新たな拠点編 11 〜竣工パーティの舞台裏〜
ダークファンタジー路線に行くはずが、なぜ?……Σ('◉⌓◉’)
少し風が冷たくなった夕暮れ迫る黄昏どき、
陽が橙に染まりつつ、東からうっすらと二つの月が見えはじめた頃。
「いいか、みんな……兄貴は今や国の要人だ。
それに……今日は、兄貴を推挙した恩人のイイダル卿をはじめとするーー
国の大臣や、お偉いさん方もいやがるからな。気を抜くなよ!」
中庭で黒いローブを靡かせながら指示を出すクロニクの指揮のもと、
すっかり右腕が完治したノビがーー
いつもの緑の装備に身を包み、真剣な眼差しで周囲を見回す。
身長はさほど変わらないーーその仕草と雰囲気に相まって、
以前と変わらぬように見えてしまうノビだった。
だが、サイクロプスとの戦闘を経て二年が経ったーー
彼も、その功績が認められ、冒険者ランクがS級にまで上がっていた。
『アドリア公国』の名だたる貴族たちが集う豪奢な屋敷。
その華やかな竣工パーティの喧騒から少し離れた中庭の石畳を、
静かに歩みを進める一つの影があった。
人化した妖精龍、コガラである。
彼女はツノを隠すための深い真紅のフードを被り、
ココリド特製の新たな装備ーー
【アカノ・アマイワ・ドナイヤ】に、その身を包んでいた。
胸元を覆う緋色金のハーフメタルアーマーは、彼女の豊かな谷間を強調し、
どこか普段よりも大人びた、妖艶な威圧感を周囲に放っている。
滑らかな肌が露出した腹部には、彼女が龍である証拠ーー
美しい銀鱗が幾何学的な模様を描くように浮かび上がり、
その中心では攻撃力を底上げする赤い魔石のへそピアスが、
脈打つように妖しい光を宿していた。
腰回りを彩るのは、緋色金製のメタルミニスカート。
そこから覗く真紅のガーターベルトと透け感のあるストッキングが、
彼女の引き締まった脚線美を際立たせる。
警戒に歩みを進めるたび、緋色金で設えられた膝丈のブーツが石畳を打ち、
微かに硬質な足音を響かせた。
背後では、艶やかな銀鱗に覆われた長大な銀尾が、
彼女の感情に呼応するように悠然と揺れている。
彼女の右手には、柄と白鞘のコントラストが美しいーー
一振りの刀が握られていた。
主であるゴクトーから預かった七星の武器、【桜刀・黄金桜一文字】。
いかなる凶刃も弾き返し、
敵を両断するその切先は、今は静かに鞘の中で出番を待っている。
万一の事態に備え、クロニク、ノビ、ShadowWindの面々とともに、
周囲の警備を固める彼女の視線は、フードの奥で鋭く周囲の気配を探る。
少し冷たくなり始めた夜風が真紅のマントを大きく翻す中、
コガラは屋敷の平穏を護るため、ただ静かに宵の闇を見据えていた。
「クロにぃ、ノビしゃん、こっちは異常無し」
「コガラ、その装備、羨ましいんさ!」
コガラの姿に、口を尖らせるノビ。
その後ろでは、クロニクが苦笑を浮かべていた、その時ーー。
「兄者、この気配……」
九音が何かの気配に気づき、低い姿勢で刀をスゥーッと抜いた。
クロニクの影の中から青い目だけを光らせる圭介の、低い声が響く。
「クロニク殿、先ほどから嫌な気配が……某たちは、広範囲に散ります!」
スッと消えた青い目とともにーー
ShadowWindたちの忍びの気配と黒い影が、屋敷の四方に飛び去った。
ーーその頃、屋敷の一室では。
暖炉の火が静かに爆ぜる音が、
重厚な木目パネルに囲まれた豪華な部屋の沈黙を破った。
金色のフレームに縁取られた鏡や絵画が、
多数のキャンドルの光を浴びて、妖しい輝きを放っている。
大理石の暖炉の隣には、まだ火が赤々と燃えていた。
女性たちに用意された部屋とは一線を画す、
豪華な内装に心を弾ませ、「さぁ、これからが本番ね」と零し、
雇われたばかりの金髪のエルフが、青いドレスを脱ぎ捨てた。
青いそのドレスは、彼女が世間に見せるための仮面だった。
今は、その仮面を脱ぎ捨て、真の姿をあらわにする。
豪華な銅製の浴槽の傍らに、
エレノア・ダンピールは、
白の唐草の刺繍が美しい濃紺のインナー上下で立つ。
彼女は驚くほど白い肌を持つダークエルフだった。
その肌は、月光から紡ぎ出されたかのように滑らかで、
部屋の暖かさとは対照的な冷たい美しさを放っていた。
エレノアは太腿のベルトに固定されていたーー
鋭い短剣を引き抜き、息をつく。
「……この気配……どうやら、これを使うことになりそうね……」
彼女の瞳は眼鏡越しに鋭く、何かを見据えていた。
だが、短剣を鞘に収めつつ苦笑する。
気球船と、二つの月が浮かぶ美しいーー
琥珀色とインディゴブルーの劇的なグラデーションの空を眺めながら、
彼女は部屋のクローゼットの前に立ち、その扉を開いた。
まだ折り目も新しい、執事用の燕尾服を取り出しつつ、
ふと彼女が燕尾服の首元のタグに気づく。
そこにはココリド製ーー
【コレデ・オムカエモ・カンペキヤ】と商品名も記されていた。
「うう……このスカート短すぎる……これではこの唐草の紋様が見えちゃう。
身バレしたらマズイわ……仕方ない。地味な方に付け替えますか……」
つぶやきながら彼女は『アイテムボックス』から白い刺繍のないーー
濃紺のインナーを取り出し、着替え始めた。
「これなら、カーテシーの時にちらりと見えても……」
背中に手を回しながら、息をつき漏らしていた。
その頃、屋敷の中のとある一室ではーー。
コンコンコン
「ーー失礼いたししまする、ミリネア様。中庭の警戒にあたっている羅音です」
扉の向こうから響いたのは、ShadowWindの羅音の切迫した声だった。
「鍵は開いていますので、どうぞ」
部屋の中で晩餐会に向け、真緑のドレスの着付けを整えるミリネアが、
羅音に振り返る。
羅音のその気配のただならなさに、ミリネアが眉をひそめる。
「羅音殿、どうかしましたか?」
「はい……表向きの賑やかなパーティの陰に隠れるように、
不穏な影がいくつか。……それに、結界の端が微かに揺らいでおります。
ただの客人ではない者たちが、
この屋敷の内部へ忍び込もうとしているかと……」
事態の深刻さを悟りながら、ミリネアは冷静に思考を巡らせた。
せっかくの竣工パーティの最中である。
ここで大々的に騒ぎを起こせば、招待されている公国のお偉いさん方や、
貴族たちに不要な動揺を与えてしまう。
(ここは、事を荒立てずに、ご主様に直接お伝えするのが最善ですわね……)
ミリネアは集中を高め、
主であるゴクトーへと直接、思考を伝達する念話を放った。
《「ご主様、聞こえますか。ミリネアです。
……どうやら、不心得者がパーティの裏をかいて、
屋敷に紛れ込んでいるようです。
表立った騒ぎにはせず、密かに対処いたしたく存じますが……」》
そのミリネアの念話は、ゴクトーの脳内だけに留まらなかった。
ゴクトーの血を分け与えられた『眷属』たちーー
クロニク、コガラ、ミーア、九音、そしてココの5人の耳にも、
その警告の声が鮮明に響き渡ったのである。
「……っ! 兄貴のところに?」
中庭で警戒にあたっていたクロニクがハッと息を呑み、
人化した姿のコガラも「あるじが心配……」とつぶやく。
遠くの部屋で様子を伺っていたミーアや、
隻眼を青く光らせた九音も同時に顔色を変えた。
その時、羅音の表情が俄かに曇る。
「では、わっちはこれにて、御免!ーー【風遁・颯】!」
風代流忍法を唱えながら羅音がクナイを構え、黄色い髪を靡かせつつ、
疾風の如く走り去ったーー。
一方で、客室の廊下を歩いていたココは、
その念話をはっきりと聞き取り、足を止めた。
ちょうどその時、青いドレスを脱ぎ捨て、
ココリド製ーー執事用燕尾服『【コレデ・オムカエモ・カンペキヤ】』に、
身を包んだばかりのエレノアが、
カチャリと部屋の扉を開けて顔を出したところだった。
「ココ? どうかしたの?」
「エレノア……! よかった、今あなたの部屋に行こうと思ってたの。
実は、ミリネアさんから念話が飛んできたわ。
パーティ会場の周辺に、不審者が入り込んでいるかもしれないって」
エレノアは、整えたばかりの金髪を揺らしながら、僅かに目を細めた。
ダークエルフとしての鋭い洞察力が、彼女のなかで危険信号を点滅させる。
「不審者ね……。
この豪邸の広さに対して、表の警備はクロニクさんたちで手一杯。
私たちもここに張り付いているわけにはいかないわね」
「そうね…… 建物の中を徹底的に警戒して回りたいけれど、
圧倒的に人手が足りないわ」
二人して深刻な表情で腕を組んだその瞬間、
廊下の角からひょっこりと姿を現した男がいた。
他でもない、状況を確かめようと、
偶然このフロアに足を運んできたゴクトーである。
「おや、二人してそんな険しい顔をしてどうしたんだ?」
「ご主人様!」
「閣下!」
ココとエレノアが声を揃えたーー。
ーーその光景を大画面スクリーンで見ていた、天上界の女神東雲がポツリ。
「わたくしの出番が少ないわね……」
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