新たな拠点編 16 〜外・魔・天・内〜
ダークファンタジーになってきましたかね? Σ('◉⌓◉’)
灰青色の魔力が渦巻く中庭で、ヒバラガガは冷徹な笑みを浮かべたまま、その鋭利な爪を不気味に光らせていた。
「所詮は末裔の小童よ。その程度の力で、我が野望を阻めると思うな」
ヒバラガガの繰り出す手刀は、空間を引き裂くような真空の刃となってノビへと襲いかかる。
ガキィィンッ!
凄まじい衝撃音が響き渡り、ノビの小さな身体が地面を滑るように吹き飛ばされた。全身の衣服は裂け、あちこちから鮮血が滲み出ている。
息を荒げ、膝をつきかけるノビ。だが、その瞳の奥にある炎は――絶望の色に染まるどころか、より一層激しく燃え盛っていた。
(ここで倒れたら……ゴクどーさんに、みんなに顔向けできねぇんさ……っ!)
二年前のあの時の自分を思い出す。
守りたいものがあるのに、全力を出しきれなかったあの日の悔しさが、ノビの胸の奥底からマグマのような熱量を呼び起こす。
――師であるパメラから教わった魔法、そして、彼女の背中を追い続けてきた誇りが、ノビの肉体の限界を強制的に突破させていく。
ズプッ……と、ノビの両腕がさらに音を立てて膨れ上がり、黄金色の奔流が血管の形に沿ってバチバチと激しい火花を散らした。それはただの怪力ではない。
――理不尽の領域に踏み込んだ、魂の重みそのものだった。
「したっけ……ナメるなよ、クソ野郎がっ!」
ノビの怒号が、殺伐とした中庭を切り裂く。
大地を蹴った瞬間、足元の敷石が粉々に砕け散り、ノビの姿がかき消えた。
ヒバラガガの瞳が驚愕に大きく見開かれる。
「【ギガント・ナックル】!」
ドゴォン!
ノビの左拳が石畳、否――大地に大きな穴を穿つ。
咄嗟に躱したヒバラガガだったが、その拳風は凄まじく――身体ごと弾き飛ばされ、バァァァァンと耳を覆いたくなるような、凄まじい衝撃音とともに、石壁に叩きつけられた。
石壁にめり込みつつ、震える身体で立ち上がったヒバラガガは、「ゲフッ!」と吐血した。
その様子を黙って見ているノビではなかった。
だが、蹌踉めくヒバラガガが、琥珀の目と鋭い爪を怪しげに光らせる――。
その刹那、目にも留まらぬスピードで大きく振り被り、ノビめがけて渾身の斬撃を放った。
バシュッ!
切り裂かれるノビの身体から鮮血が迸る。
だがーー。
ノビは怯まずそのまま突っ込んでいく。
「…っく、な、なにーー!?」
ヒバラガガに防御の構えを取る間すら与えない。
血塗れのノビの身体はすでに、ヒバラガガの懐を掠めるまでに近接していた。
その瞬間、ノビの目は白く濁り、その身体には白い【闘気】が纏う。
「うおおおおおおおおっ!」
絶叫とともに高さにして15メージ(m)は飛び上がっただろう。
宙空でバク転した彼はそのまま、スピードを乗せ、身体をぐるぐると回転させながら螺旋状に落下し、旋風を巻き起こす。
「カエル拳【スパイラル・ハリケーン】!!」
太陽の如き黄金の光を纏う右拳をコークスクリューの如き勢いで、ヒバラガガに打ち込んだ。それは直撃の瞬間、周囲の空気を完全に圧縮し、凄まじい衝撃波の爆心地を作り出した。
ドゴォォォォンッ!!!!!
大地がひしゃげ、中庭全体が縦に揺れ、ヒバラガガの鍛え上げられた体躯が、くの字に折れ曲がった。
ノビの拳の一撃によって大地はひび割れ、石畳が砕け散り、旋風が巻き起こした砂塵が朧月の照らす夜闇に霧散した。
あまりの衝撃に、ヒバラガガは正気を失ったような――悲鳴すら忘れて、口から緑の鮮血を吐き出し、そのまま瓦礫とともに埋もれた。
静寂が、一瞬だけ中庭を支配する。
砂煙が晴れ、禍々しい大きな魔石がその穿かれた大地に一つ、怪しげな紫光を放つ中、すでにヒバラガガの姿は消失していた。
ノビはその場に片膝をつき、荒い息を吐き出しながらも、しっかりと大地に立っていた。小さく震える右腕から、白い【闘気】がスーッと霧散していく。
ボロボロになりながらも、その背中はかつてのノビではなく、
まぎれもない「S級の英雄」として――圧倒的な存在感を放っていた――。
一方その頃、ズードリア大陸南東、魔族の島ガーランドの王宮の一室では。
暗い部屋の中で、凄まじい歯軋りの音が響く。
斥候の『魔蝙蝠』の赤い瞳が映し出していたその光景に、唇をグッと噛み、僅かな緑血を滲ませる灰色の異形――その魔族が独り言を漏らす。
「……このキライマカ様配下では、屈指の頭脳派、あのヒバラガガが、まさか倒されるとは……くっ! ハーピット族の末裔ごときと侮っておったわ。
ヒバラガガよ――お前は、あの小童を舐めてかかったせいで深淵の闇、六道の最下層へ帰ったのだ。 せいぜい……もう戻れぬこちらの様子でも夢見ながら、八寒地獄――灼熱の炎湯にでも浸かって、もがき苦しみ続けるが良かろう。
その魂すら永劫に彷徨う――地獄の輪廻で、我を待っておれ! けけけ……」
次の瞬間、ガッシャーンッ!
四本の指からなるキライマカの握った拳が、通信水晶を叩き割った。
散らばるガラス片を三本指の扁平足でジャリ…っと踏み鳴らしつつ、その部屋を後にする。
「こうなれば……『あやつ』を幽閉から解き放つしかあるまい。けけけ……
『蛇蝎の魔姫』と呼ばれた、もう一人の副官、ガリス・シャデをな。 ハーピットの小童、貴様は必ず地獄に送ってやるわ……ヒバラガガが、首を長くして待ってるぞ!」
そうつぶやきながら、キライマカは、地下牢に繋がる重厚な扉を開いた。
魔族の宮殿で発せられたキライマカの恐ろしいまでの呪詛は、天上界の神々に鳥肌まで立たせた。
眺めていた神シロが眉を寄せながらポツリと零す。
「蛇蝎の魔姫ガリス・シャデじゃと?……あの『闘神・蛇蝎のハデス』の娘がいたとは驚きじゃ……」
その言葉に妻の女神東雲も唇を噛む。
「かつて、上位神だった『蛇蝎のハデス』様は……龍族の娘と恋に落ち、創造神様の逆鱗に触れ、堕天されたと聞きましたわ……!」
その二人の神の会話など「お構い無し」に、黒銀の瞳を閃かせるトランザニヤが、口を開く。
「ゴクトーの屋敷を襲った魔族たちも……あらかた、方がついたようだぞ。本人も魔族の気配自体は、気づいては、いたのだろうが――アドリアの公妹にも離してもらえず、場を離れることもできずで、そわそわと落ち着かない様子だぞ……笑えるな。ししし」
「その笑い方ッ!ゴクトーじゃな」
「その笑い方!ゴクトー君と同じっ!」
トランザニヤにツッコミを入れる――。
夫婦漫才の神シロと女神東雲は、さておき。
――その頃、ゴクトーの屋敷内。
魔族の襲来にゴクトーの仲間たちが苦戦を強いられつつも、なんとか勝利を収めたことなど知る由もない――来賓の貴族たちは、『トリオ』の美しい音色が響く中、社交ダンスに興じていた。
窓の景色には創造された美しい夜景が映し出されている。
メイド長紅子の特殊技能――【魔導障壁】の結界魔法が駆使されていた。
周囲の空間に、高密度の魔力フィールドを展開し、物理・魔法攻撃を問わず、音すら完全にシャットアウトする絶対防御だった。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
《「ミリネア、気づいているだろうが……魔族の気配だ。この【邪気】の多さは尋常じゃない。仲間たちが心配なんだ。ここから一刻も早く……中庭の方へと向かいたい。
さっきから俺にまとわりついてくる、この公妹殿下をなんとかしてくれないか……?」》
大胆に美しい緑のドレスの裾を靡かせ、緑のガーターと柄タイツに包まれた美しい脚を惜しげもなく、貴族たちの好奇の目に晒す――こちらに歩み寄るミリネアに俺は念話を飛ばした。
《「ええ、ご主様。とりあえず今は、警備担当の仲間に、外でのトラブルは任せるのが良いかと。ですが、「いつ、この屋敷内が火の海に変わるか、わからないので」と、晩餐会場の出入り口に、ココ殿が張り付いてくださっております。
一方でポロン殿には、地下の動力室で待機していただき、ワタクシの妹たち、ミンシアとミーアも、二階からこの晩餐会の警備を行なっております」》
ふっとスカートを払って右隣に座るミリネアの念話に、安心しながらも、俺は頭の中に言葉を並べた。
《「さすがの采配だな……ミリネア。 この会場内には、お前と同じ……【七つの大罪】のエリナをはじめ、執事のエレノアが目を光らせてくれている。
それに、メイド長の紅子を筆頭として、エリナの妹たち、赤絹・シタギ、ミラ・アカノも、上手く貴賓たちに対応しているし、パメラやイブは貴族たちとの会話も、そつなくこなしている。
さらに、アリー、アカリ、ジュリも会場内を警戒している様子が見て取れる。だから、ここは心配ないだろう。ミリネアもいるし……」》
頬を赤らめるミリネアの念話の返しが俺の顳顬に響く。
《「ですが……公妹殿下のご機嫌を損ねるのは、いかがなものかと……ここは仲間たちを信じて、ご主様は接客に集中を」》
眼鏡の奥――エメラルドグリーンの瞳に、どこか嫉妬の色が滲むミリネアが肩をすくめた。
一方で俺の左隣に座る、妖艶な公妹、モンロー・リマリ・アドリアが右腕を絡め密着し、左腕にワインを傾けつつ、まるでその柔らかい胸の感触を自慢するかのように微笑む。
「ゴクトー伯爵、よろしければ、次の茶会にご招待いたしますわ」
モンロー・リマリの言葉が紡がれたその瞬間、その声を掻き消すかのように、
「エリナしゃん、あの時は助けてくれてありがとにゃ!」と声が上がった。
カルテットの演奏が鳴り止む中、アリーがエリナに駆け寄る。
アリーとともに、イブとパメラもエリナを見つけ、笑みを浮かべた。
「エリナ殿、久しぶりじゃ。妾たちを救うてくれた恩は忘れてはおらぬゆえ」
「お久しぶりね。あらエリナさん、ちょっと綺麗になったわねん?」
イブとパメラの何気ない会話に、困惑するエリナが口を開く。
「ええ、久しぶりね……みんな、油断は禁物よ。この会場でさっき、魔族の、それもアタシが見たことのある――四天王の一人、ドルサードを見かけたわ……」
小声で囁かれたその内容に、イブたちが目を丸くし、息を呑んだ――。
読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き楽しんでいただければ僥倖です。
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