新たな拠点編 22 〜召喚せざるを得ない神〜
ダークファンタジー……にならない。神話をどうぞΣ('◉⌓◉’)
「……俺はもう、何も見たくない……」
湯気の向こうで、ゴクトーが静かに白目を剥いて崩れ落ちた――。
だが、彼は数秒でむくりと起き上がった。その様子にほっと胸を撫で下ろす女性陣。
「俺はちょっとここから遠慮するよ……皆は、ゆっくり湯に浸かって、疲れを癒してくれ。薬湯もあるし……アリーに入り方を教えなきゃだったな。五右衛門風呂はそうだな……アカリとジュリが教えてやってくれ」
「わかりましたわ、ダー様」
アカリは、見る者を熱波に誘うような、深紅のレース【ドナイヤ】に身を包んでいた。
カップからストラップへと流れるように配置された繊細なフローラルレースが、まるで肌に直接咲き誇る紅い薔薇のようであり、谷間を強調するプランジデザインが、隠された甘美な領域への招待状となっていた。
ハイウエストのパンティーは、腹部に幾重もの細いストラップが交差するケージスタイル。それは、彼女の意志の強さを象徴する束縛のようでもあり、挑発的な透け感が、さらなる想像力を掻き立てる。
そして、太ももまで伸びたガーターベルトと、網目から覗く素肌が、クラシカルでファム・ファタルな雰囲気を完璧に完成させていた。
「へんダー、任せてよ!」
対照的に、ジュリはブルーのレース【ドナイヤ】セットを身につけていた。
艶やかなサテン地に可憐なレースが縁取られ、その胸元に設けられたカットアウトと、胸を横切る細いストラップが、アバンギャルドでモダンな印象を与えていた。
肩紐から背中へと続くストラップの複雑なラインは、彼女の背中の曲線を美しく際立たせている。ハイレグカットのパンティーにも、華奢なガーターベルトが合わせられ、ブラックのサイハイストッキングを着用して美脚を際立たせる。
ニーハイ部分は、レーストップがエレガントに覗き、甘さと辛さが絶妙なバランスで同居しているかのようだ。鮮やかなピンクの髪とのコントラストが、彼女の魅力をさらに引き立てていた。
蒸気がうっすら漂う大浴場。
ゴクトーの軍服は、その水気を吸収していくかのように、ポツリ…ポツリ…と水滴を垂らす。
彼も思いの外、ズッシリくるその重さと、彼女たちの視線の圧の重さに、次第に耐えきれなくなっていった。
後ずさるゴクトーを横目に、「待ってられないにゃ!」と、いきなり大浴場にアリーが勢いよく飛び込む。「気持ちいいにゃ!」と満足そうに、彼女がふわふわの銀尾を湯に浮かべた。
イブが「確か、この丸板を踏みつけて、入るんじゃったか?」と、尋ねながら、五右衛門風呂に丸板を入れ、風呂に足を入れた瞬間、アカリから「そうよ!」と短く返ってきた。
イブの手前で、五右衛門風呂に足を入れるか迷っていたココも、その会話を耳にしながら、ぽちゃり…と足を踏み入れた。
――その様子を天上の大スクリーンで見ていた女神東雲は、その傍で目を伏せるトランザニヤなどお構いなしで、ニンマリと口角を上げつつ、『神具タブレット』の画面をスクロールしながらポチポチ。
「イブちゃんの【トドメノ・ササール・ドナイヤ】……これも、素敵なセットでいいわね、金色が豪華だし。でもこれも見逃せないわね――ココちゃんのオレンジの『Caravan・Climb』もスポーティーで、ジョギングにも使えそうだわ。でもさすがわたくしの末裔ね、アカリとジュリの【ドナイヤ】だけは非売品なのね」
独り言のように漏らす女神東雲。
だが次の瞬間――神シロが手を翳し、タブレットタッチする東雲の指をサッと制した。
「シノや……ネット通販は癖になるでのう。もうそのくらいで……」
「あら? ご無体な……わたくしは『夜のお勤め』のため、老体な、あなたのために、買っていますのよ」
その二人の会話にトランザニヤの顔が真っ赤になった。
そして――。
「そういうのは、家に帰ってからやってくれ!!」
その怒号は雲の流れに乗るように、遥か彼方まで響いた――。
一方、ゴクトーの屋敷の大浴場では――。
チャプ…。
五右衛門風呂に肩まで浸かるコガラちゃんが叫んだ。
「気持ちいいお湯ーー!あるじと一緒に入りたかったーー!」
反響したその声は、 少し離れた場所に腰をかけ、息をつくゴクトー君の耳にも届く。よっぽど気持ちが良いのだろう。ゴクトー君を見つめる彼女の琥珀の瞳がグレーに閃いた。ふとした時、コガラちゃんは瞳の色を変える。感情が昂っている時は赤く、冷静な時は琥珀。そして、涙を流す時は水色に染まる。
「あら? グレーの瞳は、初めて見るわ……まるで何かに共鳴しているみたい。
まさか……龍皇一族の誰かが、この近くに?」
自然と顎に手を添えてしまう。
旦那様のシロとトランザニヤ様も、彼女の瞳の色の変化を気にかけていた。
ポチポチの手を止められたわたくしは、ゴクトー君を囲む女性陣――末裔のアカリとジュリや、九音の姿に、大スクリーンを見ながらギリギリと奥歯を鳴らすしかなかった――。
そんな天上界の神々のことなど、露ほども知らないゴクトーは、屋敷の大浴場でかしましい声を響かせ、疲れた身体を癒す、女性陣を少し離れた場所で見ていた。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
「ご主様――!気持ちが良いですわ!この天然温泉。湯あたりも柔らかくて……この独特の硫黄の匂いも、ワタクシは好きです!」
湯に長い緑髪がつかないように――しなやかな動作とともに、右手で髪をたくしあげるミリネアが俺に振り返る。紫色の【ムラット・シタラ・ドナイヤ2】を纏うその姿は妖艶だが、どこか神々しいとさえ思える。
……まぁ、ミリネアは温泉好きだからな。
まさに、天上界で俺を生き返らせた、湯の神――女神ロカベルみたいだな。
《「ご主様……なんとも畏れ多いお言葉。心中で褒めてくださるのは、嬉しいですが、コガラや九音、ココ殿にまでその思考が届いております。見てください。彼女たちのあの表情――」》
ミリネアが寄越す、皮肉めいた念話が顳顬に響く中、彼女たちの鋭い視線に、胃がキリキリと痛み出す。
その時――。
「あ、危ない! ミテミナさんの足元、なんかモクモクしてるっ!」
左目を青く光らせる九音が叫んだ瞬間。
ミテミナのインナーに組み込まれた――カルディア魔法国産の『グラトニー・シープ』の毛が、周囲の熱気とカロリーを過剰に吸収し暴走を始めたのか、彼女の足元からぼふっと可愛らしい白煙が噴き上がった。
「きゃっ!? なにこれ、熱っ……じゃなくて、なんだか身体が勝手に――!」
「これは……ハイテク機能の誤作動によるハプニング……」
九音がつぶやく最中、ミテミナのサイドタイがほどけそうになる。
咄嗟に紐をたくしあげるミテミナが、俺の視線に気付き、頬を朱に染めながら胸を両手で隠す。
何を今更と思いつつもその照れた姿に、ドキンッ!
『江戸っ子鼓動』が『妄想図鑑』から飛び上がりながら叫ぶ。
「旦那!あっしにも、新たなスキルが。これなら……ししし」
俺だけにしか見えない――《想霊体》のまま姿を現す。場が騒然となる大浴場の一角で、俺は頭を抱えた。
湯気と熱気が立ち込める中、それぞれの【ドナイヤ】に身を包んだ女性陣が、視線のバチバチとした火花を散らし始める。その傍らで、九音が自分のガーター・テディの端をそっと引っ張りながら、青く輝く左目で周囲を観察していた。
だが、俺の視線に気付いたのか――九音が両手でお尻を隠し、振り返りこちらをちらり。
(うぅ……これ、ご主人様に買っていただいた手前、身に着けてはみましたが……本当に動きやすく、忍術の威力も上がりそうですけれど、恥ずかしさは尋常じゃないのです……。このオノの勇姿を……)
可愛げある九音の内心が俺の「心読スキル」を発動させる。
「似合ってるぞ……九音……」
その言葉に火がついたのか。
今まで沈黙していたアカリとジュリが、スッと「髪を掻き上げる風」――悩殺ポーズを執りながら目の前に立った。
「ダー様。ところで……私のへそピもセットの【トビデル・シタチチ・ドナイヤ】は、お眼鏡にかないましたか? 美肌、美乳効果が付与されていますわ。青い髪とインナーの色の対比が、とても気に入っていますの」
青と赤のオッドアイで俺を見つめるその傍で、ジュリも負けじと唇を噛む。
「へんダーの好みとは、少し違うかもだけど……自慢の白い肌と、この【ビビッド・シビレタラ・ドナイヤ】のブルーは、わたしの桃色のポニーテールによくあっていると思うの……。へそピもお洒落でしょ? セットには、魔力上昇、胸のサイズUPの付与がされているのよ。この黒い柄タイツに繋がるガーターも、色気上昇が付与されていてとてもお気に入りなの」
その二人の猛烈なアピールに、ゴクリと唾を飲み込む。
胃がズキズキと痛み出し、次の瞬間――「パキリ」とした音が体内に響いた。激しい胃の痛みが全身を貫く。意識は遠のいてゆき、目の前の景色がふっと消えた――。
◆(ここから『江戸っ子鼓動』のあっしが、語り部をつとめやす!)◆
「旦那、しっかり! これは、まずいでやんす……心臓が……」
焦りながらも図鑑をめくる手が冷や汗でじとり。
何を探しているのかもわからずに、無我夢中で、あっしは『妄想図鑑』に記されている記述を眺める。癒しの力を秘める妄想体はいない。
焦るあっしは、天を仰ぎ、神代の大神に祈りを捧げるように紡ぎ出す。
「かしこみ――かしこみ――天上に輝きし大いなる神よ、永劫の理を越えて我に応えよ。この主を救け給え!」
《想霊体》のまま紡ぎはしたものの、なんの変化も起こらなかった。
一方で大スクリーンを注視していた神々が、その様子に天上界で慌てる。
白目を剥いて床に倒れ込んだゴクトーに、贅沢な石造りの大浴場では、かつてないほどの異様な緊張感が漂い、その場を制していた。
「ご主さん、しっかり!」
ミンシアがまるで空間を割くように、『アイテムボックス』を顕現させた。その中から【エルフの涙】と、万能薬を素早く取り出す。
シュポンッ、シュポンッと親指で小瓶の蓋を弾き飛ばし、ゴクトーの口に澄んだ緑の液体と、緋色に輝く液体を同時に流しこむ。だが、ゴクトーの口からこぼれるのは白い泡ばかり。呼吸も止まっていた。
ミンシアが緩んだ緑Tパンの紐をぐいっと腰にひき上げながら――
「……ここで死ぬなんて許さないわよ!」と気合を入れ、ゴクトーに跨った。
そして、彼女が心臓マッサージを始めた。「1、2、3、4……」とリズムよく胸部を圧迫し、ゴクトーの顎を持ち上げると、その唇に息を吹き込んだ。
数回繰り返されるが、ゴクトーの意識は完全に天へと旅立っていた。しかし、倒れたゴクトーを放置して、その場が収まるわけがなかった。
「あるじーー!」
風呂から飛び出してきたコガラが叫ぶ!
ダッと駆け寄るが、見えない何かに阻まれる。
「いたっ!」
その瞬間――顕現した『江戸っ子鼓動』が『妄想図鑑』をばさりと、湿気が立ち込める大理石の床に落とした。
その様子に脇目も振らず、ゴクトーに抱きつくコガラが涙を零しながら息を吹き込む。
その時だ――。
黄金に輝き出した『妄想図鑑』がパラパラと乾いた音を響かせた。そして――光の中から黒い影が顕現した。
ベージュの髪を巻貝のように束ね、黒い肌に白い眉とまつ毛が、この世界のどの種族にも属さない――異様な雰囲気を醸し出す女性。
胸部装甲には巨大な円形紋章が刻まれ、そこには――『キャベ神』の文字が浮かび上がっていた。
琥珀の瞳でこちらをちらり。その瞬間、頬と唇はレッド・ローズに染まる。
肩部には葉脈を思わせる装甲に、たおやか、かつ豊満な胸元。
X型の銀のへそピアスを輝かせつつ、獣皮を思わせる腰巻きを靡かせながらこちらに歩み寄る。
白のガーターに網タイツ、装甲と同じ紋章が浮かぶヒールが大理石に冷たい音を響かせた。手足には緑色のガントレットを備え、盾を携えつつ、その盾には、キャベツの葉を象徴する紋章が描かれている。
――その姿は至極神々しかった。
彼女が無言で手を翳した瞬間、緑光を帯び、まるでキャベツの葉のような光が、ゴクトーの全身を包み、ゆっくりと折り畳まれる。
その刹那、目の前には緑、黄、白の眩い三光の筋が重なり、混じり合った。
バクッと動き出すゴクトーの心臓――その鼓動とともに、白目を剥いていたゴクトーの目に正気が宿り、彼の意識が戻った。
――そして。
ゴクトーが目覚めた瞬間、『妄想図鑑』のページには、新たに『キャベ神』の名が記された――。
読んでくださり、ありがとうございます。
最後、ゴクトーの胃にトドメを刺したのは、桃色姉妹の【ドナイヤ】でしたw
次話は『妄想図鑑』です。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです。☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




