新たな拠点編 23 〜狂気と凶器〜
ダーク&ピンクでこの回は……っとΣ('◉⌓◉’)
――ここはズードリア大陸南東の孤島。魔王が治める国ガーランドの王宮内。
地下深くの一室――しんとした黴臭い地下牢の錠を今、まさに解放しようと、灰色、かつ苛烈で、鋲だらけの悪意ある含みを持った笑顔が、松明に浮かび上がった。
異形な蟲が蠢く中、カチャリ。
――ギィーィィ……。
金属と石畳がまるで悲鳴を上げたような不気味な音が鳴り響く。
ガチャンッ! ボゥ༄ カラン…カラン… コン。
重厚な落下音とともに、一瞬火花が散り、鈍く光る鉄色の床に、腕枷が音を立てて転がった。
「ふっ……かつて『蛇蝎の魔姫』とまで謳われた、我を引っ張り出すとは、我が仇敵のキライマカ様にとって、諸刃の剣だと言うことを……この200年でお忘れか?」
低い声を響かせ、そう告げると、割れた舌先をチョロチョロと出す女性の、緑と赤のオッドアイが薄明かりの中、怪しく光った。
「仇敵とは……けけけ。まだ、そんな昔話を貴様は蒸し返すのか?」
窪んだ眼窩から青く光る双眸で睨みつけるキライマカに、人間離れした優雅さと危険な魅力を兼ね備えた、異形の女戦士といったところか。
仄暗い牢獄の奥から、黄金の光を反射してぬらりと輝く、怪しげな美貌の主がキライマカを睨みつける。
「我の母を奴隷に落としたのは……キライマカ様と聞いておりますが?」
その言葉にニンマリと口に弧を描くキライマカが、冷徹な言葉を浴びせる。
「奴隷に落としただ、と? 俺様の知る真実とは、だいぶかけ離れているようだが……。奴隷に落としたのは、貴様の母の美しさに嫉妬した北のドルサードだ。そして、舌を抜き、魔王様に『献上』したのも奴……。
せっかく俺様が魔王様から死ぬ思いで逃してやったものを……魔王様の子を孕んだと、怒り狂った貴様の父、堕天した『蛇蝎のハデス』が貴様の母を斬殺したのだ。……けけけ」
その不気味な笑い声が響く中、聞き耳を立てる、どこかエルフを思わせる彼女の長い耳がピクリと動く。そして両脇から生える四本の腕の拳を握り、唇の端をギュウッと噛みしめ、ガンガンガンガンと激しく鉄格子を叩いた。
「まさか……そんな……奴隷落ちしたことを悔いて、母は自害したと聞かされていた!」
叫ぶ彼女が冷たい鉄格子を握りしめた。その指先は鋭く、黒い爪が妖艶に輝く。
興奮した彼女のそれぞれの震える腕は、宝石を思わせるほど細かな黄金色の鱗に覆われており、松明の光を受けるたび、複雑な模様が浮かび上がった。
「けけけ……信じるか、信じないかは貴様の自由だ」
キライマカのその挑発的な視線の前に、牢獄の湿気を含んで、ゆるやかにウェーブした艶やかな黒髪を彼女が掻き乱し、額にかかる前髪の隙間から、右目は鮮やかな赤色、左目は深い緑色――まるで暗闇の中で獲物を狙う蛇のように冷たい瞳に、うっすらと涙を湛える。
「嘘だァァァァ!」
叫ぶ彼女は、レースが施された漆黒のコルセットから、溢れんばかりの豊満な胸元を激しく揺らし、ガーター付きの黒網タイツに包まれた太ももまである――ニーハイブーツの膝をゴリッ…と冷たい地下牢の床に落とした。
その打ち拉がれた彼女に、キライマカが見下ろしながらつぶやく。
「信じるか、信じないかは貴様の自由だ……ガリス・シャデ」
その言葉に、一度は瞼を閉じたガリス・シャデ。次の瞬間、見開かれたオッドアイが鈍い光を放つ。彼女は四本の腕を同時に動かし、腰の無骨な黒い鞘から黄金の装飾が閃くダガーを一斉に引き抜いた。
「ならばーー!」
瞬時に懐へ飛び込んだガリス・シャデは、松明に煌めく刃をキライマカの首筋と胸元へ突き立てた。その素早い動きに何の躊躇もせず、苦笑いを浮かべるキライマカの胸や肩から、その刹那、意志を持った金属質の棘の弾幕が、
――ガキィーン!と高音を響かせつつ、ガリス・シャデのダガーを全て弾き飛ばした。
「そうやって、俺様に刃向かうも良し、従うも良しだ……けけけ」
そう言い残し、キライマカが地下牢を去っていく。
薄暗い地下牢、その床に落ちたダガーだけが、松明にその刃を閃かせる。
静けさが漂う中、地下牢の扉が開け放たれ、風が松明の炎を大きく灯す。
黴が生えた石壁には、四本の腕を高らかに掲げる影が揺れ動く。
「……っく、腕が鈍っておるわ。このままでは、キライマカどころか、ドルサードにすら及ばぬな……ククククク……アアアアア――ハハハハハハハァ」
ガリス・シャデの狂気に満ちた笑い声が地下牢に響いた――。
その恐ろしいまでの狂気と【邪気】に気づいた天上のトランザニヤが、遥か南東の下界を雲海の隙間から覗き込み、黒銀の目を細めた。
「おい、シロ……見てみろ、あそこを。キライマカの戯言に、見事にはまったあの副官――ガリス・シャデが地下牢から出てきたぞッ!」
「おお、なんと言うタイミングじゃ。ゴクトーが息を吹き返した途端にか……因果な定めじゃな、ゴクトーも……」
神シロのその言葉に、女神東雲も大スクリーンに映し出された、息を吹き返し、身体を起こすゴクトーの姿に安堵しつつ零す。
「ゴクトー君を救った具現想霊の『キャベ神』に、他の名前はないのかしら?
きっと神代の大神様が下界に遣わせたのよね……巻貝ヘアーと色黒の肌が可愛いから、わたくしだったら――『まきグソ』ちゃんってつけちゃうかもしれないわ!」
その言葉にトランザニヤと神シロが頭を抱えた――。
――その頃、ゴクトーの屋敷では。
大浴場で死にかけていたゴクトーの復活に、皆が安堵する中、涙ぐむ『江戸っ子鼓動』が、頬を赤く染める『キャベ神』と一緒に、『妄想図鑑』の中へ消えていった――。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
「……コガラ……ありがとうな、もう大丈夫だ」
「あるじーー!」
俺の言葉に、起こした身体をしっかりと抱きかかえ支えつつ、コガラが美しい『龍の涙』を頬に零す。
「おっとーー!これはチャンスね、コガラちゃんいただくわね」
空間を穿って『アイテムボックス』を出し、空の小瓶を取り出すミンシアが、コガラの頬の涙を掬い取る。
「ご主さんも生き返ったし、貴重な『龍の涙』もゲットできた。さっきの【エルフの涙】と万能薬は、これで帳消しにしてあげる……ふふ。心臓マッサージと「マウストゥマウス」は、この際サービスしとくわ!」
ミンシアのその言葉に思わず耳まで真っ赤に染まった。
一方でアカリが涙ながらにほっとした表情を浮かべながら、「【エクストラ・ヒール】!」と唱えた瞬間、俺の身体が柔らかい緑の光に包まれた。その隣ではジュリが頬を濡らしながら詠唱する。
「……我が祖先、女神の力をここに賜らん――力無きこの身に、癒やしの力を貸し給えーー【エクストラ・キュアリク・マジック】!」
澄んだ声を響かせ、同時に【月刀・常闇】を振り抜く。
桃髪のポニーテールが揺れ、蒸気に包まれる大浴場に、ジュリのビビッド・ブルーのレースが際立つ中、展開した魔法陣を通して、癒しの光が俺の身体を包み込む。
だが――。
何の変化も起こらなかった。いや、否だ。立ち上がる力は湧いてくる。
その様子を見ていたミリネアが眼鏡を外し、頬の涙を拭った。
「やはり……外傷を治すヒール系や、魔力や装備を全回復させるマジック系でも、あの状態のご主様を救うことは、できなかった。ミンシアの万能薬でさえ、効かなかったほど……あの黒い肌の神様はどうやって助けたのだろうか?」
ミリネアが小さく漏らす。
一方で、「ダー様、お身体冷えていますわ、一旦薬湯へ」と、立ち上がった俺を支えるアカリとジュリが、薬湯に俺を入れる。
いつの間にか、全員が俺の周りを囲んでいた。
ミリネアが紫色の繊細なレースを揺らしながら、冷ややかな、しかしどこか威圧を放つ――エメラルドグリーンの瞳でアナ・ドレン少将を見据える。
「……それにしても、アナ少将。そのお召し物は、あまりにも機能性に特化しすぎていて、病み上がりのご主様の眼の毒ですわね」
対するアナ・ドレン少将は振り返り、軍人らしく睨みをきかせ、その豊満な胸元をさらに張ってみせる。
「ははっ、何を言うミリネア殿。この【クギズケニ・シタラ・ドナイヤ】の魅了付与は、実戦でも我が軍の士気を上げる最高級の装備だ。そちらのミリネア殿の妖艶さも負けてはいないがね」
睨み合う二人、お互い引く気はないようだ。
一方でミテミナ・ビボウ中将が、自身の【ホドケルワヨ・ヒモ・ドナイヤ】のサイドタイに、そっと指をかけ、俺を見つめながら意味深な笑みを浮かべた。
「ふふ、ゴクトー様が、もしあのまま起きなかったら……私のこの紐を解いて、『直接』目を覚まさせてあげるのも、一興かもしれませんねぇ……ふふ」
「なっ……! ビボウ殿、『直接』とは? 何を考えているのっ!」
ミテミナを牽制しつつ、頬を朱に染めるエリナが、筋肉質な身体をしなやかに見せる黒のレースセット――【ナイト・ブラックボム・ドナイヤ】で、漂う空気をピシリと揺らす。
真っ赤になった俺と目が合うとエリナが唇を動かす。
「【ドナイヤ】は、ある意味凶器ね……もうっ!……アタシも胃に穴が空くわ!」
読んでくださり、ありがとうございます。
【ドナイヤ】シリーズのお披露目は、ここで一旦終了です。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )
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