旅支度編 1 〜エドゥアルトの来訪〜
新編スタートΣ('◉⌓◉’) ダ、ダークに進めたい……。
天界の大スクリーンを眺めていたトランザニヤは、スクリーンのスイッチをパチッと切りながら口を開く。
「これでゴクトーたちの戦力も整ったな」
「ああ、これで魔族たちにも立ち向かえるじゃろう。じゃが、ガリス・シャデが何やら冒険者の仲間集めをしておるようだ……これは何を意味しておるのじゃろうか?」
神シロの言葉にトランザニヤも首を傾げる中、傍で『神界タブレット』を眺めていた女神東雲が口を挟んだ。
「もしかして……長良たち【Strongess】が攻略したズードリア大陸一攻略難易度が高い――あのダンジョンへ向かうのかもしれません。魔族の姿のままでは大事になってしまうから、彼女は頭を使って……。あそこには【桜刀・兼松桜銀尖】、四本で一対の七星の武器が眠っていますから……」
その言葉と同時に天界では雷鳴が鳴り響いた――。
――その頃、ココのB級昇格、否、S級昇格が確定となり、ゴクトーと仲間たちが喜びを分かち合い、沸き立つギルド支部とは、うって変わり、こちらはアドリア公国タザの街から30キロメージ(km)ほど離れた辺境のゴクトーの屋敷。
遥か先まで白い雲が優雅に浮かび、鮮やかな青が広がる快晴。
降り注ぐ陽射しが土道に眩しい光を反射させ、やや冷たい風が吹きぬける中、四人の美女が美しい髪を靡かせながら、豪華な屋敷に向かって歩いていた。
買い物を終え、肩を落としながら歩く彼女たち。その露出度が高い装備もそうだが、特有の艶やかな肌と張り詰めた筋肉は目を見張る。
四人の豊満なBodyはどこかの神殿にでも祀られている彫刻のようだった。その神々しい姿は見る者に威厳すら感じさせるだろう。
彼女たちの顔には疲労が色濃く滲んでいるが、それすらも艶かな美しさを際立たせていた。
一方でたまたまゴクトーの屋敷を見物に来ていた魚人と獣人が、固唾を飲み彼女たちに見惚れていた。
通り過ぎる彼女たちの残り香がふんわり漂い、獣人は鼻をひくつかせ涎を垂らし、魚人は鰓を張り、肺にそれを落とし込む。
それほどに、アマゾネスでもあり、杜人の血を引く彼女たちは、この辺境の地では注目される存在だった――。
彼女たちの疲れた顔には理由がある。それは屋敷の竣工パーティに訪れた来賓たちの接客や、屋敷内の警備を担当しながらもメイド業務をこなしていたからだ。
夜もろくに眠れず、魔族の襲撃に備えながら警備を続けていた彼女たち。その目の下は少し薄黒く、視線も虚げだった彼女たちの目に、ある異変が飛び込んだ。
屋敷の玄関前――そこには一台の豪奢な馬車が停まっていた。深紫のベロアが敷かれた御者台、漆黒に金色の装飾が施された扉が目を引く。周囲には、衛兵らしき屈強な男たち。その中央には、異様なほど気品に満ちた青年が立っていた。
その瞬間、場の空気が凍りつく。冬の嵐のような猛々しさが辺りを支配し、天から降る雷光のような衝撃が彼女たちを貫いた――。
彼の名はエドゥアルト・ヴィクトール・カルディア。
カルディア王国の正統な後継者にして、パメラの異母弟である。眉を吊り上げる彼の瞳には異様なほどの青白い炎が宿っていた。鋭いグレーの瞳がゴクトーの屋敷を見据える。
彼は玄関先の『呼び鈴魔導具』のスイッチを連打した。
屋敷のチャイムが鳴り響き、中から出てきた執事のエレノアは、彼の存在に気づき、その異様な雰囲気を感じながらも彼の前に立つ。
「……姉上はどこだ?」
(この雰囲気と魔力は……パメラさんと似ているわね)
思考を巡らせるエレノアは、青年に淡々と答えた。
「ごきげんよう。 ここが『ゴクトー・デスケドモ』の領主、ゴクトー・コス・ハルツームの屋敷と知ってのことでしょうか? お尋ねの姉上とは誰のことで?」
ミニスカートの裾を軽く持ち上げ、太ももに収まるダガーをちらりと見せつつ、カーテシーを執り、どこか余裕の笑みを浮かべるエレノアのその言葉に、王太子がイラついた様子で茶髪を掻き上げたその瞬間――。
「ちょっと、そこのあんた!うちのクラマス様の屋敷の前でなにを……?」
青髪を靡かせるアウリア・エイマスの声が響いた。三女のルナが肩にかかる銀髪を腕で払いながらじろりと王太子を睨む。
「そんな尖った【覇気】で、突っ立っていられると迷惑なんですが……?」
彼女の隣には、紫の髪を靡かせる四女ノクターナとショートの黒髪を撫でつける五女のアクアの姿もあった。
「……ふむ?」
エドゥアルトは一歩前に出ると、まじまじとアウリアたちを見つめた。
「お前らは……姉上の仲間か?」
「はぁ? 誰のこと?」
「知らんのかァ! 超絶美形のグラマラス、絶世の美女と名高いパメラ姉上だ! どこにいる? 早く会わせろ!」
――ズイッ!
僅かだが光を纏うエドゥアルトが勢いよく詰め寄る。だが、アウリアは冷ややかに見上げ、ため息をついた。
「なんでアタイらが、パメラ姫の居場所を教えなきゃならないのよ?」
「決まっている! 姉上の弟である、このボクが会いに来たのだからな!」
「……うわ、めんどくさ」
アクアが露骨に嫌そうな表情を見せる中、「口癖ね、それ!ある意味アクアらしいわ」と、ノクターナも微妙な表情で顔を見合わせた。
ルナが興味深そうにエドゥアルトを眺め、「ふっ」と口角を上げた。
「まぁまぁ、落ち着きなさいって。あなたは、本当にパメラ姫様の弟さんなの?」
「そうだとも!」
くるっと身体を翻し、エドゥアルトは誇らしげに胸を張る。
「ボクはエドゥアルト・ヴィクトール・カルディア! カルディア王国の王太子にして、姉上を世界で最も敬愛する者だ!」
「……」
「……」
「……」
「……うわぁ……………」
アウリアたちの反応が冷え切る。そんな彼女たちの反応をまるで気にせず、エドゥアルトはさらに続けた。
「それなのに……! 姉上の周囲には常にくだらん男どもが群がっている! 許せん! 許せんぞ!!」
バッと拳を握りしめ、空に突き上げるエドゥアルト。
「特にノビとかいう男! あの田舎者が姉上に色目を使っていると聞く! ふざけるな!!」
「……」
「……」
「……あははははっ!!」
耐えきれず、アウリアが吹き出した。
「ねぇ、あなた、凄く面白いわね?」
「何がおかしい!」
「いやいや、まさかそんなにシスコンだとは思わなくて……」
「断じてシスコンなどではない!!!――これは正当な姉上への敬愛だ!」
「はいはい」
ルナが辟易したように右手をひらひらさせる。
「ま、パメラ姫様なら居ないわよ。ついさっき、別の用事で出て行ったから」
「……なんだと?」
「だから、ここで待ってても無駄ってこと」
エドゥアルトの表情が険しくなる。
「では……どこにいる?」
「さぁねぇ?」
ノクターナがニヤリと笑った。
「……くっ!」
エドゥアルトの握る拳からは僅かな光が放たれ――悔しげに奥歯を噛みしめながらアウリアたちを睨みつけた。
(まさか……逃げたのか?)
彼の脳裏に、幼い頃の記憶が甦る。
――カルディア宮廷での晩餐会、煌びやかな装飾が施された広間に立つ紫髪のパメラ。その姿を見つめながら、幼き日のエドゥアルトは強く思ったのだ。
(姉上は、ボクが落ち込むと、いつも……ボクの顔を抱き寄せ、豊かな胸で抱きしめてくれる……なんて柔らかいんだ)
頭の中でその光景が思い浮かぶエドゥアルトが、急にニヤニヤし出した。
アウリアたちがドン引きする中、その雰囲気を察した彼が口元を引き締める。
「ふむ、面白い……幼い頃、姉上の言葉に縋るように生きていた。だが今は違う。僕は姉上を手に入れる……」
エドゥアルトは皮肉めいた笑みを浮かべ、玄関前から踵を返した。
(待っていろ、姉上……! そして、ノビ……! 貴様だけは絶対に許さん!!)
「いいだろう、姉上。ボクは逃がさないぞ……ふふふ、ふはぁははははぁ ーーーーーーっ!!」
そう言いながら笑い飛ばし、彼は自身の護衛とともに馬車へと戻っていった。
異様な【覇気】を感じたアウリアは眉をひそめながら、左手首に唇を当て、『通信魔導具』のチャンネルを捻った。
「……こちらアウリア・エイマス……ザ……《緊急コール》!《緊急コール》!
パメラ姫様へ 《コールバック》!……オヴァ」
「……聴こえるわよん……ザ……オヴァ……」
「……姫様の弟、エドゥアルトと名乗る貴賓が……ザ……屋敷の前に……グラマスや姉様にも伝えてくださいっ! オヴァ」
「ザ……OKよん。オヴァ……」
通信魔導具を切り終えたパメラが唇を噛む。
「……っち、まさかエドゥアルトが……ここにも必ず来るはずねん……」
それは燻るような新たな火種だった――。
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