新たな拠点編 12 〜誤算と後産〜
よーし、イラストも頑張ったし、ダークファンタジーですよね?Σ('◉⌓◉’)
「ご主人様!」
「閣下!」
ゴクトーはココとエレノアのただならぬ様子に眉をひそめる。
事情を尋ねられたゴクトーが「不審者だと……?」と顔を引き締めた瞬間、
彼の胸元がカッと熱を帯びた。
ポンッ!
景気の良い音とともに、
『妄想図鑑』の表紙が勝手にパカーンと開き、
中からお馴染みの『図鑑監修』の二つ名を持つ、
ナビゲーターが飛び出してきた。
「お呼びでない? いやいや、呼ばれてるでやんすよね、旦那!
ちょうど手伝いが欲しい頃合いだと、思ったでやんすよ!」
勢いよく飛び出してきた『江戸っ子鼓動』は、
両手を威勢よく広げ、テヘッと笑ってみせた。
「ちょうどいいでやんす! 人手が足りないなら、
図鑑の奥底からとっておきの『即戦力メイド隊』を呼び出すでやんすよ!」
「おい、鼓動ッ! 勝手に出てくるな! 即戦力って……誰を出す気だ?」
「決まってるでやんす!
妖艶な色香で敵を惑わしつつ瞬殺する『赤絹・シタギ』の姐さん!
青い蝶の姿で旦那の周囲を飛び回るが、姿を見せないーー
ミラクルでキュート、かつ戦闘力も抜群の『ミラ・アカノ』女史!
……そして、機械仕掛けの圧倒的破壊力を誇る『紅子』さんでやんす!
この三人をメイドにして、屋敷の警備に当たらせたら一番安心でやんす!」
『江戸っ子鼓動』がビシッと指を鳴らした瞬間、
『妄想図鑑』のページから、眩い光が溢れ出し、
廊下の空気が一気に華やか、かつ濃厚な色に染め上げられていく。
「主、お久しぶりにござんす」と、腕を組む赤絹・シタギの横で、
微笑を浮かべるミラ・アカノ。
そして、ギシギシと金属音を響かせつつ腰に手をやりながらーー
「主、図鑑を開いたら呼んでねって、言ってたのに♥」と、
ニヤリと笑う紅子が廊下に顕現した。
そんな中、目を見開くエレノアが、
カーテシーをとりながらゴクトーに告げた。
「それは母に聞いたことのある『妄想図鑑』……。
実はわたくしの母方の祖先は……
始祖の一族開祖『D・ヴァン・パパイア』でして……
わたくしにもこの機に、ぜひ、ご主人様の血の一滴を……」
エレノアの言葉に、廊下の空気がピクリと凍りついた。
ゴクトーが「はぁ……?」と間抜けな声を漏らし、
ココが「ちょっと、エレノア……!?」と目を丸くした。
『始祖の一族』という言葉の重みは、先日九音に起きたーー
『血の刻印』の件を経験したばかりのゴクトーにとって、
あまりにも生々しい響きだった。
しかし、当のエレノアは微動だにせず、
漆黒の燕尾服の裾を美しく翻しながら、完璧なカーテシーを決めてみせる。
そのダークエルフ特有の白い肌と濃紺の紐パンが、
室内のキャンドルの光を浴びて神秘的な艶を帯びていた。
「……エレノア……その……紺パン、見えちゃってますよ!」
ゴクトーが真っ赤になる中、ココがエレノアを叱った。
だが、エレノアはその言葉に耳も貸さず、そのままの姿勢で唇を噛む。
「ココ、良いの。ご主人様に見られるのは、やぶさかではないから……
冗談で言っているわけではないわ、ご主人様。
……私たちの血脈には、代々受け継がれてきた古い伝承があるの。
もし『始祖』の血を引くお方に巡り会えたなら、
その血の契りを結び、真の眷属として魂を預けよ、とね」
エレノアは艶然と微笑み、自らの首元を指で軽くスライドさせた。
その視線には、かつて国家安全保障組織ーー
【KOMNSO】の最前線で影の仕事をこなしてきた者とは思えないほど、
熱を帯びた絶対的な忠誠と、隠しきれない牝の狂気が揺らめいていた。
「……わたくしを完全に、あなたのものにしてくださる?」
静かに詰め寄るエレノアの気迫に、ゴクトーはゴクリと喉を鳴らす。
先ほどまで「不審者がどうこう」と真面目に話していたはずが、
またしても予想外の方向に話が転がり始めた。
「いや、あのな、エレノア。
九音の時もそうだったんだが、血を吸ったとか、与えたとかじゃ……」
ゴクトーが慌てながら言い訳をしようとした瞬間、
『江戸っ子鼓動』が叫びながら、
ぴょんぴょんと空中で跳ねつつ、横槍を入れる。
「何をモタモタしてるでやんすか、旦那!今、人手不足でやんすから!
始祖の血でガッツリ眷属にしちまえば、裏切る心配もゼロ、
働きも百人力でやんすよ!
さあさあ、赤絹シタギの姐さんたち同様に、
こちらの美形エルフも美味しく……
じゃなくて、ガッチリ掴んでおくでやんす!」
「おい、変な言い方をするな!」
ゴクトーが頭を抱えてツッコミを入れる中、
ココが面白がるような、否、呆れたようなーー
複雑な表情でエレノアを見つめていた。
パーティ会場の裏で不穏な影が忍び寄る緊迫の最中、
ゴクトーの周囲だけは、相変わらず濃すぎる愛憎と、
狂騒の渦に巻き込まれようとしていた――。
エレノアの瞳に宿る熱狂と狂気を見据え、
ゴクトーが「おい、ちょっと待てーー」と、
制止の言葉をかけようとした、その瞬間だった。
「……失礼するわ、ご主人様」
エレノアは艶然と微笑み、しなやかな足取りで一歩、
また一歩とゴクトーとの距離を詰める。
その動きには、【KOMNSO】で培った、
エージェントの気配など微塵もなく、
ただ愛する者に身を捧げるーー牝の本能と陶酔だけが満ちていた。
彼女はためらうことなくゴクトーの胸元に手をかけ、
その首筋へとスッと唇を寄せた。
「っ……!」
ひんやりとしたダークエルフの唇が、ゴクトーの肌に触れる。
次の瞬間、チクリとした鋭い痛みのあとーー
ピーーーーーーン
世界が一秒止まった、その刹那に、
熱を帯びた感覚がゴクトーの全身を駆け巡った。
九音の時と同様に、お互いの記憶、感情ーー
そして魂の奥底までが、
どくどくと脈打つ血を通じて完全に共有されていく。
ゴクトーの脳裏に、
エレノアが歩んできた孤独なエージェントとしての人生、過酷な任務の記憶、
そして、心霊の奥底に隠されていたーー
ゴクトーへの強烈な妄執と憧れが雪崩れ込んできた。
同時に、エレノアの意識の中には、ゴクトーが背負う、
『始祖の一族』としての途方もない広がりと、
仲間たちに向けられた温かな想いが流れ込んでくる。
(ああ……これだわ……! なんて、甘美で、完璧な世界……!)
情報の洪水と快楽のあまり、エレノアの瞳はうっとりと潤み、
その頬は紅潮し、全身の力が抜け落ちるような絶頂の悦びに包まれた。
彼女は感極まり、ふらふらと蹌踉きながら、
ゴクトーの胸元にしなだれかかった。
「ああっ…… ご主人様、最高ですわ……!
魂まであなたのものになった証拠に、
今すぐこの服を脱ぎ捨てて、この身のすべてを……っ!」
「おいおいおい、待て待て待て! 燕尾服を脱ぐな! ここは廊下だぞ!」
ゴクトーが冷や汗を流しつつ、
必死に左腕でエレノアを押し止めようとしたその時、
事態はさらに斜め上へと加速した。
ーー空気の読めない軽快な音とともに、
『妄想図鑑』のページが、勝手にパラパラとめくれ上がった。
ポンッ!
その音とともに、漆黒の煙が漂う中、
もう一人、いや、もう一体と言うべき『眷属』が飛び出してきたーー。
「ちょっと! 随分と濃い口の愛の儀式が執り行われてるじゃな……い?
眷属の僕に黙って、何をしているのかしら……?
主、これはどう説明を?」
現れたのは、小悪魔じみた漆黒の翼を広げ、
妖しいピンク色のオーラをまとったサキュバスーー
『ズット・ハート』だった。
その刹那、周囲には僅かな緊張感が漂い、
どこかバニラのようなーー甘い匂いと妖艶な”何か”が立ち込めた。
その光景に目を丸くするココが絶句する。
図鑑を見慣れた彼女だったがーーズット・ハートを見たのは初。
驚くのも無理はない。
同様に、四角い眼鏡を掛け直し、
何度もズット・ハートを見返すエレノアの心拍数が一気に上がった。
おそらく、それが、ズットハートの妖艶な”何か”なのだろう。
「ふふ。二人とも驚いているわね。
けれど不思議ーー二人とも、僕と同じ血の匂いがするわね」と、
ズット・ハートが笑みを浮かべつつ、周囲をパタパタと飛び回る。
「なっ、何なの、この生き物は……!?」
エレノアが一歩退く中、ゴクトーが慌てながら口を開く。
「うわっ、ズット・ハート! お前、勝手に出てくるな!」
ゴクトーが制止する暇もなく、ズット・ハートが妖しくニヤリと笑う。
その刹那、一目散にエレノアの背後へと飛びついた。
そして、エレノアの肉体へスルスルと溶け込んでいくーー。
「ふぁっ……!? 身体の中に、何か熱いものが……ううっ……!」
エレノアはその場で崩れかけ、全身を激しく震わせた。
彼女の背中からバサリと漆黒の翼が生え、
頭部には可愛らしい悪魔の角がニョキッと突き出す。
『始祖の血の契り』と『妖魔サキュバス』が混ざり合った結果、
エレノアはその時、【サキュバス変身能力】をも覚醒させてしまった。
魔力が全身を駆け巡り、エレノアの纏う色香はーー
先ほどまでの何倍もの爆発的な魅力を放ち始める。
彼女は呼吸を荒くしながら、うっとりと自らの身体を見下ろした。
「ふふ……ふふふ。なんだか、底知れない力が湧いてくるわ……。
それに、この身体なら、男を骨抜きにするなんて朝飯前ね……」
その危険すぎる美貌と妖艶な笑みに、
ココが「嘘でしょ……完全に化け物になっちゃったじゃない……」と、
ドン引きし、ゴクトーは頭を抱えて天を仰いだ。
しかし、事態は一刻を争う。
パーティ会場には不審者が紛れ込んでいるのだ。
一方でエレノアは悪魔の翼をパタパタと動かし、
サキュバスの力に酔いしれながらも、
冷徹なエージェントの眼差しをゴクトーに向けた。
「ご主人様。心配いりませんわ。屋敷に紛れ込んだ不審者も、
パーティ会場でスケベな目線を送ってくるーー
お高くとまった貴族の男たちも……
この私が、すべて『お仕置き』して手玉にとって差し上げますから」
そう言って不敵に舌なめずりをしたエレノアは、
ツノと翼を隠し、元の姿に戻ると、妖しいピンクの残滓を漂わせ、
猛然とパーティ会場のほうへと飛び出していったーー。
その時、
女神東雲が「ふふ、またゴクトー君、やらかしたわね」とつぶやく中、
天空城から戻って間もないーー神シロと人柱トランザニヤが、
下界の様子を見つめながら無言で頭を抱えていたのは、
言うまでもなかったーー。
読んでくださり、ありがとうございます。
サキュバスの『ズットハート』とエレノアの融合は、私の中でもお気に入りです╰(*´︶`*)╯♡




