新たな拠点編 14 〜薔薇の香りと、震える七星〜
ちょっと長いですが……ダークファンタジーに寄りにしてみましたΣ('◉⌓◉’)
豪奢なシャンデリアが眩い光を投げかける、ビクトリア朝の優雅さと無骨な機械文明が融け合う――スチームパンクのデザインを取り入れた大広間。
壁面には剥き出しの真鍮の歯車を噛み合わせた巨大な時計が鎮座し、まるで館の主、ゴクトーの権威を示すかのように重厚な時を刻んでいる。
アーチ状の巨大な窓の向こうには、青白い満月が夜空を照らし、幾隻もの飛行船が悠然と夜空を漂っていた。
階下では、豪奢なドレスや夜会服に身を包んだ、貴族たちがシャンパングラスを片手に談笑の華を咲かせている。しかし、ある瞬間を境にざわめきはふっと途絶え、彼らの視線は一斉に、上方へと引き寄せられた。
真紅の絨毯が敷き詰められた大階段。そこをゆっくりと降りてくる二つの影。
右腕を負傷したゴクトーに寄り添い、優雅にエスコートしているのは、ハイエルフ――長い耳を持つ緑髪の女性、ミリネアだ。
エメラルドグリーンを基調とした豪奢なドレスは、彼女の豊満な胸元と、ガーターに縁取られた――しなやかな脚のラインを大胆に覗かせている。
歯車をあしらった金色の装飾が光を反射し、知的な眼鏡の奥で輝く彼女の微笑みは、見る者を惹きつけてやまない魅力を放っていた。
そして、彼女に腕を預ける男――ゴクトー。
銀色の髪を微かに揺らす彼の右腕は、痛々しく真っ白な布で吊るされているが、その足取りに一切の揺らぎはない。
紫と金の意匠が施された――アドリア公国軍、最高司令官の肩書きに相応しい漆黒の軍服を纏い、泰然自若とした佇まいで階段を進む彼の姿は、負傷など微塵も感じさせないほどの絶対的な威厳に満ちていた。
コツ、コツと、二人の靴音が赤い絨毯に吸い込まれるたび、貴族たちの間をさざ波のように感嘆と畏怖のため息が広がっていく。
華やかな夜会の空気の中、傷を負いながらも風格を漂わせる男と、彼に寄り添う美しきエスコートの降臨は、まるで劇的な名画の一場面のように、大広間の時を鮮やかに切り取っていた。
豪華絢爛たるゴクトー邸の大広間にて、開かれる晩餐会。そこには、アドリア公国の重鎮たちも顔を揃えていた。
照明に輝く豪奢な黒いローブをバッと払いつつ、円卓に座りながら朗らかに微笑むのは――公王の覚えもめでたい、老齢な貴族『イイダル・コス・ハルツーム卿』。
白髪の彼は、ワイバーンの討伐の成功報酬として、ゴクトーに名と爵位、私有地まで与えた人物である。
一方で杖をコツコツと突きながら派手な装飾が刺々しい、白いローブを靡かせつつ、イイダルの左隣の席につく老獪な貴族は、アドリア公国の東に位置する辺境の地を治めている――『マヌカン伯爵』。
光らせる頭、杖とローブのせいなのか、どこかの司教に見える。
イイダルの右隣には、甥の『シモンヌ伯爵』が鎮座する。その恰幅の良い壮年の男は、ドシッと腰を据え、腕を組みながら座っていた。
円卓に座る男たちに微笑を浮かべながら「ごきげんよう」と、王族のみが許される、独特なカーテシーを見せる美しい女性が一人。
「筆頭宮廷女官長の公妹殿下ほどのお方が、このような場にいらっしゃるとは……」
「格下の貴族の晩餐会に、なぜ、公爵位のあのお方が?」
周囲の貴族たちから声が漏れる。
夜会の華――と言うべきだろうか。
イイダル侯爵の元へ向かう彼女は、公国の頂点に連なる血筋――『公王の身内』にのみ許された証、絶対的な権威と、圧倒的な美貌を誇示する、最高級の絹をふんだんに使った極上のドレスを身に纏う。
極限までくびれを強調するコルセットには、眩いほどの金糸の刺繍――光の粒のような宝石がびっしりと縫い込まれている。豊かな胸の谷間にちらつく赤いレース。その胸元をさらに飾るのは、彼女自身の透き通るような青い瞳とは対照的な、豪奢なルビーのネックレスが揺れていた。
シャンデリアの光を反射して放たれるその赤い輝きは、彼女の地位の高さをそのまま形にしたかのように、鋭く冷酷でもあった。
艶やかな茶髪を優雅に纏め上げ、大人の女性特有の余裕と色香を漂わせている。だが、夜会に集う貴族たちの視線を最も釘付けにしたのは、大きく開いたスカートの裾から、惜しげもなく披露された赤いレースのインナーと美脚だろう。
淡いピンクのガーターベルトと、肌を官能的に透かす、同色の緻密かつシアーなレースのタイツ。足元を飾るピンヒールにまで、精巧な宝飾が施されている。
格式を重んじる社交界の常識からすればあまりに挑発的、かつ扇情的な装いだが、『私に意見できる者などこの国には一人もいない』という、彼女の傲慢なまでの自信が、その着こなしをこの上なく――高貴なものへと昇華させていた。
円卓に座るイイダルやマヌカンといった老獪な重鎮たちでさえ、彼女の放つ魔性的な香りと、王家特有の息詰まるような威圧感の前には、ただ静かに微笑み返すことしかできなかった。
胸元のドレスを引き上げ整えつつ、慎ましやかに笑みを浮かべながら円卓に着席するその美しい貴人に、どこか気まずそうなイイダルが口火を切る。
「お久しぶりですな、モンロー・リマリ・アドリア公妹殿下、こんな田舎まで……ご足労くださるとは。 我が棚子のゴクトー卿も、さぞや誉も高いでしょう」
「いえいえ、わたくしも、メデルザード王国の留学から帰って来たばかりなので……筆頭宮廷女官長として着任して間もない上、領土の件を兄の公王から聞かされ、まだ独身のわたくしに、『彼のような男を婿にできたら、安泰だろう』と、強く勧められましたの。それでわたくし――ゴクトー伯爵が、どんなお方なのか……一度、お顔を拝見してみたかったのです」
イイダル侯爵に返すその言葉とともに、艶やかな唇を光らせつつ、卓上のシャンパンをクイッと飲み、モンロー・リマリはグラスについた桃色の口紅を親指で拭った。その艶やかな仕草に同席している伯爵たちの目が奪われる。
「この国の英雄ですからな……」
マヌカン伯爵とシモンヌ伯爵を、まるで『円卓の置き物』のようにしながらのイイダル侯爵とモンロー・リマリのやり取りに、周囲の貴族たちが息を呑む。
一方で、寡男だろう貴族たちの熱い視線など気にも留めず、モンロー・リマリが唇を動かす。
「ええ、英雄伝は聞いております。ですが、緑龍討伐然り、サイクロプスと魔族からこの国を救ったのは、あの方だと知らしめ、兄の公王に領土まで認めさせた――ゴクトー伯爵の大恩人であるイイダル卿も今や、王親族である我が公爵家を除けば、序列第5位の大貴族になられ、防衛大臣をも務めておられると……」
その言葉に置き物だったマヌカン伯爵がポツリとつぶやく。
「元々は子爵――わしと変わらん立場の辺境伯じゃったのに……」
杖をコツっと大理石に鳴らしつつ、ツルツルの頭を真っ赤にするマヌカン伯爵の言葉を皮切りに、シモンヌ伯爵が喉奥から絞り出すような低い声で零す。
「確かに……約二年半前、幸運にも、領地に新たなダンジョンが顕現し、ゴクトー卿は、見事にそれを踏破。
一躍、我が領地には、冒険者としての彼の二つ名――『八咫鴉』の名が広まったのです。そんな時でした……我が領地に訪れた危機。ですが、彼は仲間とともに、ワイバーンの群れを討伐し、その素材を叔父上が公王様に献上したのが、そもそもの始まり。いつの間にやら、イイダル侯爵領は、公国の約2割にまでなりましたから」
「そうでしたか……。イイダル卿がゴクトー伯爵の後見を務め、彼を公国軍総司令に推挙したのも納得ですわ。…ふふ。どんなお方なのかしら? 楽しみだわ!」
モンロー・リマリが、ニコリと笑い、シャンパンを一気に煽った。
イイダルがどこかほっとしたように、シャンパンを掲げ口を開く。
「ゴクトー・コス・ハルツームに!」
「「「乾杯!!!」」」
こうして円卓では、お互いの腹を探る政治戦が、静かに幕を開けた。
その時、その円卓にモダンかつシックで全身漆黒、美しく黒髪を纏め上げた女性が近づく。
そして、マヌカン伯爵の背後から彼女が声をかける。
「お久しぶりでございます。イイダル侯爵様、シモンヌ卿……お初にお目にかかります公妹殿下。わたくしはマヌカンの娘、次女のリュミエール・マヌカン・ネルルと申します。ご歓談中、失礼を承知で、ちょっと父上をお借りしたいのです。火急の知らせが……」
そう言って黒いドレスの裾を摘み上げ、黒いガーターストッキングに包まれた美脚をあらわに、見事なまでのカーテシーを執った。
「皆様、すまないが、少し席を離れさせていただきますな」
軽く頭を下げるマヌカン伯爵に寄り添うように、リュミエール・マヌカン・ネルルは、その場から去っていく。その黒いドレスの背中を見送るアカリとジュリに、金髪のエルフの執事、エレノア・ダンピールが声をかける。
「気を付けてください……彼女は匂う」
鼻を擦り、四角い黒縁メガネを掛け直すエレノアに、アカリとジュリが振り返り、無言で頷く。
リュミエールが去ったその場には、どこか薔薇にも似た妖艶かつ、心を鷲掴みにされるような、残り香が漂っていた――。
その香りは、遥か上空にまで上り詰め、天上界にまで届いた。その様子を大スクリーンで見ていた、トランザニヤの鼻をくすぐる。
「……っく、ドルサードの奴め、ゴクトーの屋敷にうまく忍び込んだもんだな」
つぶやくトランザニヤに神シロも頷く。
「しかし、この魔界で咲く花の甘い香り、『ネルル・ローズ』の邪気に、周囲の貴族たちが飲み込まれぬか、心配じゃ」
不安げな表情を見せる神シロに、女神東雲が微笑む。
「それについては大丈夫ですわ。メイド長になった紅子の【精神干渉耐性】が発動されておりますもの。彼女の機械化された電子頭脳と強固な魔術防壁により、
洗脳、幻惑、精神破壊など――あらゆる精神攻撃を無効化しますわ」
そう言って、彼女は大スクリーンに映し出された紅子を指差す。
そして、ふかふかな雲で作られたソファに腰を下ろし、唇を動かす。
「他のメイドたちも目を光らせてますし、給仕を滞りなくこなしながらも、サキュバスと一体化した執事のエレノアちゃんが、あの魔族、ドルサードと同類の【覇気】に気づいて、彼女をゴクトー君に近づけないよう――必死に動いておりますわ……さすが元【KOMNSO】のエージェントですわね」
「うむ……そうじゃな。それに、七星の武器が煩いほど共鳴しておる。ドルサードが隠し持つ【桜刀・黄金桜雪華】とコガラが持つ【黄金桜・一文字】、そして今、会場に足を踏み入れた、エリナ・エイマスが持つ【戦斧・ジェミニ】……持ち主しか、わからんその僅かな共鳴の響き。生憎、ゴクトーをはじめ、アカリ、ミリネアとミーア、それにアリーも七星の武器は、携帯しておらん。きっと気付かぬはずじゃ」
そう言って、スクリーンの大画面を警備会社のように、コマ割りする神シロを他所に、モンロー・リマリが身につける赤のインナーセット――【モエル・ジョウネツハ・ドナイヤ】をしれっと「ポチる」女神東雲は、さておき。
天上の神々のことなど知る由もない、晩餐会では、周囲を黙らせる――圧倒的な威圧と美しさを併せ持つ、冒険者が現れ、注目を集めた。
――エリナ・エイマスその人であった。
戦士としての荒々しさと、アマゾネスの神秘、そして女性的な色気が絶妙な均衡で交じり合った――一言で表すならば、「戦場の優雅なる死神」であろうか。
背丈ほどもあろうかという――伝説の七星の武器、【戦斧ジェミニ】を背負う彼女。その鈍く重厚な銀の輝きを放つ刃には、星座になぞられた――神話の双子を象った神秘的なレリーフが彫り込まれている。
さらに刃の峰から柄に至るまで古代のルーン文字が、刻印されており、これが単なる物理的な断頭の道具ではなく、強大な魔力を宿した魔剣ならぬ――『魔斧』であることを物語っていた。
【七つの大罪】―― Lustの【美神】。そう二つ名で謳われる彼女の身を包むのは、深紅を基調としたコルセット風の豪奢な装束。胸元が大胆に開いたデザインでありながら硬質な革と銀の金属装飾。
そして――繊細な黒レースブラを覗かせる胴当ては、しなやかな曲線美を強調する。 肩から足元までゆったりと垂れ下がる外套。
腰回りには無骨な分厚いレザーベルトを幾重にも巻き、歴戦の冒険者たる機能性を備えている。そこには呪文が記された二本の羊皮紙の巻物――謎めいた薬品や触媒が入っているであろう革袋、そしていざという時に虚を突くための鋭いダガーが、手の届く位置に無駄なく配備されていた。
エリナの絶対領域を飾るガーターベルトと網タイツが、貴族の男たちの視線を集める中、背中の振動に気づき、小声でつぶやく。
「ジェミニが……震えているわ」
新キャラクター、モンロー・リマリはどうでしたか?
このリマリさんが、この後色々――Σ੧(❛□❛✿)
引き続き読んでいただければ嬉しいです☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




