新たな拠点編 20 〜【ドナイヤ】の新作から逃がれられない〜
ダ…ダーク・ファンタジー路線に向かう……は……ず……では? ('◉⌓◉’;)
「ふふふ、良いわ。アタシにバッチリ! さすがココリドさんの作品ね。
この【ナイト・ブラックボム・ドナイヤ】――黒いレースにはお色気上昇の付与も施されているし……このガーターについている♡のチャームがポイントね。アタシの『継承の紋』まで消してくれる効果もあるし……筋肉隆々のアタシの身体の見た目まで、しなやかにもしてくれているわ」
姿見に全身を映し、頬を染めるエリナ・エイマス。
ゴクトーの屋敷内、2階の回廊の奥に用意された女性部屋で、彼女は一人つぶやいていた。
「昨日の夜の話だと――地下の温泉組み上げポンプ装置に異常はないって、ポロンヌナも言ってたし、大浴場には、檜風呂と薬湯風呂が併設してあるのよね。よーし。これで、旦さんのあの妄想眼”死線”まで釘付けにできるわ。
ちょっと、『中身』まで見られないか心配だけど、まぁ旦さんならいいか!ドキドキしちゃうけど、楽しみだわ!」
ニンマリしつつ、クローゼットからふわふわのきなり色のバスタオルを取り出し、さっと身体に巻きつけたエリナは「ふふん〜♪ふんふん♪」と、鼻唄混じりに部屋を出て、長い回廊をコツコツと足音を響かせながら歩く。
角を曲がる寸前、エリナの鼓膜に「ブイィィーーーィィン!」とした重厚な空気を裂く音が響いた。
エリナは物音に警戒しつつ、角を曲がる。
そこは陽の光が、大きなガラスドームの天窓から静かに差し込んでいた。床一面に敷き詰められたオーク材のフロアは温かな色合いを帯び、壁一面を覆う古びた書架には、無数の本や地球儀が並び、ズードリア大陸の長い歴史――知の蓄積をこの部屋が物語っている。
螺旋階段まである書斎の二階にも、貴重な一冊だろう厚手の本が、きちんと整頓されていた。
豊かな緑が茂る温室のテラス、外には穏やかな丘陵と遠くには、ポツリと数軒、二階建ての家が見える光景が広がっていた。その静謐な空間の中、真鍮のパイプと革張りのソファが絶妙に馴染んだ部屋で、メイドが真剣な表情で、重厚な音の発信源である清掃魔導具――そのT字型の先端を板張りの床に滑らせていた。
黒と深紅のクラシカルなメイド服は、大胆に胸元が開いており、黒のガーターストッキングに身を包んだ彼女は、どこか妖艶で気品のある佇まいをしていた。
エプロンには炎の意匠が描かれ、両手には――レトロなデザインの『魔導掃除機イダ・ソン』が、しっかりと握りしめられている。
ふと気配に気づいたメイドの彼女が、スイッチを止め、『魔導掃除機イダ・ソン』の柄に軽く身体を預け、こちらに視線を向ける。
「……おや、エリナ殿。お早うさんにござんす。その格好は、下の階の大浴場に向かわれるんで?よかったら、あっしがお連れしやしょうか?」
赤絹・シタギがエリナに、ふっと優しく微笑みながら掃除の手を止めた。
「ええ、場所がイマイチだからありがたいわ。それにしても――あなたって、旦さんの『妄想図鑑」から召喚されたのにも関わらず、普通の人種に見えるのだけれど……」
「はは、そうでござんすか。嬉しいでござんす。エリナ殿、おひけぇなすって!」
いきなり、右の手の平を差し出し、目線を低くしながら構える赤絹・シタギに、ゴクリと唾を飲み込むエリナは気圧されつつ、釣られたように同じ姿勢を執った。
「よござんすか? ご主人様の『妄想図鑑』によると――分類名は、艶姿顕現型・超妄想精霊と、記されたあっしでござんすが、メイドの業務には、何ら差し支えないでござんす。
ただ、一点……ご主人様が戦えとおっしゃれば、 この自称『赤三角』の名において、 神代ゆかりの魔法――【幻衣招来】や【妄想護身結界】を駆使するでござんすよ」
「……そうでござんすか……あ、いけないアタシったら釣られて……」
「ふふ。仁義は切りやした。『袖振り合うも他生の縁』と、小耳に挟んだことがあるでござんす。エリナ殿、では、大浴場に参るでござんす!」
戸惑うエリナの腕を引っ張りながら回廊を歩くシタギだった。
一方その頃、部屋の空気が一触即発のデッドゾーンに突入している――ゴクトーの執務室兼寝室では。
「客室にお泊りのアナ・ドレン少将様と、ミテミナ・ビボウ中将様が、オーダーしていた【ドナイヤ】が出来上がったので、見ていただきたいと――ご主人様がお目覚め次第、大浴場での朝風呂と朝食をご希望されておりますが……いかがいたしますか?」
冷静かつ淡々としたエレノアの報告に、アカリとジュリ、さらにバスタオル姿のモンロー・リマリが動きを止めた。目を丸くするミリネアとミンシアも固まる。
一方でアリーとイブ、ココのインナー姿の三人は、コガラを撫でながら微笑を浮かべていた。
「大浴場での朝風呂と朝食」「少将と中将からのドナイヤのオーダー確認」というワードが、彼女たちの頭の中で静かに反芻される。
この修羅場の直後、ゴクトーは大浴場へ直行し、そこで待つ軍人たちとの混浴を希望されているのである。
「ゴクトー様……?」
エレノアの問いかけに、ゴクトーは瞬きもせず、もはや言葉すら出ない。
「閣下、昨日おっしゃってましたよね。皆、疲れているだろうから……明日は一緒に温泉にでも浸かろうって……」
ココが自分のオレンジ色のインナー姿を改めて見下ろし、顔を真っ赤にしてつぶやく。
「アタシも昨日の夜の記憶、途中でプッツリ途切れているし……」
ミンシアも緑色のT型インナーの緩む紐を結び直し、ドレスの裾を整える。
部屋中の視線が、冷や汗まみれのゴクトーへ、一斉に突き刺さった――。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
「ご主様、まずはワタクシたちと……」
ミリネアが黒縁眼鏡をクィッと押し上げ、エメラルドグリーンの瞳に、ただならぬ圧力を宿し、ジリジリと詰め寄ってくる。その背後では、アリーが「にゃっ? ゴクにぃ、顔色が真っ青だにゃ?」と、無邪気に首を傾げていた。
……やばい、このままでは、本当に胃袋に穴が開くどころか、
女性陣の怒りで屋敷ごと吹き飛ぶ……ッ!
絶体絶命の危機を察知した俺は、限界突破した生存本能をフル稼働させ、咄嗟に口を開いた。
「ま、待てみんな! 昨晩はだな、外の魔族の警戒と、屋敷内部の安全確保についての『極秘の緊急作戦会議』の結果だな、こうして互いの信頼を示すために……その、だな!」
「「「「「「「……で?」」」」」」」
全員の目が完全に、『殺し屋』そのものになっていた。
言い訳が一切通用しない空気の中、リマリだけがふふっと優雅に微笑み、「まあ、伯爵と二人きりの濃密な作戦会議だったことは、間違いありませんわね♡」とさらに火に油を注いだ。
いい迷惑である公妹の言葉に、悲鳴すら出ない。
絶望の淵に追い込まれたような今の俺に、救いの手を差し伸べるが如く――『妄想図鑑』の中から、ひょっこりと『江戸っ子鼓動』が顔を出した。
「旦那? あまり姐御方をいじめると、あっしが図鑑に書き込む備考メモ、『試着レポート』が大変なことになりますよ。しししっ!」
「おい鼓動ッ!その笑い方ッ! ……ってか、この状況を助けてくれるんじゃないのかッ! お前、監修だからって……好き放題言うよな」
迫り来る女性陣、大浴場で待つ軍人たち、昨晩の記憶の本当の結末。
過酷すぎる朝の俺の戦いは、まだ始まったばかりだった――。
その様子を天上界で見ていた、女神東雲が唇に弧を描きつぶやく。
「ゴクトー君、こっちの彼女たちも気合が入った――【ドナイヤ】を身につけているわよ……ふふふ。わたくしも……新作を」
楽しそうに大スクリーンの画面を切り替える女神東雲は、屋敷内の女性部屋を見ながら、神具タブレットで通販サイトを開く。
その大画面に映し出されたのは、アナ・ドレンだった。
「彼女の白い肌に、紺色と金刺繍が際立つわね。ガーターサスペンダーと編み目の細かいタイツは、ああ、なるほど。
魔鋼蟲が吐いた貴重な銀糸で紡がれているのね。魔法の付与は、っと……美肌効果と身体を細く見せる、幻惑魔法が施されているのね。さすがココリドブランド……ネーミングがすごいわ。
【クギズケニ・シタラ・ドナイヤ】なんて、これじゃぁゴクトー君もメロメロね。素敵。わたくしもポチッと!」
女神東雲がタブレットに集中する中、ふとアナ・ドレンが髪を束ねながら振り返る。
「誰かに見られている気がするわね……まさか魔族?」
殺し屋の目をする女性陣のイラスト、アニメのように詰め寄る感じを出すのに苦労しましたw
エリナ・エイマス、アナ・ドレンの【ドナイヤ・シリーズ】は、デザインにこだわりありです(╹◡╹)♡
読んでくださりありがとうございます☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




