間、空気が張り詰めた。
エドゥアルトの雷撃を受け、膝をつきながらも立ち上がろうとするノビ。その前に、深紅のローブを纏った一団が姿を現す。
中央に立つのは、威厳に満ちた壮年の男。カルディア魔法国直属の近衛騎士団長、ラグナ・ジジ・ガングだった。
「王家の血を引く者同士が、このような路地裏で争うとは――実に嘆かわしい」
彼の一言で場の空気が変わった。
「……何の用だ、ラグナ」
エドゥアルトが不快げに睨むが、ラグナはそれを意に介さず、ゆっくりとパメラに視線を向けた。
「パメラ・ルシーヌ・カルディア姫殿下。陛下があなた様の帰還を望んでおられる」
その言葉に、パメラの表情が僅かに揺らいだ。
――陛下、すなわち父であるカルディア国王。彼女が宮廷を追われ、冒険者となって久しい。
(今さら何のつもりで……?)
「……くだらない冗談はやめてちょうだい。私が今さら戻るとでも?」
「姫殿下がどう思われようと、これは王命です」
ラグナの声は揺るがない。
口元を引き結んでいたエドゥアルトが口を開く。
「……僕が姉上を連れて帰る。貴様らの出番はない」
だが、ラグナはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。エドゥアルト殿下、貴方様は今回の件で独断が過ぎた」
「……何?」
「国としての正式な手続きを経ず、私情で動いた。これは王家の威信に関わる問題となる。ゆえに――」
ラグナが片手を掲げる。
「王太子殿下、貴方様の拘束を命じられている」
エドゥアルトの目が鋭く細められる。
「王家の問題……?したっけ、エドゥアルトの暴走扱いってこど?」
ノビがつぶやきながら、驚いたように視線を巡らせた。
「……はぁっ? 王命だと? 父上も腑抜けになったものだな」
エドゥアルトが嘲るように笑い、次の瞬間、戦闘態勢を整える。
「拘束されるつもりはない!」
その一言にラグナの背後の騎士たちが、一斉に剣を構えた。一触即発の緊張した空気が周囲に満ちる。
しかし――。
「……いいわ」
パメラの声がそれを断ち切った。彼女は一度だけノビを見つめ、そしてラグナへと視線を向けた。
「私がカルディアへ戻ればいいのでしょう?」
ラグナは静かに頷く。
「話が早くて助かります」
「……ただし、条件があるわ」
パメラは妖艶な笑みを浮かべた。
「エドゥアルトの身柄には手を出さないこと。そして――「わたくしの仲間」には一切危害を加えないこと」
その言葉に、ノビが目を見開く。
「したっけ、先生……?」
「貴様のせいで……大変なことになったんだからね、ノビ?」
そう言いながらパメラが悪戯っぽく、パチッとウィンクし、ノビの額を軽くパチンと指で弾いた。
「でも……ちゃんと戦ったわね。見直したわよん」
ノビの胸が熱くなる。
(……ボロボロでも、ちゃんと先生を守れたのかもじれない)
「さてと。ノビ――行きましょうか」
パメラはノビの手を引き、ラグナの前に進み出る。
一方でラグナは満足げに頷き、騎士たちに指示を出した。
「……では、参りましょう。カルディア魔法国へ」
こうして、パメラは王都へと戻ることとなった。それが、さらなる波乱の幕開けとも知らずに――。
アニメ調に仕上がったかな?と不安に駆られますが、このエピソードを読んでいただき、感謝です。
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