新たな拠点編 27 〜ギルド支部へGO!〜
ちょっと長めになってしまいましたが……Σ('◉⌓◉’)
ギルド支部に向かうため、ゴクトーたちは屋敷の左手にある、離れの発着用の塔に足を踏み入れ、魔導昇降機に乗り込んだ。
一同が乗り込んだ瞬間、昇降機に設置された針が3…4…5…と差しながら動き、上昇していく。身体が持ち上がるような錯覚と、どこかムズッとする感覚に襲われる。
チーン
屋上に着いてすぐさまポロンが口を開く。
「良い天気に恵まれたわね、さぁ、呼びだちて!」
ポロンの目の色が変わったのは、『妄想図鑑』から飛行鮫ヴォイングを呼び出すと聞いたからだ。
パラッと開いたページから黒と桃色の影が溢れ出し、圧倒的に異質な飛行鮫、ヴォイングが顕現した。
その刹那、ニヤリと口元を緩めるパメラが杖を振るい、「【マキシマム・メガント】!」と澄んだ声を響かせ、巨大な真紅の魔法陣を展開させる。
ヴォイングが真紅の光に包まれていく中、みるみるうちにその威容を増し、発着用ポートに降り立つ。
操縦席には相変わらず、スチームパンク風の船長装備に身を包む、ミリネアが座り、計器のチェックに余念がない。
執事のエレノアと紅子を含むメイドたちに見送られ、ヴォイングの腹部から下がるタラップから一斉に乗り込んだ。目を輝かせるポロンがヴォイングの機内をコツコツ改造して、制作した脱出用ポッドを自慢げに語り始める。
一通り説明が終わるとシートベルトに緩みが無いかポロンが各座席を確認。
そして彼女は後方の席に座り、シートベルトをかけ、「行きまちょ!ミリネアちゃん」と声を張った。
操縦席に座るミリネアが新たに設置された魔導具、拡張機能付きマイクを口元に充てがう。
「アテンションプリーズ〜♪ では、ご主様、皆様も一瞬でギルド支部へと参りますので、歯を食いしばってくださいませ――Over」
機内アナウンスを終えたミリネアが操縦桿を握りしめ、ぐい。
力強く手前に引き寄せた瞬間。
ゴォォォォォォン!!
ヴォイングが空へと射出された――。
凄まじい衝撃波とともに、残した突風が、まるで見えない巨大な手のように一気に撫でつける。
青、緑、橙、金、紅――色とりどりの髪が一斉に同じ方向へ靡く。
メイド服のスカートも同じく、風に抗えず、裾を高く掲げられる。
白いエプロンや黒いフリルが波打ち、その下から各自のインナー【ドナイヤ】が一瞬、鮮やかに覗く。
紺、黒、緑、橙、赤――まるで風に翻る小さな旗の裏地のように、短い間だけ空に向かって開かれた。反射神経が物語る――エレノアだけは両手で短いスカートの裾を強く押さえ、風に負けまいとしていた。それでも押さえきれなかった隙間から、濃い紺色がちらりと見える。彼女の金髪もまた、長く後ろへ流れていた。
屋敷の離れ、屋上に設置されたポートから飛び立ち、飛行鮫ヴォイングは、ギルド支部へと雲ひとつない青空を滑空していく。
パメラとノビが向かい合わせで座る中、空気を読まないノビが、いつものようにやらかした。
「先生……オラの嫁さんにはいづ、なるんさ?」
涙ながらに訴えるノビをパメラが睨む。
「……はぁ?」
当然のように、対面に座るパメラの冷たい声が返る。
「したっけ! ほら、クロニクさんもミーアさんを嫁にさ……」
「……ノビ、貴様アホなのか?」
「ひ、ひどいんさ! したっけほら、オラぢょっど……」
「したっけ? なんだ、屋敷での魔族との戦闘を褒めて欲しいのか?」
パメラのキツめの言葉と鋭い視線がノビに突き刺さる。
「教わった、あの魔法とカエル拳が炸裂したんさっ!」
自慢げに胸を張るノビに、パメラの肩が震え出す。
「なら、貴様に、とっておきの技を伝授しよう――【踵落とし】!」
座席から勢いよく飛び上がったパメラが、美脚を自身の頭の高さまで持ち上げ、そのままノビのヘルメットの頭頂にヒールを叩きつける。
――ズガァァァァンッ!
「……ゲフッ!」
「パメラしゃん、その黒薔薇、かっこいいにゃ!」
技が決まった瞬間、声を上げるアリーの垂れ耳が、パタパタとはためいた。
ノビがその場で悶絶しながら、か細い声を漏らした。
「黒に赤い薔薇が……目の前に咲いたんさ!」
「うぅぅ……貴様……!」
パメラが短いスカートの裾を整える一方で、ノビがニヤつく。
「せめで、せめで膝枕とかは……?」
「五秒以内に黙らないと、貴様をこの場で亡き者にしてやるぞ!」
「先生! それだけは、やめてぇぇぇ!」
ノビの情けない叫び声が機内に響いた――。
時間にして僅か数分。流れる景色を悠長に見ている暇もなく、あっという間に、ビヨンド村のギルド支部別棟の中庭にヴォイングが着地。
カチッ…カチッと器具が外される金属音とともに、ゆったりした赤のベロアシートに、シートベルトがカチャリとした音を響かせつつ元の位置に戻る。
タラップをコツコツと踏み鳴らす、複数の足音が中庭の土を踏みしめたその瞬間――。
ガァ〜ラァァ〜ン……ガァ〜ラァァ〜ン……。
月の0オクロックを知らせる教会の鐘が鳴り響いた――。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
ギルド支部の改修工事を行う作業員の声が俺の耳に届く。
「おーい、一服しようぜ!」
「そうだな。それにしても今日のお天道様は眩しいなぁ」
「でもよ、ほれ見てみろよ!隠れちまったし、風も冷たくなってきたぞ」
「雨が降らんでくれればええが……」
ギルド支部の建物を見上げ、俺は思わず息を呑んだ。
以前のギルド支部は、どこにでもあるような石造りの質素な建物だった。
だが、今、目の前にそびえ立つのは、それとはまるで別物の巨大な構造物だった。
漆黒の屋根に覆われた建物は三階建てにも及び、白い大理石を基調とした外壁には金色の装飾が施されている。入り口の扉は重厚な鉄と木で作られ、中央にはギルドの紋章が二つ彫り込まれていた。門前には商人や冒険者がひしめき合い、それぞれが取引や交渉に夢中になっている。
「おい……これが本当にギルド支部か?」
思わずつぶやくと、傍に寄り添うミリネアが微笑を浮かべながら答えた。
「商業ギルドと合併したことで、資金力が大幅に増えたんでしょうね。
ご主様、あれをご覧ください。あの掲示板……前は依頼だけだったのに、今は交易情報や投資案件まで張り出されていますわ」
確かに、巨大な掲示板には様々な種類の紙が貼られ、冒険者や商人が熱心に見入っていた。
さらに目を引いたのは、建物の左側に設けられた広いテラスだ。そこでは軽食や飲み物を売る商人が行き交い、ちょっとしたカフェのようになっている。
驚きと感嘆を隠せない俺に、クロニクが肩をすくめつつポツリとつぶやく。
「まるでメカニック要塞みたいだぜ……」
「金が動けば、人も動く。これがギルドの本来の姿なのかもしれんな」
俺の言葉に仲間たちがゴクリと唾を飲み込む。
一息ついてからゆっくりと歩みを進め、ギルドの制服もどこかぎこちなく、茶色の獣耳が目立つ女性が立つ、受付嬢の前に並んだ。
前の冒険者の話が終わり、俺たちの番になる。初めて見かける受付嬢は俺を見ながら作ったような笑みを浮かべ、頬を強張らせつつ、僅かな緊張を見せた。
「い、いらっしゃい…ませ。冒険者様、本日はどのような案件をご希望でしょうか?冒険者の登録を済ませておいででしょうか?
先ずは、冒険者登録証のカードをご提示ください。失礼ながら依頼ではなく……お怪我されてるようなので……併設されているククード様の治癒院をご利用ですか? それとも……」
受付嬢の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ギルドの入り口から「ちょ、ちょっと待ちなさい!」と、慌ただしい足音が響いた。
「!!!」
書類を抱えたまま飛び出してきたのは、歴戦の冒険者すらも黙らせる――二つ名は『豹胸のイドヒ』。煌めく長い金髪に、白いシャツのボタンを二つ外したスタイルで、豊満な「豹柄のブラ」を揺らしながら、目を見開いて俺を見つめ、額に汗を滲ませる。
「……お久しぶりです、将軍閣下! 皆様も……本日は何か特別な案件で?」
肩までの髪、茶色の獣耳を持つ受付嬢は、目を丸くしながらイドヒ・ドイタ嬢の様子に驚く。彼女のネクタイからして、きっと新人なのだろう。
俺は苦笑しながら白金カードをイドヒ・ドイタ嬢に差し出す。
「いや、今日はココの昇格試験を受けに来たんだ。あとはちょっと……この新しくなったギルドの鍛錬場を見せてもらおうかと思ってな」
「昇格試験ですか……?」
イドヒ・ドイタ嬢の声が響く中、周囲の冒険者たちもざわつき始めた。
その刹那、ミリネアが腰のホルダーに手をかけたが、慌てて俺が制す。
「B級の昇格試験だ。ハウゼン支部長からS級二人の推薦があれば、F級でも受けられると聞いたんだが……?」
その問いにイドヒ・ドイタ嬢は制服の前ボタンを掛け直し、キリッと眉を整え口を開く。
「はい。規定ではそうなっております」
「なら頼む。ココ、ギルドカードを出してくれ」
「あ……はい、閣下……」
ココの声は微かに擦れていたが、すぐに彼女の背中をポンと叩く。それはふわりと弧を描くモフモフの銀尾だった。
「ココしゃんなら楽勝!僕が推薦するにゃ!」と手を挙げたアリーが、背伸びしながら自分の白金カードを差し出した。
「アリー・ココロ・オブニビヤさんの推薦ですね。あのぅ……もうひとかた……」
「オイラがなるぜ!」
「私がなりますわ!」
「ちょっとぅー!わたしだって、なれる資格あるんだから……」
「あたいのカードを見てみなさいな♪」
「したっけ、オラも……」
「ワタクシが……」
「このエリナ・エイマスでは不服か?」
エリナが冒険者カードを取り出そうとした瞬間――。
「おい、見ろ! あの美貌と知性溢れるあのハイエルフ。あの方って【七つの大罪】の一人だろ?」
「ん? ふっ……あの美しさと【覇気】は、まさにEnvy。【神の能力】と呼ばれる――ミリネア・ロカベルで、間違いないだろう……」
「橙の髪のアマゾネスって言ったら、おい!」
「ああ、【七つの大罪】、 Lustの【美神】エリナ・エイマスだ!」
囁かれる中一瞬、静まり返るギルド内に、眉をしかめるミリネアの鞭がしなり、バッチーーーーンッ!と床を叩き弾ける音が響く。
「ぁははははは。 ミリネア姫、殿の名が出ないからと言うて、そう怒るな。
今や、妾がおるクランには、【七つの大罪】が三人じゃ。 Wrathの呼び名を引き継いだ――我が愛する殿、【漆黒の八咫鴉、軍神】、ゴクトー・コス・ハルツーム。呼び名も面白いからのぅ!」
イブが腹を抱えながら、イドヒ・ドイタ嬢に白金カードを差し出す。
「妾はヒラム・イブ・ファルダットじゃ、冒険者名はイブラヒム。妾がココのもう一人の推薦人じゃ、これだけは譲れん」
イブの声には威厳と品格が滲み、それに深い慈愛の念が感じられるのだが。その言葉以前に、イブの言葉が引っかかり、思わずミリネアの肩を叩く。
「今の何?」
「軍神は、お気に召さないですか?」
「そうじゃなくて……」
「ギルド本部の御指名通達ですよ。御主様にぴったりの二つ名です」
「話を聞いてくれッ!」
そんな中、背中に気配を感じてふと振り返ると、篠介と羅音がお構いなしに両脇を固める。
「兄者や姉者と同じB級にオレもなってやるぜ!」
「八咫鴉様、あのぅ、わっちも……」
二人の言葉に刺激されたのか、九音が青いショートヘアーを美しく靡かせ、右目の眼帯の結びを強く引き締め、もう片方の青い瞳を閃かせる。
「少しでもお役に立てるように……オノもB級試験をっ!」
その声に呼応するかのように、アカリがギルドカードを差し出す。
「なら、私とジュリは九音の推薦をいたしますわ」
彼らの表情には強い決意が宿っており、仲間として、共に試験へ挑もうとしている気概がヒシと伝わってくる。
その様子を見ていたイドヒ・ドイタ嬢の口元も僅かに緩む――しかし、彼女は眉を寄せ、イブ、アカリ、ジュリからカードを受け取る。
魔導端末にカードをスキャンさせ、素早く端末に打ち込む彼女の手際の良さに、俺は感嘆した。
二年前は、あんなにおどおどしていたのにな……。
そう思うが、口には出さない。
「ふぅ。閣下、これで手続きは終わりです。ではこちらへ」
そう告げるとイドヒ・ドイタ嬢は、俺たちを鍛錬場の入り口まで案内してくれた。
ギルド支部の地下にできた鍛錬場――そこは昇格試験や実戦訓練のために特別に設計された施設だった。
階段を降りるにつれ、空気がひんやりと変わる。
壁に埋め込まれた特殊な魔導灯が青白い光を放ち、地下であるにも関わらず視界は良好。だが、ただの地下ではない。この鍛錬場は、まるで巨大な闘技場のような構造をしていた。
「地下でここまで広い空間を作るとは……」
つぶやきながら思わず天井を見上げる。
遥か上には【強化魔法】が施されたドーム状の天井があり、岩盤が露出した部分には【防護結界】が張られていた。まるで洞窟のような自然の地形と、人工的な最新機械を組み合わせたような造り。
奥には数本の柱が立ち並び、それぞれに試験用の装置が備え付けられていた。
魔力を測定する石碑、反応速度を測る槍の罠、耐久力を試す鉄球――そして中央には円形の闘技場。
周囲には昇格試験の見届け人や、実力を試しに来た冒険者たちの姿もちらほら見える。彼らの視線は鋭く、これから試験を受ける者たちを品定めするかのようだ。
「ここが昇格試験の場か……」
思わず拳を握る。
これまでの昇格試験とは明らかに違う、戦場のような雰囲気に、自然と血が騒ぐのを俺は感じた――。
読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き、次の昇格試験のエピソードも楽しんでいただければ嬉しいです。
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