新たな拠点編 10 〜女性たちの競演、ドナイヤの装い〜
おかしい……ダークファンタジー路線に向かうはずなのにΣ('◉⌓◉’)
ゴクトーの豪華な屋敷の一室。
そこは、クラン『リリゴパノア♾️』の女性たちに用意された部屋。
暖炉の火が心地よい温もりと橙色の光を投げかけ、
窓の外には夜空に浮かぶ飛行船が見える。
晩餐会の始まりを目前に控え、
静かな緊張感と華やいだ雰囲気が私室を満たしていた。
深い青のイブニングドレスに身を包んだアカリは、
大胆に開いた背中のラインを整えながら、
スリットから覗くーー美しい白のガーターストッキングに視線を落とした。
「このドレス、ココリドさんの新たな仕立てーー
魅力上昇とセクシー上昇が付与された、
この【ツケテナイワ・ブラ・ドナイヤ】……
デザインや、このガーターストッキングは良いのだけれど……
なんだか今の髪色が、この青に合わない気がするのよね」
鏡に映る自身の姿を見つめながら、アカリがポツリと漏らす。
隣で透け感のある緑のイブニングドレスを纏った妹のジュリが、
ふふっと楽しそうに微笑んだ。
自らの豊かな胸元に視線を落とし、
布地のフィット感を確かめるように手を添える。
「わたしは、胸のサイズアップと、
セクシーさ上昇が付与されたこのドレスーー
【ティーバックガ・ナジムヨ・ドナイヤ】をすごく気に入ってるわ。
身体のラインが綺麗に見えるでしょう?」
「ええ、ダー様に気に入られようと……あなたがこの2年で、
必死に胸のパンプアップをしていたのを知っているわ。
けれど……」
ジュリはくるりと軽やかに一回転すると、弾んだ声でアカリに向き直った。
「あ、そうだ、ネー!最近覚えたわたしの魔法を試してみる?
髪色を変える魔法、【エンチャント・カラー】を!」
「えっ、髪色を変える魔法?」
「そう! ついさっき、ミーアにもせがまれて、
少し髪色を変えてあげたら喜んでいたの。
まぁ、わたしの魔力が切れたら戻ってしまうけれど……
でもこれならーーそのドレスにぴったりの髪色にできるわ。
さあ、そこに座って!」
悪戯っぽく微笑むジュリの手にかかり、
アカリは促されるまま鏡台の前へと足を進めた。
これから始まる特別な夜に向けて、姉妹の密やかな支度が進んでいく。
一方その頃、別のミリネアの部屋ではーー。
姿見を覗き込むミリネアはココリド製ーー
【ドレスアップニ・コレハ・ドナイヤ】を試着していた。
緑の肌理は、単なる布ではなかった。
暗い森の苔を思わせる深い緑地に、
黄金のレースが蔦のように這い、カップの縁から腰にかけて、
小さな歯車と唐草がひと続きに縫い込まれている。
「やはり……ココリドさんのデザインと付与は優れものね」
「ありがとうございます。ミリネア様。ドレスに合わせて、
肩紐の無いブラと、
ガーターがわかれたタイプでないものをご用意いたしました。
胸から腰までをひと続きに包む、ロングラインのテディです。
付与は、主に魅力上昇、さらにミリネア様の悩みでもあるーー
胸の成長を止める抑制魔法も施してあります」
姿見を見ながら嬉しそうに微笑むミリネアの姿に、
ココリドが照れたように顔を赤くする。
ミリネアの背中はほとんど開け放たれ、
肌だけが暖炉の灯を受けて淡く光った。
「金糸のフィリーグリーが腹部で細く締まり、そこから伸びた留め具が、
太腿のレースに繋がっているデザインは、私も初めて作りましたわ」
嬉しそうに語るココリドに振り返り、ミリネアが足元に視線を落とす。
ストッキングは黒に近い深緑のシアー地に、
さらに濃い緑の蔓模様が浮き、
ポーズを取りながら歩くたび、僅かに透けて光った。
パンティの仕様は、
後ろから見ればT字型、細いラインだけが腰の窪みをなぞる。
「ストッキングも何点か用意してくださって、助かりますわ」
鏡に映った正面を見据え、確認するような仕草で、
ミリネアがテディの腹部に両手を滑りこませる。
布地は思ったより冷たく、金糸の凸凹がミリネアの指に伝わった。
「ここは魔装具のへそピアスを付けたいから、
ここだけデザインを変えていただける?」
その言葉にココリドは、
その部分をハサミで菱形に切り取りながら唇を動かす。
「【バビディ・ブビディ・ブブゥ】!」
紡がれたその瞬間、緑と金色の糸をつけた二つの針が中空に浮かび、
鋭い銀の光を閃かせる。
そして菱形に切り取られた部分に先端を滑らせ、
切り取られた布を綺麗に縫い合わせていき、
まるで初めからそのデザインだったかのようにーー完璧な修繕を見せた。
それを終えた針が、自身の意志を持つ生き物の如く、
ココリドが手にする針山に、その先端を刺しながら綺麗に戻った。
その様子にミリネアは、しばし目を見開き、息を呑んでいたが、
気に入った様子で唇を動かす。
「凄い魔法ですわね。……ところで、黄金の飾りが胸元で重なり、
高価そうな小さな黄色の魔石がひとつ、
静かに沈んでいるように見えるのだけれど……
これはかなりお高いんじゃ……ない?」
「ふふ。かなり費用は、かかりました。
ヒールも同じ緑に、『金の歯車』を嵌めたものですわ。てへぺろ」
悪びれもせず舌を出すココリドに、ミリネアが苦笑を浮かべた。
「お代は後ほど、次はドレスの方も試着を」
ミリネアが満足そうに、
インナーに合わせたような緑のドレスを箱から出した。
そして、ドレスを試着したミリネアは満足そうに微笑む。
窓の外は遠い夜の森で、部屋の中だけが、
銅の浴槽と暖炉の熱に包まれていた。
その時、ノックの音がミリネアの部屋にコンコンコンと小さく響く。
彼女の踵が床を叩く音は、部屋の古時計より小さく、
しかし確かなリズムを持っていた。
「どうぞ。お入りください……ふふ」
しばらくすると、その部屋は晩餐会に向け、密やかな熱気が満ちていた。
【ドナイヤ】シリーズの生みの親であるーー
金髪の『裁縫師』ココリドは、ハサミとメジャーを手に、
茶髪のアナ・ドレンの青いドレスの胸元や肩回りを手際よく採寸する。
そのすぐ後ろでは、銀髪のミテミナ・ビボウがそわそわとした様子で、
自分の順番を待ちきれずに控えていた。
両頬を微かに赤らめながら、アナがポツリと注文を漏らす。
「ゴクトー閣下は、金色が好きだと聞く。
我は紺色や青が好きなのだが……それを地に、
豪奢な金の刺繍入りのブラとパンティのセットをーー
できれば魅力上昇と美しさ上昇の魔力付与も加えて欲しい。
デザインを変えたものも数点欲しいのだ。金はいくらかかっても構わない」
普段の厳しい軍人らしからぬ必死な要望に、
後ろのミテミナも我慢できなくなったように言葉を重ねた。
「我はパーソナルカラーの緑が入った赤いレースの上下で……
白い編みタイツにも魅了上昇の魔力付与を加えて欲しい。
パンティは腰にも紐がかかるサイドタイ・タイプで、
Tバックが好みなのだが……」
こだわり溢れる熱心なオーダーに、
金髪のココリドはプロらしい頼もしい笑みを浮かべた。
「お任せください。ご要望通り、すぐに仕立ててみせますわ」
二人に優しく微笑むココリドの手元を、
ミリネアは部屋の奥から遠巻きに眺めていた。
ふっと笑みを浮かべるミリネアも、
美しい妖精を思わせるような鮮やかな深緑を基調に、
スチームパンク柄をあしらったーー
【セイレイモオドロク・コノミドリハ・ドナイヤ】のドレスに身を包み、
口元を緩めた。
「軍人でありながら……やはり女の性は、隠しきれませんわね。
ご主様を前にすれば、それも仕方がないこと……
お二人とも、顔に出てしまっていますわ」
暖炉の温かな光の中、思惑と乙女心が交錯する特別な仕立屋の時間が、
静かに流れていきーー身支度を整えたミリネアが声をかける。
「皆様、準備はよろしくて?」
ーーその頃、アカリとジュリの姉妹もまた、晩餐会への準備を整えていた。
アカリは、自身の髪色について静かに悩んでいた。
深い青のドレスを纏った姿を鏡に映しながら、
どこか釈然としない表情を浮かべている。
「……やはり、このドレスに今の髪色は、合わない気がするわ」
その言葉を聞きつけたジュリが、楽しそうに笑いながら駆け寄った。
「だから、ネー。悩んでいるなら、わたしの魔法を試してみない?」
ジュリは悪戯っぽく微笑むと、
鏡に映ったアカリの姿を見ながら唇を動かした。
「最近覚えた魔法【エンチャント・カラー】で、
ネーの髪色をこの素敵なドレスにぴったりの色に変えてあげるわ!」
鏡の前に座るアカリの後ろに立ったジュリは、
自身も透け感のある緑のドレスに身を包み、桃色の髪を軽やかに弾ませる。
そして、鏡に向かって両手を広げ、魔力を集中させた。
次の瞬間、ジュリの手の動きに合わせて、眩い光が生まれた。
アカリの頭上に、幾何学的で複雑な魔方陣が浮かび上がる。
それは鮮やかな紫の光を放ち、
魔法の粒子が星屑のように、キラキラとアカリの髪に降り注いだ。
「さあ、いくわよ!」
ジュリの声とともに、魔方陣の光が一層強くなる。
「煌めく夜の星々よーー
その美しい輝きと広がる宇宙の儚くも深い紺碧をーー
我の手に、委ね給え! 【エンチャント・カラー】!」
アカリは鏡の中を見つめたまま、
ジュリが紡いだ【神代魔法】に目を丸くしながら驚く。
鏡に映るアカリは、大胆な青のドレスに煌めくジュエリーを纏い、
片目が赤、もう片方が青というオッドアイが印象的だが、
その髪色は、今までの彼女の印象をガラリと変えた。
ジュリの魔法の光に包まれたアカリの髪は、
青く輝く魔法の粒子を受け、
ドレスの深みに溶け込むような美しい藍色へと、静かに変貌していく。
「……すごいわ、ジュリ」
魔法の光の中に浮かぶ自身の姿を見つめ、
アカリは驚きと喜びが混じった声を漏らした。
鏡の前で、アカリの髪色はドレスと完全に調和し、
より一層の美しさを放ち始めている。
ジュリは背後からその変化を誇らしげに見守り、
姉の完璧な装いが仕上がっていく瞬間を楽しんでいた。
暖炉の温かな光に包まれた部屋で、
姉妹だけの特別な魔法の時間が流れていくーー。
ーーその時、天上界では。
神シロとトランザニヤは、天空城に呼ばれていた。
一方でその光景を目にしていた天上の女神東雲が、ポツリ。
「あら、また新作の【ドナイヤ】ね。後でポチらなきゃ」
そう漏らしながら雲海の上ーー豪奢なバスタブに肩まで浸かり、
羨ましそうに下界を眺めていたのは、言うまでもない。
読んでくださり、ありがとうございます。
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