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『妄想図鑑』がこの異世界を塗り替える! 〜英雄トランザニヤの末裔とその仲間たち〜 #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第5幕 試章。 〜カルディアへの扉〜

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新たな拠点編 5 〜香ばしい風に誘われて〜



 遠い……ダークファンタジー路線……ふぅΣ('◉⌓◉’)






 ーーここはロカベルの魔法薬材と薬店の2階、

 増築され新設されたダイニング。


 食事を終えたばかりで、

 テーブルに残る香ばしいワイバーン肉の匂いが、

 まだダイニングに漂っていた。

 皆、満足げに椅子にもたれている中、

 突然、気配が感じられた。


「……ん? なんだ?」


 ゴクトーは背中に悪寒が走り、何事かと警戒して立ち上がる。


 一方で閉まった扉の反対側では、

「おやめください、姉上!」

「紫苑姉上、無茶なことはーー!」と、

 羅音と九音の声がする。


「八咫鴉様〜〜〜〜〜〜♪♪」

 

 バアアァァン!

 

 激しい音とともに、ダイニングの扉が勢いよく蹴破られた。

 視界に飛び込んできたのはーー紫苑だ。


 挿絵(By みてみん)


 豪奢なレースの赤いショーツが丸見えなのにも関わらず、

 蹴った足をそのままに、彼女がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 一方、困惑や呆れた表情を見せつつも、

 鼻をひくつかせるShadowWindの面々に、周囲が声を失う。


「凄い破壊力ですけども……と、扉……」


 つぶやくゴクトーだが、彼の言葉など、まるでお構いなしーー

 むしろかえってその言葉が、紫苑の表情を明らかに嬉々とさせていた。

 

 扉を蹴破る紫苑の姿に、皆が目を丸くしながら息を呑み、

 固まっている最中、もちろん、ゴクトーの妄想眼”死線”もその姿に、

 釘付けになっていたのは言うまでもない。


「いい匂いがするわ……」

「やっぱり……抜け駆けしていたのですね!」


 羅音と九音が、女性らしく柔らかな声を響かせた。


 驚くゴクトーたちを他所に、いつもの忍装束のShadowWindの面々が、

 ずかずかとダイニングに足を踏み入れる。


「……ってか、扉……修復しろよな。全く……」


 苦笑するクロニクも反射的につぶやくが、紫苑は平然としていた。


「だって、本当にいい匂いがするんですもの。気になって仕方なかったもので」


 そう言って紫苑が、悪びれる様子もなくーー

 やっと蹴り上げたままの足を下げた。

 その後ろからゴクトーやクロニクの言葉など、

 全く耳には届いてない様子の篠介が、

「うまそうな匂〜い♪ えっ!……もう食べ終わったのですかっ?」と、

 ワイバーンの肉汁が残る皿を見ながら、ガックリと肩を落とした。


「いや、ワイバーンの肉なら、まだたくさんあるぞ……」


 ゴクトーの声に篠介の顔がパァと明るくなる。

 一方でShadowWindのリーダー圭介が、

 大きな破片を拾い上げながらポツリと零す。

 

「紫苑姉上、これはちと、やりすぎなのでは……?」


 その言葉に紫苑は、木っ端微塵になって飛び散った扉の破片を見つめ、

 左手の人差し指を右手で握りこみーー

 右手の人差し指をその艶やかな唇の前でピタリと留める。

 忍特有の『印』を結んだ彼女は、瞼を閉じ、

 唇から「ふぅー♡」と甘い吐息を漏らした。


 ーー次の刹那、「【風遁・お片付けの術】!」


 艶やかな唇から紡がれたその瞬間、

 一陣の風が、その場にいる一同の髪を靡かせる。

 その風は渦を巻き、石畳の床に散らばる破片を巻き込んでいく。

 そしてーー

 まるで風自身が意思を持つかの如く、扉の先の彼方へと飛んでいった。

 その光景に、ミリネア、ミンシア、ミーアのロカベル三姉妹が目を見開き、

 ゴクトーやクロニク、パメラとノビが口をぽかんと開く中、

 アカリとジュリが苦笑する一方で、

 アリーだけは、『どこ吹く風』といった表情を見せながら、

「お腹いっぱいにゃ」と満足げに、ぽっこりしたお腹をさすっていた。


 他方、ゴクトーの肩に乗るコガラも「ピィ! 凄いね紫苑ねぇ!」と、

 七色の翼をバサッと開きながら、小さな嘴から漏らす。


 そんな中、どこか誇らしげな紫苑が口を開いた。

 

「これは【風代流忍法・風遁の術】の一つーー

 自然の摂理を使った忍術……ふふ。

 八咫鴉様、旨い匂いに引き寄せられるのは、

 いた仕方なく、せん無きことと思いまするが……」


 紫苑の冷静な声が響く中、一方でShadowWindの面々は、

 すっかりリラックスした様子で、ダイニングの椅子に腰掛ける。


「おい、何勝手に座ってんだよ!」


「で、早く!ワイバーンの肉は?」


 クロニクの言葉など、

 聞き捨てると言わんばかりで、篠介がニッコリ笑う。

 椅子に座る羅音の長い黄髪がさらりと靡く中、

 連動したかのように、ブルンと揺れる彼女の谷間ーー

 迫力増し増しの胸元から溢れる黒いレースを整え、羅音が息をつく。


 挿絵(By みてみん)


「羅音も今年で23になる歳……

 『くの一』の武器で、殿方の視線を釘付けにできましょうぞ!」

 

 誇らしげに言い放つ紫苑の怪しく光る瞳が、

 外せなくなった男たちの視線をしっかりとらえる。

 中でもじっと見つめられるゴクトーは、

 その豊かな胸元に吸い込まれそうになりながらも、

 背中に寒気が走っていたーー。


 

 


 ーーその頃、天上界では。

 その光景を眺める女神東雲が、「わたくしほどではございませんわね」と、

 胸元を寄せつつ、紫レースのブラーー

 【トビダス・メガ・ドナイヤ】を胸に合わせるよう整える。

 その傍では、横目で見ている神シロが赤面しながら「ゴホン……」と、

 一つ咳払いをしつつ漏らす。


 「シノや、800歳以上も年下と張り合うのは、どうかと思うのじゃが……」


 その言葉に女神東雲がギラリと睨みを効かす中、

 黒銀の瞳を逸らすトランザニヤがポツリと零す。


「どうやら、オレのギフトがあの子に届いたようだ……良かった」


 笑みを浮かべるトランザニヤのその言葉は、

 雲間に消えながらもどこか温かい風を連れたきたーー。



 挿絵(By みてみん)

 


 ーーそんな天上界のやり取りに気づきもしないゴクトーは、

 二年の歳月をしみじみ感じながらも、

 仲間たちが起こすトラブルに巻き込まれつつ、のんびり日々を送っていた。

 


 

 

 ◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇




 賑やかなダイニングでは、ワイバーンの肉が再び焼かれていた。

 

 そんな中、俺は九音の小さな身体に異変がある事に気づいた。

 

 二年前、一瞬で振り上げられたサイクロプスの大斧が、

 轟音とともに空を裂き、 九音を弾き飛ばしたーー

 そのとき、小柄な彼女の身体が吹き飛び、

 瓦礫に叩きつけられたのを思い出す。


「九音……その右目……見せてみろ……」


 俺の言葉に躊躇いがちに眼帯を外す九音ーー

 その眼窩には深く抉られた傷跡があった。

 深い傷跡から赤黒い線が走り、眼窩の周囲には、

 未だ癒えきらない瘢痕が残っていた。

 その場に立ち尽くす俺は、

 一瞬目を逸らしそうになるが、ぐっと堪えた。


 俺の心に深く深くーー

 突き刺さる言われようのない罪悪感と、怒りが込み上げてくる。


「八咫鴉様、オノはこれぐらいの事なんともございませぬゆえ」


 九音が漏らしながら苦笑いを浮かべる。

 その笑顔が、逆に俺の胸を締め付けた。


挿絵(By みてみん)

 

 一方でアカリとジュリが目を背け、俯き、

 その傍に立つパメラとノビの表情にも暗い影を落とした。

 

 アリーとミーア、クロニクの三人が、何か言葉をかけようとしたがーー

 肩を震わせつつ黙ったまま、九音のその傷を、

 まるで目に焼き付けるかのように見つめていた。

 

 そんな中、ミリネアが俺の肩に乗るコガラをそっと撫で、

 九音に微笑みかけつつも、そのエメラルドの瞳を潤ませる。


 俺は湛える涙をグッと堪え、九音の瞼をそっと指でなぞらせたが、

 すぐに意志を強く持ち直し、彼女のその左目を正面から見据えた。

 彼女のその瞳は、強さを失ってなど微塵もなかった。


「……痛むのか?」


 俺が尋ねると、九音が小さく首を横に振った。


「平気です。こう見えてもタフなのですよ」


 笑顔を作るその表情に、再び胸が締めつけられる。

 どれほどの痛みに耐えてきたのかーー

 彼女の言葉だけでは、はかりきれなかった。


「でも、その傷はーー」


「大丈夫だってば。見た目なんて気にしないのです。

 それに兄上や姉上、皆様もいるから片目でも怖くないゆえ」


 九音のその言葉に、部屋の空気が少しだけ和らいだ気がした。

 皆も無言で彼女を見守っている。


「さぁ、もう湿っぽい話は終わりにしましょうぞ。

 せっかく美味しい匂いが漂っていますゆえ」


 紫苑が空気を読んで場を盛り上げるようにつぶやく。


「そうだな。せっかくの料理を無駄にはできねぇ」


 クロニクも頷いて、キッチンの方へと視線を向けた。

 一方でアリーが元気よく手を挙げる。


「それにゃら追加で肉を焼くにゃ!

 僕にょ特製スパイスも試してみたいーー!」


 その言葉にノビが、「うまぐ焼げるが、心配なんさ……」と

 ぼやきつつも立ち上がる中、パメラが肩をすくめながら微笑む。


「なら、また全員で食べ直しってわけねん」


 その言葉にミリネアも満足げに頷き、

 「ご主様、次はもっと特別な味を堪能して頂けますわ」と胸を張った。


 こうして俺たちは、賑やかなダイニングの中で、再び笑い合った。


 けれど、クオンの傷跡を見た俺の胸の奥には、

 まだ拭いきれない何かが残っていたーー

 それは、『次に備えなければならない』という強い意志へと変わっていく。


 そして、短い青髪が似合う九音の頭を撫でながら、俺は口を開いた。


「……だからって、あんな無茶な戦い方、二度とさせないからな」


 そう漏らし、拳を強く握りしめた。

 荒れ地に叩きつけられた九音の姿が、まだ頭の中に焼き付いて離れないーー

 俺は息を整え、神代魔法を唱える。


「【癒瑠々(ケアルル)・座羅(ザラ)・裏滅駆(リメーク)】!」


 俺の魔力(マナ)を込めたーー

 【再生治癒魔法】の眩く輝く金色の光が九音を柔らかく包みこむ。

 

 だが瞼の傷は癒えたがーーあの美しい青い瞳だけは戻らなかった。


「……クソッ!」


 その時、どこか感心したような篠介が「ピュ〜♪」と、一度口笛を吹き、

 肩をすくめながら蹌踉(よろ)めく俺を支えてくれた。


「失礼ながら、八咫鴉様。あなた様がそんな深刻な顔してると、

 九音まで暗い気持ちになりましょうぞ!」


「そうでございます」


 紫苑の言葉に羅音がすかさず口を挟みながら笑う。

 そんな中、リーダーの圭介が口を開く。


「次はもっとーーど派手にサイクロプスをぶっ飛ばせばいいよな!」


 その言葉に九音もふっと笑った。


「実は……オノは片目を失ったお陰なのか、

 新たなギフトが芽生えましたゆえ」


「な、なんだって!?」


 俺の言葉に、ミリネアが驚いた表情を見せつつ、そのまま唇を動かした。


「……以前に申し上げた、後天性ギフトの話です。ご主様。

 突然目覚める者もいると……それが目の前で起きるとは……!」


 調理する彼女のフライパンの動きが止まった。


「それで……紫苑と同じ『巫女』のギフトに目覚めたのか?」


 俺を見つめる九音の青い隻眼が静かに光を宿した。


「いえ、八咫鴉様、オノはどうやら、『鑑定士』のギフトに目覚めたようで、

 皆様のステータスが見て取れるようになりました」


「「「「「「「えぇぇぇぇぇーーー!!!!!!!」」」」」」」


 一斉に驚愕した声が上がる中、


「なんと、九音殿……『鑑定士』ですと……」


 ミリネアのフライパンがカラン…と音を立てたーー。




挿絵(By みてみん)




 

 読んでくださり、ありがとうございます。

 引き続き楽しんでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です! 紫苑さんの豪快な扉蹴破り&お片付けの術には笑いましたが、九音ちゃんの右目の傷とゴクトーさんの優しさには胸が熱くなりました……! そしてラストで明かされた九音ちゃんの『鑑定士』のギ…
前半の賑やかさと後半の九音さんの傷の重さ、その振れ幅がすごかったです。 ワイバーン肉の匂いに誘われて、紫苑さんたちShadowWindが押しかけてくる流れは楽しかったです。扉を蹴破ったうえに【風遁・…
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