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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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始祖の一族






挿絵(By みてみん)

(*ヒドラのイラスト)



 ーーこれは、天が記した最後の記憶。





「……くそっ、まさか、もう一体……!!」


 マグナス・ファン・トランザニヤ、最期の戦場。


 彼の周囲に広がるのは炎に包まれた討伐隊の亡骸。


 

 片方のヒドラは既に瀕死ーー

 だが、もう一体が背後から迫る。その一体は見るからに異形。

 頭。目。爪。鱗。9つの頭全てが赤い。


「ふん、貴様らごとき"化け物”が、このマグナス様を倒せると思うなああああ!」


 マグナスは最期の力を振り絞り、両手を掲げるーー!



「【エターナル・ブレイズ】!!!」


 

 "ボォ───ォッ༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅!!!”  


 巨大な紫炎の柱が天を衝き、一体のヒドラを焼き尽くすーー!



 しかしーー「…っ! ……がふっ……」


 もう一体、異形なヒドラの尾が彼を貫いた。


 ポト…

 静寂の中、滴り落ちる赤い波紋。



 ーーその瞬間。


「始祖に連なるものよ……」


 内に宿る何者かの意思を紡ぐように、異形なヒドラの目の奥が黄金色に閃く。

 そしてマグナスを嘲笑しつつ、ヒドラはその場から飛び去った。


 「我の力が及ばんか……。

 さすが……始祖の源流……。……ふっ……赤髪か、なるほどな……」


 つぶやき微笑むマグナス。


 彼は最後の力で魔導具を起動し、遺言を残す。


「兄上……!…チビナス…国を……頼む…」



 ーーそして力尽きた。

      






 ◇ 




 ーー運命を変える刻は訪れた。

 次男マグナスがヒドラ討伐に出陣してから十日が過ぎ、さらに二十日が経った。

だが、討伐隊からの報告は一切なく、時間だけが虚しく流れていく。


 小国トランザニヤ各地では、ヒドラの被害が拡大し、事態は深刻さを増していた。


 そこにーーありえないほどの衝撃を与える報告が届いた。


「何! ヒドラが二体だと!?」 


「…………」


 ヒドラの被害は拡大し続けてるという。

 その報を受け王宮は静まり返る。

 

 その直後ーー重厚な扉が開き一人の男が現れる。


 黒い執事服、鋭い金色の瞳を持つその男ーー王爵家に仕える執事、イワン。

 彼の強面には、無数の縫い傷が刻まれ、その存在感が場の緊張をさらに、張り詰めさせた。


 イワンは玉座の前で、コト……と跪く。

 静寂の中、彼は低い声で告げた。


「……遺憾ながら、マグナス公爵様の討伐隊が全滅したと……」


「…………」


 彼の言葉は凍りつくような重さを帯びていた。


 「……マグ兄…………」


 ドミナスはつぶやき、兄の顔を思い浮かべる。

          


 豪快で、自信に満ちていた、マグ兄。

 雪山で僕の手を優しく握ってくれた…

 今でも、あの温かさは忘れたことはないよ……。

 

 目に涙を浮かべるドミナスの記憶が甦る。


 王爵、長兄のオブリオは拳を握りしめる。

 その拳はかすかな光を放ち始める。

 オブリオは右の唇を犬歯で噛み、震えながら発する。


「馬鹿な……! ……マグナスは我と同等の神代の……【古代魔法】を操る力を持つのだぞ。その実力があれば、ヒドラごときに屈するはずはない!」


 オブリオは声を張り上げた。

 だが、イワンの沈黙が報告の真実を物語っていた。

 その光景にオブリオは大きく肩を落とした。


「……マグナス……貴様が……くっ!」


 オブリオの頬を涙が伝い、滴となり足元に落ちた。


 肩を震わせ瞳を潤ませているーー末弟ドミナス。


「……兄上、この件は、このドミにお任せいただけないでしょうか……?」


 ドミナスは震える声で跪き床に涙を落とす。


 オブリオの瞳が揺れる。


 これで2人目……お前まで失うのわけには……いかんのだ。

 ……お前の顔……ドミよ。いつの間にか……

 トランザニヤ家の誇りが滲むーー良い顔になったな。


 その決意を前にオブリオは深い苦悩を抱えつつ、黙したまま頷いた─ー。





 *** 




 夜の(とばり)が降りる頃、オブリオの寝室ではーー

 会議を終え、感情を抑えきれないオブリオは自室へと戻った。


 そこにはベッドで無邪気に眠る双子の息子たち。

 隣で穏やかな寝息を立てる、八歳の愛娘の姿があった。


 「……あなた」


 その隣に横たわっていた女性が目を覚ます。


 『絶世の美女』ーーとは、まさに彼女のことだろう。


挿絵(By みてみん)

(*マルソーのイラスト)


 年の頃は三十代。


 その姿は母乳を与えているのか、小柄な身体に不釣り合いな程、張り出した胸元が気高さを漂わせていた。


 「起こしたか……」


 「シィ───!子供たちが起きてしまいますわ……」


 囁き、オブリオにそっと笑みを浮かべる。


 彼女の名はオブリオの妻マルソー。


「その顔。その仕草も『カルディア魔法学院』の頃から変わらんな……」


 そうつぶやき、オブリオは若かりし頃を思い出す。


 彼女はアドリア公国の第三王女。


 幼い頃から「栴檀(せんだん)は二葉より香わし」と称され、神々たちの間ではその才能と美貌が語り草となっていた。


 やがて『アドリアの栴檀』と呼ばれるようになる。


 その噂を耳にしたオブリオ。


 彼は亡き母に背中を押され留学を決意し、彼女と出会った。


 そして運命を変える日々が始まることとなるーー。


 マルソーはオブリオにゆっくりと歩み寄る。


「長い会議をしていらしたのですね。お顔に疲れが滲んでいますわ」


 彼女は労わるようにオブリオの頬に両手を添えた。


 その口元にはチラリと犬歯が覗く。


「マルソー……」


 触れられるだけでオブリオの心は少しずつ癒されていく。

 マルソーは、そっと襟元を引き下げ首筋を差し出した。



「どうぞ……お召し上がりくださいませ」


「……すまない」


 

 マルソーは瞼を閉じる。次の瞬間、オブリオは犬歯をマルソーの首に突き立てた。

 小さな声を漏らしながら、マルソーは夫の身体にしっかりと抱きつく。


 吸血が終わるーーその穿かれた穴は塞がり、痕跡もない。

 母乳を与える張り出した胸元は、吸血の行為と何か特別な繋がりを持つかのように揺れる。


「あなた……少しは楽になりましたか?」


 マルソーはオブリオを見つめ微笑む。

 そして彼女は愛娘の隣に横たわり静かに目を閉じた。


 『始祖の一族』が持つ特殊スキルーー【吸血】。


 それは『眷属化』の鍵でもあった。

 それは血を与えた者を眷属とした。

 さらにその力を奪い姿を変えることすら可能とする。



 まさにーー【神】に等しい力だった。





 ***





 寝室を後にしたオブリオは王宮の隠し扉を開け、地下へ続く階段を駆け下りた。


 そこは『トランザニヤ家』の者だけが入ることを許されるーー秘密の地下室。


 オブリオは右手の親指を齧り、輝く青い魔石に手を触れた。



 その瞬間ーー彼の魔力(マナ)と血に反応し扉が重々しく開いた。


 

 地下室に足を踏み入れた瞬間、彼は異質な空気に包まれた。


 魔導具や武器が祭壇に祀られ、どれも古びている。

 だがその中で一際、強烈な魔力を放つものがあった。


 白い古代文字が刻まれた魔法陣の中央に鎮座する一本の刀。

 その名は亡き母から受け継がれた伝説の七星の武器ーー【桜刀】。


 「……まさか、これを使う時が来ようとは……」


 

 オブリオは静かに呟きながら【桜刀】を手に取る。


 その(やいば)を見つめ、彼の目に揺るぎない決意が宿る。


 【桜刀】の刃はわずかに桜色の光を放ち、幻聴のような亡き母の声が彼の胸を打った。


「マグ……この兄が、必ずお前の仇を討ってみせる!」


 オブリオは【桜刀】を携え、地下室を後にした。


 彼の背には、『トランザニヤ家』の運命を背負う覚悟が刻まれていたーー。
















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