新たな拠点編 25 〜受け継がれし闇と魔姫の狂気〜
ピンクダークでお送りしますΣ('◉⌓◉’)
「芥子……か。我が『始祖の一族』の闇……だ……な」
下界のゴクトーの様子を大スクリーンで眺めていたトランザニヤが、真っ青な顔でふらつく。そして彼の黒銀の双眸は、徐々に光を失くし、力なくぐらりと身体を傾け、雲海の隙間に身を投げ出しそうになった――その瞬間、神シロがトランザニヤの肘をガシッと掴んだ。
「見たらいかんッ!黒銀の! その花はお主の身体の血を逆流させるんじゃろ!」
神シロの言葉に「ハッ」と我に返り、瞳を瞬かせるトランザニヤだが、彼はその場で黒血を嘔吐しながら、咽返り、息も絶え絶えに膝をつく。
トランザニヤと神シロの傍で、目を見開く女神東雲が咄嗟に紡ぐ。
「【癒瑠々・座羅・裏滅駆】!」
その刹那、美しい桃色の魔法陣が浮かび上がり、そこから放たれた癒光が、トランザニヤの身体を包み込み、眩い黄金の光に変わった。その光が収まるとトランザニヤの瞳に黒銀の輝きが戻った。
「すまない……東雲さん。助かったよ」
「いえいえ、これしき。この神代魔法、回復魔法としては最上級――ですが、自分の身体には使えないのが難点ですわね」
女神東雲がさらりと、『こともなげ』に言葉を並べる。
一方で、立ち上がるトランザニヤに力を貸す神シロがつぶやく。
「その呪縛も確か、芥子の花の妖精の呪いだったはずじゃ」
その言葉にトランザニヤは唇を袖で拭いつつ、唇を噛む。
「……何百年かぶりだ。記憶の隅にも置けないあの花……我が一族の開祖『D・バン・パパイヤ』。あのお方があの花の妖精に惚れたのが……この呪いの始まりだ」
「そうじゃった、そうじゃった。ワシがまだ幼い頃じゃったな」
そう言いながら神シロが懐かしむように語り始める。
「ズードリア大陸は、昔から様々な種族と精霊たちが住んでいてな。その中でも一際異彩を放つ、『始祖の一族』と呼ばれる種族が、神に最も近い存在と恐れられ、各種族長たちも一目置いておったんじゃ。
ある日、『空間の捩れ』によって、突然大陸に最凶龍種ヒドラが現れた。
ヒドラは九つの首から炎、氷、毒を吐きながら大陸を蹂躙し始めた。
その時じゃ――! 一人の男が黒いマントを翻し、颯爽と現れた。
その男は身体から物凄い【覇気】を纏いながら【魔力】を身体に集中させて紡いだんじゃ!
『【エターナル・ブレイス】!!』と。
ボォォッ༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅!!
その刹那、巨大な紫炎の柱が天を衝き、ヒドラの首を焼き尽くした――!
おっと、年甲斐もなく、興奮してしもうた……。そして、その男はヒドラの首元にガブリと齧り付いたんじゃ。
『あまり、うまいもんじゃねぇなッ!』
そう言いながら、口周りを緑の鮮血で汚していたのは笑えたんじゃが。
偉丈夫と言える筋肉質だが、細身なその男の身体は、うっすらとした燻銀の光が包み込むように纏っておったな。
応戦していた人種の王、亜人種の王、精霊王すらその男に跪いた光景は、まさに神々しかったわい。
その場にいた者たちは、抗えぬ圧倒的な【覇気】と魔力、そして彼が持つ特殊スキルに、ただ平伏するしかなかったのだろう。
じゃがな、そこにいた一人の美しい女性――芥子の花の妖精に一目惚れしてな。
その妖精は、長く柔らかな金髪が腰まで流れ、美しい髪は月光を受けて淡く輝き、風に揺れるたび、赤紫の花びらが舞い散るような軽やかさを持っておった。
背中には大きく美しい翅が広がり、半透明で虹色の光を宿しておったな。その翅の縁は繊細な脈が走り、動くたびに、光の粒を振り撒いているかのようだった。
肌は透き通るような白さと滑らかさを持ち、柔らかい光を放ってな。身に纏うは、露出の高い白い装束。芥子の花模様が赤い花びらを散らしたようにあしらわれ、ハーフカップのブラからは、豊かな胸の下乳が自然に覗いておったな」
「ちょっと、あなたッ! ――わたくし以外の女性に、鼻の下を伸ばしすぎではなくて?」
眉を吊り上げる女神東雲の表情が渋くなる傍で、神シロがどこか気まずそうに口を開いた。
「シノや、まぁ、そんな怒るな。ここは黒銀の奴に、詳しく伝えねばならんのだ。しばしの間、黙って聞いておれ。話は戻るが――その妖精は腰に真紅のTバック、繊細なガーターベルトが太ももに伸びておってな。幼いながらワシはその色香と美貌に見惚れておったのを覚えておる。
美脚を包むその網タイツも真紅で、上部はレースの装飾が施されておった。それが肌に密着しながらも透け感を残してな。
白い外套は肩から滑り落ちるよう、動きに合わせて芥子の花模様が揺れておった。
全体として、可憐さと官能性を同時に纏った、幻想的で艶やかな妖精の姿じゃった。彼女の名は確か『コクリコ・ポピー・ルージュ』だったはず。
D・バン・パパイヤが首元に唇を寄せた瞬間、僅かに潤んだ彼女の瞳が深い赤を宿らせ、熱を帯びた表情を浮かべたのを今でもはっきり覚えておるぞ。
D・バン・パパイヤが妖精の首筋をガブッと噛んで、言ったんじゃ。
『香りはフルーティーだが……に、苦ーーーい!』
その男の特殊スキル――『吸血』が発動したのじゃろう。それは『眷属化』の鍵でもあったと聞く。
それは『血を与えた者』を眷属とし、さらにその力を奪い『姿』を変えることすら――可能とするらしいとワシは聞いていた。
まさに――【神】に等しい力だったんじゃ。
始祖の一族の特徴は銀の頭髪に青白い肌、何者でも恐怖に陥れる鋭き紅眼。そして――たまに見せるニヒルな表情と、『ししし』という独特な笑い。
その口元には八重歯ならぬ鋭い犬歯が、唇の端から覗いておってな。まさにトランザニヤの姿に生き写しじゃった。
その男、『始祖の一族』の開祖――もっさりとしたウェーブの銀髪を掻きながら、D・バン・パパイヤは、低く威圧の声を落としたんじゃ。
『共存こそがこの世界の美、余は争いは好まんよ。ハック、ショーーンッ!』
大きなくしゃみを響かせ、黒いマントを翻した――その瞬間。その男はヒドラに姿を変え、二つの月の狭間に消えていったんじゃ。きっとその時に芥子の花がアレルギーになったのじゃろうと、ワシは推測する」
どこか自慢げに胸を張る神シロだった。
一方で、女神東雲が口元を真横に引きしぼりつつも、下界のある気配に気づき、雲海の隙間を覗き込む。
「あのキライマカの副官、ガリス・シャデが冒険者に化けて、亜人国家フィルテリアに現れましたわ」
その言葉に神シロとトランザニヤが息を飲み、二人とも目を見開ながら、雲間からフィルテリアを覗き込んだ――。
そんな神々の視線に気づいたのか、「面倒な神々だ。我のことなど、気にするほどのこともなかろうが……」とガリス・シャデが天を仰ぎ、意味深につぶやく。
険しい山々が連なり、豊かな自然に囲まれたその土地は、さまざまな種族が息づく「亜人国家フィルテリア」と呼ばれる場所であった。
ズードリア大陸中央に位置するメデルザード王国の東方に位置し、エルフが治める森『マヌエル』と、巨人が治める国『カイド』に、挟まれるこの国には、独自の文化と気高い気風を持つ亜人たちが暮らしている。
山あいの風が通り抜ける街を歩けば、多様な姿形をした民がそれぞれの営みを守りながら、静かに、しかし力強く生きる気配が肌で感じられた。
市場の石畳に立つガリス・シャデの姿は、異質な気配をそのまま、身に纏っていた。
「おい、あの冒険者を見ろよ」
「ああ、凄まじい【覇気】だ。 ん? でも、なんか違う?」
囁かれるその言葉に、彼女のオッドアイがギラリと閃く。
右目は深紅に輝き、左目の深い緑色の冷たい眼差しが、見る者を射抜き、強烈な威圧を感じさせた。
亜人たちの声を気にすることもなく、ガリス・シャデは雑踏の中を歩く。
快晴の空の下、澄んだ空気が周囲に漂う活気ある市場。
石畳の小道には、色鮮やかな干し草やスパイスの匂いが立ち込め、露店商たちの威勢のいい声が飛び交っていた。
旅の途中で空っぽになった麻袋を提げ、ガリス・シャデは目当ての露店へと足を向ける。
左肩には金の鱗を象った肩当てが乗り、黒い鉄と革がそれを押さえ込んで、歩くたびに乾いた音を響かせる。
黒い外套が肩から長く落ち、裾はわずかに擦り切れて風に揺れていた。
その存在は周囲の喧騒を切り裂くほどに際立っている。
フードの内側には淡い金糸の紋が縫い込まれ、光を受けたときだけ、龍の気配を匂わせる。肩までの黒髪を靡かせ、長い耳を揺らすその姿は、紛れもないエルフの女性のものだったが、どこか普通のそれとは違っていた。
金色の鱗は首筋から鎖骨、胸の上部へと自然に溶け込み、革と金属の境界を曖昧にする。その下は、複数の留め具で閉じられた黒い革の胴着。
腰には何本もの茶色いベルトが交差して巻きつき、小さな革袋が揺れる中、ダガーが左右に佩かれ、その出番を待つかのように鞘に収まっていた。
目当ての露店の前に立つガリス・シャデ。
「いらっしゃい! その感じ、リザードマンじゃないな。 別嬪さんだ!
竜人の冒険者さんかい? うちの干し肉は、魔物の脂肪をしっかり落としてるから、日持ちがして歯ごたえも抜群だぜ!」
店主の髭もじゃのドワーフの男が、脂の乗った肉の塊を包丁の背で、コンコンと叩いて見せた。
干し肉に手を伸ばすその腕は、肘まで金の鱗に覆われ、その上から厚い革手袋が食い込んでいた。
胸元は黒い革のコルセット型ブラトップがきつく締まり、大胆に揺れる胸とその谷間をあらわしていた。その縁から、まるで肌そのものが竜の鱗であるかのように、金色の鱗が覗き、陽光に煌めく。
それに目を奪われる髭もじゃ店主に、ガリス・シャデは無表情で問う。
「その干し肉はいくらだ?」
「これは上質な干し肉だが、別嬪さんだからな。ブロックなら3G、
ちょっと前までの言い方なら金貨三枚、スライスなら一片、3S、あ、銀貨三枚って言う意味ね。それで構わないよ」
(200年の間に、これほど貨幣価値や呼び方が変わっているとはな……)
その言葉に目を見開きつつ、彼女が後ずさる。
その太腿に髭もじゃ店主の目が留まった。
金鱗が走り、黒い脚絆の隙間から鱗の輝きが漏れる。
膝から下は頑丈な革の脛当てと、ベルトで締めた長いブーツ。
石畳を後ずさるたび金具が小さくコツンッと鳴り、市場の喧騒の中で、彼女だけが『別の世界』を歩いているようだった。
「ハッ」と我に返ったガリス・シャデが、ずっしりとした布袋から金貨を取り出す。
「ブロックをくれ」
「毎度あり! ちゃんと包んでおくよ」
髭もじゃ店主が手際よく麻の布で包み、ガリス・シャデに手渡す。
その足で、ガリス・シャデは、すぐ隣の武具を扱う露店へと向かった。
さきほどの買い出しで少し金貨が減ったが、まだ余裕があるのか、無表情のままだった。
「おや、そこの別嬪さん、いいオッドアイをしているな。
このダガー、見てみるかい? あの鍛冶師大国 『ゴマ』のエルダー・ドワーフが鍛え上げた業物だ。オークの皮くらいなら、豆腐みたいにスパスパと両断できるぜ」
店主が勧めてきたのは、鞘にルーン文字の刻まれた三日月型の柄の戦闘用短剣だった。
値段を聞くと、店主は自信ありげに指を立てる。
「80G(約八十万円)のところ、今日だけ特別に、70Gと3S(約七十万三千円)にまけておくよ!」
その値段に目を見開くガリス・シャデ。
迷わず腰からダガーを抜き取り、店主の頬にキラリと刃を閃かせる。
「これで足りるか?」
「…… 」
引き攣った顔の店主がガタガタと震え出し、冷や汗を浮かべる。
「ふん、我の目に狂いはない。それはガラクタにも近い紛い物だ。本物のダガーの切れ味を味わわせてやるか? ククククク」
ザクッと店主の頬を切り刻み、血まみれのまま、ざわめく街の人をも気にせず、人混みに紛れ、ガリス・シャデの姿がふっと消えた――。
読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き楽しんでいただければ……。
ブックマークの追加や、
★をつけていただくとさらに喜びます☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




